89. 王都でこれからの話をしよう
「つまり、誰も倒せないという事か?」
「少なくともアルメイン王国にいる人間では、現状現れた魔族を倒す事は出来ません」
ここは王宮にある謁見の間。緊張した面持ちで自身の国の王と王子、それから宰相に報告するのはオルフェス・ライゼリルド。ライゼリルド侯爵家の長男で、この国の第二騎士団の団長である。先日の魔族出現について、報告したところだった。
ちなみに、今王子に返す言葉は丁寧だが、この二人は仲がよく、プライベートではフランクに雑談をする間柄でもある。
「ふむぅ……。ただ、その中で倒せる可能性があるのが……」
「はい、リインフォース子爵の娘たちです」
一方こちらは緊張を感じさせずに王に返答する。その名をレーネ・ドルカ。ドルカ伯爵家の長女である。元々飄々とした性格ではあるが、長年にわたりアルメイン王国の守護者として王国を守ってきたドルカ家の一員という自負が、王への緊張を和らげている。
「リエラ・リインフォースと、たしか義理の娘にシズク、アオイだったな?」
レーネの言葉に反応したのは、王子のランプロス・エグマリヌス・アルメイン。この国の第一王子で、王国騎士団をまとめる団長でもある剣の使い手だ。
「左様です」
これにはオルフェスが返答する。
「オルフェス、この件は事も影響も大きなものとなるが、事実だろうな?」
「はい、父上。誇張なく申しております」
オルフェスに再度確認したのは、アルメイン王国の宰相でオルフェスの父でもあるフェルガー・ライゼリルドだ。
「倒せるか分からない強力な魔族か……」
王が呟いて考え込んでしまう。
少しの間閉じていたその目を開き、王がオルフェスに話しかける。
「国の危機かもしれないが、どうしようもない。戦力として期待出来るのかも、改めて話してみないと分からないな。第二騎士団長、すまないが三人を呼んでくれ」
「かしこまりました」
こうして、アルメイン王国の王であるグローリア・カルブンクルス・アルメインの一言で、オルフェスとレーネの謁見は終了となり、蒼たちの王宮への呼び出しが決まったのだった。
◇
「さて、これでよしっと」
フルーフェル領での戦いから帰還して数日経った午前、私たちは王都に行くための荷造りをしていた。
まぁ、いつも通り全部『ストレージ』に仕舞うんだけどね。
私とお姉ちゃん、リエラはお義母様に手伝って貰って荷物、特にドレスを確認する。
三人とも大丈夫でしょう、と合格が出た所で再びストレージに仕舞ったのが今。
これでいつ呼び出しがあっても大丈夫だと、お姉ちゃんとリエラと三人で話していたら、丁度マリーさんが手紙を持ってやってきた。
「お嬢様方、王宮からの手紙です」
「きたね。ありがとう、マリーさん」
私が受け取って、『ストレージ』からレターオープナーを取り出して封筒を開ける。
「蒼ちゃん、なんて書いてある?」
お姉ちゃんが横から私の肩に頭を乗せて、抱きつきながら覗き込んで来たので、見やすいようにちょっとだけ手紙の角度を変えて二人で読む。
えっと……。
案の定だね。要約するとリエラ、お姉ちゃん、私の三人と話がしたいと明記されている。
日付は書いていないけど、なるべく早く、とある。つまり今すぐ王宮に向けて出発しろって事かな。
「じゃ、今日出ちゃう?」
「そうね、早い方が陛下も嬉しいわよきっと!」
「嬉しいかは分からんが、さっさと済ませたいの」
「では、一旦失礼して荷物を持ってきます。リリム、あなたも」
「はい。わたしも荷物を取ってきます」
「マリー、部屋に戻る途中で旦那様にも伝えてちょうだい」
「承知しました」
こうして私たちは王宮へ行く事となった。
◇
「おかえりなさいませ」
王都の家にも置いてある標に向かって、私たちは『ワープ』をした。
すぐに私たちが移動した玄関ホールに来て出迎えてくれたのは、執事兼王都邸管理人のマークさん。
やっぱりあらかじめギルド経由でマークさんに伝えておいてよかった。突然現れたら慌てちゃうもんね。
「おかえりなさいませ! 早速お茶の準備をいたしますね」
王都邸付きのメイドのベネットさんも歓迎してくれる。
「マーク、また世話になるぞ。早速だが情報を共有しておきたい。手紙だけじゃ足りなかっただろうからな。一緒に来てくれ」
「かしこまりました」
今回ワープでリインフォース領から移動してきたのは私、お姉ちゃん、リエラ、マリーさん、リリムちゃん、そしてお義父様だ。
私たちはそのまま食堂へと移動する。
席に座ると、ベネットさんが紅茶を置いてくれる。
あ、なんか落ち着く香り。アールグレイかな。
全員にお茶が行き渡った事を確認したお義父様が口を開く。
「さて、マークたちも座ってくれ。まず、今回の経緯と目的を二人に簡単に説明する」
お義父様が簡単に今回王都に来た理由を説明する。私たちが魔族と戦った事、それで倒せない魔族が現れて逃げられた事。今後また現れる可能性があり、その説明と今後の対策を話すために王宮に呼ばれた事。まとめるとこんな感じ。
「という訳で、明日王宮へ行ってくる」
「あれ、パパも行くの?」
「あぁ、心配しているのが一番の理由だが、今後の事を私も知っておきたい」
その心配の大半はおそらくリエラに向いている。まだ無罪確定してそんなに経ってないし、王宮には誰がいるか分からない。私もちょっと心配なんだよね。
なので、それを排除するために私とお姉ちゃんも何か出来ないかな、と思って用意したのが……。
「マークさん。騎士団と魔術師団に手紙を持ってきました。届けて欲しいです」
「かしこまりました」
「それから、王宮にも連絡をお願いねぇ。明日伺いますと」
「承知しました」
手紙はオルフェスさんとレーネさんに宛てたものだけど、先日のお礼と明日参加してくれないかなーなんて希望が書いてある。
上手く行けば、万が一リエラに当たりが厳しかったとしても擁護してくれるはず。
「心配性じゃの」
「まぁね」
「礼を言うのじゃ」
「ふふ。リエラちゃんかわいい」
明日、謁見頑張るぞ。
◇
石畳の道を、馬車はゆっくりと進む。
馬車の中にはゲルハルトお義父様、リエラ、お姉ちゃん、私の四人。
御者はマークさん。マリーさんとリリムちゃんはお留守番だ。どっちみち控えの間までしか行けないしね。
二人も魔族との戦闘を経験しているから、何か不利になる事が言われないようにだけ注意しないとね。
そんな話をお姉ちゃんとしているうちに、マークさんが教えてくれる。
「まもなく着きます。ご準備を」
「はぁーい」
お姉ちゃんが返事をして、それから数分もせずに馬車は停車する。
最後に確認、今日の私のドレスは白藍色のツーピースドレス。レースをふんだんにまとったスカートはやや膨らませて、歩いた時の布の揺れが可愛く見えるようにした。一方でボディスはスッとシンプルにするようにした。お腹周りを特に締めている感じかな。鎖骨から胸元にかけてはレースで隠しているけど、私も意外とあるんですからね。
お姉ちゃんは、私のドレスに寄せて水色のツーピース。スカートはバッスルの大きく入ったロングスカート。膨らみは抑えめだけど、バッスルの布の揺れがとても綺麗で、二人で試着した時にいいねと言いまくっていた。ボディスはウェストのところを締めて、肩にフリルの付いたたパフスリーブ。胸にかけてゆったりとさせて、お腹とはアクセントを出している。
リエラは白と桃花色のドレス。私たちが一応青系だから、対極な感じだね。
こっちも桃花色のスカートはやや膨らませて、巻貝のようなトルネードには、レースがあしらわれている。肩に伸びるストラップにも同じくフリル。上は白で、フリルたっぷりのブラウスって感じかな。リエラの趣味がギリギリまで活かされた感じだ。
「準備はいいな? 開けるぞ」
「はい」
「えぇ」
「うむ」
馬車の扉を開けて、まずお義父様が降りる。
そしてリエラをエスコート。
次にお姉ちゃんが出る。
そして私が……。
「お手をどうぞ」
「え、ルークさん? あ、ありがとうございます」
びっくりした。まさかルークさんがいるとは思わなかった。と、とりあえず降りなくては、と私はルークさんが差し出してくれた手に、自分の手を置いて馬車を降りる。
先に降りたお姉ちゃんを見ると、そこにはオルフェスさんがいた。
「お、アオイっちも降りてきたね」
「レーネさん! どうして……」
「手紙をくれただろう? どのみち私たちもこの話には参加するように呼び出されていたんだ。だから、迎えにきたという訳だ」
「そうそう。実際昨日手紙をくれて助かったよ。想定より早かったからね」
オルフェスさんとレーネさんが教えてくれる。そうか、普通ワープなんて使わないから、本来ならリインフォース領から王都まで六日程かかる。
それからルークさんが説明してくれる。
「私も第一魔術師団長として呼ばれた、魔族の対応の事だからな」
「なるほど。ありがとうございます」
「ちなみに第三騎士団長と第二魔術師団長は遠征中だ」
「じゃあここに王国の主力が集まってるって事なのね。燃えるわ」
お姉ちゃんが変な事を言い出した。それ、私たちは入ってないよね?
そんな訳で、ちょっと大所帯になったけど私たちは控えの間に進む。
控えの間に入ると、メイドさんが紅茶を持ってきてくれた。
私たちはその紅茶とクッキーをつまみながら、いくつか確認をする。
「オルフェス、まず聞いておきたいのは、何を話した?」
先手を切ったのはリエラだ。そうそう、絶対に報告をしているはずだから、それは気になるよね。
「あぁ、先日の出来事を全てだ。だが、そなたらに伝えておかなければならないのは、現状この国であの魔族を倒せる可能性があるのはそなたら三人だけだという話をした、という事だ」
「なるほどのぅ」
「ライゼリルド様、うちの娘たちはそこまで……」
お義父様のその発言に答えたのは、オルフェスさんではなくレーネさんだ。
「リインフォース子爵、魔術的な能力については私とルークで話したけど、魔力量、運用速度、威力、どれをとってもこの国ではずば抜けているね。今回の魔族騒動もそうだし、数ヶ月前のワイバーン討伐でも魔術師団の上位陣と比較してもかなりの差が出来てるよ」
「そんな訳で三人を国防に使えないか、という話が王と王子、それに宰相と魔術師団長でされているはずです」
最後にルークさんが王たちの動きを教えてくれる。
「ふむ……」
お義父様が腕を組んで唸る。
「つまり、うちの娘たちが魔術師団か何かに組み込まれると言う事ですか?」
「そうです。お察しの通り、おそらく遊撃魔術部隊の新設が発案されると思っています」
ルークさんが教えてくれる。新設の部隊……。役に立つってのは嬉しい面もあるけど、部隊にっていうのは……。
「それが嫌で抜けたんじゃがのぅ……」
「雫もごめんねぇ……」
「私も縛りつけられるのはあんまり……」
私たちが三者三様に、だけど同じ拒否を言った事から話が進まなくなり、沈黙が訪れる。
しかしその沈黙を破ったのはお義父様だ。
「よし分かった。リエラ、シズク、アオイ、家の事は気にするな。自由に話せ」
「「え?」」
そこで陛下の執事が入ってきて、陛下たちの準備が整った事が伝えられる。
待たせる事は当然出来ないので、私たちは最後にお義父様が言った事を深く話せずに、そのまま謁見の間へと進むのだった。
◇
謁見の間に入ると、玉座のそばで二人の男性が立っていた。
私が誰だろうと思っていると、オルフェスさんが「左にいるのが宰相だ。私の父でもある。右が魔術師団長だ」と教えてくれた。たしかに、宰相はスッとした顔立ちがちょっと似ていると思った。一方で魔術師団長は小柄なお爺さんだね。
玉座の前で私たちは首を垂れる。
「アルメイン陛下のお成りである」
宰相様のうるさいと感じさせない威厳のある声が響く。
やがてコツ、コツ、と足音がして、その音の違いと数から、三人歩いてくるのが分かった。
一人は勿論陛下。それからおそらく第一王子。後一人は誰だろう?
考えているうちにそのうち一人から服の擦れる音がして、椅子に座ったのだと分かる。
「顔を上げよ」
正面から陛下の声がして、私たちは顔を上げて前を見る。左から宰相、第一王子、陛下、その右は……どこかで見た事があるんだけど、でもそんなはずないし……。そして更ににその右に魔術師団長。
「久しぶりだな。リインフォースの娘たちよ」
「陛下、お久しぶりでございますわ」
お姉ちゃんが代表して答える。
「まず初対面の者がいるな? 自己紹介から始めよう」
そう言って陛下が私たちの方を見て頷く。
「では失礼して……リインフォース家の次女、シズク・ハセガワ・リインフォースですわ」
「三女のアオイ・ハセガワ・リインフォースです」
私とお姉ちゃんが自己紹介してカーテシーをすると、それを見て左にいる宰相が口を開く。
「フェルガー・ライゼリルドだ。息子が世話になったようで、礼を言う」
「私どもも助けていただきましたので」
「それから……」
陛下が、私たちから見て右にいる長髪の男性に向く。
「トリスタン・レヴァンティンです。第一騎士団長を拝命しています」
あ、分かった! 市場で見た『踊るトリスタン人形』だ! この人がモデルだったのか……。
私とお姉ちゃんはカーテシーを返す。
トリスタン様の右隣にいる魔術師団長が、最後に私たちに自己紹介する。
「テオレ・マギアだ。魔術師団長を拝命しておる。前線は退いておるがな。ところで複合魔術というものを使ったのはぬしらか?」
突然の質問にびっくりする。しかし複合魔術か、確かにワイバーン戦の時にも使ったね。私が答える。
「左様です。何ヶ月か前のワイバーン戦でも、今回の戦いでも私と姉ともに使いました」
「見せて貰えるか?」
「えっと……」
チラリと陛下を見ると、呆れた顔をしてこっちを見てきた。この人あれだ。魔術ジャンキーだ。
「余も確認したい。面倒でなければ見せてくれ」
「「かしこまりました」」
立ち上がって、左右にずれてお姉ちゃんと少し距離を取り、互いに魔術を詠唱する。
「では、私が風属性と水属性の複合魔術を唱えます。お姉ちゃんは聖属性に聖属性を重ねて防御して貰います」
私は言った通りに風属性と水属性。お姉ちゃんは聖属性に聖属性を重ねる。魔力はとにかく弱めに。
『アイギス』
お姉ちゃんが防壁を張る。
「蒼ちゃん、いいわよぅ」
「分かった」
私はお姉ちゃんに向けて魔術を発動する。
『スプラッシュボール』
水飛沫はまるで散弾の様にお姉ちゃんに向かって飛んでいく。勿論、全てアイギスに防がれてお姉ちゃんに当たる事はない。
私は再びテオレ様の方を向き、話す。
「これが複合魔術です」
「なるほど……ウォーターボールをウィンドボールで押し出しているんだな。威力が強くて水が散弾の様になっている。そしてバリアは、魔力と物理の複合か。どうやるのかは……そうか、魔術陣の拡張か……。ふむぅ、リエラ、おぬし隠しておったな?」
「テオレ様。わしは論文を提出しました。おそらくランプロス殿下との問題の際に有耶無耶にされて握り潰されたのでしょう」
「そうか、再び書いて提出して貰えるか?」
「かしこまりました。ルークかレーネに提出しておきます」
「頼むぞ」
リエラが珍しく礼儀正しい。
「これでこの国の魔術がまた少し発展する。礼を言うぞ。さて、余とランプロスは先日会ったからいいな。では、若い者の時間を奪うのも申し訳ない。早速だが先日の魔族襲来の件について確認したい」
「「はい」」
「フェルガー」
「はっ」
陛下に呼ばれた宰相様が、簡単に今回の出来事を説明する。私たちが何度も説明したり、聞いたりしたのと同じ内容だ。
「……以上だ。相違ないな?」
「ございません」
確認にリエラが代表して答える。
「この話と戦闘の様子を詳細にオルフェスとレーネ嬢に事前に確認した。それを陛下とランプロス様、私とマギア殿で検討したところ……」
陛下が私たちを見回しながら一呼吸おいて、フェルガー様の発言を継いで続ける。
「ぬしら三人がアルメイン王国の最高戦力となる」
だよね……。悲しいけど認めるしかない。さて、ここまではさっき話した通り。だからここからが本当の話し合いだ。
「陛下。発言をよろしいですか?」
お姉ちゃんが口を開く。
「よいぞ」
陛下の許可が出る。お姉ちゃんが話を続ける。
「魔族との戦闘は、わたくしどもの魔術だけでは戦えません。先日の戦いも、騎士団や魔術師団のみな様が前で時間を稼いでくれたからこそ、強い一撃を放って魔族の撤退という結果を得る事が出来たのです」
「それは把握している」
「ですので、最高戦力と言われましても、決して三人出て戦える訳ではございません」
「うむ。そこでだ……」
陛下が私たちを見回し、リエラを向いて話し始める。
「余とフェルガーで検討した。主ら三人を筆頭に、遊撃魔術師団を……」
「お断りします」
リエラが食い気味に断る。
すると陛下が、今度は私とお姉ちゃんを向いて話す。
「冒険者として名声は欲しくないか? Sランクへの推薦も……」
「「お断りします」」
お姉ちゃんと被った。ていうか食い気味に断っちゃった。
「貴様ら、陛下に無礼だぞ」
「よい、フェルガー」
「しかし……」
「よいと言ったぞ」
「失礼しました……」
陛下が、私たちへの宰相様の叱責を抑えてくれる。
ここかな……。
私は静かに一呼吸だけ深呼吸をして、陛下に告げる。
「陛下、私どもの考えを述べさせていただいてもよろしいでしょうか」
「うむ。申してみよ」
これは、お姉ちゃんとリエラと三人で昨日相談した事だ。
お義父様も好きに話していいって言ってたし、思い切って私たちの考えを述べよう。
私が代表して陛下たちに伝える。
「私たちは、私たちに向けてくれた笑顔を絶やしたくありません。
だから、王都でも、リインフォース領でも、他の土地でも関係なく、その人たちを守りたいです。
勿論、三人では手が足りません。優先順位もあります。私で言うと、お姉ちゃんとリエラが天秤になった時、私は迷わずお姉ちゃんを選びます。
だから……だから私たちはもっと強くなります。
もっと、もっとたくさんの人を守れるように。
でも、しがらみがあってはそれが出来ません。
今の私たちにとって、遊撃隊も、Sランク冒険者もしがらみでしかありません。
リインフォース家の養女になる前、私とお姉ちゃんは二人でやってきました。
その時に知り合った人たちを守る事も、自由だから出来た事です。
王国を守るなんて大きな事は私たちには言えません。
でも、少しでも多くの笑顔を守れるように、強くなりたいと思います。
これが、お断りする理由です」
言った。言ってしまった。でも、後悔はしていない。
そして沈黙が訪れる。
「うむぅ……」
陛下が一度唸り、深く考え込む。
そして沈黙を破る。
「……分かった」
よかった。私は胸を撫で下ろす。
しかし陛下の話はまだ続く。
「先走ったが、これとは別に魔族討伐と撃退の褒賞がある。何か欲しいものはあるか?」
私もお姉ちゃんもリエラも、特にない。話を聞いて貰えただけで御の字だ。
「ありません。話を聞いていただいた事が褒美です。それより陛下、先日お気に召していただいたお団子とは別に、新作を持ってきました」
ガタッ。
陛下が反応した。
ふっふっふー。これは私のターンが来たね。
私はストレージから新作を取り出して、陛下に見せる。
「おはぎというお菓子です」
するとリエラがこっちを見て一言。
「アオイ、それわしも知らんのじゃが……」
「昨日作ってまだ誰にも出してないからね」
私はリエラから再び陛下の方を向き、話をする。
「陛下。ティータイムにしませんか? 私とお姉ちゃんは、まだこの国の事をたくさん知りません。だから教えてください。私たちが、もっとこの国を好きになれるように」
……。
少しの沈黙を破ったのは、陛下だった。
「はっはっはっは。フェルガー、これは完敗だぞ。お前も好きだろう。リインフォース家の菓子は」
「仕方ありませんな」
陛下はベルを鳴らして、裏から現れたメイドに指示を出す。
「堅苦しい口調はなしじゃ、ティータイムにしよう」
「父上、それでは威厳が」
「お前も嫌いじゃないだろう、ランプロス」
話に混ざって、オルフェスさんが気さくにランプロス様に話しかける。
「……。少しは取り繕わせろ」
ここで、一言も喋らなかったトリスタン様が口を開く。
「しかしそれでは陛下、我々騎士団や魔術師団が頑張らねばならないと言う事ですね?」
「そうだな。魔族が攻めてくるのはいつか分からない。だが逆に考えれば時間はまだあると言う事だ。無限ではないが、やるだけの事をやろう」
「かしこまりました」
「では陛下、教師などはどうでしょうか?」
「「え?」」
魔術師団長が陛下に提案する。教師? 何を言っているんだろう、このおじいちゃんは。
「この者たちの魔術の才を在野で眠らせておくには惜しいです。魔術師団、あるいは学院の指南役として……」
確かにちょっと面白そうだけど……でもお姉ちゃんと遊ぶ時間が減るかなぁ。冒険も出来なくなるし。
「楽しそうだけどお断りしますわ。蒼ちゃんと遊ぶ時間が減ってしまいますので」
「私も、お姉ちゃんといる時間が減るので……」
「いつでも歓迎する。考えておいてくれ。それより今はお菓子だ。余はオハギが食べたい」
「かしこまりました」
私は笑顔になりながら、陛下の執事さんにおはぎを渡すのだった。
◇
陛下たちとの謁見が終わって王都の家に帰ってきて、全部済ませてお姉ちゃんと一緒の部屋でベッドに入る。
私はベッドに入った後にお姉ちゃんとする二人だけの会話が大好きだ。
お姉ちゃんも大切に思ってくれているし、今日も勿論する。
「今日も色々な事があったね」
「そうねぇ。蒼ちゃんのおはぎ、おいしかったわぁ。みんなも褒めてくれて雫も嬉しかった」
「うん。ランプロス様が、陛下のおはぎを取り上げて自分で食べてたのを見た時は笑いそうになっちゃったよ」
「宰相様は黙々と食べていたわね」
「おいしくないのかなってドキドキしてたんだけど、オルフェスさんにあれは喜んでるって教えて貰ってほっとしたよ」
「よかったわね。トリスタン様は顔も食べ方も綺麗だったわねぇ」
「お姉ちゃんが男性に興味を……」
「造形の話よ。でも本当に所作が綺麗だったわね。さすが公爵家」
「あぁ、それはそうだね。レーネさんが毎日食べたいって言ってたけど、そう言えばばアーガスさんにお餅の作り方教える約束してたんだった」
「アーガスさん、いつ会えるか分からないものねぇ。それからマギア様はお団子を食べて清々しい程に笑っていたわねぇ」
「あの人面白いけど、すぐに魔術の話になるのはちょっと大変だったね」
「そうね。でもこの国の強化は必要だものね」
そこでお姉ちゃんが少し考え込んでから話をする。
「だんだん、二人だけでっていうのも難しくなってくるかもしれないわねぇ」
「教師の話?」
「に限らず、Aランク以上の国からのお呼び出しと同じ事が、今後雫たちあるかもしれないわねぇって思って。そもそもすでに二人行動は難しいし」
「確かにね。私たちも強くならないと……」
「えぇ」
「でも……」
私は一呼吸おいて答える。
「お姉ちゃんと一緒なら大丈夫だよ」
「そうね! だからそっち行っていい!?」
「ダメ」
「えぇ……」
こうして夜は更けていく。
魔族の件も含めて、これからの事は分からないけど、強くなって、みんなを守れるように頑張ろう。
それで、お姉ちゃんと一緒にたくさん素敵な場所や楽しい事に出会えたらいいな。
第二部完。
こんばんは。
これにて二部完となります。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
まだ、続きます!
少し短編を挟んで、次は三部。
よろしくお願いします。
今回も楽しんでいただければ幸いです。




