亀の魔物を増やすには④
「スッポン。ナンパしてきなー」
まーたベリルのやつ妙なことを……。
先日の大ポカのあと、コイツには魔導三輪車並びに魔導四駆に乗るのを禁止した。
だから暇こいてて、アホなことをほざきはじめたんだろう。
「kyuuu?」
ほれみろ。スッポンも意味わからんって首傾げてんぞ。
「次はなにやらかすつもりだ」
「やるのはスッポンだし」
「は?」
「エッチしたら亀さん増えるじゃーん。つーわけで、スッポンは今日からメス泣かせのヤリチンだし」
「そりゃあ自然の摂理ってもんだがよぉ……」
だからって仕込んでこいってか。ったく。まだ六歳だろ。そんでもって見た目は三歳児のまんま。ガキもガキ、幼女のくせにそういうこと言うなよな。
「なーんか父ちゃんイヤそーな顔してるしー」
「なぜかわからんか?」
「わからーん。つーかどーすんのさ、もしあーしが『赤ちゃんってどーしたらできんのー?』とか目ぇうるうるさせて聞いたらっ。めっちゃ困るっしょー」
「お、おう」
「つーわけで父ちゃんはもっと、理解あるあーしに感謝するべきだし」
「……そうか。そうか? そうなの?」
判断に困るな。
「いーいスッポン。頂上がマジ穴場のデートスポットだし。でも草ぜんぶ食べちゃったらダメだかんね。アンタが食っていいのはカワイコちゃんだけっ。オッケーイ?」
「kyukyu……」
「いってらー。晩ゴハンまでには帰ってくんだよー」
わけわからんと言った様子で、スッポンはノシノシ禿山に登っていった。
「なぁベリル。アイツこのまま帰ってこなそうじゃねぇか」
ま、それでもいいんだが……——いやよくねぇよ!
「おい。逃げちまったらどうするつもりだ。俺らぁ、いちおうスッポンに乗ってるから竜騎士団を名乗れてるんだぞ」
「ヘーキヘーキ。あーしら仲良しだし。逃げたらどーなるかくらいわかってるってー」
それ、仲良しなのか?
俺の心配は杞憂だったようで、その日の夕方にスッポンは帰ってきた。
「よーしよーし。ちゃーんとナンパできた?」
「kyuu.kyuu……」
「ひひっ。スッポンってばエロすぎだっつーのーっ」
いったいベリルの頭んなかでは、どんな会話が繰り広げられてんのやら。知りたくもねぇ。
「コイツも暇してたみてぇだし、帰ってくんなら好きにさせといていいぞ」
「よかったねー。今日からアンタは種馬だし。亀なのに種馬とか、ぷっ。ヘンなの〜っ。うひっ、つーか種亀? なーんかもっとエッチくなってるしー。もースッポンのスケベさーん、だっひゃひゃひゃひゃ!」
どうしてこんな下品な娘に育っちまったんだか……。いいや、元からだ。そういや生まれたときからこうだった。
なら、もう手の施しようねぇか。
◇
魔導四駆で禿山を登るっつう悪夢みてぇな道のりは回避できたが、ちょいちょい山頂の様子は見なきゃならねぇ。
ってなわけで、俺は数名率いて天辺へ。
で、当たり前のように暇人がついてきてる。ってより俺が背負ってるわけだが。
「オメェさ、魔法で浮かんでったらよくねぇか? ムダに重くて怠ぃんだが」
「むーっ! あーし重くねーもん。父ちゃんが弱っちくなってんじゃねーのー」
しれっと安い挑発くれやがって。コイツの戯言なんざぁ聞き流しとくに限る。
「つうかよ、これぞまさしく宝の持ち腐れだな」
「どーゆー意味さー」
「ベリルは飛べるのに高ぇとこ怖がるから無意味だって意味だ」
「こ、怖くねーしー。そーゆーんじゃなくって危機管理ってゆーのー、それだし。あーしは安全意識が高いだけだもーん」
オメェどこにそんな意識がある。コイツもうスッカリこないだの魔導四駆の件を忘れてやがんな。
しかし俺の呆れ具合なんかどこ吹く風。そっからもベリルは、飛んでる最中に魔力が切れた場合や寝てしまったら、などなどと屁理屈を捏ねては捏ねる。
終いには、
「つーかさーあ、こーやってあーしを抱っこできんのも、いまのうちだけだかんねっ。そのうち『父ちゃんキラーイ』とか言い出しちゃうし〜」
なんて曰う始末。
それを自分で言うか、普通。
「早くその日が来ることを祈ってるぜ」
「むっかーっ。またそーゆーことゆーし。マジありえなーい」
なんつう騒がしい道中。
途中、亀の魔物を見かけることはあったが、警戒するような距離にはいなかった。
「チンダチ、ボーボーに生えてっかなー?」
なんだろうか。スンゲェ響きがイヤなんだが。
チンダチは魔物の餌になる葉っぱの名前で、こないだ株分けして植えたもんが増えてるかって話なのはわかる。だが、イヤなもんはイヤだ。
「おうベリル。もうちょい言葉ぁ選べよ、頼むから」
「選んだし」
わざとってことだな。もういい。話題を変えよう。
「そういや、葉っぱの名前は決めたが、亀の魔物はずっと亀の魔物だな。なんかいいのないのか?」
「スッポン」
わかってるくせに、しょうもないボケかましやがって。
「そりゃあ飼ってるやつの名前だろ。アイツらの種類の名みてぇのだよ」
「そーだなー、エッチぃのがいーい?」
「絶対やめろ」
「ざんねーん。なら可愛い感じはー?」
「いや、もう亀でいいや」
「あっそー」
と、ここでようやく頂上だ。
「あっ。亀いるしー」
指差す方を見ると、遠くで亀の魔物が葉っぱ食ってる。
「あんま近くよったら驚かしちゃうかもねー」
「メシの邪魔はよくねぇな。よし、パパッと持ってきたチンダチ植えて、さっさと戻るか。おうオメェら、ヤツを刺激しねぇあたりに植えちまうぞ」
「「「応ッ!」」」
だからデケェ声だすなっての。刺激すんなって言ったばっかだろうに。
そっからサクサクと地植えしてく。
すると、
「旦那っ」
どうやら掘ってたあたりから卵を見つけたらしい。
「おおーう。これ持って帰ろーよー」
「孵して飼うのか?」
「そーそー。麓はスッポンみたいなお利口さんを飼ってー、他の亀は天辺の方に追いやったら、禿山の使えるとこ増えそーだし」
「おうおう、まるで侵略者の発想だな」
「でひひぃ」
褒めてねぇよ。
「つーわけで、割らないよーに運んでねっ」
「「「へい! 小悪魔殿っ」」」
まーたデケェ声あげるから、さすがにこんどは亀もこっちに意識を向けた。
「チッ。ムダに狩っても増やすどころか減しちまう。ちゃっちゃとズラかんぞ!」
俺はベリルを、他の者は卵を抱えて、谷側へ駆けてった。
餌場から離れたら追ってはこねぇ。
さてさて、持ち帰った卵は孵るのやら。んで、ホントにベリルの言うお利口さんになんのやらだ。
その答えが出んのは、まだまだ当分先の話。




