表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/311

祭りの支度は楽しくて①


 トルトゥーガ勢はリリウム領に到着した。


 かかった日程は、たったの二日半。

 王都の手前から逸れてく道のりだから本来なら十日以上はかかるところ。だが、うちの連中がベリルを乗せてるってことで張り切っちまった結果、大幅に短縮したんだ。

 無論、ベリルが煽り倒したのは言うまでもない。


「ゼハーゼハー……。こ、小悪魔殿、ご不便かけやした」

「ひひっ。苦しゅーなーい」


 偉っそうに荷台から曰う。

 俺は、揺れがひでぇんで途中から降りて並走した。ベリルのやつは気にもしてなかったみてぇで、むしろキャーキャー喜んでたくれぇだ。


「うぇ、お、おぇええぇぇえ………っぶぇ」


 で、リーティオはこの有様。

 一度は再び戻ることはないと覚悟した故郷の地に足をついた瞬間、膝をつきゲロっちまった。

 おいおい、なんつうざまだ。


 見かねて、うちの連中は背中を摩ってやったり水を飲ませてたりしてる。


 はじめは魔導ギアを盗みに入ったってことで、殺意バリバリのガンつけられてっていうのに、たった数日でここまで打ち解けちまった。

 こいつぁリーティオの人格の成せる業なのかねぇ。あやかりてぇもんだ。


 さて、そろそろいきなり現れた俺らに目ぇ白黒させてるリリウム領の者たちに声をかけねぇとな。


 と、向き直るや否や——


「いっいぇーい! あーし、小悪魔ベリルちゃんでーすっ。よろー!」

「あ、悪魔だって⁉︎」

「やっぱり!」

「お、おい見ろ。リーティオ様がひどい目に遭わされてる!」

「ヒェ! 鬼までいる!」


 やっぱり田舎だとこういう反応になるよな。

 つうか早くつきすぎて、リリウム殿が俺らのこと領民に説明する前だったんだろう。


 おっと、呑気にしてる場合じゃねぇ。


「おいおい早とちりすんな。俺らぁトルトゥーガ傭兵——」

「竜騎士団だし!」

「……それだ。いいからよっく見てみろ。こないだのオークとの戦で見知ったヤツもいるんじゃねぇか?」

「こ、こいつらトルトゥーガの鬼だ!」

「ってことは、悪魔がトルトゥーガの鬼たちとグルになって攻めてきた⁉︎」

「捕まったらひどいことされるぞっ」

「に、逃げろー!」


「「「——ヒェエー! お助けぇ〜っ!」」」


 蜘蛛の子散らすって、まさにこれ。


「「「…………」」」


「ほれみろ。だから小悪魔仮装(それ)やめとけって言ったんだぞ」

「いやいや、これって父ちゃんたちの評判が悪いからじゃね? みんな顔怖えーし」


「「「…………」」」


 やめろよな、そういうこと言うの。うちの連中ショゲちまってんだろうが。


「ごめ、うぷっ……ご、ごめん。オレがちゃんと話せればよかったんだけど」

「気にすんな。先触れを出さなかった俺も悪い」

「そーそー。父ちゃんが悪いし。ちっとは自分の顔がおっかねーの自覚したらーって感じー」

「あははっ。相変わらず仲がいいな。オレ、親父を呼んでくるよ」

「頼む」


 ってな具合に、到着早々に騒ぎにはなったが、リリウム殿が現れたら領民たちはすぐ落ち着きを取り戻した。


 で、改めて屋敷に招かれたわけなんだが……。

 本来なら俺一人で伺いてぇところ。しかし、なにしでかすかわからん問題幼児から目が放せん。手元に置いとくに限る。

 っつうわけでベリルも同伴する。


「ひひっ。なんか同伴ってエッチくね?」


 なーんて戯言抜かしてきたのは、どうでもいいこと。


 応接間に通されると、リリウム殿の身内以外は席を外した。

 俺とベリルの向かいには、リリウム殿が腰掛け、隣には長男とその嫁さん。

 リーティオはテーブルの端で立ったまま。知らんあいだに親父の鉄拳制裁でも食らったのか、頬が真っ赤に腫れあがってる。


「トルトゥーガ殿。この度はまっこと申し訳なかった。謝罪で済むことではないが、まずは謝らせてくれ」

「いーっていーってー。ねー父ちゃん」

「アホ。こういう場合は『謝罪を受けいれた』って返すんだ。じゃねぇと相手が納得しねぇだろ」

「ほほーう。んじゃ、謝罪を受けいれたーっ。はい! もー、リーティオくんパパは気にしなくっていーしー」


 つうかなんでテメェが返してんだよ。

 しかし、この場から気まずさが掻き消えちまったのは、ありがてぇな。

 こういうのをベリルふうにいうなら結果オーライ、だったか。


「こんなガキの戯言を許すくらい、こっちはもう気にしてない。もちろん手紙で頼んであったことには協力してもらうが」

「さようか。かたじけない」


 こっちがカタついたって言ってんのに、律儀に頭下げて……。気の済むようにしてくれ。


「よーし。仲直りしたし、さっそく打ち合わせしよーおっ。の前にぃー、あーしトルトゥーガさんちのベリル。もうすぐ六歳っ」

「おっと、申し遅れた。私はガリオ・デ・リリウム男爵だ」

「僕は長男のニケロ・デ・リリウム。こっちは妻のボビーナ」

「ボビーナ・デ・リリウムでございます」


 ここでベリルは身を乗り出した。


「おおーう! リーティオくんの幼馴染ちゃんで、ハタ織り機のお姉さんっ」

「え、ええ」


 ベリルの勢いに、ボビーナは若干たじろぐ。


「えっとねえっとね、あーしいっぱいお話ししたいことあってー、まずはこれを見——」


 久々にコツンと拳骨だ。


「いったーい。いきなしゴッツンやめてっ。もーなにさー」

「その話はあとにしろ」


 止めはしたが、オメェはそれでいい。

 報復だなんだと物騒なことでニタニタしてるより、服だ布だとギャーギャー騒いでおいてくれ。


「先に綿花を巻きあげる話しねぇとだろ。この粗忽者が」

「ひひっ。そーだねー」

「つうわけで、具体的な話をはじめちまっていいかい?」

「ああ、誠意をもって対応させてもらおう」


 この言葉どおり、リリウム殿は最大限の便宜を図ると約束してくれた。


 さあ、こっから忙しくなるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ