第二十話「不幸の末の福音」
向こうから走ってくるのは美奈と雪娘だけ。
「正憲は?!」
「それが…!!」
先程あったことを全て話してくれた。
「…なんでヤクザがお母さんを…?!」
「分からない。けど言ってたよ、殴るだけで大金手に入るのはラッキーって。」
「…意味がわかんねぇけど、とりあえず向かおう!」
僕達は大急ぎで大陽川河川敷へと向かった。
すると正憲が地面に気絶して倒れていた。
「ふぅ、少しだけ手こずったな。ん?おい、あの女たち帰ってきたな。」
「なんか、半透明なのもいねぇか?」
「幽霊じゃね?」
ヤンキーたちが僕の存在に気がついた。
美奈と雪娘が正憲に駆け寄って正憲を抱えて逃げようとしたが、ヤンキーたちに捕まってしまう。
僕は助けようと走り出して雪娘の手を掴もうとしたが、もちろん掴めなかった。
「あっ…。」
僕だけ何も触れることもできないし暴力すら受け付けない体で皆のやられていく姿を見る以外何も出来なくて悔しかった。地面に崩れて思い切り土を握りしめる。
「なんでだよ!!…くそ…!!くそぉぉ!!!!!」
とても大きな声で叫んで地面を叩いた瞬間、あることに気がついた。
手を広げると砂がパラパラと手から落ちていった。
「コレだ…!!」
僕は急いで後ろに振り返って走り出した。
「おいおい、どうしたあの幽霊…。皆がやられるのを見れないし怖くなって逃げ出しやがったか!はは!ざまぁねぇなぁ!!!」
しかし、僕はそんな逃げようとなんてしてない。それを証明するために今度はヤンキーたちの方へ振り返った。
「…確かに手で触れることはできない。でも…物で触れることは出来る…!!!」
僕は橋の根元の下に収納されているサッカーボールを使って、思い切り蹴り飛ばした。
ヤンキーたちに鋭く向かったサッカーボールはあっという間に簡単に片手で止められてしまった。
「え。」
「中学生の蹴りなんてたかが知れてるぜ!!」
思い切り蹴り飛ばし返される。
もちろん、物に対しては接触できるため、直撃して背中から倒れてしまう。
「ぐっ…!」
「ははは!かっこわりぃ!助けようとして名案思いついたと思いきや、逆に利用して返されるなんてな!!」
「策士策に溺れるとはこの事だぁ!」
「まちげぇねぇ!」
ヤンキーたちは高笑いをして僕に再びサッカーボールを思い切りぶつける。
「ほらほらぁ!!」
何度も体にサッカーボールが打ち付けられる。
何度も…何度も…。何十回当たっただろうか。
「そら、もう動かねぇならこれがラストだ…!!」
リーダーのようなヤンキーは助走を思い切り付けて止まらずにサッカーボールを僕に向けて蹴り飛ばした。
その瞬間、何かにぶつかりサッカーボールは大きく真上にぶっ飛んだ。
そしてサッカーボールが落ちてきてそれを足で思い切り押さえ込んだ。
…その人はお父さんだった。
「ほう、そんなことを最近の若者はすんだな。おい、か弱い女や子どもをいじめてお前らは楽しいか?…なぁ、俺にもやれよ。ほら、かかって来いよ。」
お父さんは口元をニヤつかせて挑発していた。
「はっ、たかがジジイ一人だろ?!俺ら全員で行けば勝てるだろ!」
ヤンキーたちが一斉に走り出してお父さんへと殴りかかろうとした。
しかし、1人ずつお父さんは対処していき、15分後には既にヤンキー全員が倒れて動けなくなっていた。
「…おい、大丈夫か?」
僕にお父さんが話しかけてきた。
「…なんで、ここに?」
「実は帰る直前に女の子たちの声が聞こえてな。見てみたら慌ててお前を呼んでたから、一大事っぽかったから後ろから追いかけてたんだ。お前の勇姿を見届けてから俺が出てきたって訳よ。」
もっと早く出てきて欲しかったけどなと思いつつもありがたさにホッとはしていた。
「大丈夫か?君たちも。」
「はい…。なんとか。」
「お、おう、もう大丈夫だと思う。」
そしてお父さんはお母さんのそばに寄って、上体を起こした。
「…大丈夫ですか?」
「…ぁ。はい。ありがとうございます。」
なんだか二人はいい感じになっていた…。もう僕らはここに居なくても大丈夫だろうと思ってすぐさま単尾倉庫へとこっそり抜け出した。
「…あれ?…あの子たちは…。まぁいいか。」
お父さんは少し微笑んでお母さんと話をしていた。
「あの人たちを全員やっつけてくれたんですか?」
「まぁ、ええ。」
お母さんは驚きながら少し笑顔になっていた。
「あの、私、今井萌香っていいます。」
「俺は大西達雄っていうんだ。よろしくな。」
二人が握手をしたところで周りのヤンキーたちが立ち上がった。
「もう諦めろ。テメェら、地獄か刑務所しか次の選択肢は残されとらんちゅーこっちゃ!!」
お父さんはヤンキーたちにそう怒鳴りつけた。




