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経済制裁だし①


「もっと正しくゆーんなら『経済制裁せーさい』かな。もしくは経済制裁返し? まっ、なんでもいーけど」


 ああ、お題目なんかなんでもいい。


「響きから察するに、荷留でもすんのか?」

「それって『ひゃっはー! ここは通ーさねーしー』ってすんでしょ。そんなんしないって」

「じゃあどうすんだ?」

「ひひっ。あーしもちっと考えまとめるから待っててー」


 ベリルはそれだけ言ったら「ちーず地図ちず、ちーずっちず〜う♪」と鼻歌交じりで去ってった。


「……旦那。小悪魔ちゃんは何者なんだい?」

「それを知ったら、次こそ命はねぇぞ」

「ははっ。そりゃ怖い」

「んなことよりリーティオ、メシ食う場所教えっから、ついてこい」

「——は?」

「洗いざらい喋っちまったんだ。ならもう逃げねぇだろ。いちいちここまでメシ持ってこさせるのも面倒なんだ。それに、」


 倉庫の入り口には、ホーローたちがいた。顔だけ覗かせて、こっち見てる。

 リーティオに寝かせない四日間を味わわせて、そのひでぇ有様を目の当たりにしたんだ。きっとバツが悪ぃんだろう。


「ここにはトルトゥーガの機密が山ほどある。他所の者をいつまでも置いとくわけにはいかねぇんだよ。もし見ちまったモンがあれば、忘れちまえ」

「……その、いろいろ申し訳ない」

「おっと、謝んのは気が早ぇぞ。うちの連中には『オメェさんに手ぇ出すな』たぁ言いつけてある。が、多少睨まれんのは覚悟しとけ」

「お、鬼の食卓に盗人のオレがお邪魔するのか……。それはさぞ、生きた心地がしないんだろうなぁ」


 軽口叩けるくらいにはなったか。

 せっかく助けた命だ。萎れたまんまでいてもらっちゃあ困る。なにせ、うちの問題幼児がなんぞ張り切ってることだしよ。


 このあとリーティオを共有の食堂に連れてくと案の定、周りからギロギロ圧を受けてガッタガタ震えてた。


 まっ、ガマンしとけ。



 家に戻ると、ベリルが地図を見ながらうんうん唸っていた。


「あなた。思っていた様子と違うのですけれど……」


 そういやヒスイには、ヘコんだベリルを慰めてやってくれと頼んでたな。


「だな。俺が思ってたのとも違ったぞ」

「うふふっ。さすがはベリルちゃんですね」

「ちょいそこっ、イチャイチャしなーい。あーしめちゃ考えてるってゆーのにー。まったくもー」

「あら、ごめんなさいね」


 こっちに目を向けるってことは、説明できるとこまで段取りつけたんだろう。

 んじゃ、聞かしてもらおうじゃねぇか。経済制裁ってやつをよ。


 俺とヒスイが並んで席につくと、ベリルはわざわざあいだにイスを持ってきて座った。正しくは、持ってじゃなく魔法でフワフワ浮かしたんだが。


「まず地理の確認ねー。えっとー、河の向こっ側に行くのに、ずっと王都よりの場所にある橋を渡んなくっちゃなんなーい。これって合ってる?」

「ええ。魔法で凍らせてから渡河するという手もとれるけれど、川幅も広くて流れも急なのよねえ。ですからベリルちゃんの言うとおりよ。できなくはないけれど普通は橋を渡るわ」


 そいつぁヒスイ以外には無理筋だろ。

 俺らなら気合いでなんとか……。いや考えたくねぇな。どんだけ犠牲がでるかわかったもんじゃねぇ。


「ふむふむ。裏技ありかー。てか舟はムリなん?」

「聞かねぇな。たぶん無理なんだろ」

「つーことはー、ここを押さえてー……」


 と、ベリルは地図にバッテンを書き込んだ。


「——おいコラ」

「あれ? 地図って貴重とかそーゆー感じ?」

「おう。そういう感じだ」

「そっか。ごっめーん。んじゃワル辺境伯から新しーの貰っちゃおー」


 そう自己完結すると、ベリルは王都やら近隣のデカい街から道に沿って線を引っぱり、バッテンつけた橋まで繋いでいく。


「こっち側はこーゆーふーに、橋を押さえちゃえばオッケーじゃーん。んーでー反対っ側は……」

「そちら側でウァルゴードン辺境伯領と接してるのは、牛頭種(ミノタウロス)馬脚種(ケンタウロス)の係争地だけよ」

「ワル辺境伯がどっちかと仲良くしたり、貿易とかしたりしてなーい?」

「そいつらぁ猪豚種(オーク)と変わらん。敵対種だ。まず話になんねぇぞ」

「ふむふむ。たしかにモーモーヒヒーンって言われても会話になんないもんねー」


 ケンタウロスは馬みたいには鳴かねぇよ。上半身はヒト種に似てんだから。


「ミノとかケンタが攻めてきたりはしないん?」

「いちおう備えてはいるだろうが、ないだろう。あの連中が欲しがるモンはヒトの住んでるとこにはあんまりない」

「てゆーとー?」

「広い原っぱだ」

「ほーほー、まさかの草食系かー」

「ミノタウロスはそうだが、ケンタウロスは草原に住みたがるんだ」

「ふーん。とりあえずそこらへんは今回はいーやー。とにかくそっち側は塞がなくてもヘーキそーだしー」


 もう思い切りがいいって範疇をとうに超えて、ベリルは景気よく地図を塗りつぶしてった。


「うはっ! これ、めちゃご都合主義じゃーん。この橋を押さえちゃえばオッケーだし。つーかおカネになるからって綿花ばっかし作ってんでしょー。よくこれでやってこれたねって心配になるレベルーっ」

「オメェは橋一本だとバカにしてるけどよ、かなり立派なもんって話だぞ」

「そーなんだー。まー、その大っきな橋を見るのは楽しみにとっとくとしてー、ひひっ、んじゃ発表しちゃうし」


 なにを?


「第一回、お相撲大会を開きまーす!」


 ベリルがぐるぐるっと丸で囲ったのは、うちから見て橋を渡る手前の、リリウム男爵領だった。

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