第二十七話「オーラ」
ナイフを取り上げたのはいいが、少ししてから痛みが出始めて、スルッと地面にナイフが落ちる。
「…。」
もう言葉も出てこない。こんな奴に殺されてしまった二人を思うとしんどい。辛い。苦しい。
「…ゆ、雄翔くん?」
雪娘が恐る恐るこっちへと向かってくる。
幸輔は怒鳴られたのが効いたのか白目を剥いて地面に座り込んでいる。
「…雄翔くん、大丈夫?痛くないの?」
「…痛いよ。…でもそんなに気にできない。」
でも気にすることができないなんて言いつつも、自分の息の量が減ってきているのが分かった。
「…お兄…。」
じっと見つめている雪娘を見て、僕の体はすっと雪娘を抱きしめていた。
「え、あっ、ちょっと…。」
「…じっとしてて。」
…実は僕は泣いていた。…この現実の辛さや悲しみ、苦しみや痛みに耐えれなかった。
気づかれてはなかったが、気づかれなくて良かったと思っている。
こんな恥ずかしいところは雪娘に見せたくなかった。
そこら辺の考え方はお父さんと同じだな、なんて思いながら、雪娘のいい匂いに包まれていった。
「雄翔くん…。」
なんだか本当に可愛いと思う。あんな悲惨な事があってからだけど、とんでもなく癒しすぎる…。
「なあ、雪娘。僕、守れるか分からないけどさ、全力を尽くして雪娘は守ろうと思うよ。」
「…言ったでしょ、守ってくれるって。信じてるよ。」
雪娘の笑顔が暗い中輝いていた。
そして僕はスっと雪娘を離れさせて幸輔の方へ向かっていく。
「…。」
ポケットとかから石を取り出そうとする。
「オラァッ!」
かなり素早いスピードで幸輔が拳を突き上げて来た。
なんとか石は取り出せたが、結果的に拳を避けようとして石を離してしまう。
その石は落ちていき幸輔が左手でキャッチする。そして幸輔はまた黒いオーラが溢れ出し、立ち上がった。
「はぁぁ…この石は…死んでも…渡さねぇ…。」
さっきの黒いオーラよりもこのオーラは濃い…。とんでもなくヤバそうだというのは分かった。
突然、幸輔は走り出し僕に殴りかかろうとしたが、それはフェイクでナイフを取りに向かっていく。
「やべっ…!」
幸輔はナイフを地面から拾い上げた。
「石…石…。」
その言葉しか幸輔は発してなかった。どれだけ石に執着するんだとは言いたくなった。
確かにナイフを取り上げられる前にナイフをどこかにやれば良かった。けど、自分の友達、親友が死んで、もう涙が耐えきれなかったんだ。
多分、誰しもがそうだと思う。冷静に考えればそんな事思うこともないだろうけど、こんな状態で冷静でいられるはずがなかった。
「いしぃぃぃ!!!!!」
口から黒いオーラが飛び出してくる。
「!」
避けようとしたが服が少しかすってしまう。
そのかすった服は腐り始めた。
「っ!」
腐り始めた半袖パーカーを脱ぎ捨てた。
「はぁ…はぁ…。っ、なんだよあの黒いオーラ…。」
とにかく、ナイフと黒いオーラに気をつけようと思った。そして、それを雪娘に近づけないようにもしなきゃいけない。そう思った。
突然、幸輔が足を振り上げ、当たりそうになるが顔を右に避けてかわす。
「なるほどな…、黒いオーラが出てる時は全身が凶器ってことか…。」
問題なのはあの黒いオーラが出るタイミングが微妙なところだった。
「ウォォ!!!!」
叫んだタイミングで出る…のではなく、叫んで少ししてから出てくる。そして出てきた黒いオーラは触れたもの全てを腐らせるらしい。
例えば草。草に触れた黒いオーラが黒くなり溶けていく。
おそらく、肌なんかに触れてしまえば全身が腐っていくだろうと思う。
幸輔の持っているナイフの血がポタポタと地面に落ちていく。
…美奈と正憲と幸輔の血が混ざっている…。何とも恐ろしく感じてしまう。
「…はぁ、なんとか…しないと…。体力が…。」
相手の体力はまるで無限大のようだった。なんだったら幸輔は意識すらないんじゃないかと思うほどに早い動きをずっとしている。
「…?」
黒いオーラが口から出にくくなっていることに今、気づいた。
口から黒いオーラが微量にちょっとずつしか出てこない。
「…コレだ…!」
僕はそれを上手く狙うことにした。
幸輔の体がふらつき始め、黒いオーラも出にくい状態、そして僕はすぐ真横に回り込み、ナイフを奪い取って川へと蹴飛ばす。
そしてそれに気づいた幸輔がこっちを振り向くが、もう遅い。
回し蹴りで幸輔の背中を思いっきり蹴っ飛ばした。すると幸輔の口から大量の黒いオーラが飛び出した。
「…よし!」
黒いオーラは空へと高く舞っていく。
そして空の雲へとまとわりつき合成した。
「は?…なんだよ、それ…!」
雲から黒いオーラが降り注いだ。橋の下へ雪娘と逃げ込んだことによってなんとか当たらずに済んだが、大量に幸輔に当たっているのが見えた。




