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禿山要塞化計画、割掘③

誤字報告ありがとうございます!


 うちの連中につづきを任せて、いま俺とベリルは掘っちまったところを検めてる。


 跨いで渡れるくれぇの溝を掘る予定だったのに、大人四人が悠々並んで歩けるほどの幅で、深さも背丈二人分……。

 まだ水を呼びこんでねぇから水路と呼ぶのは気が早ぇが、ずいぶん大掛かりにしちまった。


 場のノリに任せて調子こいた結果だ。


「どーすんのー? ここだけ埋めなおす?」

「いや、掘った土砂を踏み固めても脆くなっちまうだけだろ。このまま、水を引き入れるところと水場として使うところだけ混凝土(コンクリート)で固めちまおう」

「ほーい。んじゃーママ呼んでくんねーっ」


 ちょうど川の手前から禿山に沿って住まい近くまで水の手を引きおえたころ、王都に向かった第一便が帰ってきたんだ。

 土産物ではなく石灰を山積みにして。さすが金貨十枚分だけあって、スンゲェ量だった。


 ややあって、ベリルがスッポンを駆けさせてヒスイを連れて戻った。


「セメントとデカい桶も持ってきたし」


 俺は後ろの荷台から石灰袋を降ろすと、さっそく桶に注いで焼いた土砂と水と混ぜていく。

 これが終わるまでヒスイの出番はお預けだから、二人は暇そうに、近くに寄って桶んなかを覗きこんでる。


「ヒスイ。こっちきてて大丈夫なのか?」

「ええ。クロームァには課題を与えておきましたから」

「あとで、あーしが接客じゅちゅを伝授するし」


 ふんすっとベリルが話に割り込んできた。


「そうかい。んで、この量の石灰だとどれくらいの範囲を混凝土(コンクリート)で覆えるんだ?」

「わかんなーい」

「は?」

「だから知んないってー。混ぜる割合は手紙に書いてあったから計算すればいーんだろーけどさー、そもそもどんくらいの厚さにするかわかんないし」


 つうわけで、何枚かコンクリートを板状にして、ちょうどいい塩梅の厚さを探ることになった。


 その結果は三〇センチ。


 ちなみに『センチ』ってのは、ベリルが言い出した長さの単位で、目安は銅貨だ。五枚重ねた高さを一センチってことにして、他のモノ作りでも共有させてる。


 元々ミネラリアでは、初代国王の肘から指先までを長さの基準にしていた。だが、その原器も作りが雑で地域ごとに尺が微妙にバラバラ。長くしても短くしても誤差がでまくる始末。

 そこで、どこでも手に入れられて、叩いても焼いてもキズ一つつかない銅貨を基準にして長さを決めたんだそうだ。

 ベリル曰く『規格を統一しなきゃだし』っつうことらしい。


 これこそ秤の神様の領分だと思うんだが、それを言うとベリルも不思議がってた。こんど教会に行く機会があったら聞いてみようとも言ってたな。



 どのあたりを混凝土で覆っちまうかも決まったし、いよいよヒスイお楽しみの魔法の出番か。

 と思えば、


「ねーねーママ」

「なあにベリルちゃん」

「平らに舗装すんのにさー『石柱(ストーンピラー)』って魔法の名前おかしくなーい?」


 などと、ベリルがしょうもないことを言いはじめた。


「そうねえ……。これはベリルちゃんの閃きなのだから、ベリルちゃんが決めてはどうかしら」

「いやーよくわかんないしママ決めてー。つーか、あーしその魔法使えないしー」


 そう。意外なことに、ベリルは魔法名がつけられた一般的な魔法が使えないらしいんだ。

 思いつきみてぇな妙ちくりんな魔法はバシバシ使うくせに、なぜかムリなんだとさ。


「そういうことなら……。この新作魔法は『石板(ストーンパネル)』としておきましょう」

「いーねいーねー。んじゃママ、さっそく舗装しちゃってー。あーし応援してっからー」

「あら、ベリルちゃんが応援してくれるのなら、ママもガンバってイイところをみせないといけないわね」


 ほどほどにな。頼むから。


 ヒスイは溝の底を見下ろすと、手をかざす。

 そしてピリつく魔力の波動が広がり、


「〝円圧潰(ラウンドクラッシュ)〟」


 ——ダムッと地面が沈む。

 不可視のなにかに踏み潰すされた跡の如く、クッキリと円の形が。


「おおーう。すっごーい!」


 真っ平にされてた地面は、俺が歩いても足跡一つ残らなそうだ。

 相変わらずの魔法のキレだぜ。もしあの場に立ってたらって考えると、背中がゾワッとキちまうくれぇだ。


 つづけてダムダムと側面も魔法で均してく。


「父ちゃーん。休んでる場合じゃないってばー。そろそろセメントいっぱい使うし」


 おっと、いかんいかん。


「おうヒスイ。そっちの桶はもう混ぜてあんぞ」

「はい。ありがとうございます」


 手だけは動かしつつ、様子を見ておく。


 ヒスイがスッと長いまつ毛を伏せた。

 冷涼な目を薄っすら開く、と同時に呟く——


「〝石板ストーンパネル〟」


 すると、桶の中身は灰色の塊になって宙へ浮かび、均一な厚さの板に。

 そして溝へ。

 継ぎ目もなく、底や側面に貼りついた。


「おおーう。魔法ってめちゃ便利ぃ〜。もー固まっちゃったしー」

「いいえ。まだ半渇きよ。その方が丈夫になりそうだったので」

「へえー。そーゆーのもわかるんだねー。つーか厚さがおんなじなのスゴーイ」

「いまは厚さを定めたの。だから縦横の幅や固まり具合は、いくらでも自由が利くのよ」

「ほーほー。こんくらいの大っきさってのだけイメージしたら、あとは同じ厚さの石板ができるんだねー」

「うふふっ。ベリルちゃん、花丸です」

「ひっひー」


 仕事が早ぇと喜べばいいのか、混ぜんのが大変だと嘆いたらいいのやら……。

 たった一回の魔法で桶一つ丸々なくなっちまった。桶って言っても一人なら浸かれるくらいデカいんだぞ。


「あーし、セメント混ぜまぜしちゃうから、ママはどんどんやっちゃってー」

「ええ。お願いね」


 こっちにベリルがやってきて、桶の隅をツンと突っつき「〝ポチぃ〟」と、いつもの家電魔法。

 すると中身が渦を巻いて掻き混ざってく。


「工事のやつみたーい」


 そういうのあるなら、はじめっからやってくれよな。けっこう怠い作業だったんだぞ。


「父ちゃんは、混ぜおわったのママんとこまで運ぶのとー、空っぽの桶にセメントとか入れる係ねーっ。混ぜまぜはあーしに任しといてーっ」


 ま、それが一番楽で早そうだ。文句はねぇよ。


 俺だけがチョコマカ動きまわり、二人はガンガン魔法で混凝土を用意しては溝を覆っていく。


 日が暮れるころには、見える範囲いっぱいに、王都の道よりビシッと均されたコンクリートの水路が出来上がってた。

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