第四話「非通知」
「あ、景許先生。」
その女の子が後ろを指差す。
すると大きな男のジャージ姿の先生が立っていた。
「おい…何してんだ?」
「えっと、いや、その…。」
何も言えずにパッと手を離す。
「さ、職員室行こうか。」
景許先生の腕をすり抜けて走り出す。今ここで捕まる訳には行かない…!
3階に登って校舎をグルグル走る。そして非常階段から外を見ると歩いて校門へ向かうあの女の子がいた。
急いで階段を駆け下りて靴を履き替える。この速度ならまだ間に合う…!
「おい~!やっと見つけたよ~!」
後ろから声がして振り返ると正憲が体操着袋をブンブン回して歩いてきた。
「…あ、ごめん!ちょっと先に…!」
「なんだよ?」
首を傾げる正憲を差し置いてすぐに走り出した。
「あ、おい!…なんだ?急に。」
走り出して校門へと向かう。立ち止まるともう既にそこに女の子の姿はなかった。
「え、もう?…いや、早すぎるよな…。」
とりあえず校門を出て左右を見渡す。
「あ…。」
左を見た時に少し奥の方で歩いて帰っている姿があった。
「はぁ…良かった…。」
少し安心して地面に膝をついてため息をつく。
「おーい。」
後ろから正憲が駆け寄ってきて体操着袋を投げつける。
「ったく、なんで先に行くんだよ。」
「あー、ごめん…!さ、帰ろ!」
そして僕らは歩いて帰った。何事もなく家に着くことが出来、玄関でまたため息をつく。
「あ、お兄ちゃん、おかえりー!」
ももがお出迎えしてくれる。ここもあまり変わらない。
「ただいま。」
笑顔でそう答えた。時間は18:17。
…なんだろう、平和に帰って来れたはずなのに、まだ心に残ったホコリみたいなのが歯がゆく感じる。
…まだご飯までには時間がある。
「ごめん、ちょっと忘れ物したから取りに帰るね!」
「え、あー、うん。」
少し首を傾げてももが不思議に思うがそれを気にせず僕は携帯を手に取り正憲に電話をかける。
「…出ろよ、頼むよ…。」
「…ん、もしもし?何?」
良かった!出た!その嬉しさが声に出そうになるが少し抑える。
「いやぁ、あ!そうだ、明日の時間割教えてよ。」
「何言ってんだ?明日は休みだろ。土曜だぜ?」
「あ…。」
それを言われてちょっとだけ恥ずかしくなったが、なんとか誤魔化せた。
「そうだったな、ありがと。」
「ん?おう。あ、そうだ、明日、遅れんなよ?」
「え?」
明日なんかあったっけ?と思いながらスマホの予定を出す。そこには『みんなで遊園地』とだけ書かれていた。
待って、遊園地、だけ書かれても今の僕には分かるはずないだろ!と思うが、聞くのも恥ずかしさがなぜか勝ってしまう。
「…おん、遅れないよ。」
「へへ、ならいいけどな!」
そう言って電話が切れてしまう。
「…。」
少し考え込む。遊園地って言ったってどこなんだ?そう思ってスマホで検索をかける。
大体、何も記さずに遊園地とだけ書かれていると近場だろうと踏んで近くの遊園地と調べた。
そこで3つ引っかかった。『エターナルランド』『京楼遊園地』『セレブレリティパーク』だった。
「おいおい…これ全部距離ほぼ一緒じゃんか…。」
この3つのうち、どれが明日行く遊園地なのか全く分からずに、とりあえず家に入ろうとした。
その瞬間、横を黒い車が通った。そう、見覚えのある車だった。後ろからはパトカー。
まさかとは思い、自分の家の自転車を出し大急ぎで漕いで追う。
「…やべ、ここのマッピング分からない…。」
そして追いつけるはずもなく見失ってしまう。
「…流石に。な。今日は帰っただろうし拐われてはないだろう…。」
そう思って自転車を漕いで家に戻るともうご飯が出来てた。
「遅い!どこ行ってたの?!」
お姉ちゃんに予想通り叱られる。
時間は19:22。まだいいだろ…。なーんて思いながら
「えっと、友達と電話を…。」
「はぁ。全く…。早く食べな。」
そう言いつつも食べなって言ってくれるのが優しく感じれた。…記憶があったらそんな風に思わなかったのかな。なんて思いながら食べる。
そして食べ終わって部屋に戻る。
再びスマホを開くとグループチャットに通知が来てた。
『明日の遊園地楽しむぞい』というグループだった。
正憲「明日、8:30に単尾駅集合な。」
美奈「みんな、遅れちゃダメだよ!」
このトークを見て良かった、みんなで行くのかと思いホッとする。
メンバーを見てみると『MASANORI』と『龍哉』と『美奈』と『yuka』だった。
…このユカって子はまだ知らない子だなと思いながら
僕「おん、遅れないよ」
と返信を入れる。
そしてスマホを置き、ベッドに寝転がる。
このまま記憶無い状態で…大丈夫かな。
そう思いながらボーっとしてるとスマホから着信が鳴った。
画面を見ると『非通知』だった。