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見えない君を見える僕が守るから。  作者: 藤堂千詠
第一章 強さ
3/4

一人




頭が真っ白になった。僕の頭では処理できない程の数の疑問が一瞬にして僕の頭を埋め尽くした。何故この人が僕なんかに話しかけてきたのか、僕に話しかけることによる周りからの視線は怖くないのか、この人は僕を揶揄おうとしているのだろうか、この人は悪い人なのか、そもそも周りはどう思っているのだろうか、僕に話しかけてきたこの人は何故________な死に方をするのだろうか、この人は何故こんなにも早くに死んでしまうのだろうか、この人は……














誰なんだろうか。




教室にいても誰とも話さないし目も合さない。僕自身学校を休む事はほとんどないが、毎日同じ場所にいるクラスメイトの顔を知らない。名前は学級名簿で見た事はあっても顔と名前が一致しない。



「おい、九条。なにぼーっとしてんだ。早く答えを書きに来い」



そう言って先生は僕にチョークを投げてきた。数学の三井先生は僕のことが気に食わないのか、それともただのストレス発散用の道具として見ているのか、はたまたその両方か、僕にはわからないがこの先生は毎回僕に当たってくる。ただでさえ僕は見る人全員の運命が個々のステータスのように見えていて視界からの情報量で頭がパンクしそうだというのに、その上授業も常に集中しなければならないなんて到底無理だ。



「……………っ、答えがちげぇんだよ。頭使えや、出来損ないが。」

「…はい、すいません。……」

「すいませんじゃねえだろさっさと解けや」



いつもの事だ、もう慣れた…慣れたはずなのに。いつも通りではなかった。いつもとは違う、いつもならこんな事はなかったのに。どうして…

僕に話しかけてきたあの子が泣きそうな顔をしているんだろう。あの先生が怖かったのか?いつもあんな感じなのか?僕が見ていなかっただけなのか?わからない、初めてのことだらけで頭が混乱する。











結局その後の授業はあまり頭に入ってこなかったし、周りはいつも以上に僕のことを見てはひそひそ声で嫌味たらしく何かを話していた。

そんな中で、一つだけ、どうしてもしておきたいことがあった。あの子に礼を言いたい。そして聞きたい。何故僕に話しかけてきたのか。何故あんな顔をしていたのか。



























「あの、……………ちょっと、いいですか…?」

「ん?どうしたの?」



彼女は微笑みながら僕の方へ振り返って聞いた。嫌な顔一つもしないで。



「聞きたい、…ことがあって………」

「いいよ。…あ、ここじゃ話しにくい?隣行く?」

「うん。ありがとう。」



気を遣ってくれたのか、隣の少人数教室で話そうと提案してくれた。きっと彼女はすごく優しい子なんだろう。周りの人を癒すような、励ますような、太陽みたいな雰囲気を纏っている。

そのおかげか僕も話し出すのに時間はかからなかった。



「どうして僕に話しかけたの。僕に話しかければ周りになにを言われるかわからないのに。」



僕は素直な疑問を彼女にぶつけた。

どんな返事が返ってくるのだろう、これが「揶揄っただけ」なんて答えが返ってきたら何とも思わないわけではない。少しだけ……少しだけ、期待してしまっていた。僕のことを気にかけてくれる人がいたんだと。

ただ、もしこれが僕の思い過ごしだとして、僕はあの時見た彼女のあの顔を嘘だったのだと信じられるだろうか。いや、できない。答えを聞きたい。彼女の…答えを。



「…………………寂しそうにしてたから。」

「え…?僕が?」

「うん。毎日一人で、寂しそうに俯いてた。」

「…だからって、何だって今更話しかけてきたんだよ。」



だめだ。どうして僕はこんなに無愛想な話し方をしてしまうんだろう。彼女は優しく僕の目を見て話してくれているというのに、僕はどうして相手の目も見れず棘のある突き放すような言い方をしてしまうんだろう。

僕は…僕が嫌いだ。



「九条くんは、自分のこと嫌い?それとも周りの人たちが嫌い?」

「……両方。自分も嫌い。周りも嫌い。」

「じゃあ、誰が九条くんを好きなの?」

「…は?」

「九条くんは一人?自分までもが自分のことを突き放すの?」

「なにが…言いたいの」

「自分は…自分だけは自分を突き放しちゃだめだよ。そしたら誰も九条くんを見なくなる。そんなのひどいよ。」

「さっきからなに、僕が孤独なのが可哀想だって憐れんでるの?」

「可哀想だとは思うよ。でも憐れんではない。……………………































…私が、九条くんを好きになってあげる。そしたら寂しくなくなるでしょ?」

「は?意味わかんないよ。好きになってあげるってなに。気持ち悪いからやめて。」



彼女がなにを言っているのか理解できなくて、いや…したくなくて。放課後時間を取って僕と話をしてくれた彼女を置いて僕は逃げるように帰った。

遊ばれている気がした。僕が可哀想だと、優しくして、気があるように見せて、自分に僕を依存させることによって優越感に浸ろうとしているんだと。…………僕は彼女の優しさを信じれなかった。




























また朝が来て、学校に行く。

彼女とどんな顔をして会えばいいのか。いや…顔を合わせることなどもうないな。彼女から逃げるように帰ってしまった。二度と僕なんかとは目も合わせたくないだろう。そう………………思っていたのに。








下駄箱のロッカーを見ると一つの手紙が入っていた。まるで恋愛漫画に出てくるような、上品な便箋に入った一つの手紙。勘ではあったがこれが彼女からのものだとすぐにわかった。昨日のことだ、怒らせてしまったかと少し不安になりながらも開けて中を見ようとした、だが、その手紙は昨日書いたにしてはあまりにも皺があった。中を見るといくつもの滲んだ文字が。



「まさか…………………泣いてたのか…?」




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