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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第三章

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禿山要塞化計画、不詳③


 ノウロが王都へ出立するのに併せて、もう一人。


「旦那。小悪魔ちゃん。いろいろ世話になったね」


 リーティオもトルトゥーガをあとにする。


「ぜーんぜん。けっこー楽しかったし」

「オメェの活躍が聞こえてくんのを待ってるぞ」

「期待しててくれ。ミネラリアで一番有名な太鼓名人になってみせるぜ」

「もし太鼓の調子わるくなったら、うちのアンテナショップいけば兄ちゃんが直してくれっからね」

「そのときは頼らせてもらう。ホントになにからなにまで、ありがとう」


 じゃあ、また会おう。

 その言葉をお互い告げず、俺らはリーティオたちを見送った。


 さて、しんみりはしてばっかりはいられねぇぞ。やると決めたからには早ぇとこ穴掘りに取りかからなきゃあならん。

 ここんとこ溜まってた机仕事つづきだったから、肩ぁ凝ってしかたねぇ。ここらで息抜きに身体動かしておくのもいいかもな。


「ねー父ちゃん」

「どうした、寂しいんか?」

「んーんー。ちがーう」


 と、ベリルはなにやら紙束を手渡してきた。

 

「おい。なんだこりゃあ」

「見たらわかるっしょ」


 ああ、見たらわかる。ズラズラズラーッと目が霞むくれぇ日付と数字、それと用途が書かれてるからな。


「それ、あーしが使ったぶんと儲けたぶんまとめてあるし」

「……あるな」

「入ってきたおカネだけじゃなくって、お給料とか買ったもんとか、そーゆーのぜんぶまとめとかなきゃだかんねっ。とくに! 賠償金は分割だし利息もあるからマメにやってかないと、あとでヒーッてなるし」


 俺ぁもうヒーッてなってんぞ。


「ひひっ。つーわけでガンバってねー」

「おいおい待てベリル。オメェは手伝ってくれねぇのかよ」

「手伝わなーい。いちおー大変かなーと思って、あーしのお小遣い帳はつけといてあげたんじゃーん。あと父ちゃんが自分でやって」


 ベリルの薄情者め。


 とはいえ普請を任せっぱなしってわけにもいかん。

 だから午前は進捗の確認がてら現場の様子を見てまわることにした。机仕事は午後からだ。



 水堀の作業は以前とほぼ変わらず。

 違いといえば幅を拡張した。あとは水場として使うところを、さらに浅く広く池みたいにしたことが大きな変更点か。


 つづいて塀と掘ったところの舗装。

 男衆がひたすら桶に焼いた土砂と石灰と水をぶち込み、ベリルがいつものポチィで混ぜる。

 終いにヒスイの魔法でビシッとキレイな塀の完成だ。


 それから追加された工場も建てるんだが、ちぃと変わった作り方をする。


 まずは山の斜面を直角に削り階段状に。どんな巨人が使うんだって寸法でだ。これが壁の一面と床になる。

 キッチリ押し固めて土台を作り混凝土を打ち、残り三面の壁と屋根をつけたら、立派な建物の出来上がり。

 もちろん混凝土を材料にヒスイの魔法で一気に建てちまう。


 窓や扉なんかは、使わなくなった倉庫をバラして材木にしたから、真っさらな石の建物に年季入った部分があってチグハグ感がスゲェ。

 そしてなんといっても、山の斜面に長屋が沈んだみてぇな外観は見ていて慣れない。


「父ちゃん、もー見に来なくてもヘーキだし」


 なーんてベリルに冷てぇこと言われて、途中からは午前に顔を出すこともしなくなった。

 やること山積みだから助かったといえば助かったんだが……。んだよ、俺だって要塞作りやりたかったのに。


 しゃあねぇか。完成を楽しみに、いまは目の前の机仕事を片付けちまおう。


 朝から日が暮れるまでリリウム領で使ったカネや出てったカネをまとめてく。

 これがまたくっそ面倒くせぇ。覚え書きが雑だから尚だ。


 夕方からは出来上がった品の確認と目録作りに忙殺され、晩メシどきにヒスイとベリルから進み具合の報告を受ける。

 メシ食ってんのに仕事かよ。とは思うが、こればっかはやっちまわないと終わらねぇからな。


「そっちは順調みてぇだな」

「ええ。アセーロさんの方は捗っていますか?」

「ぼちぼちってとこか。使ったぶんと入ってきたぶん、それを財布ごとに分けるって作業なんだが、書きあげたの検めたらわかりづれぇのなんの……」 


 途中で帳尻が合ってんのか確かめると、だいたいズレてる。どこで間違えたか遡るだけでも相当だ。しかも一箇所違えば以降はぜんぶ書き直し。

 ったく、泣き入りそうだぜ。


「もしかしてさーあ、一枚の紙に書いてなーい?」

「ァア? 一枚で済むか」

「そーじゃなくってー。例えばワル商会ならワル商会、竜騎士団なら竜騎士団って感じでー」


 そのつづき、聞きたくねぇな。

 先を聞くべきだってのは充分理解してる。が、心が拒絶した。結果がわかってるからだ。


「そんなん提出したら、うちらでおカネ回してんのバレちゃうじゃーん」

「……つ、つまり、どうしろと?」

「だから、ぜんぶ分けて書いたらいーし。あっ、あと入ってきたおカネと出てったお金は列を分けた方がイイかもしんなーい」


 今日までつけてきた帳簿、ぜんぶやり直し。

 やっぱりこうなったか!


 せめてもの抵抗に、


「——先に言えよ!」


 とベリルに文句つけておく。が、


「いやいや、あーしのお小遣い帳もそーしてあったじゃーん」


 正論を返された。

 もう、ぐぬぬっと唸るしかできん。


「なんで横にズラしてあんのか意味がわからんかったが、検算しやすくするためだったんだな」

「そーそー。数字の前に足すとか引くって書いてっても、目ぇショボショボして間違えちゃうし。見なくていー部分は他の紙で隠しちゃえば間違えないっしょ」


 ハァ〜ア……。書き直すしかねぇか。

 さっさと終わらせて、俺も要塞作りに参加したかったんだが。



 翌日からベリルの言うとおり分けて書いてみたところ、かなり捗った。


 そして、ひと月かけてリリウム領での収支を書き終えたころには——すっかり禿山は要塞と化していた。

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