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35.五月二十六日‐対戦成績/イブニングトーク

「だーっ、負けたぁーっ! なになになんだよむっくん、なんか試験前からめっちゃ強くなってんじゃーん!」


 寝転んだ体勢から上体を起こし、びしびしと拳でつついてくるおっきーに、僕は照れ笑いをしながら頭を掻いてみせた。


「や、まぁ……勝ったっていっても、さすがに全勝はさせてもらえなかったし、通算成績でいったらまだ僕の方が圧倒的に負けてるけどね……」


「試験の前はずーっと全タテくらわされてた相手に、8-2で勝つとか、フツーに考えて相当すげーから! まー不意討ち喰らわされた的な面もあると思うけど、むっくんの実力がすっげーついたってのも確かだし! ……っつかさ、むっくんってば試験期間中、ずーっと休みなくアヘドプレイしてたわけ? 新しい召喚獣も増えてたしさ、プレイスキルがダンチだし、相当やりこんでたとしか思えねーんだけど」


「あはは、まぁ……ぶっちゃけちゃうと、だいぶ。毎日ほとんど力尽きるまでソロプレイを……あっでもさ、時間自体はほんと気分転換程度っていうか、三十分やそこらしか経ってないぐらいだったんだよ? なんかもう『レベレイション』の仕様さまさまっていうか……おかげでクリアできたフィールド二十個目突破したし」


「二十ぅ!? いやなんだそりゃ、確かむっくん試験前に一緒にやった時はまだひとつめもクリアできてなかったよな!?」


「うん、まぁ、だからその、試験期間中にわりとコツがつかめたっていうか。おかげで万物作成のレベル6になって、7LVもわりと見えてきてるぐらいにはAPも稼げたんだよね」


「マジかー! うっわくっそ悔しいなもう! 俺もソロプレイで技磨くかこれ! っつかもっかいやらね!? 今度は俺もそう簡単に負けねーし!」


「はいはい、負けて悔しいのはわかるけど、いったん止まりなさい。もう他の部員も来てんだから、一度他の子にスペース譲んなさいよ」


『あっ……』


 割り込んできた加賀副部長にそう言われ、初めて部室がそこそこ部員でいっぱいになってきていることに気づいた僕たちは、そそくさとスペースを空ける。据え置き用のマシンで遊んでる子もいれば、携帯端末やゲーム機で遊んでる子もいるので、VRマシン派閥が使えるスペースは教室の半分くらいの大きさの部室の、せいぜい二分の一弱。そこに中高生が寝転がることになるわけだから、やっぱりどうしたって限界があるのだ。


「もうカーペットは使われちゃってるか……カーペット使ってるとこ探すよかは、部室でスペース空くの待ってた方が早いか……? 一応、普段カーペット使ってる場所はあんだけど、わざわざカーペット出したんだから、そん中がいっぱいになるくらいには人いるだろうし……」


「そうだよねぇ……」


「あ、ちょっと待って。対戦の前に、あたしむっくんに聞いときたいことあるから」


「えっ……なんですか?」


 僕が加賀副部長の方に向き直ると、副部長は「ちょっと二人で話させてもらってもいい?」と言いつつ部室の外を親指で指してみせる。しがない一般部員としては逆らうことなんてできないので、素直にうなずいて、加賀副部長と一緒に部室の外へ出た。


 人がいない旧校舎を一緒に少し歩いてから、加賀副部長は僕の方を振り返る。その顔はそこそこ真剣、のように僕には見えた。加賀副部長の嘘やごまかしが見抜けるほど親しいつきあいをしているわけでもないので、本当のところはもちろんわからないけど。


「あのさ。さっき言ってたけど、ソロプレイ力尽きるまでやったのに、実際には三十分くらいしか経ってなかった、って言ったよね?」


「あ、はい。言いましたけど……?」


「それ、具体的にはどのくらいかわかる? 体感時間と実時間のズレ、ってことだけど」


「えーっ……それは、ちょっと……僕、別に正確な体内時計持ってるわけじゃないですし……」


「……そっか。ごめんね、わざわざこんなとこまで。もう戻っていいよ」


「あ、はい……あの、なんか僕おかしなこととか言いました? 『レベレイション』の仕様なんですよね、プレイ中の体感時間と、現実にすぎてる時間との間にズレがあるっていうのは……」


「まぁそうなんだけどね、力尽きるまでプレイしたのに三十分しか経ってないっていうのはだいぶ珍しいから。そういう珍しいデータを集めるのも、あたしの仕事の一環だし。まぁ、そこらへんもむっくんのレベレンに入れたデータ収集用ソフトで調べられるとは思うけど……一応できれば聞き取りもしておきたいな、って思ったから」


「そうなんですか」


 僕は納得してうなずいて、「それじゃあ、部室に戻りますね」と一礼したあと踵を返した。なので、加賀副部長が険しい目つきで僕の背中を見つめていたことも、端末を取り出してなにやら複雑な操作を始めたことにも気づかずに、部室に帰って部員のみんなとの対戦に没頭したのだ。


 対戦成績はおおむね8-2、おっきーの時と同じく、全員に対してほぼ八割の勝率をキープできたので、僕としては大満足だったのだけど。




   *   *   *




 そして、心行くまで対戦して、大満足したその日の終わりにもやっぱり『Another Head』。なんかもうあれだよ、お風呂入ったり歯磨いたりする感覚。やんないとなんか落ち着かないし物足りないの。これも(可愛い女子キャラのために)最強を目指すために必要な過程のひとつでもあるだろうし、そしてその上遊ぶのがめっちゃ楽しいおもちゃとくれば、こりゃもう毎日力尽きるまでプレイしない方が間違ってる。たぶん。


 そんなわけで、いつものように、食事に風呂歯磨きを済ませたあとで、ベッドに寝転んで『レベレイション』を起動。いつものように、目にも綾な絶景を楽しんでからゲームを開始。いつものように、寮の僕の部屋をそのままかたどった、マイルームが表示される――


 だけでは、終わらなかった。僕の視界には、いつもとはまるで違う、普段ならその影すら見えなかった存在が映っていたのだ。


 つまり――僕が初めて『Another Head』をプレイした時に出会った、これまで出会ったことのないどころか、そんな代物が存在することを想像したことすらないほどの、とんでもない美少女が。


「っ………!」


 僕はわたわたと尻もちをついたまま後ずさる。心の中では、『わわわわわ、わわわわわ』と狂乱の悲鳴を上げまくっていた。


 この前と同じように、風で広がるカーテンを背負いながら窓枠に座っているその美少女は、この前見た時と変わらずに、いやむしろ前見た時よりもと思うほど、とんでもなく、おっそろしく、鮮烈なまでに、美しく、可愛らしく、眩かった。神の造り出した芸術品とか、そんな時代がかった褒め言葉すらも物足りないと感じてしまうほど。


 そんな超絶級の美少女が、前回と同じように、僕の部屋の窓枠に座って、微笑みながらこちらを見ている。その事実が強烈すぎて、まともな反応ができない。僕の部屋という日常の空間に、非現実的なまでに美しい超越的美少女が存在しているという事実に、圧倒されて頭が混乱と狂乱に満たされてしまったのだ。


 そんな僕の醜態を眺めやった美少女は、前回と同様、にこっと花が咲いたように笑って、すとん、と素足で僕の部屋に降り立った。一歩、二歩、ゆっくりと半ば腰が抜けてしまっている僕に近づき、僕を見下ろして鈴を振るような声で告げる。


「――ありがとう」


「えっ……」


「私を、探してくれてるんだよね?」


「あっ……」


 そうだ。確かにその通りだ。この一ヶ月、必死になって『Another Head』に打ち込んできたのは、もちろん『Another Head』が楽しいからでもあるけど、それよりも強烈に切実だったのは。


 もう一度、彼女に会うために。


「あなたは間違ってないよ。きっと私は、君の進む先にいる。君が歩く、世界を救う道の先に」


「っ………」


「待っているよ。未来の彼方で。君のことを、ずっと待ってるから―――」


 そう優しく、柔らかく、不思議なくらい嬉しげに笑うと、少女はまたふんわりと風に溶けて消えていく。風で大きく広がったカーテンが一瞬彼女の身体を隠した、と思ったら次の瞬間にはそこには誰もいなくなっていた。


 そして同時に、僕の視界もまた暗闇に転じる。浮遊感と落下感。彼女になにも言えないまま、まともに反応すらできないままで、はるか下へ、下へと落ちていき――






 飛び起きた瞬間、僕は状況を理解する。なにせ二度目だから状況の把握も早い。


 ここは僕の部屋、僕のベッドの上、僕は現在『レベレイション』を頭に装着中で目の前が真っ暗。大急ぎで『レベレイション』を取り外してみると、時刻はもう朝だ。少しずつ厳しくなってきている陽射しが目に眩しい。


 僕はふぅ、とため息をついて、昨日僕が見た光景を思い返す。あの超絶級美少女に、昨夜僕はまた会えたのだ。


 ……つまり、僕は現在、あの美少女キャラのイベントにちゃんと入れている、ということ………! おっきーや加賀副部長にあれこれ言われて、もしかするとあの子は僕の夢の産物だったのかも? 単なる妄想や勘違いだったのかも? と不安になったりもしていたけど、こうして二度目の邂逅ができた以上、そんな心配は無用の産物となった、といっていい!


 ……と、完全に言いきれはしないけど。でも少なくとも、あれほど鮮明な映像と記憶があるんだから、『Another Head』内のちゃんとしたイベントだ、っていう可能性の方が一気に高まったのは確かなんじゃないかと思う。キャラとして言っていることもそれなりに一貫していたしね。


 そしてあのキャラの発言からしても、僕のゲームの進め方は間違ってない、っていうことになるんじゃないかという気がする。話の流れは、『Another Head』の腕を上げて、世界最強になって、世界を救った先にあの美少女キャラが待っている、という展開のはずだ、たぶん。


 あの子が昨日現れたのは、たぶん初めて対戦で勝てたから、なんだと思うし……それを考えると、スローペースにもほどがあるのかもしれないけど。でも、方向としてはきっと間違ってない。『レベレイション』の仕様に頼って、毎晩ソロプレイで腕を磨きつつ、部活やなんかで対戦しまくる! そういうやり方でたぶんいいはずだ。


 それを考えると、昨夜美少女キャラと出会うや即寝落ちしちゃって、ソロプレイができなかったというのはちょっと痛いけど。これも『レベレイション』だか『Another Head』だかの仕様なんだろうか。まぁ、普段それに頼って毎日力尽きるまでプレイさせてもらっている身としては、文句を言える立場じゃない。


 なんにせよ、これまでのプレイの積み重ねを褒められて、新たな道を指し示されて、『Another Head』プレイのモチベーションは高まりまくっている。折よく今日は土曜日。休日、しかも試験明け。となればもうやることはひとつしかない。


「おっきー、部屋にいるかな……?」


 休日に一緒にゲームをプレイしようと誘える友達がいることに、その上その友達とひとつ屋根の下で暮らすことができていることにも、心からの感謝を捧げながら、僕はよっこらしょと立ち上がったのだった。

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