息抜きに現場視察①
今日も今日とて土木工事から一日がはじまる。
まず、例の魔導ドリルだが……。
「おうコラ早よせい。次はワシの番だ」
「ァアン? オメェはさっきやっただろ」
「そう言うテメェは、さっさと魔力切れになっちまえ」
ってな具合に、うちの連中はドハマりしたようで取り合いになってやがる。
とはいえ作業の手は緩めてねぇ。なら、なんも言わんでおくさ。
それにどうせ、
「まだまだワシが使うん……だ……ぁふんっ」
あっちゅう間に魔力切れでぶっ倒れちまうんだからな。
で、倒れたヤツをズルズルどかすと、また別の者がブッ倒れるまで回しまくる。
「ふっひょ〜う! こいつぁ堪んねぇぜ」
ったく。いい歳こいたオッサン共がはしゃぎやがってからに。
これまでより進捗は早くなってるから好きにさせとくけどよ。
つうわけで掘る作業は男衆に任せちまって、俺はヒスイとベリルを連れ、コンクリートで覆う作業に専念した。
◇
昼メシどきになって、俺らだけ先に引きあげた。
掘ってるとこまで追いついちまうってのもあるが、別にやることがあるからだ。
ヒスイは次の便で王都へ向かうクロームァを仕込みに、俺とベリルは家に戻って机仕事に。
具体的になにしてんのかってぇと、こないだベリルが配って書かせた工程を記した紙から、同じ部品はねぇか探すって面倒くせぇ作業だ。
例えば、品物は魔導ギアや装飾品に加えてサンダルに包丁などなど幅広くても、鋲で留めるってところは同じだったりする。
そういうのを逐一見つけてくってわけだ。
たっぷり身体を動かしたあとだから、もう眠くって眠くって……。
だが、あのベリルですらちゃんとやってんだから、俺が居眠りこいてちゃあ示しがつかん。
「おうベリル。短槍の口金んとこと腕輪の元にする薄いの、いけるんじゃねぇか?」
「どっちも薄くて長っ細そいの曲げるもんねー。うんうん、ありかもー」
こんなふうに絵図面と説明書きを突っつき合わせながら、共有できる部品を洗い出す。
それが終われば、次は亀素材から切り出す手間が被ってるところはねぇか調べてく。
当然、こんなチマチマした作業を延々つづけられるわけもない。
「ふぅ……。こんなとこか」
「ふぃ〜、めちゃ疲れたし」
「まったくだぜ。まだまだ見落としがありそうだがよ」
「こーゆーのって実際やってみないとじゃーん」
「かもな。よし、いったん視点をかえんぞ」
「ええーっ。なにすんのさー。あーし、しばらくなんも考えたくなーい」
「まぁそう言うな。すでに工場で回してるところを見直そうぜって話してんだ」
「おおーう。現場視察ってやつかー。イイかもー。いこいこっ」
行き詰まった俺とベリルは、気分転換がてら作業の現場を見てまわることにした。
まず向かうは倉庫。
「オメェ、また嫌な顔されんじゃねぇか」
「はーぁ? ホーローたち、あーしの乙女の涙でイチコロだったじゃーん」
「プフッ……お、乙女って……クプッ」
「なに笑ってのさー」
「いいやべつに」
「むっかぁーっ。イジワル言う父ちゃんなんてこーだし! おりゃおりゃっ、とーうっ」
「おいこら。おい、親父を足蹴にすんなっ」
ゲジゲジ蹴ってきやがる。が、やはり身体は三歳児。重心くずしてスッテンコロリと尻餅ついちまった。
「もー。はやく起こしてーっ」
「ったく。オメェは困ったやつだな。ほれ」
ベリルの歩調に合わせてたらいつまで経っても進みそうにねぇから、脇に抱えちまう。
「ちょっとー。これじゃーあーし荷物みたいだし」
ギャーギャーたれるベリルの文句は聞き流して、倉庫に到着。
「「「旦那っ。こんちはー」」」
「おう。こんちは」
ベリルも小脇に抱えられたまま「ちわー」っと声をかけた。
どうせまた『ゲッ。小悪魔』とか言われんだろうと思ってたんだが、
「おお小悪魔。いいところに来た」
「これスゲェな」
「作業がめちゃくちゃ速くなったぜ」
「でさ、これ見てくれよ」
「しゃーないなー。どれどれー?」
ヒョイッと降り立つと、たったか悪ガキどもに交じってく。
仲良くやってるみてぇじゃねぇか。
こないだの件もあってホーローたちとの仲を心配してたんだが、余計なお世話だったみてぇだな。
しばらく側で様子みてると、
「ふむふむ。イイ感じじゃーん。父ちゃん父ちゃん、大成功みたーい。見てみー」
ベリルが手招きしてきた。
「ほう。これが数打ち、いいや、量産品の第一号か」
「旦那、どうぞ」
と、手渡された短剣を検める。
「立派に出来てんな。大したもんだ」
「そこじゃねーし。つーかアンタらなにニヤニヤしてのさー。ちゃーんと量産化について説明しなきゃじゃーん」
「おっと、そっかそっか。旦那、それはコイツらが部品ごとに担当を分けて作りました。んで、オレが組んだんッス」
悪ガキたちはそれぞれに、どう手際よく部品を作って、それを繰り返すことで格段に効率よく品質もよくなるっつう話を口々に語っていった。
「これで、引退したオッチャンたち回してもらっても進めてけると思います」
そう言い切ったホーローは、もう悪ガキなんて呼んでいい顔つきじゃなかった。俺に向けてきてんのは、責任ってもんを背負ってる大人のツラ。
なら、こっちも相応にしねぇとな。
「おうホーロー。とりあえず若い衆のまとめ役はオマエがやれ。これからは年上も相手にしてかなきゃあならん。なんかあれば、下の者の声を集めて、俺んとこまであげてこい。いいな」
「はい!」
悪ガキ——もとい若い衆は、新たなまとめ役の肩を小突いたりなんなりして「ホーローで大丈夫か?」「オレらがしっかりしとけば平気だろ」「あんま手間かけさせんなよ」などと祝ってやってる。
「ホーローならイジられキャラだし、上手くいきそーかもー」
ベリル、オメェは茶化してやんな。
まわりの者が支えていこうってぇ、なかなかグッとクる絵じゃねぇか。
なんにせよ、魔導ギアと包丁なんかに関しちゃあ問題なさそうだな。




