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祭りの支度は楽しくて③


 ベリル曰く『地元の理解を得られた』っつうことで、スモウ大会の土俵と免税市場を着々と設営していく。


 以前よりリリウム領の連中と接しやすくなったのは助かる。なにかと協力的にもなった。

 元から人足は出してもらうつもりだったが、あっちから申し出てくれるのと労役で動かすのではわけが違う。地元の祭りくらいのノリで、積極的に働いてくれるんだ。

 おかげで俺らトルトゥーガの者は、森を拓く方に専念できる。


 木の幹を斧槍で切るなんてバカげた話。しかし魔導ギアなら余裕も余裕。

 ガシガシぶった倒して、残る切り株もバンバンぶっこ抜いてく。


「おおーう。すごいすごーい。父ちゃんたちブルドーザーみたーい」

 

 枝を落とした幹を横倒しにしたまま引っぱる。地面を均すためだ。


樹皮(かわ)はいだ木ぃ、いっぱいになったら小屋んなか入れといてねー」


「「「応ッ!」」」


 土俵に屋根つけたり、免税市の屋台を作ったりと木材が必要だ。しかし生木で作るわけにもいかん。

 そこで活躍すんのがベリルの魔法。


 小屋に運び込んだ生木を、積んで重しになる石を載せる。あとは扉を閉じたら、


「解凍モードで〝ポチィ〟」


 おなじみの家電魔法だ。

 屋根の隙間からモクモク蒸気が抜けていく。


「チンしたら運び出しといてー」


 という具合に、とんでもない早さで丈夫な木材の出来上がりだ。


 当然ベリルの魔法は秘密。

 よって念のため、拓いたばかりの土地に見張りまで立てて、こっそりやらせてる。


 知らなければ、たとえ宮廷魔道士殿が見ても魔法だとは思うまい。むしろヒスイに言わせると、魔法に詳しい者ほど首を傾げちまうって話だ。

 だから見せないよう気ぃ払ってるのは、万が一を考えのこと。


 いちおう、どう木材に加工したのか聞かれたら『そういう道具がある』と言い張るつもりでいる。

 あんまりリリウム領の連中は気にしとらんみてぇだし、問題ねぇだろう。



 昼メシどき——


 広場に戻ると、リリウム殿と大工仕事の得意な者が額を突き合わせていた。


「どーしたーん?」

「おお、トルトゥーガ殿にベリル嬢か。いや、恥ずかしい話なのだが、少々釘が足りなくなりそうでな」


 詳しく聞くと、数が多い免税市の屋台に使う釘がどうにもならんらしく、どこを諦めるか相談してたそうだ。

 んなもん、ひとっ走り買いに行けばいいんじゃねぇかと思ったんだが、


「つーか、台だけなら釘いらなくね?」


 などとベリルが言い出す。


「えっとー、最初に切れ目入れてバッテンに噛み合わせんじゃーん。んで、板のっけたらいーし」

「ほう。木材を交差させて脚にすんだな。しかし品モン載っけたら崩れちまわねぇか?」

「けっこー丈夫だと思うけどなー。たぶん」


 つうことで試してみると、


「うん。イイ感じー。脚にしたバッテンを厚めにしとけば、めっちゃ大丈夫そーじゃん。あと板の裏っ側をズレねーよーに彫っとけばいーし」

「すごいものだな。ベリル嬢は幼いのに知恵が回る」

「それほどでもあるしー。ひししっ」


 ここで終わればいいもんを、ベリルはさらに調子こく。


「ねーねーリリウムどのー。あっちにあーしの別荘建てていーい?」


 他所の領地に家建てるたぁどういう了見だ? それ、土地を乗っ取る宣言に聞こえちまうぞ。


「そんな怖い顔しちゃ、ヤッ。つーかテント暮らしだと、父ちゃんたちのイビキめちゃうっせーんだもーん」

「お、おう。すまねぇ——って、いやいやそういう問題じゃなくってな」

「なんか微妙なーん? あーしら帰ったら自由に使っていーし。それならよくなーい」


 だと、いちおう住処を借りてるって建前になるわけか。


「こちらとしてはそれで構わんのだが、いかんせん釘が足りんのだ」

「ログハウスだからヘーキ。釘いらねーし」


 リリウム殿の許可も出たところで、俺含む数名はベリルの家づくりに駆り出された。


 

 言われるがままに、切れ込みを入れた丸太を組んでいく。積んでいく。

 もちろん指図してるベリルは、なんにもしてねぇ。ただムダ口叩くのみだった。


 ひと部屋だけの質素な作りだから、あっちゅう間に出来上がり。


「あーし、こーゆーとこ泊まってみたかったんだよね〜っ。ふあっ、めちゃ木のにおーいっ」


 だからって、一から建てさせるか?


 中に入って確認してみると、まっ、立派な小屋くれぇの出来にはなってんな。充分だろ。


「これで満足か?」

「あとベッド二つ、よろー」

「いいや。オメェのぶんだけだ」

「ん? 父ちゃんってばあーしと寝たいの? いやー、わるいんだけどさーあ、あーしももーすぐ六歳なわけー。そーゆー赤ちゃんぽいのはちょっと微妙」

「なに勘違いしてる。俺ぁ、天幕で寝るんだ」

「そーなん?」

「そうだ。別の天幕を用意するってんならまだしも、家まで用意して独り占めなんてしたら他の者に示しがつかねぇだろ」

「ほーほー。同じ釜のメシを食う的なやつかー」

「おう。んなとこだ。よかったな。独り占めできて」

「ひひっ。ここ、あーしの別荘だも〜んっ」


 ま、勝手にいじられたくねぇもんはここにまとめて隠しちまえばいいやな。


「そんじゃー、あとは大っきなお風呂かー」

「はあ? んなもんいるか?」

「いるってー。つーか父ちゃんたち、めちゃ汗くっさーだからんねっ。お相撲とる前に匂いで倒れちゃうし」


 行水くれぇはしてるんだけどな。そんなひでぇか?


「あーしイヤだかんねー。市場いってもお相撲みてても、どこいってもみんなお風呂入ってない匂いプンプンなのとかー」

「水はなんとかなるとしても、湯ぅ沸かすのもひと苦労なんだぞ」

「んなもん、あーしがポチィってするし。ぜんぶ『大魔導ママの便利な魔法の道具でーす』でよくなーい。したらみんなお風呂入れるし、あーしの魔法も隠せるし。一石二鳥ってやつかも。あっ、くっさくなくなるから一石三鳥で、入浴料とるから一石四鳥じゃーん」


 つうことは、デカい浴場を作んのとベリルの魔法をゴマカす小屋も建てなきゃならんか。


「ちゃーんと男湯と女湯、分けてくんなきゃイヤだかんねっ」

「時間交代でいいだろ」

「ダーメ。おカネ貰うんだからっ」


 面倒くせぇな。


「ふーん。イヤそーな顔してっけどさーあ、そんなんしてるとママに言いつけちゃうもんねー。父ちゃんがお風呂覗いててエッチだったーって」

「——おいバカやめろっ。んな悪ガキみてぇなことするもんか」

「ひひっ。つーことで、お風呂よろ〜っ」


 ぐぬぬっ。なんつう性悪な娘だ。

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