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帯びた熱は右肩上がり②


 スモウ大会も大事だが、要となるのは免税市の方だ。

 もうベリルは当初の『経済制裁』なんてスッカリ忘れちまってる様子だが、ウァルゴードン辺境伯からケンカ売らせるために、ぜひとも成功させなきゃあならん。

 つっても、できることなんかもう残ってないんだけどな。


 だから視察してどうこうってわけじゃねぇが、日が暮れる少し前にはちょいちょい市を見て歩いてる。

 もちろんベリルを連れて。


「おおーう。めっちゃ賑わってんじゃーん」

「だな」

「あーし、丸っこい飴食べたーい」

「買えばいい」

「はあー? あーし、おねだりしてんのっ」

「ァア。オメェの方が金持ってんだろ」

「ちっがーうっ。父ちゃんに買ってもらうから美味しーんだも〜ん」


 などと、可愛げあること言ってるようにも聞こえるが、


「ひとの財布で食べるゴハンが一番美味しーってゆーしー」


 やっぱりな。


「そうかそうか。なら俺ぁ、あのデッケぇ骨付き肉が食いてぇな」

「ふーん。買えば」

「…………」

「つーか飴あ〜めあめ〜ぇえ! 丸っこい飴かって買ってかってーっ!」


 あぁあぁ〜飴ぇ買い与えねぇといつまでも煩そうだ。どうせ買わされんなら、さっさと済ませちまうに限んな。


「おう兄ちゃん。コイツに一つ、飴くれ」

「へい。銅貨五枚っす」


 ……おおう、けっこう高ぇのな。


「ねーねー、お兄さーん。棒ついたのってないのー?」

「棒? 飴に?」

「そー。したら途中で休めんじゃーん。ずっと舐めてると口んなか、しわしゅわってなっちゃうし」

「——ほう! そいつは良さそうだ。お嬢ちゃん少し待っててくれるかい。いま冷ましてる最中の飴があるんで」

「お願ーい」


 んで、待つことしばし。


「楊枝を刺してみたんだが、どうだい?」

「尖ってない方がいーかもしんなーい。小っちゃい子が喉突いちゃうかもだし。あとはイイ感じー」


 たしかにあるかもな。棒ついた飴しゃぶったまま歩いて、口んなか突いちまいそうだ。


「いやぁこいつは売れそうだ。ところでお嬢ちゃん、あと旦那も。飴に棒を刺しとくってネタ、うちでマネしちまってもいいかい?」

「べつにいーよー。あーしも食べたいし」

「よっしゃ。だったら市やってるあいだ、お嬢ちゃんはうちの飴食べ放題だ!」

「いっいぇーい。お兄さん太っ腹ぁ〜」


 へへっ。飴代浮くぜ。


「ちなみにこの棒つき飴、名前はあるのかい?」

「ちゅっぱ……あ、これダメなやつ。んんっとー、ペロペロ飴っ」

「そいつぁわかりやすい。使わせてもらうよ。んじゃさっそく旦那にも新商品を進呈だ。なくなったら、また来てくれよなっ」


 もう一本、棒つき飴——もといペロペロ飴を手渡された。

 好意だから受け取ったけどよ、俺ぁこんなガキが食うようなモンなんかいらんぞ。


「ほれ、ベリル」

「あーしいま食べてんのあるし」


 ずっと持ってろってか。


「つーか、あげたらいーじゃん。ちょーどあそこにハナタレ山いるし」


 そりゃあいい。あのボウズの母ちゃんには銭湯の店番やってもらってんだったな。

 で、アイツはその手伝いをしてるっつうなかなかできたガキだ。どんだけ役にたってんのかは知らんが。


「おうボウズ」

「あっ。オニの貴族さば」


 相変わらず鼻が詰まってんな。だとすりゃあ途中で食うのをやめられるペロペロ飴はもってこいだろ。


「母ちゃんの手伝いしてるお利口さんなオメェには、こいつをくれてやる」

「くでんの?」

「ああ。これからも母ちゃんを助けてやるんだぞ」

「あでぃがと」


 渡してやると、さっそくペロペロズルズル食いはじめた。


「アンベ、んめぇーえ!」

「ひひっ。ハナタレ山、めっちゃキャラ立ってるし」

「オデ?」

「そーそー。四股名ってやつ。お相撲さんの源氏名みたいなー」

「オデ、ハダタレヤバッ」

「ぷぷっ。言えてねーし」

「にっひー」


 幸せそうな鼻垂れボウズに手ぇ振られて、このあとも俺らは市を巡ってく。



 晩メシのあと、リリウム領とウィルゴードン領を繋ぐ橋近くに設けた東屋で、関に詰めてるうちの者から報告を受けていた。


「つうわけでして、今日は三名、あっちの者が綿花を売りにきやした」

「まだウァルゴードン辺境伯と取り引きしてる商人は通ってねんだな?」

「へい」


 ソイツ——もしくはソイツらが来ねぇことには、ここでやってることはなんの意味もなくなっちまう。


 そこまで言うと言いすぎか。

 卸しを止められてた綿花も手に入って、リリウム殿んとこの嫁さんは張り切って布を織ってた。

 それに、こっちもこっちでスモウ大会の参加費やら賭けやらで儲かってんだしな。


 とはいえだ。予定してたイヤガラセとしちゃあ弱いのもたしか。


「なかなか思いどおりにはいかんもんだな」

「スモウも市も盛況みてぇですし、そのうち通りやすよ」

「そう願いてぇ」



 翌日以降も、免税市はどんどん盛況に。


 市がスモウ大会の景品を使い果たすまでつづくと聞きつけた商人たちは、もう一往復二往復して稼げると見込み、行ったり来たりひっきりなし。

 そのたびに、噂を聞きつけた者が増えていく。

 仕入れは他の商人に任せて、こないだの飴屋みてぇに出店で商う者も多くいた。


 しかも神官殿が気を利かせて、サクッと建てた木組みの平屋で教会の業務をしてくれたんだ。これがデカいらしい。

 カネを持ち運ばんで済むから、決済が円滑になるんだと。


 また、スモウ大会にも遠方からの参加者が殺到して、早いうちからの参加者も粘る。

 何度でも挑戦できるのもあって、日毎に試合数が嵩んでく。

 

 日に日に賑わってく催しは、半月近くつづいてもまだ勢いが衰えねぇ。


 そんななか、ヒョッコリお目当てがきた。

 ウァルゴードン辺境伯と取り引きしてるっつう商人をようやく掴まえたんだ。

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