第一話「結末」
「…ろ。…い……んだ…。お………け!」
「…も!……んで……嫌…!」
…何時間経っただろう。目が覚めるとそこは白い空間だった。
「あれ…。なにしてたっけ。」
鮮明に記憶が思い出せない。
「…僕、誰…?」
なんで僕がここにいて名前もどんな人かさえ思い出せなかった。
「ぅ。頭が痛い…。」
思い出したいような思い出したくないような記憶が混雑になって思い出せない。
「…起きた?」
目を閉じて必死に思い出そうとしていたら白いカーテンが開いて女の子が顔を覗かせた。
「え、あ。えっと、うん。」
「良かった!」
その子はとても可愛らしくショートカットで優しそうな女の子だった。
「そうだ、ゆうくん。ごめんね?」
「え?」
ゆう、それが僕の名前?と聞きたいが何故か聞こうという気になれなかった。
それよりも何に対するごめんという言葉なのか気になった。
「何が…っ?」
詰まったように言葉が出てくる。
「…え?あ、いや、いいの。忘れてるならね。」
そう言って部屋を出ていった。
「…?」
今、周りを見渡してみると保健室にいると分かった。
「…記憶の中で知識だけは無くなってないのか。…。」
鏡が置いてあった。それを見ると僕は中学生くらいの背丈だった。制服…じゃなく、私服。青いTシャツの上に黒い半袖パーカー。ズボンはジーパン。
とりあえず、扉を開けて部屋の外へと出ようとした。すると部屋の外から来た人にぶつかった。
「いてっ!」
体格的に僕が負けて倒れ込んでしまう。
「おう、おおにし。もう大丈夫なのか?」
男性の大人が手を差し伸べて優しく問いかけた。
「あ、はい。」
なぜだろう、慣れてしまったのか、この人に敬語で話してしまう。
「なら良かった!んじゃ、もう放課後だから気をつけて帰れよ!」
僕をすり抜けて保健室へと入った。
どうやらあの男性は保健室の先生のようだ。
珍しいと思いながらとりあえず荷物を取りに行こうとした。
「え、待った。…教室…。どこだ?」
困ったことにこの学校の広さを窓から確認した。
…とりあえず歩いてさまよっていた。
「一学年…七クラス…一クラスあたり三十人…。こんなに多いんじゃどこが僕の席かなんて…。」
気が遠くなりそうにグルグルしていたら、1年1組で窓から悲しそうに見つめる女の子がいた。
「?」
よく見ると涙を流していた。
「…あ、あの!」
…なぜか教室に足を踏み入れていた。もうすでに引き下がれない。
「…君は?」
名前を聞かれるが全く分からない自分は答えることが出来ない…!どうしようと迷いかけた時だった。
「おー、ゆうと!こんなとこにいたのか!探したんだよー!」
背後から男子の声がした。振り返るといかにもやんちゃそうな男の子だった。
「早く帰…ん?あ、後輩の子?…泣いてんじゃん。大丈夫か?」
やんちゃそうな割に優しかった。
「だ、大丈夫です。気にしないでください。」
女の子は涙を拭ってカバンを手に取り教室を後にした。
「…なんだ?お前、泣かしたんじゃないだろうな?」
「い、いや、そんな訳ないよ。」
「まぁ、いいか!とりあえず、教室戻っぞ。カバン取りにな。」
ということでやんちゃそうな男子に付いていった。
どうやらクラスは2年4組らしい。
「ほいよ。」
カバンを投げつけてくれたが、咄嗟に机の場所を確認し、前に貼ってあった座席表を確認する。
『大西 雄翔』と書いてあった。
「何してんだ?てか、良かったな!席替えが神すぎたよなぁ!オレが前で後ろがりゅうや…そして隣がお前が好きなみなちゃんで!」
再び座席表に目をやると前の席の名前が『池田 正憲』、後ろの席が『緋高 龍哉』、隣の席が『咲守 美奈』。
「咲守美奈…。」
少しだけまた頭痛がした。
「とりあえず、帰ろうぜ。」
正憲の言葉通りにとりあえず帰ることにする。
「いやぁ、本当に探すの苦労したぜ?まず、先生に聞いて、そっから保健室行ったらいないしさー。」
それを聞きながら靴を履き替えていた。
「まー、見つかって良かったけどさ。」
玄関から外へ出た時、校門でさっきの女の子が立ち尽くしていた。
「あ、さっきの子じゃん。…何してんだ?」
しばらく見ているとその女の子の前に黒い車が止まった。
その瞬間、中から黒い格好した髭を生やした男性が女の子を無理やり車に連れ込んだ。
「!おい!あれ!」
「まずい…!」
どうしたらいいか分からないが、とりあえず走り出して車を追おうとした。しかし、それに追いつけるはずもなく、見失ってしまう。
「…はぁはぁ…。っ。どこ行ったんだ…!」
正憲が持っていた体操着袋を地面に叩きつけた。
どうやら正憲は正義感が強いようで…いや、人に優しい…。と言った方が正しい。
「…てか、何番だった?!番号ちょっと見れてなかったんだけど!」
少し息を荒らげながら言った。
「ううん、番号は見てなかったや。」
僕は正直に見てなかったと言った。
「…はぁ。んん!!っそ、なんで!」
…なんでこうなったかは分からないし、こうなる事さえ分からなかった。
「…とにかく、先生に…!」
その時、携帯が鳴り響いた。