表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

156/311

亀の魔物を増やすには②


「ひひっ。あーあー、だらしないなー」


 こうなることがわかってて用意していたセリフを言ってる。そうとしか思えねぇ口ぶりだ。


「ほらー。シャキッとしてー」


 んなこと言われてもよぉ。

 つうか冷や汗かいたからか、やたら寒い。山頂だからってのもあるんだろうけど。

 あたりは見回す限り、岩みてぇなガッサガサな地面。余計に寒々しい。


 意外なことに一番早く順応したのはホーローだった。これも若さ故だろうか。あまり深く考えんようにしよう。


「なぁ小悪魔。こんなとこまで来て、オレらになにさせるつもり?」

「亀さん増やそーかなーって」

「それ答えになってないぜ」

「ちっとは自分で考えたらー。まったくもー。なんでもかんでもあーしに聞けば教えてもらえると思ったら大間違いだかんねっ」


 ひでぇ言い草だな。こんなとこまで半ば騙し討ちみてぇに連れてきといて。


 亀の魔物を増やす。それと木箱の中身の草。答えは……、考えるまでもねぇか。


「こんな土地じゃあ、さすがにどこでも育つ雑草でも根ぇ生やすのムリだろ」

「おおーう。さっすが父ちゃん。よくわかったね!」


 そりゃあ箱の中身知ってたからな。

 というかだな、『よくわかったね!』とか言うくらいなら、テメェでもわかるわけねぇと思ってたんだろ。

 ったく。いちいち勿体つけねぇと話を進められんのか、コイツは。


「つーか父ちゃん」

「んだよ」

「雑草なんて名前の花はありませーん」

「おう。こいつぁ花じゃなく草だからな」

「あ、あれれ⁇ そっか、草だね。そーかも。いや違くって! あーし言いてーのそーゆーんじゃねーしー」


 まーた聞き齧った名言でもひけらかすつもりだったんだろ。うろ覚えならいちいち口にしなけりゃあいいもんを。


「んで、この草の名前は?」

「知んなーい」

「じゃあ名無しの草、雑草でいいじゃねぇか。そういやオメェ、前になんたらって草に似てるとか言ってなかったか?」


 ここでようやく息を吹き返したゴーブレが、


「たしか、アシタバとかチンダチソウとか言ってやしたぜ」


 思い出した名前を教えてくれた。

 まだ顔色悪ぃが、大丈夫か?


「ちょっとゴーブレ、やめてくんなーい。あーしそんな下品なこと言ってねーし」

「そ、そうでしたか。なら、そういうことで」

「まったくー。でもまーチンダチでいーや。スッポンたちの餌だし、めっちゃ元気っぽいし。つーわけで、今日からこの謎の草をチンダチと呼びまーす」


 あんまり嫁入り前の娘に言ってほしくねェ響きだな。

 まっ、名前がないのも不便だし他所で使う名でもねぇ。

 なにより覚えやすくって、うちの連中も少しは興味もって面倒見るかもしれん。よしとしとくか。


「で、話を戻すが、こんなところに植えてもすぐに枯れまうぞ」

「水だけやっとけばなんとかなりそーだから、そのへんは問題なーし。つーわけでー」


 と言ってベリルは木箱を漁り、ズルズルと魔導ショベルを引っぱりだして「はい」と渡してくる。


「掘れってか?」

「そー。まずデッカい穴ねー。池にしちゃうし」


 却下して帰りてぇところだが、


「せっかくここまで登ってきやしたんで……」


 ゴーブレが諦めの呟きを漏らし、


「亀の魔物、増やせるんなら増やしといた方がいいよなぁ……」


 つづくホーローのボヤキを受け、俺ら三人は穴掘りに従事することにした。



 カタチなんぞ気にせず、とにかく掘ればいい。半分ヤケクソでガツガツ地面を抉ってやった。

 あんなに寒かったのに、いまは額から汗が止まらん。


 以前の水路んときと違い、今回は魔導ギアを着込んでるから、たった三人なのに進捗が半端ねぇ。


「よーし。こんくらいでオッケーかも」


 ここでようやくベリルが満足する広い穴を掘り終えたわけだ。


 そっからいつもの「〝ポチィ〟」とデタラメな魔法で、大穴を水で満たしていく。


「小悪魔まだチビなのに、魔力だけはスゲェな……」

「まったくだ。大人でもここまでの魔力量をもつ者なんぞ、そうはおらん」


 驚く二人を気にもせず、ベリルは呑気に鼻歌交じりでアホほどの水量を作りだしてった。


「つーか暇ならさーあ、掘った柔らかい土にチンダチ植えといてー」


 ずいぶんな物言いだが、黙ってても身体が冷えちまう。さっさと済ませちまうか。


 そっから俺らはチマチマと株分けした草——もとい、チンダチをデッケェ水溜りの周りに植えてった。


「よーし。こんなもんでしょー。んじゃつづきはまた明日ってことでー」


「「「……え」」」


「なにイヤそーな声だしてんのさー。うちの命運を賭けた大事なことなんだかんねー」


 たしかにそのとおりなんだが……。


「——そ、そういえば、他の連中も小悪魔の荷車に乗りたがってたぜ!」

「おうおう! そういや今回乗れずに悔しがってた者が大勢おったな」


 コイツら他の連中に押しつける気だな。ったく。よし、ここは俺も。


「うむ。つうわけで交代せんとならんな。うむ。こんなスゲェ物に乗る機会を独り占めはよくねぇ。うむうむ」

「父ちゃん、うむ多いし。まーいーけどー」


 なんとか生き地獄を回避できたと、俺ら三人はホッと胸を撫で下ろした。


 が、それも束の間……。


 よくよく考えたら帰り道も残ってたんだ。


「帰りは乗ってるだけでいーし。スイスイ〜ッと降りてっちゃうから」


 絶対にスイスイ〜なんて生優しいモンじゃねぇと思うが。

 とはいえ歩いて帰るわけにもいかん。これ以上のびんりしてると陽も暮れちまうしな。


 本当の恐怖は下り坂に待ち受けているとも知らず、俺らは魔導四駆に乗り込んでしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ