雷様
昔々、長い間雨が降らなかった時がありました。作物は枯れ、川も干上がり、海も小さく水溜りの様になってしまいました。
やがて、食べる物も、飲む水もなくなってしまった人々や動物達は、争いを始めました。争いで生き物達は、どんどん死んでいきました。
人々は雨乞いも行いました。しかし、人々がいくらお願いをしても、神様にその声が届くことはありませんでした。
「最近は人間も少なくなったな」
ある日、頭に角を生やした大男が、人里にやってきました。彼に気がついた村人が言いました。
「鬼さんや、もう私達は水も食べ物もなく、人は毎日たくさん死んでしまっています。もう誰もあなたを恐れれたり、戦いを挑もうとする元気の残っている人間はいません」
すると、大男は首を横に振ると言いました。
「俺は鬼ではない。雷様と呼ばれている雷雲の住人だ。あんな野蛮な者と一緒にしないでほしい」
「それはすみません。しかし、なぜ雷様が下界におられるのですか?」
村人が聞くと、雷様は落ち込んだ顔をしました。
「長い間、雨が降らない。雨が降らなきゃ、雷も鳴らせられない。俺は長い間、退屈をしているのだ」
「雷様は雨を降らせることはできないのですか?」
「できない。それは神の仕事だ」
「困りましたね」
「お互い、困ったな」
雷様が眉毛を下げて言いました。村人は雷様に言いました。
「雷様、神様に雨を降らせるようにお願いできないのですか?」
「神に雨の降らせ方を教えたのは、この俺だ。頼む事はできる。しかし、あの頑固な神だ。恐らくテコでも動かないだろう」
雷様が言うと、村人は考えました。しばらくして、村人は手を叩きました。
「いい考えを思いついた! 雷様、この方法はできますか?」
村人の話を聞いた雷様は、考えました。もしかしたら、神様を怒らせて雷様が酷い目にあってしまうかもしれないのです。しかし、村人の熱意に負けて、雷様は首を縦に振りました。
数日後、雷様は下界のお酒をお土産に持って、神様のいる雲に行きました。
「残念ですが、それは聞けない願いです」
神様は、雷様の話した村人の願いを聞いて、答えました。
「なぜだ? 下界の願いを聞くのが神の務めだろう?」
神様は首を横に振りました。
「それは昔の話です。下界を見て御覧なさい。水が少なくなった時、助け合う事もせず、人々は自分の水をたくさん手に入れようと、争っていました。水が少なくなったからではなく、昔から私が喜ぶと勝手な事を言って、人々は争いを続け、多くの国が滅びてきました。そんな下界の願いを聞く事が、私は嫌になった。そして、私は一度下界を作り直したいのです」
「それで雨を降らさないのか?」
神様は静かに頷き、お土産のお酒を飲みました。
神様はなんと、下界を滅ぼそうと考えていたのです。しかし、雷様は神様の答えを予想していました。
「やはりそういう事か。……神、許しせ!」
雷様は太鼓を鳴らし始めました。
「何を始めるつもりですか?」
神様は聞きました。しかし、雷様は答えません。太鼓がゴロゴロと音を立てます。次第に、神様の様子がおかしくなってきました。
「うっ、うっ、うっ……。なんでだろう、聞きなれた雷様の太鼓の音なのに……。怖くなってきた」
神様の話し方が、だんだん子ども様になってきました。
「少し、この太鼓に工夫をしたんだ」
雷様は更に激しく太鼓を鳴らします。
ゴロゴロ。ピカーッ! ゴロゴロ。ピカーッ!
太鼓の音だけではなく、雷も光り始めました。
「神、ヘソを隠さなくてもいいのか?」
雷様は頭を抱えている神様に言いました。神様は慌てて、おヘソを両手でおさえ、ブルブルと震えています。
ゴロゴロ。ピカーッ! ゴロゴロ。ピカーッ!
「ひぃー」
神様は、目頭に涙を浮かべました。
雷様は、一番大きな雷を鳴らしてみせました。
ゴロゴロッ、ピッカァーッ!
「うわぁあ~ん!」
神様は、神様だとは思えないような、子どもが泣くかのように、号泣してしまいました。
それを見て雷様は太鼓をならすのを、やめました。雷も一緒になくなりました。
ボロボロと涙を流して、神様は言いました。
「雷様、よくも僕を怖がらせたな! お前は下界に落ちてしまえ!」
神様は怒って、雷様を雲から落としてしまいました。
しかし、雷様は笑っていました。神様は気がつきました。
雷様が落ちていった下界は、雨になっていたのです。神様が流した涙が雨となって、下界に降り注いでいるのです。
下界の人々は、大喜びです。そして、落ちてきた雷様を助けています。助けられた雷様は、その手には雷を起こす太鼓が握られていました。
降り注いだ雨は、大きな水溜りとなり、それは海になりました。雷様はその海の神様になり、海の水が涸れない様に見守る事にしました。
「神の所に、新しい太鼓と雷様が来たらしい」
「しかし、神様はあなたとその太鼓を恐れております。もう雨を降らす事をやめないでしょう」
小船に乗った村人は海神となった雷様に言いました。海神様の手には、矛に形を変えている太鼓が握られています。
「しかし、あの薬は一時的なものだ」
「それを神様は知りません。神様はきっとその太鼓の音が、怖いのだと思っていますよ」
村人は言いました。本当は、神様に飲ませたお酒に、子どもの様になってしまう薬を混ぜていたのです。
海神様と村人は、雲を見上げてしめしめと笑いました。
今日もどこかで神様は、雨を降らせています。
【おわり】
※サイト掲載当時のあとがきをそのまま転載しています。
元々三題噺として原稿用紙に書いた作品を修正したものです。
最初は他と同様にブログに公開していたのですが、何となく気に入った作品でしたので、イラストを描いて絵本風にしてみました。
なんにしても、来年以降のサイト運営の方針を見つける為の模索で行った試験的作品の一つです。
本当は漢字もひらがなに変換してしまおうと思ったのですが、パソコンだとフォントサイズで、携帯だと画面の大きさで、読みにくいとわかったので、今回は一旦元のテキストにイラストを挿したというものです。
その為、読んでいてこの漢字はひらがなの方がいいなぁという箇所がありましたらご連絡下さい。
実はまだ書き溜めている三題噺がありますので、今後のサイト運営の模索も兼ねて、バリエーションを変えて公開していこうかと思っています。
好評でしたら、今後もこういう形式の作品を書いてみようと思いますので、ご意見ご感想がございましたら、どしどしお寄せ下さい。
ではでは☆
2010.2.25 Utase