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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天秤を均す調停者

作者: わさがな

 息を潜める、気配を消し魔物の背後に回る。狙うは最大の急所の首。右手に持つ鉈を真っすぐ振り下ろし一撃で両断する。獣は反撃すらもすることができず絶命する。狩人は鉈についた血を振り払い魔物の死体を放置し次の獲物を探しに動きだした。多くの魔物が住むこの森を堂々と歩く狩人は魔物からしたら恰好の的である、しかし誰も狩人を狙わない。それは強いから、絶対的強者を前に突撃し敗北するなど火を見るより明らかであるため彼らにはできない。狩人もまた自身を見つめる有象無象の魔物等を一切気にせず歩き続ける。たとえ軍隊に匹敵するほど群れても相手にすらならない、一方的な殲滅が始まり傷一つつけることもなく終わってしまう。

 そんな圧倒的弱者を一瞥しながら進んでいく狩人は樹海とも呼べるこの広大な森の支配者であり調停者である。魔物の急増を防ぎ、木々の状態を良くし常に安定を保たせる調停者。逆を言えば森を守るためならどんなこともする傲慢者。破壊することをいとわない覇者とは違い、何が必要で何がいらないのか取捨選択をし森の安寧を見極め整える。まるで天秤を秤るかの如く、どちらにも倒れないように管理していくのが狩人の……彼女の役割なのだ。

 彼女が歩いて行った場所には木が生えておらずそこに何かあるかのように土が盛り上げられ大きな石が置いてあった。その石には名前が刻まれており誰かの墓石のように見える。彼女はその墓石の前で屈み抱きしめ、撫でたり何かを囁く。その後別れの挨拶のようなものをしてまた森の巡回をしに戻っていく。彼女は毎日飽きることなくその奇行を繰り返している。彼女自身数を数えてないし数えるにしても多すぎる。何百年かは経っていることは確実だからそこで計算すればわかるのだろうが本人にとってどうでもいい。彼女はこの行為を唯一の幸福だと思っている上に約束を果たすまで変わらないのだからこれからも何回も同じことを繰り返すだろう。

 なぜこんなことをするのかは本人以外知らない。なぜこうなったのかは彼女にとって昨日のことのように思い出せる。決して忘れてはいけない、色褪せてはならない記憶。


 ====================================

 

 火が燃え盛る、木々が叫ぶ、血が滴る。常若の国と呼ばれ、勝利者達が楽園として築き上げられた森が燃えていく。そこには当時まだ若かった頃の彼女が息を切らしながらも走っている。彼女は焦燥感に駆られ火を消すという重要な役割すらも忘れてひたすら自分の中で一番大事な存在を探しがら走り続ける。


 「どこ!?どこ!?どこにいるの!?」


 切羽詰まった状況で愛しの存在を探し続ける。木が燃えようとどれだけ自分が傷つこうとも関係ない、「最優先は彼。」脳の中で何度も反芻して他のことは一切考えない。誰かがいたなら彼女を止めただろうがそこには本人しかおらず、炎上した森の中を駆けていく。

 彼女が探し始めて何時間かしたところついにその存在を見つけることができた。焼死体のままで。彼女はその遺体を抱きしめながら嘆く、なぜ自分のそばにいなかったのか、なんでこんな風になったのか、何度も嘆き悲しみ日が暮れては明けて、暮れては明けてを繰り返していくうちに彼女は彼を燃やした犯人を探し始めた。そして森の襲撃は森に近いとある国が企てたことだと分かりすぐさま彼女は復讐に動きだした。しかしそれは復讐なんて生温いものではなかった。

 皆殺し それだけ。たったそれだけ。全く関係のない村や都市を襲い、その後は国の首都を襲撃した。国はもちろん彼女の暴走に対抗するために賢者の作った兵器を導入した。だがそれもダメだった。動きが速すぎるてどんな攻撃も全て回避するため国が用意した兵器も完膚なきまでに叩きのめされ、大国と恐れられかなり大きな軍事能力を持った国が一瞬にして滅んだのだ。完敗。そうとしか言えないぐらいあっさりと終わった。

 国を一つ落とした後は他の国も襲おうとしたが彼の埋葬が済んでいないことに気づきすぐさま森に帰り埋葬する準備をした。火葬か土葬かそれとも鳥葬にするのか彼女は悩んだ。数分間考えに考えきった結果、遺体を穢したくないと思いどちらも選ばなかった。場所は自分の住処に近く、獣にも誰にも見つからない安全なところ。遺体は腐らないように己の力を使って決して朽ちず壊れない石の中に閉じ込め墓を作った。それから彼女は彼を一人にしないように毎日会いに行くことにした。何百年も


 ====================================


 それが彼女の原点 


 その後は彼を守るために森に潜む危険分子を全て排除し、彼の家である森を綺麗にするために森の精霊と協力して豊かにした。他にも彼女は彼のために色々なことをした。

 彼女の原動力が彼のためならなぜ森を守るのか、それは彼の願いだから

 願いとは彼が遺した「この森を争いのない安寧の地にしたい」というもの。

 つまり今の彼女の目的は願いを叶え継続し永遠に朽ち果てないようにすることである、誰にも邪魔をさせずされることのない絶対なる聖域を作るということだ。永久に終わらず、誰にも穢されない愛した者と自分達だけの不滅の箱庭を作り上げるために。

 彼女は箱庭を作るために突き進む、たとえそれで何かが犠牲になったとしても。

 彼女は永遠の安寧を目指す。


 ある者はこう言う


 「あなたは不運だ」


 彼女は返す。


 「いいえ、私は幸運よ。だって彼とずっと一緒になることができたもの」


 ある者は疑問に思う


 「あなたがそこまでする必要があるのか?」


 彼女は返す


 「当たり前じゃない。私にとって彼が全て、彼がいないこの世界に興味はないけれど彼の願いは私の願い。叶えるのは当然。」


 答えは変わらない。

 揺らぐことのない絶対不動の愛は原動力となって突き動かす。

 彼女は調停者。森の環境を………天秤を均す調停者。

 そして彼を永遠に愛し続ける狂愛者

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