技術交流会④
進捗諸々の発表が終わったところで、俺は技術交流会の参加者をぞろぞろ連れて、広場へと向かう。
ベリルご自慢の魔導三輪車をお披露目するためだ。
しばらく待たされて、例の服装に着替えた問題幼児もやってきた。
「車輪が三つ……、見たところ荷台もありません。ベリル様、これはいったいどういうモノなのでしょうか?」
すぐ挙がったボビーナからの質問に、ベリルは少し宙を見やってから答える。
「んんーと、お馬さんの代わりってゆーのがわかりやすいかも」
「馬、ですか」
他の参加者がポツリと呟くと、モノは試しとベリルはさっそく動かしてみせる。
ハンドルを辿り、前の車輪に魔力が伝わると——回りだす。
それにつれて後ろの車輪も転がり、車体が進みはじめた。
「「「うお! 動いた!」」」
この反応に気をよくしたベリルは魔導トライクを加速。広場を所狭しと駆ける。
急に進路を変えて砂埃を撒き散らしては、
「うぉーんうぉうぉ、ぶぉーん♪」
妙な音を口ずさみながら減速加速を繰り返しては、蛇行させ、
「パラリラパラリラ〜♪」
などと、ベリルひとり意味不明な盛り上がり。
さんざん見せびらかしたところでゆっくり減速。トロコロと魔導トライクは俺らの前を通りすぎ、ややあって停まった。
今回はケツ振って土埃をたてねぇんだな。
ベリルは降りたらすぐ「乗ってみる?」だと。
「おいベリル。慣れとらんと危ねぇだろ」
招いた者をケガさせたとあっちゃあ、外聞が悪すぎる。しかしベリルはあっけらかんと、
「そんなスピードでねーし」
無責任発言。
いや、さっきスゲェ速さだったろうが。兜からはみ出た髪、バッサバサ靡いてたじゃねぇかよ。
「トルトゥーガ様。問題ないかと。私共の魔力ではあそこまでの回転は得られませんので」
水車職人モリエンドの言も尤もだと許可はした。
「でもちっと待っとけ」
が、万が一を考えてヒスイを呼んでおく。
その間に握り手やら座席やらの部品交換して大人も乗れるようになると、ようやく試乗。
一番手に名乗りを挙げたのはボビーナだ。
好奇心旺盛なのは構わんが、頼むからケガとか勘弁してくれよ。もしコイツになんかあったらリリウム殿にどう謝ればいいのやらだからな。
念のため、俺はいつでも動けるよう腰を落としておく。
そんなこっちの心配なんぞ気にもせず、
「あはあは! ベリル様ベリル様、動きましたっ。進みましたよ!」
「「「おおおおーっ!」」」
「次は私が」
「会議室の席順からですと、こちらが先では?」
「いやいや、そこは到着順にするべきだ」
「それは住まいの距離の差がでて不公平だ」
「では年齢の順ではどうか」
「なら若い順で」
「待てまて、普通は逆だろ」
「その普通の根拠は?」
子供かっ。コイツら揃って賢いくせにガキみてぇなヤツばっかりだな。
「こらー! ケンカする悪いコは乗らせてあげないんだかんねっ」
「わ、私たちはケンカなど……なぁ」
「ああ、もちろんだとも」
「「「うんうん。仲良し」」」
「ならいーんだけどー」
などとバカげたやり取りをしてる間に、
「ベリル様……こ、これ、魔力が保ちません」
ボビーナがバテた。
それから、なんとなく譲り合い順番で試し乗りしていく。
なかには魔力切れでぶっ倒れちまう世話のかかる野郎までいたが、俺にとっちゃあ見慣れた光景だ。
ついこないだ、水堀の掘削で活躍した魔導ドリルで経験がある。
「ヒスイ。隅っこに寝かしとくから、いちおうの治療だけ頼む」
「ええ。けれど枯渇した魔力はどうにもなりませんよ」
「ああ。ズッ転けてこさえた擦り傷さえなくしてやればいいさ。あとは知らん。寝こけさせとけばいい」
「わかりました」
ひと通り治癒魔法をかけたら、ヒスイは「食事の用意がありますので」と去っていった。
それから魔導トライクを囲み車座になり、反省会がはじまる。
「んんー、やっぱし燃費悪いかー」
「た、たしか動力の効率のことでしたね。それもありますが、均された場所でも揺れがひどく……うぷっ」
「ふーむふむ」
「揺れに関しては、座るのではなく立てば多少は緩和できるかと」
「おおーう。キックボードみたいにすればイイかもねー。それありー」
「キックボード?」
「んーんー、こっちの話ぃー」
「え、あ、はい」
たまに挟まれるベリルの謎言語で話のコシを折りつつも、議論は進んでいく。
つうかこれ、しれっと人任せにして改善点を洗わせてんだろ。参加者も活き活きしてっから指摘はせんでおくがよ。
「複数名で動かすのはいかがでしょうか?」
「おいおい、一つの魔導歯車に二人以上の魔力を注いだ場合の結果はもう実験済みではないか」
「動かない、もしくはとても効率が悪いだったな。それはわかっとるよ」
「——あっ! もしかして、たくさんの魔導歯車で一個の歯車を動かすとか、そーゆー感じー?」
「はい。ベリル様の仰ったとおりです」
直後、面々は顔を見合わせて、頷く。
そっからバタバタと会議室へ戻っていくんだ。そりゃあもういますぐ試してみたいって欲に逆らわず。
なんてったって、トルトゥーガの領主である俺に後片付け押しつけてるってぇ事実に気づかんほどだ。
とんでもねぇ連中だな。普通あり得んぞ。
とはいえ水を差す気にもならん。
「っとに、しゃあねぇヤツらだな」
放ったらかしの三輪車やら部品やらを担いで、倉庫へ片しちまう。
ちなみに倉庫は新たに、石塀を抜けたところに独立して建てたんだ。
後始末を終えて会議室へ戻ると、
「うっひょひょ〜い! めっちゃ回ってるし!」
——キュウゥイイイイイイイイイイーン!
デカめ歯車がえらい勢いで回ってた。
それぞれが小せぇ魔導歯車の軸を握り、団子になってデカい歯車に噛ませて動力を伝えてる。
「すごいすごい、マジすっごーい!」
一見すると、全員でチカラを合わせてるようにも見える光景。
だがコイツら、それぞれ好き勝手に閃きや思いつきを喋ってて、誰も相手の話なんか聞いてねぇ。
よくもまぁここまで難ありな者らを集めたもんだぜ。
だからこその成果なんだろうがよ。
そんでもってオチでもつけるかのように、加減を知らん連中は揃って魔力切れ。白目剥いてパタンパタン気ぃ失ってくんだ。
ったく。手間増やしやがって。




