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12.五月二日‐放課後/フィールドワーク

 放課後。HRが終わるやいなや、即行で一緒に部室を訪れた僕とおっきーだったけど、そこにはもう岩室先輩と樋口先輩が待ち構えていた。


「ちゃーっす。岩室先輩たちもう来てたんすか。早いっすね、俺ら授業終わったら速攻で部室に突貫したつもりだったんすけど」


「俺らは六時限目が自習だったからな。ホームルームも早めに終わったし。まぁ他の連中が来る前に、さっさと始めようぜ」


「あいあーい」


「え、あの、他の人たちが来たら、ダメなんですか?」


「ダメってこたぁないけど、ガチでゲームの腕アップさせようってんだから、集中できる環境の方がよかろ? まー今回は、ざっくりゲームシステム的に、この先どーいうプレイ進めてくのが一番いいかって話するだけだから、そんな時間かかんねぇとは思うけどさ」


 そんなことを喋りつつ、手早く『レベレイション』を準備する。VRマシンは普通そうだけど、装着して起動させなくても外部から起動して操作するっていうやり方ができるようになってるんで(まぁ普通そんなやり方はマシントラブルが起きた時とかに、スタッフサービスの人に指示されながらでしかやれないけど、先輩たちはそういう操作方法もバイトで習熟してるってことなんだろう)、そのやり方でさくっと先輩たちともAフレンド登録してから始めることになった。Aフレンド同士ならゲームプレイや会話によそから邪魔が入らないようなモードにできるんだとかで。


「ええと、じゃあまた対戦とかするんですか?」


「いや、最初はフィールド探索から始めた方がいいだろ」


「そだな、フィールド探索のコツとかも、ある程度知っといた方がいいと思うし」


「フィールド探索……」


 一応ゲームジャンルとしてはVRヴァーチャルリアリティVSA(対戦アクション)RPG(アールピージー)、対戦に力を入れているとはいえRPGの一種であることは間違いない『Another Head』には、普通のRPGと同じように、フィールドをうろうろして敵と戦ったりアイテムゲットしたり、というモードもある。ただ、経験値稼ぎ、というかAPを効率よく手に入れる方法としては、たとえ対戦結果が敗北ばかりだとしても、対戦をくり返す方が圧倒的に優れている、とも(おっきーから)聞いていた。


「ま、そりゃ確かだけどな、フィールド探索にはちゃんとメリットもあるんだぜ?」


「それに、むっくんみてーな作成系の異能持ちは、こまめにフィールド探索やった方が絶対いいから。ま、とりあえず始めるとしようぜ」


「あ、はい」


 言われるままに『レベレイション』を装着し、ごろんとその場に寝転がる。起動の意志を宣言コールすると同時に、世界が切り替わりタイトル映像が目の前に広がった。


 今回の映像はよく晴れた夏の海辺で、光を跳ね返してきらめく海は思わず見とれてしまうほどの美しさだったけど、景色をじっくり眺めるより早くおっきーと先輩たちの声が響く。


『んじゃむっくん、フィールド探索始めよーぜ。これも対戦と同じで、『フィールド探索したい』って宣言コールしたり念じたりすれば、レベレンの方がそれ読み取ってくれっから』


『普通に『フィールド探索』を宣言コールして始めると、用意されてる無数のフィールドのうちどれかにランダムに転送されることになる。敵に狙われてるとかじゃなきゃ、どこにいても一瞬でマイルームに戻れるんで、行き帰りの足は心配しなくていいけどな』


『ただ、今回は俺らと一緒にフィールド探索することになるんで、一応そっちから宣言コールしてみてくれるか? 対戦と同じように、感覚的に操作してればレベレンの方が勝手に意図読み取ってくれっから』


「は、はいっ!」


 言われるままに、「おっきーと岩室先輩と樋口先輩と一緒にフィールド探索したいです!」と宣言コールするや、目の前に『色摩意次、岩室正、樋口一弥に共同でのフィールド探索の申し込みをしました。Y/N?』というメッセージが表示されたウィンドウが浮かぶ。そして『Y』の文字が三度点滅し、周囲の映像がさぁっと白い光に溶け消える。


 一瞬後、僕が立っていたのは――月枕塾の校舎の中だった。旧校舎一階の隅っこ、保健室があるあたり。毎日のように通っている場所なのだ(ゲー研の部室は旧校舎の一室なので)、一目でわかる。


 月枕塾の校舎内もマップデータとして取得したという話を聞いてはいたものの、ゲームをやっていていきなり自分たちが毎日のように見ている光景が出てくる、という事態に驚きうろたえ同時にわくわくドキドキしてしまった僕は、思わず誰か語る相手を探してきょろきょろ周囲を見回してしまった。んだけど、人を見つけるより先に唐突にぽんぽんと軽く背中を叩かれ、思わず飛び上がって後ろを振り向く。そこに立って、にかりんと笑いかけてくれていたのは、当然ながら、おっきーと先輩たちだった。僕同様、学校の制服を着たままの、ごくごく当たり前の格好だ。


「あっ、と、おっきー……!」


「ガッコのマップデータがフィールドとして使われてんの見て、感動しちゃったんだろー? いやーわかるぜ、その気持ち。俺も自分でデータ取っといてなんだけど、初めて見た時には感動しちまったもん。うおぉホントに俺のガッコがゲームに使われてるー! って」


「うっ、うんうんっ、そうっ……!」


「まーお前ら、気持ちはわかるがちっと待てや。一応ここゲームのフィールドだからな、ワンダリングモンスターとか普通に出るからな」


「とりあえず、敵が出たらどう動くか、ってことは決めとこうぜ。検証やら相談やらしに来たのに、死に戻りでAP借金する羽目になるとか笑えねーし」


「あ、『Another Head』のデスペナって、そういう形になるんですか」


「そうそう、未使用APとかあったらそこから引かれるけど、未使用APが0だったら借金になる。つってもまぁ、初期作成キャラだったら一回の対戦で稼げるAPの方が多いくらいだけど、異能のレベルが高くなってくとだいぶ洒落にならねぇ額になってくる感じかな」


「まぁ課金アイテムとして、デスペナ軽減したり無効化したりするアイテムはあるけど。まぁデスペナなんて喰らわない方がいいに決まってるしな、さくっと行動方針決めとこうぜ」


「は、はい! えっと、俺たちはどういう風に動けば……」


「ハイ提案」


「イチくん、どうぞ」


「俺は今回は、エンカウントした連中なんかは基本全部俺と正がやっちまうってことでいいと思います」


「ハイ採用」


「え……えぇっ!? い、いいんですかそんなの、そんなんじゃ俺たち楽しすぎじゃ……」


「いや楽もなにもな、こんな初期フィールドのエンカウントモンスターなんて、せいぜい一体0.1APぐらいだぜ? 同クラスの相手と対戦して、負けた時にもらえるAPがだいたい50前後だから、ぶっちゃけ効率じゃ比べ物になんねーの」


「そうそう、基本AP稼ぎが目的だったら勝ち負けにこだわらず対戦しまくった方が圧倒的に効率いいから、俺らが雑魚掃除したところで、俺らにもお前らにも大して得にはなんねーから。それに俺ら、テストプレイやらなんやらで、初期作成キャラよりはだいぶ強化されてっからさ。初期フィールドに出てくるモンスターとかぶっちゃけ敵じゃねーの」


「そーそー、今回は検証と相談しにきたんだし、めんどくさい雑魚掃除とかはさくっと先輩にまかせなさい」


「う、で、でも……」


「むっくん、ここは先輩たちにお任せしよーぜ」


「おっきー……でも、その、いいのかな……」


「いい悪いはいっぺん横に置いといてさ。むっくん、アヘドで世界最強目指すんだろ? で、俺らはそれに協力するっつったじゃん。世界最強目指すんだったら、よそ見っつーか、細かいことまで気ぃ使ってる暇ねーだろ? 他人に甘えられるところは甘えて、頼らせてもらわねーと、よそ見せずに一心に集中、なんてそうそうできやしねーぜ?」


「そ、そうか! そうだね……すいませんでしたっ! 先輩たち、どうかよろしくお願いしますっ!」


「はいはい、どいたまどいたま。ま、この辺の雑魚ならマジでミリも負担になんねーし……おっ、出てきたな」


「えっ」


 思わず岩室先輩の視線の先を振り向くと、そこには確かにワンダリングモンスターっぽいものが湧き出てきていた。ただモンスターといっても相当雑魚っぽいというか、黒くて小さな影の塊、みたいな感じ。それが世界に滲み出るように現れて、ゴキブリの全力疾走よりだいぶ遅い速度で、カサササッとこちらに迫ってくる。


 ゴキブリより遅くてもやっぱりなにかが迫ってくる感じは気持ちのいいものじゃなくて、僕は反射的に身構えてしまったんだけど、先輩たちはさすがというか、反応がこなれていた。岩室先輩の瞳がきらっと光ったかと思うと、小さな影はびしりとその場に釘付けになって固まった、かと思うと樋口先輩の顔が一瞬きらめいて、顔全体から光線が放たれる。その光線は狙い過たず影に命中し、一瞬、一撃で消滅させてしまった。


「おおお……す、すごいですね! やっぱり反応がもうプロっぽいというか……!」


「いやんなたいそうなもんじゃねーから。単にアヘドでフィールド探索もう何度もやってるってだけだから」


「つかさー、むっくん。それより先に反応すべきとこあんだろ」


「え。は、反応すべきとこ、ろって……?」


「いやフツーに笑うところだろこれ。イチの異能マジ頭おかしいから。なんで顔からビームなんだよ、って初めて見た時死ぬほど笑ったわ!」


「しゃあねーだろ俺の異能の設定の関係上、顔が発動起点になんのがデフォなんだから! 他のとこからビーム出せるようになるとしたら、演出カスタマイズでAPが余計にかかるか、正当性強化がなくなるか選ばねーとなんだもん、ゲーム的な不利押しつけられんのと比べりゃそりゃ顔からビーム選択するだろ!」


「いやつかまずお前の異能選択がだいぶ頭おかしいからな!? 普通に恥知ってる人間あんな選択できねーから!」


「え、あの、ど、どういう異能なんですか……?」


「イケメン」


「……え。は、はい?」


「だからイケメン。『顔がいい』って異能。顔があまりにもいいから相手の心奪うのとか楽勝だし、イケメンフラッシュで目を奪えたりするし、イケメンビームで敵を倒せたりできんだよ。イケメンだったらできんだろそんくらい!」


「え、や、あの、それはどう、ですかね……?」


「うるせぇないいだろゲームの中でくらいイケメンになったって、そのために俺バイト代つぎ込んで課金してアバターの顔も身体も全力でイケメンに変えたんだかんな! この俺の哀しい努力を誰が笑えるというのか、生まれついてのイケメン以外は笑えまい! でも笑いやがったイケメンは俺が個人的に殺す!」


「わっはっはっはっは!」


「笑ってんじゃねぇ俺と同レベルのブサメンがよぉ!」


「あだっ、ってぇなこの、俺はまだそこそこフツメンよりだっ!」


 殴り合いを始めた先輩たちを呆然と眺める俺に、おっきーがすすすっと近寄って囁く。


「ちなみに先輩たち、これまでの学生生活で一回も彼女できたことねーんだわ」


「あ、そ、そう………」


 僕もたぶん、先輩たち同様、この先彼女ができたりするなんて経験はできないんだろう人間なので、殴り合う先輩たちを眺めていると、ちょっぴり涙が出そうになった。

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