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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第三章

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小悪魔は欲張り①


 ウァルゴードン辺境伯軍を退けた翌日——


 うちの連中に橋の見張りと捕虜の管理を任せたら、俺はリリウム殿の屋敷に出向く。

 昼からは奉納試合があるんで、午前のうちにある程度の話をしちまいたかったからだ。


「トップ会談ってやつじゃーん。ふっふっふっ。あーし、ずっとこのときを待ってたし」


 なんでかベリルもついてきた。


「オメェはヒスイといっしょに土産物探すとか言ってただろ。昨日怒られたのがそんなに堪えたんか?」

「違うしー。いや、すっげー怒られちったけど。ママのマジキレめっちゃヤバかったし……」


 ふっと、遠い目をするベリル。

 おいおいヒスイ。どんだけ圧かけたんだ?


「でも違くってー。ごめんなさいのあとは、いつもどーり優しーママだったし。だからそーゆーんじゃなくってねー、ママ、めっちゃ夢中なの」

「なにに?」

「橋」


 ああ。そういうことか。

 古の神様が創った魔法を無効化する橋だもんな。ヒスイの惹かれんわけがない。昨日までは自重したみてぇだが、問題なしとなりゃあ調べ尽くすに決まってる。


「あとさーあ、リリウムどのとお話しするでしょー。てなるとやっぱ、あーしが同伴しとかなきゃじゃね」

「どうしてそうなる?」

「だってボビーナちゃんもいるし」

「いるだろうけどよ、仲良くしてぇんなら別の機会に話せばいいだろ」

「だーかーらー違うってーのっ。つーか、あーしがついてっちゃいけないわけー?」


 だから物申してるんだが。ったく。


「大人しくしとくんだぞ」

「ひひっ。わかってるってー」


 絶対わかってない。断言できる。


 リリウム殿の屋敷につくと、すぐに応接間に通された。

 そこには目元にクマを作り疲労困憊、なのにやたらと高揚してる面々が。長男(ニケロ)嫁さん(ボビーナ)三男(リーティオ)も。


「して、トルトゥーガ殿。用向きは?」

「ウァルゴードン辺境伯から巻き上げた賠償金なんかの分け前について話させてもらいてぇ」

「…………。ぃ——いやいやいや、分け前などとんでもない!」


 リリウム殿は腰を浮かせて遠慮した。


「こちらはいまの時点でかなり儲けさせてもらっている。我らはリーティオが迷惑をかけた償いに協力したんだ。だというのに大きな利益まであげさせてもらい、そのうえ分け前を受け取るわけにはいかんよ」


 そういやそうだったな。あれこれありすぎて忘れちまってたぜ。


「それに、ベリル嬢の話を伺うという約束も、まだ果たしていないではないか」


 ああ……。そんなのもあったな。

 つうことはベリルのやつ、なんかしら要求するためについてきたってことか。

 とりあえず、そいつは後回しだ。


「なら領地の一部割譲は、別のモンにしてもらおう」


 川向こうの領地なぞいらん。ただでも人手が足りんのに、んなモン貰っても扱いに困るからな。


「なんと欲のない」


 そういうもんなのか。俺にはよくわからん。


「そうだ。一つ問い合わせがあったのだ」


 と、座り直したリリウム殿が切り出す。

 なにかと思えば、


「ベリル嬢が考案した屋台の木組みなのだがな、商人たちから譲って欲しい声がきている」


 という話。

 んなもん、そっちで判断してくれればいいもんを。いちおうこっちを立てて聞いてくれてんのはわかるが。


「売っちまっても問題ないのでは。そのあたり、うちは関与しない方向で。ベリル、オメェもそれでいいよな?」

「うん。どーせすぐマネできちゃうし、買ってくれるんなら売っちゃったらいーじゃん」

「重ね重ね、かたじけない」


 そう恐縮されても困る。

 このあと問題幼児がなに言い出すかわかったもんじゃねぇ。

 あんまり酷ければ止めるが、いちおうリリウム殿とベリルの約束だから、基本は黙っとくつもりだ。


「んじゃ、あーしの話していーい?」

「ああ。なんでも言ってくれ。たとえハタ織り機を譲れと言われても、私は拒まんよ」

「——いや、それはどうかと」


 思わず声にしちまった。

 だってそうだろ。うちが受け取るのとウァルゴードン辺境伯が取り込むので、かなり意味が違う。そんくれぇわかってる。

 だからって、領民の生活を左右しかねんモンまで差し出すなんて、やりすぎだ。


「いいんだトルトゥーガ殿。これはニケロともボビーナとも話してある。もちろんリーティオともな。ベリル嬢は、我らが困らんようにあれこれ取り計らってくれたのだろう。その意気に応えられそうなモノは、うちにはそれくらいしかない」

「父が申したとおり、僕も妻も、リーティオも納得ずくです」


 たぶんだが、コイツらはベリルが個人的に使うと思ってんだろう。それはわかる。


「しかしだな——」

「ちょい待ち!」


 思いとどまらせようしてんのに、ベリルが割って入ってきた。


「つーか、あーしの話聞いてってー。もー、せっかちさんばっかなんだからー」


 と、そこまで言って、ベリルはガサゴソとリュックを探りはじめた。そして——


「じゃじゃーん。これなーんだっ」


「「「…………」」」


 わかるわけねぇだろ。俺は亀素材で作った回転板だとわかるが。


「ヒントねー。こーやって『回れっ』てするとー」


「「「————っ⁉︎」」」


「……。この円盤は魔力で回っているのかね?」


 だからなんだって反応だよな。俺もそう思う。

 しかし一名、異なる反応を示した。


「ひひっ。ボビーナちゃんには、もーわかっちった感じ?」

「こ、これは、少ない魔力でも回るものなのでしょうか?」

「試してみー」


 ズイズイッとベリルが押し出すと、恐る恐るといった様子でボビーナは回転板に触れた。


「——回りましたまわりました! キャハッ! すごいすごい、すごいです! これはとんでもないことですよっ、義父様! ニケロさん!」


 猫かぶりはやめちまったらしい。

 キャーキャーはしゃいで円盤を回してる。


「ちょっとボビーナ、落ち着いて。僕らにもわかるように説明してくれないか」

「ふひひっ。これ、ハタ織り機に使えそーじゃなーい?」

「いいのですか⁉︎」

「いーに決まってんじゃーん。そのために持ってきたんだしっ。提供しちゃーう」

「アッハ! ベリル様、ありがとうございます! さっそくですけど、ハタ織り機以外にも使えそうですね。大きさを変えたりできますか?」

「できるできるー」


 リリウム領の跡取りニケロが声をかけても、その嫁もベリルも耳を傾けない。ったく。


「——おいベリル。オメェは奉納試合の立ち合い人をしなきゃならんのだろ。そんなに時間ねぇんだから、細かい話はあとにしろ」

「えへへっ。そっかそっか」

「トルトゥーガ様。申し訳ありません」


 どういう話か説明しろ。そう目で問うと、ベリルは短い足を組み、デデーンと踏ん反りかえる。

 そして——


「あーし、革命起こしちゃうし」


 と(のたま)うのだった。

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