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見えない君を見える僕が守るから。  作者: 藤堂千詠
第一章 強さ
4/4

何があっても守るから。







「九条くんへ。

昨日は嫌な気持ちにさせてごめんなさい。九条くんに嫌がらせがしたかったわけではなかったんだけど、結果的に九条くんを傷つけてしまいました。本当にごめんなさい。

私は、九条くんと話がしたい。九条くんの今の気持ちを、本当はどうなりたいのかとか、将来の夢とか、みんなが見れていない本当の九条くんを知りたい。こんなこと言うのが恥ずかしくて、ずっと言えてなくて、席が隣になってやっと話せると思ってたんだけど、話し出す勇気がなくて。こんな形になってしまったけど、いつか九条くんと話せる日をずっと待ってたの。それとね、九条くんに話したいことがあるの。私の話。

もし、もう一度私と話してくれるなら、放課後、屋上に来てほしい。

枢木鶴羽」






















何故、彼女は泣いていたんだろう。

自分の思い通りにいかなかったから?それとも周りに何か言われてこんな事をやっていたりするのか?それで上手くいかなかったから暴言でも吐かれたのか?それとも…僕とうまく話せなかったから?

最後の、話したいことがあるって…彼女も何か抱えているのか?




「おい、邪魔なんだよ。どけや」

「いっ…………………………………………………………」



…………怒りを抑えるので精一杯だった。肩をぶつけてきたことに対してじゃない。彼女の色んな思いが込もった手紙を踏んでヘラヘラと笑っているのが許せなかった。この手紙には彼女以外の誰も計り知れない勇気がある。それは決して他人が踏み躙って笑っていいものじゃない。

…でも、僕が、僕が、…………俺が弱いから。歯を食いしばって、ただただ悔しがることしかできなかった。

強くなりたい。周りなんか気にせずもっと堂々としていたい、歯向かう勇気が欲しい。











































「………来てくれたんだね、九条くん。」

「…話したいこと、あるんでしょ。」

「うん。九条くんなら、…わかってくれるかなって思ってさ。というか、九条くんにしか話せないようなことなの」

「どうして僕にはわかると思うの。」

「それは、、ん〜わかんない。へへっ」

「変なの。」

「もうっ、とりあえず、九条くんのことを聞かせて?私は九条くんが知りたい。」

「何で知りたいと思うの。」

「分かち合いたいと思ったから。」

「え?」

「私には、九条くんにしか言えないことがある。九条くんじゃないとわかってくれないような、秘密が。でも、私が聞いてもらうだけじゃ、支えてもらうだけじゃ、嫌だから。私も九条くんの話を聞いて、私が九条くんの心の支えになりたい。そうして、お互いの辛い事、苦しい事を分かち合いたい。」



僕にはそれが、彼女なりの精一杯のSOSに思えた。

きっと、本当に誰にも言えないような秘密があるんだろう。でも、それを隠して平然を装うのももう限界で、でも吐き出せる場所がなくて、我慢して、我慢して、迷って…辿り着いたのが僕なんだろう。

俺が話を聞いて、少しでも楽になってくれるのなら、……こんな弱虫な俺でも誰かを助けることができるなら。



「わかった。全部話すよ。なにも隠さず、全部。」

















俺は彼女に話した。俺にはその人の運命が見えること。運命とは必然的に起こる事象のことだということ。小さい頃、何度か人の運命を口にし周りから気味悪がられていること、「呪われた子だ」「化け物だ」と言われ避けられ続けていること、そんな日がずっと続いて臆病になったこと、そんな自分が嫌いなこと、本当はもっと誰かのために生きて胸を張って生きたいこと。



「まぁ、こんな感じ。ごめん、一方的に話ちゃ…た……どうしたの?」



彼女の目からは涙が溢れていた。大粒の、綺麗で純粋なその涙は止まることを知らなかった。



「ごっめ、んねっ…っ…わ、たしっ、がっ…泣くようなっ…ことじゃ、ないのにっ…」



こんなにも、心の優しい人が、この世界にはいたんだ。こんな、人への悪口、暴言が簡単に飛び交ってしまう汚い酷い世界に。他人とも言える人間の話を聞いて、わかって、一緒に泣いてくれる人が。



「いやっ、…大丈夫、…」



気づいたら視界がぼやけていて、涙が止まらなくなった。こんなにも暖かくて大きな優しさに触れたことがなかったから。そして、彼女の運命を見ていると、彼女が抱える大きな傷がどんなものか何となくわかった気がした。優しくて繊細な彼女だからこそ受け止めてしまった数多くの傷。

何があっても、彼女を守りたい。死なせたくない。どうしてこんなにも優しい人が死ななければいけないのか、全く理解ができなかった。



「私ね、……病気なの。お腹にいる時から、お母さんが食べた食べ物に含まれてるアルミを多く取っちゃったんだって。そのせいで生まれた時から認知症で、友達の名前も、言葉も、人より覚えるのが苦手で、何度も間違えたりしちゃってたの。その度にね、友達が嫌そうな、呆れたような顔をしてて、みんな最後には私の周りからいなくなってた。友達の名前は間違えるのに、その子たちがどんな顔をして、私をどう思ったかだけははっきりわかるから、すごく辛かった。だからね、中学はみんなとは被らない遠いところに行きたくて、ここに引っ越してきたの。今は工夫して何とかやっていけてるけど。授業について行くのが結構辛いんだ。当てられたらどうしよう、解けないのに。そんな不安でいっぱいになるの。だからね、九条くんが当てられて間違えて先生に怒られてる時、九条くんは何も悪くないのに、誰だって間違えることがあるのに、どうしてあそこまで怒られなくちゃいけないのって思った。それでね、私…多分もう長くないの。血管の中が詰まってきてて、本当だったら取り除く手術をしなくちゃいけないんだけど、私の場合、何度もバイパス手術をしてて、人よりも毛細血管が複雑だから手術の難易度が高すぎるんだって。だから手が出せないみたい。だからね、私、ドナーになろうと思うの。もっと元気で、大切に思ってくれる人が沢山いる子に、生きてほしい。」

「………………思わないの。」

「え?」

「生きたいとはっ、思わないのかっ…!!」

「えっ、それはっ…」

「俺はっ…したいことがたくさんあるっ!…友達をつくって、一緒に色んなことして遊んで、馬鹿みたいにはしゃいで、この先ずっと、何かを大切にできる人間になって、弱い人を助けられる人間になりたいっ!」

「………私だって…お友達が欲しい、一緒に遊んで、おしゃれだってして、恋をして、友達と恋バナをして、…どんな時でもそばにいてくれる人を見つけて、生きるのが楽しいと思いたい、何かが欠けていることは、人と違うことは悪いことじゃないって証明したい、それで同じように悩む人を勇気付けてあげたいっ…!」

「…充分だろ…。生きたいと思うには…充分すぎる夢があるだろ…」

「うん…」

「生きたいか…?」

「うん、生きたいよ…九条くん、私、やっぱり死にたくないっ…」



何も言わず、彼女を抱きしめた。小さくてか弱い彼女の肩は震えていて、腕の中で啜り泣く声が聞こえた。



「俺が…死なせない。絶対に助けるから。この先ずっと…何があっても守るから。」



初めて本音で話した、いつの間にか、周りに悪い印象を与えぬようにと僕としていた一人称は昔の俺に戻っていて、

彼女から流れる大粒の涙に夜空が反射して真っ暗だった俺の瞳の中に光が灯った。




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