EX. リインフォース家のお年玉
こちらの人は曜日を大切にするけど、実はあまり月を重視しない。
何となく、季節が今、冬だから十二月くらいかな、という感覚だ。
しかしそれも平民だった冒険者の時の話だ。
国や領地を管理する王宮や貴族の間では明確に月日を管理している。いわゆる暦だね。
そして十二の月が巡った頃、私たちの暮らしていた日本でいうお正月がやってくる。
「パパ、一月になったわ!」
「ん? あぁ、そうだな」
朝食のために部屋から降りてきた食堂で、お姉ちゃんがお義父様に向けて話し出した。
そして私は、定型文を心を込めて声に出す。続けてカーテシーではなくお辞儀をする。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「蒼ちゃん固いわよぅ。あけおめ! 今年もみんなよろしくねぇ!」
お姉ちゃんがダメ出ししてきて、同じく年始の挨拶をするけど、それは雑過ぎないかな?
「シズクちゃん、アオイちゃん。その挨拶は何?」
お義母様が興味津々と言った様子で私たちに尋ねてくる。
「これはねぇ、ママ、雫たちが暮らしていた日本での年初めの挨拶なのよぅ」
「年の境い目である一月一日を、一年の新たな日として大事にしていて、特別な挨拶や料理を食べるんです」
「そうなのね」
「それにやっぱり! お年玉よ! パパ、頂戴!」
「ちょっとお姉ちゃん!」
お年玉はねだるものでは無い。ましてや私たちは義理の義娘である。ちょっとどころか十二分に遠慮を覚えて欲しいけど……。
しかし耳ざとくお姉ちゃんの言葉を拾ったお義父様が、口を開く。
「オトシダマとはなんだ? 何かプレゼントをしなくてはならないのか?」
「そうなのよ! 大人が子供に小金貨百枚をあげるのがお年玉よぅ!」
「違うでしょ!!!」
私の声が食堂にこだまする。
「違うのか? 父上から小金貨を貰えると思ったのに」
お義兄様も便乗してくる。お姉ちゃんを除いた三人が私をじっと見つめてくるので、私は答える。
「年始のお祝いとして、大人が子供に金銭を渡すのをお年玉と呼んでいます。金額はお小遣い程度です」
「蒼ちゃん知らないの?」
お姉ちゃんが意味深に私に問いてくるので、私は疑問符を浮かべながらそれに反応する。
「え? どういう事?」
「大人同士はいくらあげたか、子供同士はいくら貰ったか、で熾烈な争いをするのがお年玉バトルよぅ!」
初耳なんだけど。
「バトルだと……。つまり、オトシダマの金額が比べられると……」
「そうよぅ! だから奮発しないとダメよパパ! 男爵家に負けたらなめられるわよぅ!」
「負ける訳にはいかないだろう? 父上」
「そうだな!」
お年玉を知っているのはそもそも私とお姉ちゃんだけなので、こんなバトルは発生しないし、誰か、男爵とかに話してもポカンとするだけだ。
それを話そうとしたけど、お義父様の方が口を開くのが早かった。
「ジョセフ」
「はい」
ジョセフさんが当然のように金貨の乗ったトレーを持ってきた。ちょっと待って。大金貨……。
「いや、お義父様ちょっと待って……」
「あけましておめでとう、だったか?」
「親からって事は私からもあげないとね。ジェニファー」
「はい」
続けてジェニファーさんが大金貨を乗せたトレーを持ってきた。待って……。
「さっすがパパとママ!」
「お姉ちゃん!」
ここで私の堪忍袋の緒が切れたのが自分でも分かった。
その後の記憶はあまりなく、気付いたらめちゃくちゃ反省して頭を下げている家族四人に、私は大変申し訳なくなるのだった。
書き納めのつもりが年をまたいでしまいました。
今年もよろしくお願いします。
なるべく、更新できるように頑張りますので
今年も双子旅をよろしくお願いいたします。




