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禿山要塞化計画、却下②


 禿山要塞化計画……だと。

 そう題された紙っぺらによって、俺はワナワナさせられちまう。


「おい。なんだこれ」

「見たまんまだし」

「初めて目にしたって言ってんだ」

「当ったり前じゃーん。だっていま見せたんだもーん」


 表題の見ただけで読む気が失せたぞ。


「はやく読んでー」

「こんどでいいか?」

「んーんー。いまっ」


 んで、しぶしぶ目を通す……。

 結果、裏っ返して机に伏せた。

 

「却下だ」

「なんでさ!」

「禿山ぜんぶを混凝土(コンクリート)の壁で囲った挙句、内部に生産施設を建てるだぁあ? バカも休みやすみ言え」

「周りぜんぶ掘って川にするの忘れてるしー」


 たしかに禿山要塞化計画なる紙には、山の裏手に流れてる川を引っぱってきて水堀にするとも書いてあった。

 コイツの加減知らずは不眠不休なのか? どうしてこんなしょうもないことばかりを考えつく。


「ったく。いったいどこの大軍が攻めてくる想定なんだか」

「はあ? 秘密を守るためだしっ。つーか前から思ってたけどさー、父ちゃんって、ちょっと危機意識ってゆーもんが足んないんじゃなーい」

「——オメェにだけは言われたかねぇ!」


 などと珍しく声を荒げたからか、


「まあまあ、どうされたのですか? 二人とも大きな声を出して」


 ヒスイが子供部屋まで様子を見にきた。


「どうしたもこうしたもねぇ。見てみろ」


 ポイッと紙っぺらを渡した直後、俺は冷静になる。


『いかん、敵を増やしちまった』


 と。


「あらあら、ベリルちゃんはまた面白いことを考えたのね」

「でひひっ。でっしょー」


 やっぱりか。


「この、石柱(ストーンピラー)の魔法を応用して効率的に混凝土を固めるだなんて発想、天才的だわ。物の()けようを魔力で促す……。嗚呼、ベリルちゃんこそ紛れもない天才、いいえ大天才よ」

「いやいや〜それほどでもあるしー。でぃひひっ。つーか、ママならもっとスゴイの出来るんじゃないのー?」

「そうねえ……。では、いっしょに考えてみましょうか」


 もしイエーロがいれば、ここで解説を求めて場をいったん落ち着かせてくれたってのに。

 クッ……。さっそくアイツを王都に送り出したことを後悔しそうだぜ。


「まてまてまて待て、待て」

「待て多いし。でー、なーにー? あーしら要塞作り考えんので忙しーんだけど」

「俺ぁ却下と言っただろ。なにしれっと進めてやがる」

「アセーロさんは費用を心配されているのですか?」

「もちろんだ」

「もー、ここ読んでっ。ちゃーんと『掘った土を焼いてパラパラにして使う』って書いてあんじゃーん。それとセメント混ぜたらコンクリートできるんでしょ。これなら安くすむしっ」


 石灰のこと言ってんだよな。

 たしかに立派な家を建てるときの建築資材としては、知られている。

 

 ——が、問題は量だ。


「ベリルは禿山一周を走りきれるか?」

「まーた父ちゃんはムチャばっか言ってー」


 オメェより遥かにマシだ。


「あーし、もーすぐ六歳だけどそんなん無理だし。大人でもキツいってーのー」

「だろ。オメェにも、その距離だけ混凝土の壁を作るってのが、どんだけバカげた考えかわかったよな」

「んんー、そっかー……。じゃーどーしよっかなー……」


 ベリルは泥棒かなんかの心配してんのか?


「大丈夫だ。目立たん人数で亀の魔物を狩れるヤツなんかざらにはいない。万が一素材がわれたって、簡単には横取りできねぇんだぞ」


 きっと、コイツなりにトルトゥーガを案じてのことなんだよな。だとしたら、さっきのはちとキツく言いすぎたかもしれん。


 なーんて省みた俺がバカだった。


「そーゆーんじゃなくってさー、頼んじゃったセメントをどーしよっかなーって……。てひひっ」


 ——はあ⁉︎ いつどこで誰がどうやって?


「兄ちゃんに『王都ついたら読んでねー』ってお手紙で指示しといたから」

「許可した覚えねぇんだが」

「あっ、ヘーキヘーキ、おカネのことは気にしないでいーし。小悪魔財団からの融資だから」


 いくらイエーロでも、俺の指示も仰がずデカい買い物するか? 

 いいやコイツのことだ、俺に話したら却下されんのわかってて先回りしたに違ぇねぇ。


「オメェ、騙っただろ」

「してないしてないってー。さすがに父ちゃんが許可したとか言うわけないじゃーん」


 ホントかぁ? ウソくせぇなぁ、おい。


「ウ、ウソじゃねーし。あーしの個人的なお買い物ってことで、兄ちゃんに頼んどいたのっ」


 ま、いくらなんでも、すぐわかるフカシこくほどバカじゃあねぇか。


「で……、どんだけ買ったんだ?」

「とりあえず金貨十枚で買えるだけーっ」


 いかん、クラッと目眩が……。

 くっそ。簡単に諦めのつく額じゃねぇな。

 いまから取り消しの連絡しても、もう間に合わんだろう。


「ひひっ。父ちゃんチェックメ〜イトっ」


 性悪そうなツラ向けやがって、このやろ。現物用意して意見通そうたぁ嘗めたマネしやがって。

 こりゃあ、キッチリ懲らしめてやらなきゃならんな。


「あのようベリル。こっちには『オメェがカネをムダにしただけ』ってぇ解決方法もあるんだが」

「あ…………」


 へへっ。どうだ、梯子外してやったぜ。

 おうおうヤベェって焦ったツラしてんな。

 そうやってしばらく反省しとけ。


 で、俺ぁそのあいだに買っちまったっつう石灰の使い道を決めとかなきゃだな。ムダにしちまうのも勿体ないしよ。


 しっかし要塞、か。惹かれる響きではある。

 いやいや、バカなこと考えんな。どんだけカネと手間がかかるかわかったもんじゃない。


「ねぇえ、あなたぁ……。ベリルちゃんが買ってしまった石灰の使い道として、せめて水の手だけでも整えるのはいかがでしょう?」


 ダメだぞ。そんなふうに色っぽくシナをつくってきたって、俺は揺るがん。

 どうせヒスイは混凝土を固める魔法を使ってみてぇだけなんだろ。見え見えだ。


「イイ、イイ、それイイ! 水汲みの仕事減ったら、生産力めっちゃアップ!」

「しばらくは傭兵の依頼もありませんし、輸送のお仕事だけでは皆さんの手は空いてしまうのでは?」


 たしかに王都との往復以外は暇してるヤツも多い。このまま怠けさせといて身体を鈍らすのもマズい……か。


「ったく。わぁったよ。ただし水の手までな」

「はーい!」

「あとベリル。今後は必ずカネ使う前に報告しろ。利益見込んで使いまくった挙句に借金塗れなんて、俺ぁごめんだぞ。次はねぇ。忘れんな」

「わかってるってー。もー、父ちゃんってば心配しぃなんだからっ」


 絶対わかってなさそうな返事しねぇでくれねえか。頼むから。


 つうわけで、俺はうちの傭兵連中といっしょに穴掘りするハメになっちまった。

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