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経済制裁だし③


 とりあえずウァルゴードン辺境伯に落とし前つけさせる段取りは終えた。だが、まだしばらくは動けねぇ。


 いま臨時で二便も外に出してる。合計二〇名もだ。

 さらに第三便も予定してんのを考えると、出せるだけ出しても十名そこら。とてもじゃねぇが人手が足りん。

 ホーローたちも駆り出せばもう少しは増えるが、モノ作りの手を弛めてまで急ぐ必要もあるまい。


「つーか、なんで輸送に人手出しちゃったのさー。父ちゃんマジうかつー」

「オメェがゴーブレたちの尻ぃ叩いたんだろうが」


 ったく。喋ったそばから吐いた言葉ぁ忘れやがってからに。


「リリウムさんちには、父ちゃんがお手紙しといてくれるー」

「オメェはなにすんだ?」

「あーしはあーしで忙しーのっ」

「そうかい」


 どうせまたホーローたちを困らせにいくんだろ。毎度つまらんモノをつくるわけじゃねぇから、止めるに止めらんねぇ。

 それに、あんな仄暗いツラみせられるくれぇなら、多少腹黒くっても好き勝手やらせてケラケラ笑わしとく方が遥かにマシだ。


 親父の気持ちなんか知らんとばかりに、ベリルはたったか出かけていく。

 その背をヒスイと見送って、それからクロームァの進捗を尋ねた。


「次の便で送り出すんだろ。仕上がり具合はどうだ?」

「問題ありませんよ。地頭はいい子ですので。あとはベリルちゃんの接客術という話法を履修させるだけです」

「んなもん飛ばしちまっても構わねぇだろ」

「そうはいきません。お店屋さんごっこを体験させてもらいましたけれど、そのとき私は、お財布が空になるまで買い物してしまいましたもの」


 そりゃあ親の贔屓目だからじゃねぇの。んなもん当てになるか。


「ほぉう。そんじゃあ、こんど俺にもやってもらうとするかねぇ」

「ええ。ぜひ」


 いけね。余計なことを言っちまったかも。



 ようやくリリウム殿宛の手紙を書き終えた。

 そこには、事の顛末とケジメのつけ方について記してある。


 もうすっかり日暮れどきだ。


 ——ドンドコドン! ドンドコドン!


 外から、太鼓? デカい音が聞こえてきた。


 まーたアイツかよ。

 俺は、真っ先に思い浮かんだ犯人がいそうな場所へ直行。もちろん容疑をかけてんのはベリルだ。


 音の方へ向かってみると、やっぱりいた。倉庫の前で太鼓叩いてやがる。


「おうベリル。こんどはなんだ」

「あーっ、父ちゃーん。見て見てっ、これすごくなーい」


 ベリルは、二本の棒っきれを振り回してはドンドコ鳴らしてる。

 その横では、リーティオが目と耳を凝らして、なにかを掴み取ろうとしてる様子。


 一方、倉庫のなかには、ホーローたちのグッタリ顔が並んでる。

 目が合うと首を左右に振ってみせたから、リーティオに肝心なところは見せてはいねぇようだ。

 ま、そんくらいのことはコイツらでも考えるか。だからこそ、倉庫の外で叩かせてんだろう。


「うっは、めっちゃイイ音っ」


 とベリルが誇ってくる太鼓らしきモンをみると、樽の底と上底(うわぞこ)に亀素材の革を張って、鋲留めしてある。

 で、ポンポコ打ってるバチは、魔導ギアの短槍にする柄の部品を短く切ったモンだ。


「ずいぶん響くな」

「そーそー。あーしも想定外だし!」

「んで、オメェはこのくっそ忙しいときに、ホーローたちの手ぇ止めさせてこんなもん作らせたんか?」

「お相撲んとき太鼓叩くの常識じゃーん。必需品(ひちぢゅしん)だし」


 んな常識は知らん。


「旦那。オレも叩かせてもらっていいかな?」

「ぁあ? 今日はもうメシ食って寝る時間だ。明日にしとけ」

「恩にきる」


 リーティオの野郎、ベリルの悪びれねぇって悪癖が移っちまったんじゃねぇのか。

 コイツに関しちゃあ、しばらくはうちで預かることになる。そう考えると、ずっと沈んだ顔されてるよりはいいか。


「メシんとき、うちの連中に煩ぇってドヤされても知らんからな」

「ああ。喜んでもらえるように叩くさ」

「そうかい」



 そして翌々日の晩メシどき——

 我が家でメシを食ってると、


「おおーう。めちゃ上手になってるしー」


 王都の酒場でベリルが叩いたときよりもキビキビとした、戦の風景を想像させる太鼓の音が届いてきた。ついでに、歌声も。

 歌に関しちゃあ、吟遊詩人より数段落ちるが、聴衆の盛りあがりの具合は半端ない。威嚇されてるみてぇな野太い声で合いの手を入れてやがる。


「ひひっ。仲良しなってるし。呑ミニケーション大成功かもっ」


 そういうことか。ベリルのやつ、リーティオに気ぃ使ってやったんだな。


「ヒスイ。連中に酒出してやってもいいか?」

「ええ、それがいいかと。みなさんとても楽しそうですもの。ベリルちゃんも交ざりたいのでしょう?」

「あーし責任者だかんねー。ちゃーんと監修しなきゃだし〜」


 つうわけで酒の樽を担いで、ベリルを連れて共有の炊事場まで行くと——


「おぉ、おぉ〜う♪ 天高く空舞うトルトゥゥゥゥゥ〜ゥガァァァ〜♪ 竜っ、騎士っ、団っ♪」


「「「りゅう、きっし、だぁ〜ん♪」」」


 ダンドコダーン!


「オォ、オォ〜ク! 槍穿つ突き屠るトルトゥゥゥゥゥ〜ゥガァァァ〜♪ 竜っ、騎士っ、団っ♪」


「「「りゅう、きっし、だぁ〜ん♪」」」


 ダンドコダーン!


 自称竜騎士共がアホほど声を張りあげてた。

 女衆もキャイキャイ手ぇ叩いて囃してる。


 一曲済んで、ようやく様子を見てた俺らに気づいたらしい。


「「「旦那! こんばんは!」」」


「おう。こんばんは」

「こんばんはーっ。みんな楽しそーにしてるからって、これ。ママから差し入れねー」


 おいベリル。そこは『父ちゃんから』だろうが。大事なとこ間違えんな。

 ま、俺もお呼ばれしちまうからいいんだけどよ。


 酒樽を開けて、みんなグビグビ飲んでく。


 俺も一杯と飲んでたら、リーティオがよってきた。


「オメェも飲んどけよ。王都みてぇないい酒じゃあねぇけど。こいつぁ俺からの『一杯奢るぜい』だ」

「ははっ。そいつはありがたくいただかないと」


 注いでやった酒を、リーティオは遠くを眩しそに眺めながらチビチビ飲んでいく。


 その視線の先では、ベリルがうちの連中になんぞ講釈垂れてやがった。

 柏手打ったり胸板叩いたり足踏みみてぇな仕草をみせたり、歌に合わせて身体や地面を打ち鳴らせって教えてる。

 ったく、また煩くされそうだ。


「こういうの、オレの故郷でもやりたかったんだけどな……」

「ベリルはやらせるつもりだぞ」

「え?」

「へへっ。たぶんこうだぜ。アイツなら『弱み握って言いなりにしたヤツがなんでか寝返ってて、お気楽に太鼓叩いて遊んでやがる』っつう嘗めた絵面を見せつけてやるつもりなんだろうさ。どうせ他にも、歯軋りして地団駄踏ませてやる性悪な算段してんじゃねぇか」


 そうなれば、ウァルゴードン辺境伯は疑心暗鬼に陥るに違ぇねぇ。

 おまけにこっちの狙いどおり嵌れば、領民もチョロチョロ外出して、御用商人も余所余所しい態度をとるだろうしよ。

 領主としちゃあ堪んねぇだろうな。


「ホント、小さな悪魔だね」

「ま、そういうこった。オメェの親父さんには俺から執りなしとく。一発殴られるくれぇで済むんじゃねぇのか。そのあとは顔腫らしたまんま、幸せそうに太鼓叩いとけ。それがウァルゴードン辺境伯への一番の仕返しになる」

「旦那。重ね重ね情けをかけてもらって……ホント感謝してる」


 礼を言うのは早ぇと思うぞ。オメェさん、こっからイヤってほどベリルに振り回されるんだからよ。

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