植物の勇者の場合
「それでは勇者よ、魔王を頼む。」
「はい。」
「まずは、エルフの森を目指すか……。」
平原にて。
管理者からもらった技能の確認をしておくか。
使う植物をイメージ……。
ハエトリグサが二本、生えた。
なるほど。
こういう能力か。
スライムだ。
ちょうどいい。
ハエトリグサの攻撃
ウォーカーに3ダメージ
ハエトリグサはウォーカーを捕食した
ハエトリグサは息絶えた
「……おいおい。」
戦いが終わると枯れるのか……。
胸糞悪い、能力だな……。
植物の勇者のレベルが上がりました
生やす植物の本数が上がりました
なんで植物が枯れる必要があるんだ。
なんて能力を。
「管理者め……。」
15か月後。
「おい、ここはエルフの森だぞ。」
「ここで何してる。」
そうか、ここがエルフの森か。
「眠っていただけだ。」
「こんな森の中でか?」
「ああ。」
黒いのと白いの。
ダークエルフとエルフか。
いや、こいつらは妖精などではない。
実際に存在するもの。
別の人種といったほうがいいか。
「怪しいやつ!」
「でも、こんな森の中でひとりで眠ってるような人だよ?」
「ほんとに寝てたんじゃないの?」
「おい、お前がそっちの肩を持つな。」
放っておいても仲間割れしそうだな。
「俺は、植物の勇者。」
「え?」
「ん?」
「緑の国から魔王討伐のためにここに来たんだ。」
「魔王って、あの?」
「そうだ。長老たちのところまで案内してくれ。」
「長老たちって、部外者のアンタを連れていけるわけないだろ!」
「……じゃあ、縛って連れてけよ。」
「えぇ?」
ずりずりと、簀巻きにされながら連れていかれることになった。
「あんた、本当に勇者?」
「そうらしいな。」
「なんだよ、それ。」
「知ってるだろ。勇者も職業の一つさ。」
「ってことは、王の前で授かるのか。」
「ああ、そうだ。エルフって職業なのか?」
「さあな。ここに来る前のことは覚えていない。」
「……そうか。」
長閑な森。
しかし、そう感じるようにこの森が設計されているのだ。
暗めの環境、木漏れ日、風。
「ここが長老の間だよ。このままいくよ。」
扉を開けるとそこには杖を持った老人がいた。
耳は長い。
そういうことだ。
「森で怪しいやつを見かけまして、それが植物の勇者というんです。」
「ほぅ……。それで、そこで巻かれているのが……。」
「魔王討伐のために緑の国からきた。植物の勇者だ。この先のネームド、人喰い草のヒトサライを倒すために、あんたらにアクセサリーを作ってほしい。」
「こら!いきなり何を言ってる。」
「外の人は元気ですね~。」
エルフのほうはさっきから危ないな。
人を疑う気持ちがないように見える。
「エトランジェ、それにエリーゼ、客人だよ。あまり無礼にふるまうモノじゃない。」
「はっ!!」
ダークエルフのほうも規律に従いすぎるな。
なるほど、こいつらを二人組にしたのはいい判断だ。
「人喰い草ということは、丸のみに対する耐性……、ローズリングじゃな?」
「ああ。魔法触媒で加工した指輪がいる。」
「ふむ……。」
「ほれ、これじゃ。」
「確かに。」
「おい、もう行くのか?」
「必要なものは受け取った。じゃあな、黒ギャル。」
「まだじゃ。」
「え?」
「そこの二人もつれていけ。なに、もともと人のいるところに出そうとしていた二人よ。旅に連れて行ってやってくれ。」
「……いいだろう。」
槍持ちと弓持ち。
前衛と後衛が一度に手に入った。
「これで、いいのか?」
「ああ、レッドスライムの討伐、完了だ。」
手ごわい相手だった。
「エルフの金属があったから行けたものの、危ない戦いだった。」
「帰って、宿をとるぞ。」
「うん。」
「あぁ。」
この頃には二人とは打ち解けていた。
「勇者。」
「なんだ?」
「部屋の奥の、スライムがいた場所、何かあるよ。」
「これは……。」
「何があったの?」
「いや、とくには……。」
「ま、いいじゃねぇか、さっさと帰ろうぜ。」
「うぅ……。」
「それで、次はどこに行くんだ?」
「ああ、火山地帯の砂漠だよ。」
三人でフロに入りながら雑談する。
「ふーん、じゃあ、旦那の植物はあまり役に立たないのか?」
「かもな。お前らの森の装備も、金属製じゃないと危ないだろう。」
「それよりも、ここからもついてくるのか、この旅に。」
二人に聞いておく必要がある。
「ああ、長老も言ってただろ?もとより、あたしは森から出ていくつもりだったんだ。ダークエルフで、周りからも怖がられてたから。」
慰めの言葉は出なかった。
あの森、差別があるのか。
それとも周りのエルフは区別だとでも思っているのか……。
「まあ、このタトゥーのせいなんだが……。」
「それか?」
足元から目元まで、黒い紋様が走っている。
「ああ、タトゥーじゃないが、魔法みたいなもので体を強化してるんだ。」
「ほーん。」
「あたしはともかく、エリーゼは何で旅を続けるんだ?」
「私はですね~、おいしいものが食べたかったからですよ。」
背後から声がする。
体を流し、隣に座ってきた。
「森以外の外の世界を知りたかったんですよ。食べ物もおいしいですしね~。」
「というわけで、だ。このさきのフレイムゴーレムを倒しに行く。戦い方はまず、高温地帯での戦闘が予想される。そのため、エトランジェは革の服で、エリーゼは金属鎧で守る。そして。」
ヒトクイグサを倒した時のことを思い出す。
「おい、こいつ森の武器が効かないぞ。」
「ど、どうしましょう~。」
「離れていろ。」
植物の勇者の技能が発動しました
ハエトリグサABCの攻撃
ヒトサライに3のダメージ
だめだ。
火力が足りない。
ここで死ねというのか。
クソッ。
ヒトサライの攻撃
ハエトリグサABCを捕食
ヒトサライのレベルが上がりました
ヒトサライの成長が発動しました
ヒトサライは魂サライになりました
「そうだ。これで……。」
両腕を開き、地面に手を当てる。
二体の植物を、味方に!
「おい!裏切るのか?」
「あわわわ。」
「捕食!そして……、吐き出せ、エルフを!」
「いまなら見える。相手の口の中。」
「エリーゼ!弓で口腔内を狙撃しろ!」
「は~い。」
そうだ。
思い出した。
エリーゼはマイペースだが、いわゆるクソ度胸だ。
「まずい状況になったら植物で保護する。いけるか?」
「ああ。」
「きっと大丈夫ですよ。」
「あれか。」
全身が燃えている、フレイムゴーレムだ。
「行きま……。」
フレイムゴーレムの攻撃
エリーゼに90のダメージ
「あ、アハハ……。きっとバツが当たったんです。森で長老の血筋で、他のエルフよりも白いから、森を出て、ここまできたのに……。誰かを馬鹿にしたことはなかったはずなのに……。」
エリーゼは正気を失っている
「だ、だめです……、勇者様、これは……。」
一撃で沈んだ。
仲間が一人、死んだのだ。
いや、まだ死んではいない。
「エリーゼ、いったん引け!植物で……。」
「あ、足が……。」
片足がなかった。
「ハエトリグサ!」
丸のみで保護するしかない。
「エトランジェ!お前も保護する。」
フレイムゴーレムの火砕流
ハエトリグサは燃えた
「あ、あ……。」
仲間を救おうとして、死んだのだ。
俺のせいで。
無傷だったエトランジェも。
そしてじきに蔓から火が広がり、俺も死ぬ。
「いや、まだだ!」
「まだ、終わってない!」
「形態変化!バンクシア!」
この植物は決して燃えないわけではない。
むしろよく燃える。
燃えることで種子をばらまく植物だ。
そう、だから、帰ってこい!
吐き出せ、二体を。
「エリーゼ、奴の関節の隙間に矢をうて!」
「は~い。」
この状況でも難なく射貫く。
それがお前の強さだ。
ゴーレムは関節が動かなくなった。
そして……。
「エトランジェ!やれ~ッ!」
槍でコアを破壊する。
「まったく、旦那についていくと命が何個あっても足りないぜ。」
「それも楽しいんですけどね~。」
足は治っていた。
植物の研究はまだ続く。
「……帰ろう。」
属性の多様性がないと死ぬ。
今回学んだのはそれだ。
そして……。
こんなくそったれな冒険もしばらくは休みたい。
「なあ、二人とも……。」