第三十話「日常」
全ての元凶は…。僕は全て分かった。何もかも理解した。
「まさか、お前だったとはな…。」
風がなびく中、僕の後ろにいたのは、
「雪娘!」
そう、雪娘が全ての元凶。この事件が起きたのも。
「なんで分かったの?」
黒いオーラをまとった雪娘がニヤリと笑いながら聞いた。
「またオーラか…。…まず僕の記憶だ。無くなってた理由だ。たとえバカでも階段を転げ落ちるなんてことはない。そう、つまづかせたのはお前だ。」
「へえ、どういう推理?」
雪娘はまだ余裕な顔をしていた。
「おかしいと思ったんだ。記憶のなかった雪娘がこの学校の…この扉の隣に隠し扉があった事を知っていたのがな。おそらく記憶のあった今のお前が知ってたから本能的に分かったんだろうな。」
「…でもおかしくない?今の私はここにいる。そ、あなたの話してる記憶のない私は過去の私。でしょ?」
少し焦っているようにも感じる口調になっていた。
「いいや、違うな。記憶がなくなってから記憶が復活することは無かった。…死んだからな。」
「え…?!」
初めてこの雪娘が驚いたような顔をした。そりゃ知らないもんな。…僕しか。
「そして、記憶を持つ過去のお前は、過去を行き来できる石が消えかかっていることに気づいた。僕が壊したから過去にも影響してきたんだ。それで、石を手に入れた今のこの世界線で異変が起きたと思い、ここへ来た。どうだ、当たってるだろ。」
「なるほど壊したのね…。」
雪娘は驚いた顔のまま黙り込んでしまった。
「つまり、お前の元いた世界線は今ここから。お前はネットで見つけた記事を見て、そして、お前はそれを持っていた僕を殺して、その石を手に入れた。この石が過去に戻れることを知ってたお前はそれを使って、告白をしに行った僕を振られさせるために、ここで待ち伏せしてつまづかせた。」
「だから何?あんたみたいなやつは振られるはずでしょ?わざわざこんな事しなくていいでしょ。」
気を取り直したかのように話し始めたが、もう負けは確定してる。
「違う、逆だ。僕が振られるためじゃない。美奈がチヤホヤされるのが嫌だから、美奈に近寄る男を振らせるために。」
「…。」
また黙り込んだ。
「ここから話すのはお前じゃない。記憶をなくしたお前の話だ。」
全て記憶のない雪娘から聞いたことを話すことにした。
「記憶のなくなったお前はどうしてなくなったか、まず、お前はこのあと再び僕から石を手に入れ、次は僕じゃない、美奈自身を狙うんだ。だが過去に戻り、美奈を階段から突き落とそうとするが、とある人に全てはばかられてしまうんだ。」
「……誰よ。」
興味を少し持ったかのようにチラリとこっちを見て聞いてきた。
「…僕だ。」
「なっ…?!」
「僕が景許先生から逃げようとしてぶつかって、美奈じゃなくお前が記憶を無くすんだ。」
なんで最初、記憶のない時に雪娘と会った時に景許先生から逃げることが出来たのか思い出した。
元々怒られることが多く、逃げることが上手くなっていたんだ。
「…そして記憶のないお前を責任感じて僕が看病。起きたお前にごめんと謝り連絡先を教えて僕は告白しに向かった。その後に僕が今のお前に記憶を無くされたところに繋がる。」
難しい話になってるのは自分でも分かるがこれだけ複雑だったからこそ黒幕にたどり着きづらかった。
「長々とご苦労さま。それで?その話聞く限り私が勝つ世界線しかなさそうだけど?」
「…いいや、僕の勝つ世界線が実はあるんだよ。」
そう、その世界線。それは…。
僕は思い切り石のお守りを単尾川へ放り投げた。
「諦めろ。ないものはないんだ…。おとなしく引け!」
「でも!こんなんで引くなんて嫌よ!」
雪娘は走って屋上から川へ飛び込んだ。
…もちろん、助かるわけない。
「…ごめんな。壊したってのは嘘だ。雪娘が最初に持ってた石を川に投げる世界線にすることでお前が使ってる石は消えかかるのは分かっていたんだ。…ちゃんと僕の石は死守してるさ。…あ、そうだ、あの記事書いたか聞くの忘れたな…、ま、いいか。」
…今思えば死んでしまった雪娘は全て思い出してたけど言いたくなかったんだな。僕を殺して石を奪う人が自分だってことを…。
そして僕は再び石を握り祈った。
これで全部、記憶も歴史も元に戻る。
―気がつくといつもの教室だった。
「何寝てんだよ~。」
正憲が小声で話しかけてくる。
「寝てねぇよ~。」
「そこ!うるさい!」
景許先生に大声で怒られ、身体が縮こまる。
そして放課後。僕は美奈を呼び出すことはしなかった。振られることは分かっていたからもう少し好感度を上げることにしたんだ。
正憲が肩を引き寄せてくる。
「うしっ!帰ろうぜ~!」
「おう。」
カバンを背負って一緒に下駄箱へ向かう。そう、いつも通り。
ふわっと一階の廊下で女の子とすれ違った。
「…。」
僕はそこで立ち止まって振り返る。
「おい、何してんだよ?帰るぞ?」
「…おう!」
僕は元気よく正憲が待つ下駄箱へ向かった。




