第二十六話「命」
美奈が亡くなってから分かったことは…命の重さは意外と軽いということ。
こんなにも簡単に人が死ぬというのは萌守の時から改めて感じる。
そして美奈とは記憶が無い僕からしたらそんなに深い仲ってわけでもない。
けど、体、記憶の本能的なものが分かっているから。…分かっているからこんなにも…怒りが湧いてくるんだ…。
コイツだけは許せないと…。コイツをなんとしても仕留めたいと…。
でも、そんな事をしたら結局は同じ…。コイツなんかと同じになるのは嫌だった。
…………。
「正憲!!!」
…暗い中で一瞬にして、正憲がナイフで体を思い切り切られた。左上から右下にかけてかなり深い切り込みを…。
「…ぐ…はっ…。くっ…。」
地面に膝を付いて倒れ込みそうになる。
何が今の一瞬で起きたか…。もう一度、確認する。
少し前、避けることしかできなかった僕ら。
「っ!くそ…!あのナイフの速度が早すぎる!」
「…そうだ、いい作戦を思いついた!」
そして、僕の作戦は、
「死ねおらー!」
幸輔がナイフで突き刺そうとしてきたところを、僕が押さえつけて、そして手からナイフを離させ、それを蹴り飛ばして正憲に届かせる。というものだ。
「…大丈夫か?俺が押さえつけた方が力はあるぞ?」
そう言われたが、どうしてもナイフを持つと刺し殺してしまいそうで、止めるために正憲に頼んだ。
「…分かった、やってみよう。」
まず、幸輔が走り出すタイミングを伺った。
「…ふぅぅうぅ。すぅうう。」
大きな黒いオーラを口から吐いたり吸ったりしている。割と苦しそうにも感じた。
「…オラァァァァァァ!!」
素早いスピードで走り出してくる。
「今だ…!」
上手くギリギリをすり抜けて後ろに回り込み、倒して押さえつけようとした。
「…グラァァ!!」
幸輔のナイフが素早い回転をして後ろの僕に刺されそうになる。
「ふっ…くっ!!」
僕が上手く右足で回し蹴りをしたことによってナイフは少しだけ飛ばされた。
「正憲!頼んだ!」
大急ぎで正憲がナイフの方へと向かう。
「よし、取った…!!」
ナイフを取ったことを僕らに見せて伝える。
「っ!まずい…!」
押さえつけていないから幸輔が正憲へと突進していく。
「…!」
正憲がそれに気づいて幸輔と取っ組み合いになる。
「っ?!なんだ、力…強…!!」
思っている三倍は力が強かった。あっという間に正憲が押し倒される形になる。
「正憲!!!」
その瞬間、グサッという小さく鈍い音が響いた。
「…ぇ。」
正憲の上に乗っていた幸輔が横にゆっくり倒れ込んだ。そう、ナイフで幸輔を刺したのだ…。
「…雄翔…、俺…。俺…。」
ストンと美奈と幸輔の血の付いたナイフを落としてしまう。
「正憲…、大丈夫、悪くないから…!」
半泣きになってる正憲を見つめて慰める。
「あ…やばい!」
雪娘の声がした時にはもう遅かった。
「正憲!!!」
一瞬で正憲の上半身に切り込みが入る…。
地面に膝を付いて倒れそうになる。
次の瞬間、幸輔が正憲の左肩を蹴飛ばした。そのまま、川へと投げ出されてしまった。
「正憲!」
「まずい!あんな出血してる状態で水になんか入ったら…!」
段々と川が赤く染まっていく…。もちろん、辺りは夜だから全く気づく人なんていない。
もう、正憲は川から上がってくることはなかった。
「…なんで…なんでこんなに…簡単に…!!!!くそっ!!!!!」
右手の拳を地面へと叩きつける。
自分の非力さや悲しみ、怒りなどが混ざり合って、もう何も考えることが出来なくなっていた。
ただ、アイツが許せない。それだけだった。
「…クソ野郎…にひひ。」
幸輔が鼻息を荒くしてそう言った。
「…どっちがだよ…。二人も殺して…。そんなに嬉しいか?あ?」
一歩一歩、段々と幸輔との距離を詰めていく。
「にひ、そんな近く来たら…。」
幸輔がシュッと僕の真横にナイフを振った。
右手でそのナイフを握りしめて止めた。血がまた出てくる。もう痛みなんて感じない。
アニメでも痛そうとか思ったけど怒りとか混ざりすぎてたら本当に痛いと思うことが出来ない。
「…っ、は、離せ…!」
引っ張って離そうとしてくるが僕の右手が強く握りしめてナイフを逃がさない。
絶対、逃がしてはならない。許してならない。
友達を…親友を…。殺害しているのだから。
「っ…!!」
思い切りナイフを折ろうとしたが、流石にそんなに力はなかったから幸輔からナイフを取り上げた。
「?!」
素早いスピードでナイフを取り上げたから驚いた顔をして僕を見ていた。
「お前は命の重さを知らないんだ。…ここまで軽くねぇんだよ!命は!!!」
必死で真剣な顔で幸輔に向かって怒鳴った。




