第三話「天命」
カバンを椅子にかけた時、扉が開いた。
「雄翔。ご飯。」
少し背の高い女性が入ってきた。でも見るからにお母さんというわけではなく、高校生くらい。おそらくお姉ちゃんだろう。
「あ、分かった。」
お姉ちゃんはすっとうなづいて1階に降りていく。僕は少しだけ部屋を一周見渡してから降りていった。
リビングに行くと食卓にご飯が3人分、そしてご飯を盛り付けているお姉ちゃん、あとソファでテレビを見てる妹…ももがいた。
「ね、お兄ちゃん、最近物騒だから気をつけなよ?」
テレビを見ながらももがそう言った。
テレビに視線を向けると衝撃が走った。
『速報!刑事1名、子ども2名死亡。』
という文字が。
しかも映し出されていたのはあの黒い軽自動車だった。
…焦って携帯を取り出す。
正憲に電話をかけてみる。…しかし正憲は出なかった。
「…まさか…。まさか。」
「どうしたの?お兄ちゃん。」
心配してももが下から覗き込む。僕とももの様子にお姉ちゃんが気づく。
「…?」
「…くっ!」
僕はいても立っても居られなくなり外に出た。
勢いよく外に出たところまでは良いが、正憲の家が何処なのか分からなかった。でも、それどころじゃない。この不安の心をなんとかしたい。そう思っていた。
何度も電話を掛けながら近所をまわる。
歩いて帰ってるくらいだから言ったとしても徒歩30分圏内だろう。
『池田』という苗字をひたすらに探す。
探しまくるが見つからない。そして電話も全く出ない。
外に出てから何分経っただろう。時間を確認する。20:07だった。
もう既に1時間以上は経っていた。
「…はぁ…はぁ…。」
最終的に単尾川公園のブランコに乗っていた。
「…。」
何も考えないようにしたい。なぜだろう、ついさっき会ったばかりの今の僕からすれば他人のはずなのに、大事な感情があった。
「…。」
街灯が淡く僕を照らしている。ふとポケットに入れたお守りに気づく。
お守りを手に取った時、お守りを入れていた箱が地面にストンと落ちた。
すっと拾いあげようとすると箱の底に紙が貼ってあることに気がついた。
それをめくってみると文字が書いてあった。
『また戻って助けてね。美奈』
「…これ。…?」
何か思い出せそうで思い出せない。
戻って…有り得ないと思うがまさか、この貝殻のお守りが時間を戻してくれる…なんて空想的な物なわけないと思いながらも…。
そのお守りを握りしめて心臓に近付けた。
(どうか…。時間を戻してください。…。)
しかし、全く何も起こらなかった。
「…はぁ。まぁ、空想だもんな。」
絶望して地面に座り込む。
「…くそ!」
お守りを持った右手の拳を地面に叩きつける。
(守りたい…!!)
そう思った瞬間、身体が青く光った。街灯の光じゃない。まさに…。
そこから気を失った。
…何時間経っただろうか。そこは白い空間だった。
…あれ?これ、どこかで…。
「ハッ…!」
布団から起きるとそこは保健室だった。
「…同じ…?いや、さっきのは夢…?」
ベッドから降りてカーテンを開けると起きた時と変わらない保健室だった。すると扉が開いて可愛いショートカットの女の子が入ってきた。
「あ、起きた?」
全く同じ質問…。不思議に見つめていたら
「だ、大丈夫?」
「え、あー、うん。大丈夫。」
「良かった!」
あの時と同じ笑顔。そして女の子は保健室を後にしようとした。立ち止まって振り返った。
「そうだ、ゆうくん。さっきはごめんね。」
そう言って出ていった。
全く同じかと思っていたがまさかの違う部分が出てきた。
『さっきは』という言葉だ。ただその『さっき』の記憶がない。でも未来の記憶は残ったまま。時間は17:39。とりあえず、保健室から出て2年4組に急ぐ。
2年4組に行くと1人の男の子が帰ろうとしてた。正憲じゃない。
メガネをかけた男の子。
「雄翔くん、大丈夫ですか?」
じろじろと身体を見てくる。
「あ、うん。大丈夫だけど。」
「ふ、良かった。」
そう言って教室を後にした。
とりあえず、今はやる事があると思い自分のカバンを手に取り、1年1組へと走り出す。
1年1組へ行くとあの女の子がまだ居た。
やっぱりよく見ると泣いている。
「大丈夫?」
今回は勢いよく話しかける。
「え?」
「…いや、あの、泣いてるから…。」
「だ、大丈夫です。気にしないでください。」
あの時と同じ返答…。
そして女の子は涙を拭ってカバンを取り教室を後にしようとした。
「あ、待って…!」
不意にその女の子の片腕を握りしめていた。
まるで他人から見たら変態にも見えかねないような図だった。
けど、死なせる訳にはいかない。この1人が拐われたのが原因で正憲が死んだ。
…待てよ、なんで死んだと思ったんだ?死んだと分かったのは子ども2人という文字だけ。
そう思った途端だった。