EX. クラウディアダイアリー~双子が来てからの変化~
本日の出来事その一。手紙を書きましたわ。
宛先は民衆派の派閥関係で、特に親しくしておきたい方々へ。
主な内容は情報交換と、ウォーカー商会が店頭へ卸さない高級グレードの美容品の斡旋販売、それからお菓子の優先販売など。
わたくしの文通相手は当然女性ですから、この二種の購入希望が多く寄せられます。ちなみに旦那様には魔物肉の燻製の購入希望が多く寄せられています。
販売元のウォーカー商会の店頭では通常グレードですら入手困難な今の状態、どうあっても入手したいみなさまは、なんとかわたくしから紹介を得ようと、大変有益な情報をくださいます。
リインフォース子爵夫人として、リインフォース家に最大の利益となるようにしませんとね。
しかしご褒美にも限りがありますわ。わたくしはウォーカー商会から貰った生産報告書を見ながら、誰に、何を、どれだけ販売するか決めていきます。
そのウォーカー商会では、シズクちゃんの作った高級グレードの在庫がだいぶ減ってきています。そろそろ補充をお願いしたいところですね。
ティナも頑張っているけれど、店頭に並べられるような納得のいく品質になるにはもう少しかかりそうかしら。
ちなみに美容品の、特に高級グレードの販売はシズクちゃんかアオイちゃんの許可、もしくはわたくしの紹介が無いと買えないようにしています。シズクちゃんとアオイちゃんの許可を得るのが最短最速で入手出来るルートですけれど、許可を得ているのはメアリー・ノーヒハウゼン様ただ一人。
冬の社交では、二人はこの件でとても大変になるでしょうね。義母として、サポートしてあげないといけないわ。
◇
今日の出来事その二。手紙を書きましたわ。
宛先は他派閥の方で、特に親しくしておきたい方々へ。
こちらも、民衆派の方々同様に美容品の購入希望の手紙が多いわね。手紙全体の七割ってところかしら。残り二割が情報収集で、最後の一割が遠回しの罵詈雑言なのかお茶会への招待なのかよく分からない手紙。暇なのかしら。
利益になりそうな方から優先して捌いていく。
その中で、とても悩む手紙を見つけた。
「これは……」
貴族派の侯爵家からの購入希望の手紙……。旦那様に相談した方がいいかしら、と思っていると、丁度扉を叩く音が聞こえた。
「はい」
「クラウディア、私だ。ちょっといいか? 入るぞ」
「勿論です。どうぞ」
旦那様はドアを開けてわたくしの書斎に入ってきて、執務机の前に置いてある応接セットに座る。
「他派閥の方からの手紙をどうするべきか相談したくてな、時間を貰えるか?」
「えぇ、わたくしも相談したかったのです。同じ内容で。ジェニファー、お茶を淹れてちょうだい」
「かしこまりました」
ジェニファーがお茶をいれてくれている間もわたくし達は話をする。
「私の方は魔物肉の斡旋販売だが、クラウディアは美容品か?」
「えぇ、そうです。お菓子も少々入っていますが」
「相手は?」
「今悩んでいるのは……ライゼリルド家ですね」
「そうか……」
旦那様が頭を抱えてしまった。
「それで、旦那様の方は……」
「こちらはディオン伯爵とリーメ伯爵だな」
わたくしも思わず目を閉じて、軽く俯いてしまう。
ライゼリルド家は貴族派筆頭の、いわゆる貴族派御三家。そして何よりライゼリルド侯爵はこの国の宰相を務めている。そのご夫人からのご依頼です。
ディオン家は貴族派の伯爵。資源豊かな鉱山を持ち、ディオン産の武具や装飾品は国中で人気がある。こちらは魔物肉を希望。
リーメ家は同じく伯爵家だが中立派。ただし飛耳長目と呼ばれる程情報収集に秀でており、他派閥への情報展開が非常に早い。魔物肉にご夫人とご息女の美容品も希望。
どこも売っておいて損はないけれど、単純にそれでいいのでしょうか……。
すると、ジェニファーが紅茶をわたくし達の前に置いてくれる。
それをわたくし達はお礼を言って互いに一口飲み、ソーサーを置いて旦那様が口を開く。
昔は当たり前だと思っていたけれど、すっかりシズクちゃんとアオイちゃんに染まってしまったわね。
「まず、ライゼリルド侯爵家に売らない訳にはいかないだろう。先日の魔族討伐で、リエラ達がご子息のオルフェス様にお世話になったと聞く」
「ええ」
「だが流石に貴族派御三家の筆頭だ。念のため、先にノーヒハウゼン様にお伺いを立てておこう」
「旦那様、販売して多少なり恩を売っておきたいところです。美容品ですし、ノーヒハウゼン家にはわたくしの方からアドレーヌ様にお手紙をお送りしても?」
「勿論だ、よろしく頼む」
「かしこまりました」
わたくしは頭の中のメモに内容を書いておく。
「次にディオン伯爵だが、実はこんな手紙がともに届いている」
旦那様が便箋をわたくしに渡してくる。
読んでみると……瘴気浄化のお礼……?
「タルトが、シズクとアオイと従魔契約をした一件を聞いているだろう。その時にシズクが辺りの瘴気汚染を浄化したらしいんだが、そのお礼らしい」
「なるほど。それがなぜ我が家に? 当時まだ二人は養女にしていないでしょう」
「あの二人、冒険者ギルドに報告したらさっさとディオン領を出立してしまったらしいんだ。それでディオン伯爵がお礼を言う暇が無かったらしい。その時はまだただの冒険者であったし、ギルドには身元が分かったら教えてくれと頼んでいたらしいんだが」
「そうでしたか……」
それで、我が家にお礼が来たのですね。
「だから、ディオン伯爵も我が家を悪く言うつもりは無さそうだ」
「そうですね。アドバンテージがある以上、何かあれば切ってしまえばいいだけです」
「あぁ」
じゃあディオン伯爵も少数販売という旦那様の声を聞きながら、残る一家を考える。
「ここが問題だ……リーメ伯爵家」
「えぇ。まず、売らないと言う選択は無いと思います」
「私も同意見だ。問題は」
「問題は量と品質ですね」
「あぁ。良すぎても低くても、あるいは多くても少なくても後で何か言われる」
「それも、アルメイン王国の貴族全体に」
「あぁ……」
アルメイン王国の貴族ですら詳細を知らない情報部を治めているとの噂もある。表向き貴族としての動きも、中立派という事で派閥にとらわれずに広く情報を集め、適切に広める。広め方が本当にうまく、場合によっては趨勢が大きく変わってしまう。
例えばドラヤキのレシピをリーメ家が知ったら、間違いなく広めるだろう。
この場合、我が家の稼ぎは減るかもしれないが、同じくらいの価値の名声がやってくる。どちらを取るかだが、今はまだ情報は極力隠しておきたい。
「ところで、希望の品の詳細は書いてありましたか?」
「魔物肉と美容品としか書いていないな……」
わたくしは少し悩んで旦那様に告げる。
「民衆派の伯爵家に配っている相当のものでいいかと思います。魔物肉は魔物の種類と部位で大きく味わいが変わるので、その点の注意を添えましょう。美容品は悩ましいですが高級グレードを渡しましょう」
「商会で売っているものでなくて大丈夫か?」
「自分が綺麗になるのに悪く言う女性はおりません」
「そうか。確かにな。ありがとう」
「いえ」
急ぎ手紙を書かなくては、と、紅茶を飲み干して旦那様はまた書斎に戻ってしまった。もう少し話していたかったけれど、夕食には会えるでしょう。
わたくしもアドレーヌ様に手紙を書かなくては。
◇
今日の出来事その三。手紙を書きましたわ。
特に親しい人へ。
まずはお義母様。
近況の報告と今度また遊びに行く件。アオイちゃんが新しいお菓子を用意したのでぜひ一緒に食べたいと。
後は手紙での相談。これからまた社交の季節になるので、あらかじめ民衆派や他派閥との付き合い方について。今年は特に、娘達に注目が集まるから、その対処についてを相談する。
次に友人へ。
変わりないかとか、困っていないか、とね。
勿論男爵位や子爵位の友人だけですけど。わたくし達は少しばかり手が伸ばせる様になったから。
そして最後に実家へ。
息災な事と、折を見て帰省する事。もう知っているはずですが、義娘が二人出来たた事も添えておく。
でも本当に、最近は手紙を書く事が増えたわね。これも旦那様を援護するため、リインフォース家のため。
大変だけども苦しくは無いわ。嬉しい悲鳴と言う事かしら。
さて、そうしてくれた義娘達は、今日は何をしているのかしらね。
わたくしは、少し冷めてしまった紅茶を飲みながら、窓の外に思いを馳せるのだった。
こんばんは。
2部の頃のクラウディアはきっとこんな感じかなと考えて書いてみました。
次回から3部スタートの予定です。
楽しんでいただければ幸いです。




