第十六話「リミット」
僕のポケットに入れていた石のお守りは無くなっていた。
「な、なんで?!と、止めて出会わせなきゃ…!」
「行ってくるね!」
美奈と正憲が走ってお母さんを追いかける。
透けている僕は歩いて公園を去ろうとしたお母さんに触れようとしたが、もちろん透けているから触ることは出来なかった。そのまま触れずに地面に膝をつき崩れ落ちた。
「ぁ。」
声にならないくらいの声で雪娘が僕のそばに駆け寄った。
「…大丈夫?」
「…っ。なぁ、僕はこのまま消えるのか…?」
「…。」
黙ったまま雪娘は触れられなくても、僕の手を握ってくれた。
後ろを向くと逆にお父さんがドンドン遠のいていく…。
「私たちが助けるから…。なんとしても巡り会わせるから!」
そう言って雪娘はお父さんを追いかけていく。
「あ。…。」
いなくならないでほしい。そばに居て欲しい。言いたかった。でもなんだか女の子に弱音を吐くのも恥ずかしくなってしまって黙って走り去る雪娘の背中を見つめるしかなかった。
「…くそぉ!!」
雪娘の姿が見えなくなったあと、僕は悔しさのあまり地面に拳を当てる。
「…なんで…!なんで…っ!」
拳から血が出てきた。痛みはそんなに強く感じてはなかった。おそらく麻痺してたからだ。
「…せめて最期くらい…そばに居てくれよ…。みんな…。」
いなくなった皆のことを思いながら一人で公園のベンチに座った。
「…なんで人には触れられないのに物には触れられるんだよ…。」
そう小さく呟いていた。
夕方ぐらいだったから子どもたちが楽しそうな声ではしゃいでいた。
「梨々ちゃん!帰ろ!」
「うん!」
男女の子どもが手を繋いで歩いて公園から去っていく。
それを見てふと思ったことがあった。
「雪娘…。」
今、記憶のない僕は雪娘の事を実は好きになりつつあったこと。
今はそんなことを考えるよりどうしたらこの透けている状態から戻れるか考えるべきだったが、お父さんとお母さんを会わせたところで好きにはならない可能性が大きくあった。
僕はもうどうしようもないと諦めていた。
その頃、正憲たちは
「すみません!この人見ませんでしたか?」
お母さんを探して聞き込みをしていた。
「…さぁ、見てないなぁ。」
「そうですか…。ありがとうございます。」
正憲と美奈がお辞儀をして歩き始める。
「いないね。」
「いないな…。でも最初はビックリしたよな。雄翔が透け始めて何事かと思ったら過去に原因があるって言い始めて…。」
「そうだね、初めはビックリしたよ、でもやっぱ友達だもん。失いたくないから元に戻したいよね。」
正憲は黙って頷いた。美奈が空を見上げる。
「綺麗な夕焼け…。いつまでに出会わせなきゃ行けないんだっけ?」
「12時だってさ。」
美奈がふと近くのコンビニの中の時計を見る。
「あと5時間…。」
「もう時間がねぇな。…どこ行ったんだ…?」
2人とも険しい顔をして悩んでいた。
その頃、雪娘はというと、
「はぁはぁ…。あれ?…確か…。ここら辺にいた気がしたんだけど…。あれ?!…こっちかな。」
右に曲がって走り出す。しかし、実はその手前のコンビニにお父さんは寄っていた。
雪娘は走って坂を登り始める。
「はぁ…はぁ…。っ。嘘。いない。…どこ?」
辺りをキョロキョロと見渡すが、もちろん見当たらない。
「…はぁ。疲れた…。一旦休憩。」
雪娘は近くの優雅公園のベンチに腰を落ち着かせた。
「…雄翔くんのお父さんとお母さんを会わせないと…。雄翔くん…。」
小さく呟いてゆっくりと地面を見つめていた。そこの地面には相合傘を手で書いたあとが残っていた。
「…。」
その地面にそっと雪娘、雄翔と順に書いた。
「……ダメダメ。こんなことする前に助けないと。」
手で地面に書いた文字をかき消してベンチを立ち上がって公園を後にした。
雪娘は再び聞き込みを始めた。
「すみません、この人、知りませんか?」
「…いやぁ、見たこたァねぇなぁ。それより可愛いじゃん、ねーちゃん。」
男の人は雪娘の腕を掴もうとした。
「やめてください!」
手を引っ込めて大急ぎで逃げようとする。
しかし、流石に力で勝てるはずなくて地面に押し倒されてしまう。
「おい。」
「あ?」
男の人はとある人に足を蹴り上げられた。
「ふぅ…。」
その人は正憲だった。
「大丈夫?!」
助けに来てくれたのは、美奈と正憲だった。
「良かった、大丈夫?なんともない? 」
美奈が肩を支えて心配してくれる。
「…大丈夫。ありがと。」
雪娘は足元を払い、立ち上がってから優しく微笑んでそう答えた。
「ところでお父さんは?お母さんの方は見失っちゃって。」
「実はこっちも…。申し訳ないね。」
でも皆の中で申し訳なさがあるというよりも
「「「でもやっぱ諦められないよ。」」」
同時に皆が口に出して答えていた。
その瞬間、少しだけ笑みが零れた。
「じゃ、皆で探そうよ。まだ間に合うはずだから!」
そうして三人は走り出し始めた。




