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祭りの支度は楽しくて④


「へい。らっしゃーい」


 入り口から垂れさがる『のれん』なる布切れを押しのけると、そこには見慣れた小悪魔がいた。


「大人ひとり銅貨三枚でーす。六歳以下の子供はタダでいーし」


 そう。ここはベリルに建てさせられた風呂屋だ。銭湯というらしい。


 今日も今日とて、俺らは樹木を薙ぎ倒して森を拓いては均した。その一日の疲れを癒しそうと風呂に入りにきたんだ。

 だってぇのに……。


「俺らからもカネとるのかよ」

「とーぜん。あっ、あーしのぶんはお子さまだからタダだし」

「ったく。建てたの俺らだぞ」


 ベリルが座っているのは、男女の風呂場それぞれの入り口の真ん中。男湯女湯どっちの客にも対応してるみてぇだ。

 朝メシ食ってから見かけねぇと思ったら、ここで風呂屋ごっこしてたらしい。


「ほれ、大銅貨六枚。十九人分だ」

「まいどー」

「……。釣りは?」

「ちぃ、バレたか」


 狡いことしやがって。

 俺以外にはやらねぇんだろうから、いちいちやめろとは言わんけどよ。


「ごゆっくりー。ちゃーんと身体洗ってから入ってねー」

「わぁってる。おうオメェら、行くぞ」


「「「へい!」」」


 俺につづき、ぞろぞろ入ってく。


 土埃で汚れた服を脱いだら、さっそくボロ布持って洗い場へ。

 まず湯船から使うぶんを備えつけの桶で掬って、そっから身体を清めてく。


 キレイさっぱりしたら、湯んなかだ。


「あっ、旦那」


 おいリーティオ。オメェは呑気に風呂なんか入ってていいんか。リリウム殿の手伝いはどうした? ねぇんなら太鼓の稽古でもしとけってんだ。


 まぁいい。んなことより風呂だ、風呂。


 俺は『おっと失礼すんぞ』ってな具体に水面を揺らし、ゆっくり身体を湯に沈めていく。

 ふぅ〜……。じんわりと肌に熱さが沁みてきて、堪らんぜい。


「すごいね。銅貨三枚でこんなに立派な風呂に入れるなんて」

「——でっしょー。でも、お相撲大会はじまったら値上げすっからねー」


 なんでベリルが返事してんだよ。


「オメェ、店番はどうした?」

「バイトの人雇ったし」

「は?」

「ハナタレ山のママさん。さっきリクルートしちったー」


 そういうベリルは脇の下あたりで結び目を作った布を巻いていた。すでに身体を流したあとなのか、びっしゃびしゃだ。


「ほう。スモウとってた鼻垂れの母ちゃんか。それはいいがよ、オメェ女湯いけ。つうか湯に布を浸けんなっ」

「や〜ん。父ちゃんのエッチ〜」

「うっせ」

「つーか裸の付き合いってやつだし。ひひっ。なーんかエロい響きだけどー、あーしまだ幼女だしギリギリセ〜フ」


 と、ベリルは俺の膝を足場にして湯に浸かった。頭の上には別の畳んだ布を乗せて。


「あ゛〜。生き返るぜ〜い」

「あははっ。小悪魔ちゃんはオッサンみたいなこと言うんだな」


 まったくだ。


「こーゆーのに歳関係ないし。働いたあとのお風呂は、誰でも気持ちーもんなのーっ」

「オメェは遊んでただけじゃねぇか」

「ちっちっちっ。これサービスカットだし。さっきから視聴率爆上げ中だから。つまり、あーしはいまも『うっふ〜ん』ってお色気担当のお仕事してるってわけー」


 まーた意味わからんことをほざきやがってからに。


「でー、父ちゃんたちの進み具合どーなーん?」

「もうすぐ予定してたとこは拓き終わんぞ」

「ほーほー。んでリーティオくんは?」

「太鼓の方はバッチリさ。あと、屋台も組むだけになってる」

「なーる。なら、お客さんの呼び込みはじめちゃおっか」


「「「……ではワシらは」」」


 なにやら不穏な気配を察したのか、うちの連中はソソソッと湯からあがり立ち去ろうとした。

 が、しかしベリルに回りこまれた。


「よーし。ゴーブレエクスプレスはっしーん!」

「——ワ、ワシですかい⁉︎」

「うん! だってー、買い物とかお使いお願いできんのってゴーブレだけじゃーん。あとでメモ渡すねーっ」

「……へい」


 つうわけで、ゴーブレ以下十名は開催日を広めるため、荷車引っぱって王都まで向かうことになった。ついでに買い物諸々も。



 晩メシを食ったあとは、ベリルの別荘とやらで明日以降の打ち合わせだ。


「これでスモウ大会はじまったらウァルゴードン辺境伯領に繋がる橋に関を設けて、予定通り経済的な圧がかけられる……か。だいたいこんなところだな」

「そんな感じー」

「なぁベリル、ひとつ疑問なんだがよ」


 と、俺んなかで半分くれぇは答えがでてることを問うた。

 リリウム領についてから、コイツが関係ねぇことばっかりやらせようとしてくるワケを知りてぇ。


「この小屋は——」

「別荘だし」

「……別荘はいいとして、風呂はいらんだろ。木工した品なんかも。それに他所の領地を拓くこともあるめぇ」


 こう尋ねると、ベリルはベッドに手をついて、必要以上に足をバタつかせてみせた。

 言うまでもなく、目ぇ細めた悪ぶった顔で。


「ひひっ。マネーロンダリングってやつだし」

「なんだそりゃ」

「んとぉ……、あーし含めて、働いてくれたみんなにお給料だすじゃーん」


 オメェはほぼ働いてねぇけどな。ちょいちょい妙ちくりんな魔法使っただけだ。まぁいまは聞き流しとく。


「食費にその他諸々、滞在すんのにカネもかかってんな」

「そーそー。そーゆーのぜんぶ経費にしちゃうの。んでね、銭湯とかもそーだけどー、市場で屋台も出すし、お相撲大会の参加費とかも取んの。で、減ったぶん増やしたら、ぜーんぶあーしらのポッケに入れちゃーう」


 いろいろツッコミてぇが、俺は「つづけろ」と促すにとどめる。


「そんだけだけど。つーか、これでアンテナショップの売り上げなかったことになんじゃーん」


 つまりアンテナショップの——トルトゥーガの収益を使っちまったことにして、俺らの財布にしまっちまうってことか。

 前に聞いたまんまだな。ここまでなら端っからわかってた。もう一つ二つなんかあると思ってたんだが、違うのか?


「ふひひっ。あとさーあ、ワル辺境伯やっつけたあと賠償金とか取るんでしょ。たしかそーゆーおカネは税金かかんないし」


 こりゃあタイタニオ殿の入れ知恵か。前にそんな話でも聞いたんだろう。


「ああ。賠償金は収益じゃねぇからな。つうことは、あれもこれもぜんぶ要求の嵩増しにするって魂胆か。根拠なくカネよこせって迫るより『オマエのせいでこんだけ損こいた。だから補え』って強請ると。そんでもって使っちまったぶんは税金かからんカネに変えちまうつもり。そういうことだな」

「そー、それっ」


 となるとコイツんなかでは勝つ前提で、今現在もウァルゴードン辺境伯の財布を削ってるってことになるのか。同時に税金逃れも。

 もう一つつけ加えんなら、


「ついでにリリウム領にもあれこれ残してやれるもんな。オメェはそこんとこも考えてんだろ」

「まーねーっ。あーしってば、けっこートモダチ大事にする方だし〜」


 だな。

 友人以外には悪魔だけど。

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