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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第三章

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小悪魔の尋問①


 一晩明けても、ベリルは「侵略っ侵略♪」うるせぇんだ。もっとガキらしく可愛げのある戯言ほざけばいいもんを。


「だって綿花ってコットンじゃーん。服つくんのにめっちゃ使うしー」

「だから奪っちまえってか? んなもん買えばいいだろ。ったく、オメェは俺をなんだと思ってんだ」

「悪と——」

「先に言っとくが悪党の親玉じゃねぇかんな」


 ムスッとされちまった。


「つーかー、父ちゃんがワル辺境伯さんに返事しないんなら、あーしが書いちゃうもん」

「なんてだ?」

「そーだなー『ありったけの綿花をよこせば生命だけは見逃してやるぜい』みたいなっ」


 もう話を聞くのもバカバカしい。


「——ちょっと父ちゃん。無視しちゃヤッ!」

「起きてんのに寝言ほざくやつと話す舌はもってねぇ」

「そんなイジワル言わないでーっ。綿花あったら、あーしマジ十八世紀しちゃうし! ねっねっねっ、と〜ちゃ〜んねーってば〜っ」

「うふふっ。朝からベリルちゃんは元気いっぱいね」

「ママからも父ちゃんに言っちゃってー」


 母ちゃん味方につけようとしてるみてぇだが、そうはいかん。ヒスイは魔法さえ絡まなきゃあ常識的な判断ができる女房なんだぞ。


「そもそもだけれど、ベリルちゃんは綿花から糸を紡げるのかしら?」

「…………あ」


 そもそも紡ぎ方を知らなかったらしい。


「うふふっ。あと十日もすれば次の便が王都へ向かうでしょう。お土産にキレイな生地をたくさん買ってきてもらえばいいのではなくて」

「ひひっ。それいーかもー。さっき父ちゃん、たっくさん買ってくれるって言ってたしー」


 言ってねぇよ。

 なにヒスイはコロコロ笑ってんだ。ベリルのことだ、荷台に満載しかねんぞ。そんな大金うちのどこにあるんだ。


 こんなやり取りが、ベリルふうに言うところの『フラグ』になったのかは知らん。


 だが実際に——


「旦那っ。朝っぱらからすいやせん」


 第二便の連中が、予定を大幅に繰りあげて帰ってきたんだ。



「……そんなに売れたんか」

「ええ。ワシもたまげやした。瞬く間ってやつでしたぜ」


 トルトゥーガの品物を輸送する第二便。それを指揮してたゴーブレから事情を聞くと「並べる間もなかった」だそうだ。

 木箱から出しては売れ出しては売れって勢いだったらしい。

 ちなみに店はまだ改装を残してて、店先での販売だったのにもかかわらずっつう話だ。


「坊ちゃ——イエーロ殿は『ひと月も品物がないのは居心地が悪い』と泣き入ってやした」


 んなもん泣かせとけばいい。が、そうか、売れたのか。へへっ。しかも荷台二つぶんも。


「父ちゃん、めっちゃニマニマしてるしー」

「オメェだってそうだろうが」

「ひひひっ。もーこーなったらさーあ、人力で引っぱるしかなくなーい。あっ、鬼力か」


 おいベリルやめとけ。ゴーブレのやつ引き攣ってんだろうが。


「こ、小悪魔殿⁉︎ それはいささか……」

「ええ〜っ。ゴーブレたち、お馬さんに負けちゃうのー? イチ馬力しかないとか鬼としてどーなんさー」


 このセリフがどういう話に繋がってくのか想像しちまったらしい。途端にゴーブレは声をひっくり返して、


「——ひ、引きやすぜ! ワシらぁ荷ぃくらい屁でもありやせんぜっ」

「ぷぷっ。なにそれー。オナラぷぷぅ〜って引っぱっちゃうのー」

「ガ、ガーッハッハッハッ……ハ、ハァー……」


 請け負って、項垂れた。



 イエーロ宛に、


『追加で荷台二つぶんの品物を送る。上手いこと出し渋って、保たせろ』


 という旨の手紙を書いて、ゴーブレに持たせる。


 両輪が動く荷車には、魔導ギアや装飾品にサンダルだけでなく、できたばかりの包丁やまな板なんかを詰めた木箱が山盛り。


 こいつを全員でガーッと引かせるわけじゃなく、二人が引き手になる。

 他にも先行する斥候が二名、荷台で休む者が二名、残りは並走して護衛役。

 これを十人一組にして、二便送りだすんだ。


 同時に出発させると、道がつかえちまうから三日ズラしにした。

 これはベリルの思いつきで、曰く「王都まで競争だし」だってよ。


「お土産の生地忘れちゃイヤだかんねっ」


 これが理由で急がせてぇんだろ、どうせ。


「では旦那、あっしらは出やす」

「おう。気ぃつけてな」


「「「へい!」」」


 どうやら競わせるのは正解みてぇだ。連中、気合い入った返事のあと、スゲェ勢いで駆け出した。

 木製の荷車なら車輪がイカれちまうだろうが、亀素材だから目一杯引っぱっても問題なし。

 このぶんだと、馬車なんかよりよっぽど早そうだ。


「ひししっ。いっぱい服作れちゃーう。めちゃ楽しみ〜」

「オメェのことだからわかってるたぁ思うが、他の者のぶんも用意してやるんだぞ」

「当ったり前じゃーん。ここ、オシャレさんの聖地にしちゃうし」


 それはやりすぎだから勘弁してくれ。


 いまの時点で相当な売り上げが見込める。おかげで、もう服が贅沢品などと言わずに済みそうだ。


 ついでにベリルが『侵略っ侵略♪』うるさくしなくなったのも助かる。

 コイツ、頭の出来がいい割に、聞き分けねぇときはとことん聞き分けねぇからな。弁が立つぶん厄介ですらある。


「穴掘りは落ち着くまで進められんな」

「そーかも。あーし、みんなんとこ見まわって、困ったことないか聞いてくんねー」

「オメェが来ること自体が困ったことに当てはまるんじゃねぇのか」

「んなことねーし。ちゃーんと急いで作っても品質を一定に保つよーに、目ぇ光らしとかなきゃだもーん」

「ほどほどにな」


 誰も彼もが『作ったら作っただけ売れる』っつう快感に酔い痴れた。どこもかしこも躁状態で、休む間も惜しんで手を動かす。

 文字通り領民総動員で取り組んだ。年寄りどころか、ちんまいガキまで手伝いを申し出て。


 そうやって、どうにかこうにか次発の荷台を満載にできた。

 その夜——


 泥棒が入った。

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