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小悪魔は欲張り②


「あーし、革命起こしちゃうし」

「——おいコラ、ベリルッ‼︎」


 いくら『カブキ御免状』があるからってな、いい加減にしろよ。

 ここにいる全員が、いや、その家族すら危うくするほどヤベェ戯言ほざきやがって。


「いますぐ取り消せっ」

「は? 産業革命すんの、マズい感じ?」


「「「…………産業、革命⁇」」」


「そーそー」

「ずいぶん穏やかじゃねぇ文言だが、モノ作りを変えるって意味でいいんだよな?」

「ちっちっちっ。スケールが小っちゃすぎるし。革命的に変わっちゃうから」

「だからよ」


 と、俺が苦言を積み重ねる前に、ベリルはなにがマズいのか気づいたらしい。


「なーる。革命ってのがエヌジーワードかー。ふむふむ。大富豪でも強さがひっくり返っちゃうやつだもんね。そーゆーの王様的にマズいかー。んじゃ、レボリューションって言っとくー。産業レボリューションっ。これでオッケー?」

「さ、産業の進歩……という意味であっているのかな。うむ。いやはや、ベリル嬢は東方の言葉も交えて話すので、耳に慣れん言葉を聞き誤ってしまったようだな、うむ」


 そのあとリリウム家が揃って「うんうん」頷く。なかったことにしたんだろう。ここは乗っかっておくに限る。


「おうベリル。気ぃつけろよ」

「はいはい、わーってるってー」


 返事は軽いが、俺らの様子から察したようだ。あとで釘刺しておけば平気そうだな。


「で、その『産業レボリューション』とやらは、いったいなんなんだ?」


 さすがにベリルも、他の家の者もいる前で勿体ぶるようなマネはせず辿々しくだが説明していく。

 しかしいつも以上に理解が追いつかん。税金逃れの話よりも難解に感じちまったぞ。


 そしてまたも、一番早く腑に落ちたのはボビーナだった。


「つまり、これまでは人の手で一つ一つ成していたことを魔導のチカラで一度に大量に成す。ベリル様はそう仰っているのですね!」


 チラッとリリウム殿とその息子たちを見ると、ポカンとしてる。そのさまに安心すんのもどうかと思うが、正直ホッとしたぜ。


 わからんことを聞いててもはじまらん。ならば俺がわかりそうなことを聞けばいい。


「利点はなんだ?」

「んとー。なんだろ。早くたくさん作れる? とか?」

「わたしがお答えしてもいいですか」


 ベリルが首傾げると見るや否や、ボビーナが目ぇキッキラさせて声をあげた。

 リリウム家の男衆は『またか』という顔。

 コイツぁ興味引かれると、空気読まん嫁になるってことなんだろう。

 なんだか既視感がある光景だぜ。


「ボビーナちゃん言っちゃってー」

「ではお言葉に甘えて。オホン。これまでですと、ハタ織り機を使ったとしても動かすチカラは手——つまり手動です。一定の効率で動かすには大変な疲れが伴いますし、操作の習熟にも大変な時間がかかりました。しっかぁぁぁし!」


 言葉を区切りるとボビーナは立ち上がった。さらに拳を握り、と思えば宙を抱き、やがて天を仰ぐ。


「ベリル様がお持ちいただいた魔導の円盤を動力にした場合、機械仕掛けに任せて動かすだけで同じものが、誰にでも作れるようになるのです!」

「ほーほー。うんうん。そーゆー感じかもっ」


 おいベリル。オメェやっぱし聞き齧りの半端知識だったんだな。

 そこからも「さらに言えば!」というボビーナのウンチクを聞くこと、しばし……。


 俺もようやく腑に落ちた。


「違ってたら言ってくれ。要するに、そこらで暇してるガキ共でも魔力さえ注げれば、質のいい布を織れるようになるって話か」

「トルトゥーガ殿は、わかるのだな!」

「やはり開明的なのですね」

「旦那、すごいな」


 だろうだろう。伊達に、問題幼児の戯言に付き合わされちゃいねぇんだ。


「ぷぷーっ。父ちゃんドヤってるし。マジいまさらーって感じなのにー」


 笑ってくれるがベリル、テメェも言い出しっぺのくせに半ばチンプンカンプンだったろ。


「はいはいはーい! えっとねー、他にも糸よったり縫ったりもできるし。やり方はよく知んねーけどー」


 内容はわかったが、問題は解決しちゃいねぇな。むしろ拗れたくれぇだ。


「ん? なんかいけなかったん?」

「ベリル嬢。あれこれと便宜を図ってもらえるのはありがたく思う。しかしだな、我らには返せるモノがない」


 そう。引っかかってたのはこれ。


 俺としちゃあ、いまでも手一杯だから他所に新しい手法の閃きを渡すのはべつに構わねぇ。それがリリウム殿なら義理にも恩にも感じてくれるだろうから、なおよしだ。

 だが、相手がどう受け止めるのかってぇと、ちぃと借りじゃなくデカすぎて負い目になりかねん。


 そのあたり、ベリルも理解が及んだようだ。


「ほーほー。そゆことねー。なら問題ねーし。あーしにもめちゃメリットあるし」

「と言うと」

「歯車でなにがどー動くのかなんて、あーしサッパリだもーん。そこらへん丸っとそっちで考えてねーってことっ」


 コイツが閃きだけを示して、カタチにする手間はぜんぶ押しつけるつもりなんだな。いつもホーローたちにやらせてるみてぇに。


「出来上がったモノを提供すればよいと、そう言っているのかね?」


 俺もリリウム殿と同じことを考えた。

 がしかし、ベリルは違った。


「んーんー。いらなーい。あーしとしては、一番重要な部品を買ってもらえたらオッケーだし。あと布たくさん作れたら安くなって、オシャレしほーだい! こーゆーのたしかねー……、えっとぉ、そーそー『きかん部品』ってやつ。それをぎゅーじっちゃうし。なにが聞かんのか知らねーけど。つーか聞けよって感じ。ひししっ。意味わかんねーし」


 途中から一人で盛り上がりはじめたが、おおよその考えは伝わった。


「オメェよぉ。いまのを取り引き持ちかけてる相手にそのまんま言うか、普通」

「言うし。こーゆーのって、ぶっちゃけちゃった方がよくなーい。てか、そーゆー方が父ちゃん好みでしょ」


 まぁな。


「あっ。売るみたいに言ったけど、基本的にサブスクねっ」


 おっと、そのあたりは後回しだ。スモウ大会のあと好きなだけ話させてもらえばいい。


「サブスクなる仕組みか契約だかは置いといて、オメェそろそろ支度しろ」

「もーそんな時間? んじゃあーし、お相撲大会の行事さんやんなきゃだから、行くねっ。ボビーナちゃん、まったあっとで〜♪」


 一方的に言いたいことだけ告げて、ベリルは鼻歌交じりで、てってく駆けてった。


「ボビーナ。僕らにもわかるように要点をまとめておいてくれ。あとは、どれくらい利があるのかも見積もっておかないと……か」

「うむ。急いで叩き台を用意せねばな」

「ハハッ。親父も兄貴も、呑気にスモウ観戦してられないな」


 リーティオがお気楽な三男坊だと主張する。

 すると見計らったように戻ってきたベリルが、ドアから顔だけ出し、


「リーティオくんも太鼓の準備しなきゃだし!」


 と急かす。

 これ幸いと、


「おう小悪魔ちゃん。すぐ行く。んじゃそういうことで、あとは二人でガンバってくれ」


 リーティオは面倒ごとから逃げていった。それはそれは軽い足取りで。


「まったく。冒険者をするようになってから逃げ足ばかり達者になりおって……」

「僕らでやるしかないでしょう……。トルトゥーガ様、このつづきは今夜改めてでよろしいでしょうか?」


 え? いや、今夜はダメだろ。打ち上げの宴会もあるだろうし。俺だってお呼ばれしてぇもん。


「明日にはウァルゴードン辺境伯との交渉もありますので、早い方がよいかと」


 ………ぐっ。ダメらしい。さっきのハタ織り機の話を考えると、綿花をどんだけ押さえるのか目安が必要になる、かぁ。


 つうことで、俺の打ち上げ不参加が決定した。

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