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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第三章

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帯びた熱は右肩上がり⑦


「あーし、待ちくたびれちったしー」

「うふふっ。ごめんなさいね」


 ずいぶんと遅くなったが、ヒスイがリリウム領までやってきたんだ。それだけモノ作りが忙しかったってことだろう。頭が下がるぜ。


 待ちに待ったヒスイを、ベリルはさっそく屋台巡りに引っぱってこうとした。でもな、


「リリウム殿に挨拶すんのが先だ」

「そっかー。ご挨拶は大事かも。しゃーない。でもあとで絶対の絶対だかんねっ。あーし、ママにオススメしたいのいっぱいあるし」

「あら、それは楽しみ」


 つうわけで領主の屋敷に出向いた。


「これはこれは、高名な大魔導殿にお目見えできて光栄です。私はガリオ・デ・リリウムと申します」


 という自己紹介からはじまり、俺らにしたようにリリウム殿は丁寧に詫びを入れた。

 いくぶん俺に対してよりも腰が低いように思えるのは、気のせいか?


 そうして、ひと通りの面通しが済むと、次は現状についての話になる。

 まだウァルゴードン辺境伯が来てないこと、スモウ大会も免税市も予想以上に盛況で各方面から収益があがっていることなどなど。


 晩の食事に誘われ、つづきはその場でゆっくり親交を深めようって話になり、いったんお開き。

 これは俺らに気を使ってってより、リリウム一家がアホほど忙しくなってるのが原因だろう。

 目の下にクマあったからな。リリウム殿に限らず、長男のニケロも嫁のボビーナも、もちろんリーティオにも。


「みんな、お疲れっぽかったねー」


 その元凶がなにを言う。

 まっ、やったらやっただけ儲けが出るような状況なんだ。根詰めちまうのもわからなくもねぇ。



 ベリルがスモウの立ち合い人を終えたところで、屋台を巡った。


 俺ぁ、両手いっぱいの食い物を抱えて、手ぇ繋いで歩いてくヒスイとベリルのあとにつづいてくだけ。

 ワガママ娘は、あれこれ買いこんだもんを別荘で食いたいんだとよ。


 ちなみに、うちの連中には交代で骨休めするように言ってある。多めに小遣い渡しといたから、あとはゴーブレが上手いことやってくれんだろ。


 市を回った流れで銭湯も見せて、それからようやくベリルが寝泊まりしてる小屋へ。


「んじゃあオメェらゆっくりしとけ」

「あれ、父ちゃんはいっしょに食べないのー?」

「久しぶりに会った母ちゃんと話してぇこともあんだろ。親父がいねぇところでよ」

「そっかそっかー。んじゃ、あーしからママにいろいろ話しとくし」

「おう。だがベリル、あることねぇこと喋るんじゃねぇぞ」

「父ちゃんが女風呂覗いたとか?」


 ピリつく波動が駆け抜けた。


「——バカたれ! そういうデタラメこくなっつったんだ。ヒスイもいちいち真に受けんな」

「あらまあ私ったら。ふふっ。ベリルちゃん、アセーロさんはそんなことをしませんよ」

「ひひっ。たとえ話だってばー」


 ごゆっくり。と俺は二人を残してく。



 うちの連中が屯ろしてる東屋に顔出したり、外れの広場でスモウの稽古してる連中と話したり、そこそこ時間を潰してから小屋に戻る。

 すると、


「ベリルちゃん。話し疲れて寝てしまいました」


 扉の前でヒスイが出迎えてくれた。

 

 わざわざこんな時間をとったのは、先日の教会での出来事を確かめさせるため。

 俺ぁ気にしちゃあいねぇが、ヒスイが知りたがるかもしれんと、事前に進捗をやり取りする手紙で伝えておいたんだ。

 興味なくっても知っといた方がいいこともあるのは、確かだしな。


「どうも、ベリルちゃん自身にもよくわからないそうなのです」

「ほぉう」

「あまり関心ありませんか?」

「まぁな」

「あの子、もしかしたら神の声を聞いたのかもしれません。笑っていたと言っていたので」


 神様って笑うんだな。そりゃあ笑うか。


「怒ってなくてよかったぜ」

「やはりアセーロさんは大物なのですね」

「それ、なんか俺がバカみたいに聞こえるんだが」

「さあどうでしょう。ふふふっ」


 母娘揃って親父イジリかよ。ったく。


「ベリルちゃんは『女神さまたちに屋台メシのフルコースをゴチるし』と張り切っていましたよ」

「俺なんかよりよっぽど大物じゃねぇか。つうか、むしろ罰当たりなヤツだな」

「それを伝えた際に、笑っていた気がした、という話でした」

「そうか。だったらアイツの好きにさせとけばいい」

「ええ。私もそう思います」


 ここまで話したところで、


「あっ。ママここいたー」


 ベリルが小屋から出てきた。


「あらあら。ママがいなくてびっくりさせてしまったかしら」

「あーしそんな赤ちゃんじゃねーし」

「まあ。寂しいことを言うのね」


 このあとリリウム殿に誘われた食事会に出向いた。

 だが、あまりの疲労困憊っぷりに早めに終いになった。


 いちおうヒスイが回復魔法をかけたから、翌日には多少マシになるだろう。精神的な疲れとケガは違うからなんとも言えんらしいが。



 翌朝——

 まだまだ早い時間だってのに、スゲェ人集りになってる。


 集まった連中の目当ては、


「うっひゃーっ。ママ、おウチ建てる魔法とかすごすぎー。めっちゃ楽しみー」


 大魔導の魔法だ。


 ベリルの魔法は見せられんから、混凝土を混ぜるのは俺らの役目。

 桶に石灰ぶち撒けて、水や焼いた土なんかと掻き回す。それが十を超えたところで——


「〝円圧潰(ラウンドクラッシュ)〟」


 ダムッ、ダムダムダムッ!

 地面が圧し潰された。


「〝石板(ストーンパネル)〟」


 と唱えると、桶の中身が浮かび、板状になる。


 で、ここからが前に見たのと大きな違い。

 まずは土台。石床みてぇにビシッと並んだかと思えば、継ぎ目が消えて一枚になってく。

 つづけて窓枠や扉をくり抜いたようなカタチになったり、角の柱になったりと家の部品になってくんだ。

 それらが組み合わさって、地面に建つ。


「おうオメェら、ガンガン捏ねちまえ! 材料が足らんと催促されちまうぞっ」


「「「混ぜろい混ぜろい!」」」


 混凝土のタネは作るたびに使われてって、あっという間に完成。屋根まで継ぎ目一つない立派な平屋ができあがっちまった。


「うっほほーい。すっごーい。めっちゃヤッバッ! ねーねーママ。これ、いつから使える感じー?」

「ある程度は固めてあるけれど、明後日くらいまでは待った方がいいかしら」


 呆けてた見物客たちがどよめき、そして拍手が起こる。


「大魔導様。このたびはこれほど立派な教会をご用意いただき、まことにありがとうございます」

「いいえ。とんでもありません。うちの娘のワガママに付き合わせてしまいましたので。このくらいさせていただくのは当然ですわ」


 そっから事前に用意してた扉や鎧戸なんかを、混凝土が固まる前に嵌め込んじまう。


 そして、せっかくだからと明日明後日はスモウ大会を休みにして、新しい教会のお披露目と『グランドファイナル』なる奉納試合を同日開催する運びになった。

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