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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第三章

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帯びた熱は右肩上がり⑧

誤字報告ありがとうございます。


 スモウ大会最終日の前日——


 今日は、明日の奉納試合に出る選手を紹介するっつう催しがある。

 二日も空けるのは微妙だと、ベリルが急遽予定を捩じ込んできたんだ。


 いまは朝メシ食ったあとで、催しの時間までまったり過ごしてる。


「とーとーワル辺境伯こなかったねー」

「だな。でも却ってよかったんじゃねぇか。俺ぁこんだけ盛り上がってる催しをブチ壊しにしたくねぇぞ」


 我ながら甘っちょろいこと言ってるたぁ思う。

 ケジメについちゃあ、帰る前にちょいとウァルゴードン辺境伯んとこ寄り道して、小突きまわしたあとに屋敷でもぶっ潰しちまえばいいだろ。


「わかるー。つーかいまごろきたら、マジ空気読めないヤツだし」

「それってよ、オメェふうに言うところの『フラグ』ってやつなんじゃねぇか」

「ちょ! あーしもそれ思ったけど言わないどいたのにー。ホントにワル辺境伯来たら、父ちゃんのせいだかんねー」


 そこはウァルゴードン辺境伯のせいだろ。


「来たら来ただ。どんだけ軍団引っぱってこようが、催しが終わるまでくれぇは俺らで食い止めてやるよ」

「まーたフラグ重ねてるしー。てゆーか、そもそもワル辺境伯呼び出すためにやったのに、なんかヘンなのー。マジ『オマエが言うな』ってやつじゃーん」


 おう。そっくりそのまま返してやる。



「あなたあなたっ。ほらベリルちゃん、あそこにベリルちゃんがいますよっ」


 んなもん見りゃあわかる。

 ヒスイと並んで、いちおうの貴賓席から簡素な式典を見物してる。

 さっきからずっとヒスイは興奮しっぱなしで、袖をグイグイ引っぱってきて、落ち着く気配すらねぇ。


 土俵に立つベリルは、いつもの小悪魔仮装。

 派手なワンピースとサンダルに、装飾品をジャラジャラと。


 さらに、黒く透きとおる板を入れた伊達メガネをかけてる。グラサンっつうらしく、爪の素材をギリギリまで薄くさせて作らせたんだそうだ。

 そんなの掛けたまま立ち合い人できるかと問えば、試合になったらオデコに載っけると返ってきた。

 だったら端っから外しとけ。そう言うと『司会者にグラサンは必須だし』と聞きやしない。


 そして、もう一つ見慣れないモンを手にしてる。その名は魔導メガホン、だとよ。

 こんなもん作らせてたから、ヒスイの出発が遅れたんじゃねぇのか。


『ええー、テステス。本日は晴天なりー。あめんぼあかいなあいうえおー。いぇーい、みんな聞こえてますかー?』


 円錐状の筒なんだが、先っぽを切って小さな円錐を重ねたような妙な品で、口を当てるとやたら声が通る。


『聞こえてるっぽいねー。んじゃーさっそく、グランドファイナルまで勝ち残った選手を紹介——の前にー、注意事項でーす』


 ここでいったん区切ると、首を傾げる観客をぐるり見渡した。熱しかけた空気に水を差すように。

 当然の如く会場は静まり返った。

 ベリルは少しマジメ声音でつづける。


『これから呼ばれた選手が土俵にのぼって、みんなにアピりまーす。そんとき、ワーとかキャーとか声あげたり、パチパチ拍手したりは神事って都合上ご遠慮ぉぉ……』


 神事と聞いた観客の面々は、なんとなくそういうもんなのかと姿勢を正す。知らんうちに神聖な場所に立たされてた、そんな雰囲気に。


 が、ベリルはそいつを裏切り、


『——しなくていーし。ひししっ』


 イジワルに笑う。

 するとあちこちから「脅かすなー」「背筋伸ばしちまっただろうが」「ああびっくりした」などなどヤジが飛ぶ。


『そーそーそんな感じでよろー。みんなノリいいじゃーん。目一杯ヒヤかしちゃうよ〜ぉにっ。それが注意事項ねー。オッケー?』


「「「おおーう!」」」


『それじゃートップバッターは〜』


 ここでベリルはガラッと声色を変える。

 なんつうか、尖った巻き舌とでもいえばいいのか、怪鳥みてぇなスンゲェ声で叫ぶ。


『兵隊のゥ、お仕事ズゥルルル休みしてサンセェェェェンヌ! 匿名希望ォォ——シィィゴトッ、サボリィィィィ関さァァァァ〜〜ァンヌァッ‼︎』


「「「うぉおおおおおおおー!」」」


「税金返せー!」

「仕事しろー!」

「王様に言いつけんぞー!」

「——い、いや自分は休みをとってっ」

「いいわけすんなー!」

「スゲェ試合しねぇと承知しねぇぞー!」

「キャー! サボリ関さまー!」

「強いのに狼狽えちゃうとこ、」


「「「カッワイ〜イ♡」」」


『ケホケホッ。はーい。一部に目を診てもらった方がよさそーなお姉さんたちもいますが。サボリ関さーん、まずは仕事をサボッた言い訳をどーぞ』

「普通は抱負を聞くところでは⁉︎ だから自分は休暇をとってだなぁ。というかサボリ関ってなんだね」

『四股名でーす。あーしが勝手に決めましたー。つーわけで、気を取り直してほーふをどぞっ』

「ええー、自分が目指すのはスモウを通して——」

『はーい。サボリ関さんでしたー』

「ええーっ。まだ話してる途中なのに!」

『ひひっ。ウソウソ。みんなー、なんか偉っそーなこと言うみたいだから聞いたげてー』

「すごく話しづらいんだが……」


 ってな具合に、ベリルの辛辣なイジリと温かい雰囲気のなかで、選手の紹介は進んでいった。


 そして事件は起こる。

 つっても少々困った事態というか、二番煎じだな、こりゃあ。


「オデ! オニでぃ勝った」


 そう。全選手の案内を終えて、連中が鬼とスモウして勝った者だと説明したとき、ハナタレ山こと鼻垂れボウズが参戦を希望したんだ。


 一瞬ざわついたが、事情を知ってるリリウム領の連中が茶番だったと話してって、観客たちは納得した。

 だが、鼻垂れはズンズン土俵に向かっちまう。

 混雑してるからアイツの母ちゃんも上手く捕まえられず、大人の足元をすり抜けてく。


 この場面、まともな立ち合い人なら止めただろう。宥めすかすなりして諦めさせたはず。

 しかし、その役を担うのはベリルだ。断言できる。アイツがそんなマネするはずねぇ。


『よーし決めた! 明日の本戦前に、いっちょエキシビジョンマッチしちゃーう』


 ほれみろ。


「「「……え? 大丈夫?」」」


 客席の空気はだいたいこんな感じ。

 そして客の戸惑いなんて放ったらかしで、よじよじなんとか土俵に登りきった鼻垂れボウズを、ベリルは紹介する。選手として。


『ハナタレ山には参加資格あーり。異議は認めーん! でもちゃんとした予選には出てないから、一回だけねっ。てゆーかハナタレ山、相手めちゃ強いけどヘーキなん?』

「オデ、やるもん!」

『おおーう、やる気じゅーぶーん! つーわけで、ハナタレ山の対戦者は〜……』


 おうベリル、もうオチは読めてんだよ。いちいち勿体つけんな。

 そんな俺のウンザリ感なんか他所にして、ベリルはまた、わざわざ声音を変えて思いっきり喉を震わせる。


『トォルトゥーガァァ〜最っっ強っのオッサァァンヌ! アセィロ・デッ……トルルルトゥゥゥゥゥゥーゥガッッ‼︎』


 だよな。

 はいはい。鼻垂れボウズ相手に接待スモウとりゃあいいんだろ。


「あなたー、ガンバってー!」


 どうガンバれってんだか。

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