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帯びた熱は右肩上がり①


 告知日より早く、スモウ大会の参加者が集まりはじめた。商人たちもボチボチと。


 そして教会からは、前に世話になった老齢の神官殿がマジメそうな若い神官殿を連れてやってきた。


「遠いところをと俺が言っちまうのもなんだが、このたびはムチャ聞いてもらって、本当に申し訳ない」

「いえいえ、トルトゥーガ様。頭をおあげください。我らとしてもお勤め所が増えるのは、大変ありがたいお話でございますゆえ」


 ってな具合にペコペコ頭下げ合戦してると、ベリルが割り込んできた。


「いぇーい! 神官さん、ホントに来てくれたんだー。めちゃ嬉しーしー」

「ベリル様。このたびはお招きいただき、まことにありがとうございます」

「いーっていーってー。あっ、袋の神官さんも!」

「おおっ、私のことも覚えていてくださったのですね。ありがとうございます」

「こっちこそ。来てくれてありがとねー」


 このまま立ち話もなんなので、俺は早いうちにリリウム殿と神官殿たちを引き合わせちまう。

 教会の出張所兼宿泊施設ができるまでは、リリウム男爵家で持て成してもらうって話になった。


 ちなみに、本格的に教会を建てるのはヒスイが来てから。混凝土でゴッツイのを用意しちまうつもりだ。

 仮屋に、木組みの平屋も建てる予定。



「トルトゥーガ殿、ベリル嬢。迷惑をかけた償いをさせてもらったばかりか、これほどの便宜を図っていただき、なんと礼を申してよいやら。本当にかたじけない」


 リリウム殿は改まって、もう何度目になるかわからん礼を告げてきた。

 よっぽど教会の誘致が嬉しいらしい。


「いーっていーってー、お礼とかいーから。ぜんぶ終わったら、ちょ〜っとあーしの相談のってくれるだけでいーし」


 そういうのが一番怖ぇんだがな。


「ああ、もちろんだとも。我らにできることなら可能な限り対応すると、約束しよう」

「んじゃ指切りっ」


 と、ベリルは団子みてぇなグーの小指を立ててみせた。


「なんだね? それは」

「リリウムどのも、おんなじよーにしてー」


 リリウム殿が言われるがままに小指を立てると、ベリルは指を絡め、妙な歌を口ずさむ。


「ゆ〜びきりげーんまーん♪ ウッソついたらママと父ちゃん(けしか)〜けるっ♪ ゆっび切った♪」


 と、小指を放した。


「……え? あ、ああ。それにしても、約束を違えると大魔導殿とトルトゥーガ殿が攻めてくるのか。なんとも恐ろしいな」

「そーそー」


 ベリルがほざいた約束云々はともかく、これでようやく体裁は整った。

 当初の計画とは、ずいぶん違う催しになっちまったが。行き当たりばったりもここまで行くと清々しいってもんだ。



 思ってた以上に参加者、観戦者共に集まった。


 スモウ大会は連日行われる。


 まず予選があり、挑戦者同士で対戦。これを繰り返して三連勝した者が決勝へ。

 つづく決勝戦では、うちの連中との勝負になる。

 ざっくりと分けて、午前中と昼すぎまでが予選で、以降は決勝って流れで進んでく。


 その決勝戦、受けて立つのはもちろんトルトゥーガの者だ。連中は負けるまで連戦させられるわけだが……。


「おうコラ。そろそろこっちにも出番回せや」

「ふっざけんなコラ! 負けたら、小悪魔殿にどんな教育的指導ってやつをされっかわかったもんじゃねぇ。ワシぁ意地でも勝ってやる」


 ベリルからどんな脅しかけられたかは知らんけど、どいつもこいつも目が本気だ。

 ほどよく負けてもらわねぇと困るんだがな。


 挑戦の順は、決勝進出者が思い立ったら。

 この決め方だと『鬼が弱ったところを』と、普通は考えるだろう。

 しかし、なかなかの腕っぷし自慢が集まったせいで、んなみみっちいことを考えず我先にと挑むんだ。


 おかげで客は白けることなく、むしろどんどん昂っていく。


 その熱狂っぷりの一因に、


「はいはーい。賭けちゃってかけちゃってー。次の対戦で鬼の方は三連戦っ。うわっ。もーヘロヘロじゃね。そろそろ負けちゃうんじゃなーい。さーあ、賭けたかけたーっ」


 賭博がある。絶対やると思ってたが、やっぱりやりがった。


 掛け金が集まった時点で一割を徴収するんで、胴元のベリルはウハウハだ。

 いちおう、そんなかから売り子らに賃金を払ってるみてぇだから文句はいわん。


 うちの者が負ける方に賭けて一発大穴を狙うヤツもいれば、手堅く賭けてじわじわ増えてくのに喜びを見出してるヤツもいる。


「ひと口大銅貨一枚だし。おカネ払ったら忘れずに割り符を受け取ってねー」

「鬼に十枚だ!」

「こっちは挑戦者に五枚!」

「はーいはい。押さない押さなーい、並んで並んでーっ」


 売り子は雇ったリリウム領の者に任せてある。

 ベリルは土俵の上から煽るだけ。


 しばらくして投票が締め切られ、配当率が決まると——


 ドドン!

 ドンタカタッタ、タカタッカ……ドドン!


 リーティオが打ち鳴らす太鼓の音に合わせ、大男二人は土俵にのぼる。


「見合ってみあってー……」


 睨み合うことしばし。


「はっきょーい、のこった!」


 立ち合い人のベリルが発声すると、強者(つわもの)と強者は真っ向からぶつかり合う!


「のこったのこったー!」


「「「のこったのこったー!」」」


 下品なヤジなんか飛ばない。

 声援はどっちに対しても、


「「「のこったのこったー!」」」


 誰が決めたわけでもねぇのに、おんなじ掛け声のみ。

 そして勝敗がつくと、


「鬼の勝ちー!」


 勝ち名乗りののち、四方八方から一斉にハズレの割り符が土俵に投げ込まれる。


「ええー、観戦中のみなさんにごあんなーい。座布団など、ひひっ、モノを土俵に投げ込まないでくださーい」


 これをヘラッヘラしながら言うんだから、みんな面白がって投げ込むに決まってる。そんでいっしょにハズレた悔しさも捨てちまうんだ。


 ベリル曰く『これも美味しーし』とのこと。


 アイツに飛んでく割り符は、うちの者が逐一受け止めるし、投げる方も選手に当てねぇように気をつけてる。

 だからどっちかってぇと上に放ってるって感じか。なんにせよ平和的だ。


 粗方のハズレ割り符が土俵に投げ入れられると、こんどは売り子がそれを拾い集め、また一方ではアタリ割り符の換金をしていく。


 それらがひと段落して、また賭けるとこから再開となる。


 ときおりベリルは、土俵に残るうちの者に話しかけて、


「ねーねー。そろそろ疲れてきてなーい」

「ワシぁまだピンピンしておりやす」

「ホントにー? 実は膝ガクガクきてんじゃねーのー。ほりほりー」

「ぜ、ぜんぜんですぜ」

「ならスクワットしてみー。とりあえずみんなが賭け終わるまで」

「——え? や、やりやすやりやすっ。ホッ、ホッ、ホッ……」


 合間に会話を入れて間を保たせたりもした。

 誰が見てもしんどそうな鬼が困り顔で屈伸を繰り返すさまに、あちこちで笑いが起こる。


 こんな具合に進めてくもんだから、一日二日に一回くらいは勝つヤツもいた。


 そいつは賞品棚に飾られてる魔導ギアから好きなモンをひと振り選び、


「おおーう。お目が高いし。はい賞品っ。優勝おめでとーございまーす」


 ベリルから贈答される。が、まだ終わらない。


「うむ。これが噂の魔導ギアか」

「んじゃーお兄さん、お名前からどーぞっ」

「え?」

「みんなに向かってー。ほれほれ〜」

「いや、自分は……」

「あっれれー。お仕事サボっちゃった系? おやおや、お兄さんどっかでみたことあるなー。あっ、王国の兵隊さんじゃね? おーい、将軍さまー。この人、お役目ほっぽりだしてお相撲とって遊んでまーす」

「待てまて。自分はちゃんと公務を兼ね、いや、正式に休みををもらってきてだなぁ……」


 なーんてふうにイジり倒されるんだ。


「サボリ関さんはグランドファイナルあるから、まだ帰っちゃだめだかんねー。ちなみにっ、グランドファイナルってゆーのは鬼に勝った人だけの豪華なトーナメント戦でー、神様に奉納するスペシャルマッチでーす。しかもなんとっ、優勝者には魔導ギアの特注品をぞーてぇーいっ! ゥオマエらぁあああ〜っ、金貨五枚以上する魔導ギアの特注品、ほしーかーッ‼︎」


「「「ウォオオオオオオーッ‼︎」」」


「いっいぇーい! つーわけで、匿名希望、兵隊のお仕事サボリ関さんでしたー。みんな拍手ぅ〜」


 っつう感じでスモウ大会は進んでく。想像してた以上の盛り上がりになりそうだ。

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