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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第一章

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はじめての禿山⑦


 とどめ刺すのも一苦労だし、バラしても俺らだけじゃあ持ち帰れねぇから肉をムダにしちまう。だからひっくり返した亀は放置だ。


 で、いまは縄かけた甲羅をズルズル引っぱりながら禿山をくだってるんだが……。


「なぁ」

「…………」

「なぁなぁ小悪魔さんよ」

「あーあーっ。きーこーえーなーいー」


 ベリルは耳塞いでわーわー言ってやがる。


「甲羅んなかから情けねぇ臭いがすんだが、こりゃあなんだ」

「はぁあああ、な、なに言ってんの? マジ変態、えっち、父ちゃんのアホ。おしっこの匂い嗅ぐとかありえないし!」

「——んなもん嗅ぐか! テメェがションベン垂れたのがいけねんだろうがっ。しかもよりにもよって親父に向かってアホだと、このションベンちびりが!」

「ンキィイイイイイ! それやめて! それ以上言ったら、あーしガン泣きすっからっ。父ちゃんにイジメられたってママに言いつけちゃうし!」


 なぁんてベリルとしょうもねぇやり取りをやってるあいだ、もう一人のションベン漏らしはゼーゼー息を乱して黙々と縄を引っぱってる。

 イエーロだけに牽引させてるのはお仕置きだ。あとはムリしたせいで俺の身体にガタがきてるのもあるんだけどよ、それは黙っとく。


 かなりキツそうではあるが、だからってこんなイジり甲斐がありそうなことを俺ぁ見逃さねぇよ。


「オメェの兄貴を見てみろ。汗だくでションベンちびったのか汗かいたのかわかんねぇぞ」

「……クッ」

「ねー兄ちゃん、水かけてあげよっか?」

「い……いらない。服重くなって、余計に、キツくなる……」


おうおう口開くのもしんどいってか。しょうもないマネしなきゃあ、俺も引っぱってやって楽できたのによ。


「チビるくれぇ怖い思いしたんだ。いい機会だしキッチリ反省して、親父の偉大さを噛み締めとけ」

「もちろん反省はすっけどー、その前に水浴びしていーい?」

「んな⁉︎ か、勘弁してよ……」


 そりゃあ甲羅んなかでじゃんじゃか水を出されたらそのぶん重くなるわな。

 そのあたりをベリルのやつはわかってて言ってやがる。兄貴の不幸は蜜の味ってか? ホント意地クソ悪いヤツ。


「おらイエーロ、キリキリ引っぱれ」

「兄ちゃん、引っぱれひっぱれー」

「はひ、はひ……くぅうううっ」


 ………………

 …………

 ……



 ようやく家についた。


 持ってきた亀の甲羅なんかは倉庫に放り込んで、検分すんのはまた明日だ。


 で、メシ食ってからガッツリ叱ってやろうと思ってたんだが……、帰って早々に事情を話したらヒスイがヤベぇ勢いでお冠。なんでか俺までいっしょに怒られてんだけど。


「な、なぁヒスイ。先にメシにしねぇか。こいつらも風呂入って着替えたいだろうし、腹も減ってるだろしさ。なぁオメェら」

「——あなたは黙っていてください!」

「お、おう。すまねぇ」

「きししっ。怒られてやんのー」

「ねえベリルちゃん。ママはベリルちゃんにもすっごく怒ってるのよ。賢いベリルちゃんはわかるわよね?」

「は、はい。さーせん」


 こいつ、しょげたフリ上手ぇな。

 んで、しょっちゅう叱られてるイエーロなんか、黙ってムダに真剣な顔作ってやがるよ。


「アセーロさん。私の話をキチンと聞いてくれていますか?」

「おおう、もちろん聞いてんぞ」

「でしたらイエーロくんがおかしなマネをする前に止められなかったアセーロさんの責任は、どれほど重大なのか、よくおわかりですよね?」

「……お、俺の監督不行き届きだ。面目ない」

「あなたが連れていっても問題ないと判断したのですから、子供たちがなにかとんでもない失敗をすることも想定していて然るべきかと。私はそう思いますよ」

「まったくもってそのとおりだ」


 てな具合におんなじこと何度も何度もグチグチ延々と……もう俺、萎え萎え。


「では三人とも。今夜はご飯抜きです」


「「「ええ〜っ」」」


「あら、まだお説教が足りなかったようですね」

「いやいやいや、もう充分だ。なぁ」

「うんうんうん。あーしめちゃ反省。あ、反省のしるしにお風呂の支度してこよーっと」


 くっそ。ベリルのやつ上手いこと逃げやがった。


「なにがいけなかったのか、イエーロくんはキチンと反省できているのかしら?」

「うん。父ちゃんもベリルも悪くないよ。オレがバカなことしたから……。ゔ、んぐ、危ない目にあって、んで、んぐ、だがら、ゔぅ……ごめんだざい、ぐす、ぐずん……」


 あ〜あ、見てらんねぇ。ちっと泣いたらヒスイはすぐ甘い顔するしよ。


「あなた、イエーロくんにはもう少しキツく言い聞かせますから、ベリルちゃんといっしょにお風呂の支度をお願いします」

「おう。ほどほどにな」


 どうせあれだろ、俺がいなくなった途端にピーピー泣く長男をよしよし甘やかすんだろ。ったくよ。



「おうベリル、ちゃっちゃと湯ぅ溜めちま……おん?」

「ひっぐ、ひっぐ……んひっく、んゔ……」


 風呂にいくと、ベリルはちんまい身体を縮こませてベソかいてやがった。


「なんだ、そんなに母ちゃんが怖かったんか?」

「ぢがうじ! でぼ、べぢゃごわがっだぁぁ……」

「…………そっか」

「じっごぢびるぐだい、がべ、ごわがっだぁぁ……」


 チビるくらいなぁ……。でもその割にゃあ、首突っ込もうとしてたように見えたんだが。あれって実のとこ、こいつなりになにか手助けしようとしてたのかもな。


「もしかしてベリルは俺の心配してたのか?」

「あだでぃばえじゃん……。んんぐ、ずび、ずびび、んぐ……」

「アホか。オメェみたいなちんまいのに心配されるほど俺ぁ情けない親父じゃねぇぞ」

「げどざー……んゔ、げっごーやばがっだじ……んずず、めぢゃビンヂだっだじ……」

「ちっともヤバかねぇよ。なに見てたんだオメェは。余裕綽々で、えいやってデカい亀を転がしてやっただろうが」

「でぼ……んず、ずびび、んぐ……」


 ふぅ……。これ以上言っても堂々巡りだろう。ぴーぴーギャンギャン好きなだけ泣かせてやることにした。


 ガキの心配してハラハラすんのもキチぃが、娘に不安な思いさせんのはもっと辛ぇんだな……。


 目の前でメソメソ泣かれるっつうのは、なんとも居心地が悪くていけねぇ。その原因が俺の心配ってのは余計に堪らんもんがある。


 ベリル。ここで口にはしねぇが約束してやる。もう絶対に心配どころかヒヤヒヤすらさせねぇ、ってな。

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