祭りの支度は楽しくて⑥
計画どおりにいくわけねぇとは思ってた。だが、ここまでめちゃくちゃにされるたぁ想像してなかったぞ。
よりにもよって、先頭に立って引っ掻きまわしてんのが立案者本人なんだから、世話ない……。
危惧していた手紙が届いた。こないだベリルがゴーブレに持たせたモンの返事だ。
「で、なんて書いてある?」
「いま読んでるし。ちっと待っててー」
そりゃ見たらわかるが、やたら遅くねぇか。
「勿体つけんな。そっちの読み終わったやつよこせ」
「フシャーッ! これあーし宛のお手紙っ。なんで父ちゃんが勝手に見ようとすんのさー」
オメェは、王様から俺宛に届いた手紙を勝手に読んでたけどな。都合悪ぃことはスッカリ忘れちまったらしい。
「うーんそっかー。ざんねーん」
「——っつうことは!」
「お姫さまもお妃さまも来れないってー。プレシアちゃんたちもムリっぽーい」
「おうおうそうかい来れねぇんか。ムリならしかたねぇな。いやぁ残念、残念だなぁ」
「うん。めっちゃ残念だし。でもなんかねー、ごめんねって差し入れのお酒贈ってくれたみたーい」
「ほうほう王妃様からの酒か。いっやぁ、楽しみが増えちまったなぁおいベリル。ああっオメェは飲めねぇのか。そいつぁ残念っ。ガーッハッハッハ〜ッ!」
ふぃいいい……心底ホッとしたぜ。まず来ないだろうたぁ思っちゃいたがよ。
「あっ、そーそー。父ちゃん宛の手紙もあったんだったー。はいこれ」
え、誰から? 受け取りたくねぇんだが。
「お、おう……」
見なかったことにしてぇ。しかし、この蝋封みちまったからには粗末にできん。
差し出し人は……、陛下だった。
心を空っぽにしてから、ゆっくり読んでいく。
頭が拒んでっからか、いっくら文字を目で追っても理解が進まねぇ。
「父ちゃん父ちゃん、なんて書いてあんのー?」
「まだ読んでる最中だ」
「あーしにも見せてみせてーっ。ねーってばー」
ベリルのやつ、さっき俺に言ったことを忘れちまったようだ。ったく、舌の根も乾かねぇうちに。
「ハァ〜ア……」
ようやく読み終えた。と同時にため息が。
陛下からの手紙に書いてあることをザックリまとめちまうと、
『次のスモウ大会は王都でやってね。おカネ出すから。絶対だよ。とりあえず今回はお酒を贈っておいたから、みんなで飲んで。こんどはいっしょにスモウ観ながら飲みたいな』
だ。
いちおう、免税市については期間限定なら問題ない旨まで書き添えてくれてんのは助かる。
面白そうだから報告の文を送れって追記がなけりゃあ申し分ないんだがな。
ちゃっかり頭突っ込んで目ぇ通したベリルは、得意げに曰う。
「よかったじゃーん。ちゃーんとホーレンソーしといた甲斐があったってもんだし」
だとよ。
その報連相とやらを俺にもしてくれたら、文句ないんだが。
そしてベリルは、事のついでみてぇにとんでもないモンを渡してきた。
「はい。こっちは神官さんからー」
…………は?
「神官さんからってより、教会から? ま、どっちでもいっかー」
「——よかねぇよ‼︎」
いかん。怒鳴ったらはずみでクラッてした。
つうか陛下とはまた違った意味でドエレェ権威じゃねぇか!
「ちょっとぉー、大っきい声ださないでっ」
「おいベリルテメェ。なにしやがったのかキリキリ吐きやがれ」
「おぇえええ〜っ」
「その悪ふざけは前に見たからいらん。んで、こんどはなにやらかした? どこをどう立ちまわればこんな意味不明な展開になる?」
「つーかさー、とりあえず先に読んでみたらー」
チッ。内容を確かめてから詰めたほうが効率よさそうなのもたしかだ。
それをやらかした張本人に言われんのは業腹ではある。が、いまは叱りつけてる時間が惜しい。
神官殿が認めた手紙は、意外にも読みやすかった。
もっと比喩的だったり、もって回った表現をするもんだと勝手に決めつけてた。しかし事務的というか、取り違えねぇようがない硬い文書だった。
その内容とは、
「おおーう。お相撲大会を奉納させてくれるのかー。いぇーい! ダメ元でお願いしてよかったぜーい」
いまベリルが言ったとおり。
スモウ大会を奉納したいから祭壇を出張させてくれっつうめちゃくちゃな要求に対して、教会は出張所を建てることを条件に了承してくれたんだ。
「おうおうベリルさんよぉ。俺ぁ教会に関しちゃあ初耳だぞ。ォオン?」
「は、はあー? あーし言ったってばっ」
聞いてねぇよ。
「……あっ」
「やっぱり言ってねぇんだろうが」
「ちちっ、ち違うってー。父ちゃんがー、あーしが話そーとしたの止めたんじゃーん。そーだし。絶対ぜーったいそーだもんっ」
なんか言われてみれば、そんな気が……。
「で、この出張所ってなぁ誰が建てるんだ?」
「ああー! いま父ちゃんゴマカしたーっ。あーし正直に言おーとしてたのにさー。マジひどーい。マジありなくなーい。あーあー、あーしめっちゃキズついちゃったしー」
「お、おう。いや——んなこたぁいいから、さっさと答えろ。誰が建てるんだっ」
「ホーント調子いーしー。そんなん父ちゃんに決まってるじゃーん。あー、あと、ちゃーんとお布施ってやつもしといたかんね」
付け届けか賄賂の間違いじゃねぇのか?
「おうコラ、ここはオメェんちじゃねぇんだぞ」
「そーそーだからさー、リリウムどのに早く説明しなくちゃだし。安心してっ。あーしも同伴してあげっから——ぁ痛っ」
今回ばっかしは、ちぃとキツめに尻を叩いてやった。
「ひーん、もー。お尻二つ割れちゃったじゃーん」
「ベタな戯言ほざいてんじゃねぇよ」
「ありゃりゃ、もしかして父ちゃんマジギレしちゃった?」
「わからんか」
「——いやいやいやいやっ。待ってまって、待ってってばー。あーし、みんなのことを考えてやったのにー」
どやしつける前に聞いてやろう。
俺はアゴをしゃくってつづきを促した。もちろん目一杯の圧はかけたまんま。
「だから怖い顔しちゃ、ヤッ——わ、わかったから言うって言うし言うからっ。ええっとね、リリウムさんちに教会あったら、めったなことされないかなーって。保険?ケツモチ?みたいな感じ」
「…………つづけろ」
「エーティーエムくらい小ちゃくても教会あったら便利そーじゃん。きっと他所の人も助かるし。したらワル辺境伯もムチャすんのためらうんじゃねって思ったわけー」
ベリルの言い分はわかった。けっしてリリウム領にとって悪ぃ話じゃないってことも。
だが問題は、他所の領地のことを頭越しに進めた点にある。つっても話の持ってき方次第か。
「ったく。リリウム殿には俺が説明すっから、オマエはしおらしくしとけよ」
「うん。ガンバってねー。では、ろーほーを待つ」
「うっせ。テメェも来んだよ」
このあとリリウム殿に説明にあがったら、あっさり了承。むしろ涙浮かべて感謝されちまった。
そこでベリルがドヤ顔で手柄を主張したのは、言うまでもない。




