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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第四章

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混凝土ロード③


「んで、ベリルよ。さっきから魔導三輪車(トライク)で引っぱってる、その石の筒はなんてぇ名前なんだ?」


 ゴロゴロ転がり何往復かするだけで、デコボコの道を真っ平らに均しちまうバカデケェ混凝土の円柱。

 通ったあとは、ほぼ足跡がつかんほど押し固めちまう便利な道具だ。


「野球部が引っぱってるやつー」

「ずいぶんケッタイな名前だな」

「つーか知んねーし」

「そうか。なら地均しとかでいいか」


 話してるあいだもズンズン進み、使いやすい道になっていく。


「これなら俺らいらねぇだろ。わざわざこんなもんまで作って」


 ベリルは作業用の羽織りまで用意してた。俺ら全員分。赤地で、背中にはデッカく『と』っつう見慣れん文字だか模様だかが書いてある。


「はあー? どー考えてもいるっしょ。この道路はトルトゥーガ組が請け負った仕事だし」

「トルトゥーガ組?」

「こーゆー仕事すんなら、やっぱしお揃いのハッピ着て『組』って名乗んの常識じゃね」


 んな常識は聞いたこともねぇが、羽織りを揃えただけで気分がビッとしまるのは確かだ。


「とにかく、俺らはなにしたらいいんだ。もう立派な道ができてんじゃねぇか」

「こんなんまだまだだし。父ちゃんたちは、道の幅広げといてっ」


 こんどは俺が「は?」って言う番。


「必要ねぇだろ。充分通れるぞ」

「すれ違うの大変じゃーん。だからせっかくだし、二車線……うーむ、うん。三車線にしとこーよー」

「馬車、三台分ってことだな」

「そーそー。すれ違えて追い越しできるっしょ」


 まっ、道のまわりには畑も家もねぇし広げても問題ねぇか。

 ドカンと広々とした道ができりゃあ、パスカミーノ子爵も感謝してくれるかもしれんしな。ひいては俺らの印象もよくなる、か。


 つうわけで、俺らは道沿いにある木をバンバン薙ぎ倒し、ガツガツ地面を掘り返してった。



 慣れと道具のおかげで、作業は進むすすむ。

 太っとい道はひと月もかからずにできあがった。


「なんか、上を走るのが申し訳ねぇくれぇキレイな道ですぜ!」

「まったくだ」


 出来栄えに満足する俺らに、ベリルは告げる。


「まだまだこっからだし」


 と切り出して、次は小石で埋め尽くせと指示してきたんだ。


「んなもんどこにある。つうか、そもそも小石を敷き詰める理由はなんだ?」

「水捌け?揺れ?とかそーゆーの対策だし。雨の日あんしーんとかだったはず。とにかく丈夫になんのっ。よく知んないけど」


 よくもわからん作業させんなっつうの。


「なんにせよ。小石なんかねぇぞ」

「そこは任しといてー。そろそろママくるし」


 任せろって言ったそばから人任せかよ。ったく。

 ヒスイが来るっつうことは……やっぱりか。


 近ごろめっきり出番をなくしてた馬車に、石灰を満載にしたヒスイがやってきたんだ。


「混凝土を砕いて、敷けと。オメェはそう言いてぇんだな」

「そー。その上をまたローラーかけちゃうし」


 本当に必要なのか怪しいところだが、ベリルがこんなふうに言い張るときは、たいていイイモノができる。

 なら従っとくしかねぇやな。


「アセーロさん。砕きやすい手頃な厚さで作りますね」


 ヒスイのやつ、言ってくれんじゃねぇか。


「どんだけ固めようが、所詮は混凝土だろ。んな気遣いはいらねぇよ。ガッチガチのどデカいのこさえろってんだ。なぁオメェら!」


「「「応ッ!」」」


 そっから、俺らは暴れに暴れた。

 ガンガン斧槍を振り下ろし叩きつけ、魔導ドリルをガリガリいわせてく。道と同じ幅で敷かれた分厚い混凝土の板をバシバシしばき倒しまくった。


 その上をベリルが引っぱる地均しが走り、ガリゴリ砕いた欠片を蹴散らして踏んづけて、平らに均す。


 この作業は一週間ほどつづいた。


 さらには仕上げとばかりに、


「ママ、ちょっとだけ真ん中が盛りあがる感じにしちゃってー」

「少し難しいわね。こんなものかしら?」

「うんうんイイ感じー」


 混凝土で舗装してる。


 この道に突っ込んだ石灰の額は……考えたくねぇな。追加注文してたから、目眩がする桁になってるに違ぇねぇ。


 そうしてようやく、ようやく、ピッカピカの混凝土舗装された道ができあがった。

 かと思ったのも束の間、


「このまんまじゃツルツルで滑っちゃうし」


 ベリルはまだ作業を要求してくる。こんどは、混凝土の面をそっとキズつけろ、だとさ。


「斜めにアミアミで、よろー」


 言われたとおり、俺らは斧槍をズルズル引っぱって出来たての道を右へ左へ斜めに移動していく。

 少しづつズレて道を進んでいくから表面についたキズは交わり、ベリルの言ってた網目のような滑り止めになってった。


「でっきたー!」


 この作業に参加した者は全員が満足した。誇れるほどの出来栄えだった。

 ミネラリア広しといえど、これ以上の道はねぇ。そこらの街道が裸足で逃げ出すほどの完成度。


 ベリルはもちろん俺もヒスイも、うちの連中だって充実感に満ち満ちた。


「おう、せったくだ。パスカミーノ子爵殿も呼んで、完成を祝う宴でも開くか!」

「おーう! いーかもしんなーい。めっちゃ喜びそー」

「うふふっ。ベリルちゃん、支度を手伝ってもらえるかしら」

「もっちろーん。めっちゃ豪勢にしちゃおーう」


 これを聞きつければ、


「小悪魔殿の新作料理ですかい」

「見る前から腹が急かしてきやしたぜ」

「ワシ、ひとっ走りうちの者らに知らせてきやす」


 うちの者らも、はしゃぐはしゃぐ。


 だが、このとき俺らは大事なことを見落としていた。

 平たく言っちまえば、客観視ってやつが欠落してたんだ。


 それに気づくのは、このあとすぐ。

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