83. 魔族出現3
「死ね。『ダークドラム』」
ドォォンという太鼓の音とともにやってくる魔力の波。だけど、私には防げない。
しくったな。ごめん、お姉ちゃん。
「蒼ちゃん!!」
私にダークドラムの魔力が届くかどうかという刹那、お姉ちゃんが私に『アイギス』をかけてくれる。
だけどそのまま、私は闇属性の魔力の波に飲み込まれた。
真っ暗な視界の中、アイギスの魔力だけにかろうじて暖かさを感じる中、雫が私に囁きかけてくる。
『蒼ちゃんはもう、いらない』
◇
さて、わしが魔力感知で見つけた大きな魔力はこの辺りじゃが……。
この村で最も大きく見えた屋敷の方へと足を進める。
「おぉ、確かにここじゃ」
もう一度魔力感知をして、屋敷の中の状況を確かめる。確かにこの中に、おそらく首魁がいるの。
わしは魔力感知をするために止めていた足を再び動かそうとすると、屋敷の中から逞しい銀の短髪の青年が現れた。
そやつはゆっくりと佩ていたロングソードを右手で抜きながら歩いて来て、わしから十歩程の位置に立ち、話しかけてきた。
「配下の気配が少ない。貴様がやったのか?」
「うむ、おそらくわしの仲間がやったんじゃの」
「計画が狂ったな。先を越されるか……? いや、オレが残っていれば問題ないか」
「他にも仲間がおるのか?」
「今から死ぬ貴様が知る必要はない。ところで、仲間と一緒に死ななくていいのか?」
「問題ない。わしは強いからの」
「そうか、じゃあ……」
こやつの魔力が増大するのを感じる。
「お前の首をあいつらへの手向とするとしよう」
二つの魔術陣が広がり、更にこやつの魔力が増大する。
ふむ。闇魔術の並列詠唱……ダークドラムにダークランスじゃの。
「こいつを喰らって生きていた人間は皆無だ。お前も死ね」
そう言って発動したこやつの闇魔術に、わしは包まれる。
視界などの五感と四肢の感覚がなくなってくる。なるほど、この隙にダークランスでプスりかの。確かに有効じゃが……問題は……。
「……弱すぎる」
わしは三つ、魔術を発動した。
――――。
そしてこやつの後ろに立って、優しく語りかける。
「首と心臓、どちらが好みじゃ?」
「なっ……」
全く認識しておらんかったんじゃろう、慌てた様子で振り向きざまに持っていたロングソードでわしに斬りかかってくる。いや、斬りかかるつもりだったんじゃろう。
一拍置いて、こやつの首と四肢、それに心臓が地面に落ちる。そして地面に落ちた首だけが喋る。
「どう、やっ……」
わしは答える事なく、こやつを見てただ口を歪める。そしてこやつはそのうちに塵となって消えた。
「全力を出すまでもなかったの」
◇
『蒼ちゃん、嫌いよ』
これ、やっぱり何度囁かれても効くなぁ。
先程からずっとお姉ちゃんの声で、私に酷い事を囁きかけてくる。
お姉ちゃんの声音だけど、勿論お姉ちゃんじゃない。
リエラと何度もやった模擬戦で、精神修行じゃ、と何度も喰らったっけ。
ダークドラムの効果は、まずは視界の喪失。それから最も近い人間の声を模倣した精神攻撃。それに心が折れるとこの暗闇から脱出出来ず、体が硬直する。そしてそうなったらぐさりってね。
勿論この声も単なる声じゃない。闇属性の魔力そのものだから、聞こえるたびに精神を摩耗させる。
さっきから私の精神が削られないで済んでいるのは、お姉ちゃんのアイギスのおかげだ。
お姉ちゃんを信じているから、こんな事で心は折れないし、アイギスの魔力で暖かさも感じている。でも……。
「脱出手段がないんだよねぇ」
この宵闇の解除方法は外部あるいは内部から壊すか、仕掛けた術者の精神が諦めるまで耐えきるか。
後者は望み薄。前者は、まず内部は聖属性魔術が使えないから手持ちがない。だから外部から壊してくれるまで、耐えるのが正解なんだけど、この魔術に囚われると体感時間も変わっちゃうから、まだまだ耐えないとなんだよね。
だけどお姉ちゃんは急いでくれたのか、アイギスに入ったひびがまだまだ軽度で、崩れるにはまだ当分問題ないタイミングで私は空を拝む事が出来た。
お姉ちゃんも私もかなりリエラにやられたしなぁ。魔族との戦闘で私がダークドラムに取り込まれたら焦っちゃうか。悪い事したな。
まぁでも無事に空を拝めたし、私はサポートでかなり疲れが出始めているであろうお姉ちゃんに向かってお礼を言う。
「ふぅ、助かったよお姉ちゃん」
「よかったわぁ。どういたしまして」
ひびの入ったアイギスを見ながら、ギリギリだったな。と言う事は勿論隠して。これがなかったら詰んでたしね。まぁバレてるだろうけど。
さて、と。インテリ眼鏡の魔族は、驚きを隠せない表情で私に話しかけてくる。
「なぜ、なぜ脱出出来た!?」
「お姉ちゃんのおかげかな。姉妹の絆ってやつだね」
「なら先にあいつをやればいいんだな」
インテリ眼鏡の魔族が、魔力の矛先をお姉ちゃんに向ける。
だけどそんなの、私は許さない。
「お姉ちゃんを傷つけるのは許さないよ」
私は杖に魔力を集中させ、並列詠唱で土属性と風属性の魔術陣を空に描く。
土属性が超級になった事で、土と言っても多種多様の物質を扱えるようになった。地中から取れるものなら金属とか、今作り出したダイヤモンドとか。
私はダイヤモンドの刃を複数枚作り出し、極限まで薄く、そしてよく切れるように円月輪の形を作る。
それを風魔術の力で高速に動かして攻撃……!
「『ダイヤギロチン』」
私の身長くらいある大きなダイヤモンドの円月輪がいくつも飛んでいく。
インテリ眼鏡の魔族は杖で防ごうとするが、そんなのは悪手だ。
私のダイヤギロチンが杖ごと彼を真っ二つにした。
「なんなんだよ、お前らは……、くそっ。ルドルフ様、申し訳……」
最後の一人も、塵となって消えていった。
◇
消滅を確認して、私は急いでお姉ちゃんの元に走る。三局面の同時サポートに並列詠唱と、今日一番消耗しているのはお姉ちゃんだ。
「お姉ちゃん! 大丈夫!」
「蒼ちゃん! 怪我はない?」
「いや私の心配より、自分の心配してよ」
「雫は戦闘してないもの」
「でも、大変じゃなかった?」
「んー……滝上の大決戦くらいかしら」
リエラと私、マリーさん陣営。お姉ちゃん、タルト、リリムちゃん陣営で模擬戦したあれか……。
あれは確かに死闘だった……。なんて私が遠い目をしていると、遅れてマリーさんもやってくる。
「マリーちゃんも怪我はない?」
「私は大丈夫です……。それよりお疲れのところ大変申し訳ないのですが、リリムの回復をお願い出来ませんか?」
私とお姉ちゃんはマリーさんが顔を向けた方を見る。すると、地面に倒れているリリムちゃんが見えた。
「「リリムちゃん?!」」
慌てて駆け寄ると全身に火傷と裂傷を受けていて、服もボロボロ。だけど、それが些末に思えるくらい左腕は特に酷かった。間違いなく、私たちの中で一番酷い怪我を負っていて気絶しているようだった。
だけど呼吸は安定していて、命に別状はないみたい。
「リリムちゃん! リリムちゃん!」
お姉ちゃんがリリムちゃんを抱き抱えて、リリムちゃんに声をかける。
「ん……」
リリムちゃんが目を覚まして、周りを見回した後に抱き抱えているお姉ちゃんを見て言う。
「しずく、おじょうさま……」
「よかった……ごめんなさい。サポートしきれなくて……今、ヒールをするわね」
だけどリリムちゃんは首を横に振って、現れた魔術陣を見ながら泣き始めた。
「わたし、うでが、うごかなくて……もうおじょうさまのおせわが……」
リリムちゃんの言う通り、左腕がすごい火傷と裂傷でさっきから体の動きで動かそうとしているのが分かるんだけど、全く動いていないのも同時に分かってしまう。
「大丈夫よ。治すから。任せて」
「おじょうさま、ごめんなさい……」
「謝るのは雫の方。もう何も心配いらないわ。ちょっと待ってね」
お姉ちゃんが杖に魔力を集め、魔術陣に魔術語を書き始める『神聖 神秘 治療 治癒 復元 回復』……。
いや待って?
リリムちゃんが心配なのはすごく分かるよ。私だってそう。でもこの魔術語はちょっとやりすぎて……。
なんて思っていると、お姉ちゃんが私の前に左手を差し出してきた。
「蒼ちゃん……」
私はすぐに気づく。そうだ、お姉ちゃんは大変だっただけじゃない、一番魔力を消費してるんだ。私は慌ててその手を握って魔力を譲渡する。
「ありがとう、蒼ちゃん。『ディバインヒール』」
リリムちゃんの体が純白の魔力に包まれる。
みるみるうちにリリムちゃんの体の傷が治っていく。勿論、左腕も。
そして魔力の余波が、私とマリーさんをも回復させる。
「ふぅ。リリムちゃん、体はどう?」
「動きます。さっきまで全く……もう、こんな腕じゃお世話出来ないって思ってたのに……」
「ダメよ、雫にはあなたが必要です」
お姉ちゃんがピシャリと言って、それを聞いてまた泣きそうになっているリリムちゃんをお姉ちゃんが優しく抱き寄せて、ゆっくりと背中をポンポンしてやる。
本人もまだ咀嚼出来ていないのか、結局泣き出してしまって、それをみんなで宥めるのだった。
◇
リリムちゃんも着替えて落ち着いて、『ストレージ』から椅子を取り出してコップにオレンジジュースと休憩スタイル。
小休憩をしながら、さて、状況を整理しよう。まずは……。
「目的。誰か聞いた人いる? 私はーー」
まとめると、ルドルフって魔族の国を作る、か。そのルドルフと、私たちが倒した四人の魔族が実行グループで、魔物はただの兵隊って感じかな。
「おそらくリエラちゃんがそのルドルフって魔族と戦っているわね。雫たちはその部下四人ってところかしら」
お姉ちゃんも同じ結論に達したみたい。
「だろうね」
「倒したうち、三人が同じ事を言っているので間違い無いでしょう」
「魔族って他にもいるのかな?」
「分かりません……」
「わたしも、聞いていません」
「リエラは聞いてるかな。とりあえず、集合場所に行こうか」
私たちとリエラは別れる前、終わったら村の広場に集合という事にしていた。なので私たちはそこを目指す。
◇
村の広場は、噴水とかオブジェはないけど、ちょっとしたお祭りが出来る程度の広場になっていて、今はそこに四人だけ。
そして待つ事数分。リエラもやってきた。
「よしよし、無事で何よりじゃ」
「リエラお嬢様!」
「よかった。リエラも無事で何よりだよ」
「あら?」
「どうしたの、お姉ちゃん」
「リエラちゃん、何か変わった事をした?」
「戦っただけじゃが、闇魔術でも残っておるかの?」
「うーん、気のせいかしら」
「まぁよい。それより状況確認じゃ」
私たちは四人でさっきまとめた事をリエラとも共有する。
「なるほどのう。わしの方ではもう一点。あやつは『先を越されるか』と言っておった。これが蒼たちの疑問の解答になるじゃろ」
「つまり」
「他にも魔族がいるって事ねぇ」
「あんなに強いのがまだ……」
「リリム、私たちは強くならなければなりませんね」
「はい」
まだいるのか。冒険者ギルドの情報にはなかったから、これから現れるのか……それとも……。
「まぁ今考えても仕方ないの。陽も落ちるし、今日はここで泊まるかの」
リエラの一言で、私たちはここで一泊する事にしたのだった。
こんばんは。
文字数を少なくして頻度を上げるのがいいのか、前みたく1万文字程度書くのがいいのか。
悩むところではあるのですが、結局自分のペースで、自分の思う切りのいいところまで書くのがいいのかな、と思いました。
今回も楽しんでいただければ幸いです。




