80. 不穏な報せ
魔族の封印が解かれた。
神様からそう聞いて数週間が経った。
ずっと最警戒しても疲れちゃうので、私たちはあまり気にせず、相変わらずやりたい事をやっている。
今日はリインフォース領の森の奥で魔術訓練と、ついでに見回りがてらに薬草採りと魔物狩りをして今帰ってきてギルドで精算をした所。
精算カウンターの人に薬草や魔力草を査定して貰っていると、エミリーさんの大きな声が室内をこだまするのが聞こえた。
「はぁ?!」
どうしたのかと、そちらを覗くとどうやら魔術具を使って他のギルドと通信しているらしく、相手の声は聞こえない。
しかし、必死な顔をしているのは分かる。キョロキョロと辺りを見回して、私たちの姿を見ると手招きしてきた。
もしかして……。
私たちーーお姉ちゃん、リエラ、マリーさん、リリムちゃん、そして私ーーはそちらに向かうと、エミリーさんは丁度受話器を置いた所だった。リインフォース領のギルドの通信用の魔術具は、なんだか公衆電話のような形をしていて、相手の声が周りに聞こえないようになっているんだね。
「エミリーさん、もしかして……」
エミリーさんは近づいた私たちを見て頷いて、隣にいたラルフさんとともに私たちを二階の会議室に案内する。
以前入った水色を基調とした可愛さ溢れる執務室と違って、この会議室はダークブルーを基調とした落ち着いた雰囲気の部屋だった。ラルフさんの趣味かな? 部屋には暗褐色の硬そうな木で出来た長方形のテーブルがあり、その中央にはリインフォース領の地図が広げられていた。部屋の周りには調度品ではなく武具が飾ってあり、また、右側には書類棚がずらっと並んでいた。私たちは、そんな会議室に入り、ラルフさんに促されて長テーブルの長辺の左右に分かれて座る。部屋の奥の窓に近い、短辺の誕生日席にエミリーさんが座り、その隣にラルフさんが立つ。そしてラルフさんが、抱えていた国の地図を机の上に広げる。
「急にごめんなさいね。緊急事態よ」
エミリーさんが口を開いて、お姉ちゃんが更に問う。
「それは、いよいよ魔族が現れたって言う事かしら?」
一瞬、エミリーさんの息が詰まり、それから彼女は深呼吸して頷き返す。
「……そうよ」
数週間前に神様に言われた魔族の出現、いよいよだね……。
続けて、エミリーさんがさっき通信で聞いた詳細な情報を私たちに開示してくれる。
出現を確認した場所はフルーフェル領。領都から馬車で数時間程の村。その村から毎日来る品物をやり取りする馬車が来ない事に、不審に思った領都の守備隊が確認に動く。そこで、魔族を村で発見した。ただその村は壊滅していて、生存者は恐らく無し。領都軍も魔族に見つかって壊滅、一人が命からがら逃げて、何とかフルーフェル子爵に連絡する事が出来たって感じらしい。そこから王都へ連絡が行ったのが昨日。王国軍は昨日のうちに出発。遅れて冒険者ギルドに連絡が入ったのが今朝。今ギルド間の緊急連絡網で各地に連絡が行っている。
「ちなみに守備隊の情報だと、魔族は出現が確認された村に陣取っているらしいわ。今の所動いてはいないけど、いつ動くかは分からない」
「なるほど」
「それから王国軍は、領地周辺警護を主にしている第二騎士団と辺境魔物討伐を主にしている第三魔術師団が動いているわ。更にそのうちの少数精鋭が替え馬で先行していて、到着までは後三日ってところね」
三日か……あの距離を三日は早いんだろうけど、それでも遅い。その間に領都に攻め入られたら、大勢の領民の命が刈り取られてフルーフェル領が落ちる。そして、私たちがよく遊びに行くマイヤ領はその隣にある。
「触れが出るってこういう事だったのねぇ」
「全然お触れじゃないけどね」
お姉ちゃんの呟きに私も合わせて呟く。もっと違うものだと勘違いしていた。宣誓があるとかそういうの。まさか人死にが出るなんて、思ってなかった。
人ひとりの命に違いはないけれど、もしこれがリインフォース領だったら……マイヤ領だったら……、私たちに向けてくれた笑顔が消える。
顔をこわばらせていた私に、お姉ちゃんが話しかけてくる。
「ねぇ、蒼ちゃん」
お姉ちゃんがなんて言うかは分かってる。私だって、人が死ぬのはごめんだ。
「うん、分かってるよ。マイヤ領からなら……」
テーブルに置かれた地図のやや中央に見える、フルーフェルの文字。
地図の下側、つまり南側に見えるマイヤの文字を私はじっと見つめる。そして、私の目線に気づいたお姉ちゃんが、同じ方を見る。
「えぇ、二日よ」
私とお姉ちゃんはフルーフェル領に向かう決意をして、二人で頷き合ってからエミリーさんへ向く。しかし。
「危険ですお嬢様!!」
エミリーさんに私たちもすぐに向かう事を告げようとした時、マリーさんが先回りして声を上げる。
「マリーさん」
「マリーちゃん」
「既に騎士団も魔術師団も出ているのです。お嬢様方が危険を冒しに行く必要はありません」
「でも……」
「わ、私も反対します! 危険です!」
マリーさんとリリムちゃんの言う事は分かる。国がもう動いてるんだ。私たちが動く必要なんてない。
そこでリエラが口を開く。
「マリー、リリム、わしは向かうぞ」
「リエラお嬢様?!」
「二人が心配になっているのは勿論じゃが、わしも魔族が気になる。ただ、この五人で行けば早々倒れる事はないと思うのじゃよ」
少しの沈黙が流れた後、マリーさんが決断して口を開く。
「お嬢様のわがままはそうだと聞くまで続きますからね……。かしこまりました……出過ぎた真似をお許しください」
「何も悪くないよ! 心配してくれてありがとう」
「決まった?」
私たちがマリーさんとリリムちゃんをフォローしていると、エミリーさんが話しかけてきたので、エミリーさんの方を向いて頷く。
「このままマイヤ領に飛んでから、馬車を確保してフルーフェル領へ向かいます。お姉ちゃん、リエラ」
「分かっているわ」
「うむ」
「ならマイヤの冒険者ギルドに寄りなさい。馬車を用意させておくわ」
「ありがとうございます」
階下へ連絡をとりに、ラルフさんが部屋を出る。ほぼ同時に私たちは席を立って、濃い水色の魔術陣を展開する。
マリーさんとリリムちゃんがリエラの方へ寄って、その肩に手を添える。
マイヤ領の森の家はここからならほぼ西。私はそちらの方へ意識を向ける。
……。
…………。あった。
「エミリーさん、行ってきます」
「十分に気をつけるのよ」
「えぇ」
私は魔術陣に更に魔力を込めて一気に詠唱する。
『ワープ』
詠唱と同時に魔力に包まれる感覚と浮遊感。ジェットコースターの落ちる瞬間みたいなそれにも、そろそろ慣れてきた。この浮遊感が無くなったらワープは完了だ。私は目を開く。
マイヤ領の森の家だ。リエラたちは既に移動を完了していた。リエラは椅子に座っていて、リリムちゃんがコップに水を入れて渡している。そこへお姉ちゃんも現れる。
「お待たせみんな」
「待ってないけど、リエラが……」
「リエラちゃん、マリーちゃんとリリムちゃんも連れてワープするといつも座り込んでない? 大丈夫?」
「魔力放出が大きすぎるだけじゃ。数分休めば問題ないの」
「リエラちゃん、雫と蒼ちゃんにもその数人運べる方のワープの魔術語を教えてくれないかしら? 一人で二人運ぶより、二人で一人ずつ運んだ方が魔力消費が少ないと思うの」
「その通りじゃな。この件が片付いたらの」
リエラの回復を待って、すぐにマイヤの冒険者ギルドに向かう。森の家から早歩き。その間私たちは会話らしい会話をせず、ほぼ無言だった。その甲斐あってか、いつもより少しだけ早く、私たちはマイヤの領都に到着した。
門番さんへの挨拶もそこそこ、すぐに冒険者ギルドに向かう。一応身構えてたんだけど、今日は珍しく、いや、初めてお姉ちゃんが普通に、一緒にギルドの門をくぐってくれた。お姉ちゃんも緊張しているのかもしれない。
中に入ると、マイヤの冒険者ギルドは平常運転っていう感じだった。冒険者はもう依頼へ向かったのかほとんどいなかった。ただ、カウンター越しのギルド職員の人たちは少しピリピリしている感じがする。
私たちはカウンターにいるソフィアさんの元へと早足で向かう。
「ソフィアさん、こんにちは」
「アオイさん。シズクさん、ようこそ」
ソフィアさんが顔をこちらに近づけて小声で話しかけてくる。
「ギルド職員は全員現状を知っています。今は冒険者にいつ開示するか、ギルマスと上司が考えてます。それから、みなさんの事はエミリー先輩から話を伺ってます。ただ、馬車はもう準備が出来ているのですが、口が硬くて危険も辞さない御者が見つからず……」
「御者いらないです。私が出来るので」
「雫も出来るわよぅ」
「そうでしたか。では裏手に用意してありますので使ってください」
「ソフィアちゃん、利用料はいくらかしら?」
お姉ちゃんが馬車の利用料を確認する。でもこれから私たちの向かう先とか、使い方を考えたら正規の値段を支払うのは申し訳なくなってきた。だから私はこう提案する。
「万が一の時に馬車まで守れるか分かりません。まともな扱いが出来るとは思えないので、買取でお願いします」
「助かります。小金貨十枚になります」
私はかばんから小袋を取り出して、その中から小金貨を十枚取り出してカウンターに置く。
「それじゃ、行こっか」
「お気をつけて」
私たちはギルドを出て裏手に回る。
そこには項髪と尻尾の毛が白く、全身は栗毛が更に赤くなった赤毛の馬が馬車を背負ってのんびりとしていた。
私とお姉ちゃんは近づいて話しかける。
『こんにちは、私は蒼』
『私は雫よぅ。よろしくね。お名前は?』
『あなたたち、私たちの言葉が分かるの?! それなら道中楽しそう。私はロッソよ。よろしくね』
『これから、魔族が出て危なくなっている方面へ向かうんだけど、大丈夫かな?』
『大丈夫よ、これでも魔物と戦っている戦闘地帯へ乗り付けた事は何度もあるわ!』
頼もしい、まず最初の御者は私がする事を告げて、私が御者台へ。お姉ちゃんがみんなを先導して馬車へと乗り込む。
ロッソに目的地がフルーフェル領だと言う事を告げて、私は馬車を進める。
北の門から領都を出て、道なりに進む。少しして、お姉ちゃんとリエラに指示を出す。
「お姉ちゃん、強化魔術をお願い」
ロッソにも、強化魔術をかけるから驚かないでね、と告げておく。
乳白色の光が幾重にも現れて、ロッソと馬車を魔力が包み込む。
『シールド』『パワーアップ』『シールド』『ヘイスト』『プリザヴェイション』
シールドを馬車にもかけたみたいだね。それから次に黄緑色の魔術陣が馬車全体に広がる。リエラの魔術だ。
『エアイクストルード』
そして準備が整ったので私はロッソに伝える。
『とにかく急ぎたいんだ、最高速度で。疲れたらすぐに回復するから言って欲しい』
『任せて』
それを聞いたロッソが嗎き、馬車の速度がぐんぐんと上がる。最初は風を切るように襲歩で移動してくれたんだけど、中から悲鳴が上がった。振動が酷すぎて座るどころじゃないらしい。なのでロッソにお願いして駈歩にして貰った。これなら、耐えられる振動らしい。急ぎたいけど、ここで体力を使ってしまっては元も子もない。やっぱり、そのうち衝撃を吸収する機構を備えた馬車の製作が必要かなぁ。馬だけ現地調達で。
駈歩でも普通の馬車に比べたらだいぶ早いけどね。
激しい振動に揺られながら、馬車は進む。
フルーフェル領は一体どうなってるのかな……。
◇
お風呂ハウスで一泊した翌日の朝。
進みはかなり早くて、もう既にフルーフェル領には入っている。後は村まで進むだけというところ。一時間くらいかな。
お姉ちゃんがお風呂ハウスをしまうだけの野営の片付けを終え、ロッソと会話をしながら馬車を取り付ける。
『ロッソ、疲れてない?』
『過去一快適よ。あなたたちすごいのね』
『あと一時間くらいで危険域になるんだけど……』
『任せて! そこまでしっかり届けるから!』
『ありがとう、よろしくね』
ロッソも大丈夫だと言うので、私たちは馬車に乗り込む。
「蒼ちゃん、先に強化魔術をかけておくわ。この先すぐ、瘴気が濃くなるから」
「お願い、お姉ちゃん」
お姉ちゃんが昨日と同じく、乳白色の光に包まれ、幾重もの魔術陣を発動させる。
『ピュリフィケーションフィールド』
これで瘴気を防げるはず。他にも、シールドなどの強化魔術をいくつもかけて貰う。
「じゃあいくよ」
「待てアオイ、このままじゃ気づかれる」
ロッソに指示を出そうとした私を寸前で静止させ、黒色の魔術陣を馬車全体に展開するリエラ。見た事ない魔術語だな。
『サイレンス』
「これでいいじゃろ」
「リエラちゃん、何したの? なんだか音が無くなったような……」
「範囲内の立てる音を消した。魔族が出たら解除するが、声での詠唱が出来なくなるから気をつけるんじゃ」
「分かった」
「分かったわ」
私は慎重に馬車を進める。
◇
馬車がフルーフェル領都近くの村、そう、魔族が居座っているという村に着いた。
「お姉ちゃん、リエラ、魔力感知はどう?」
「今やる。シズク、薄くの」
「分かってるわ」
お姉ちゃんとリエラが魔力感知で村を探る。私じゃあそこまで出来ないし、二人の護衛かな。マリーさんとリリムちゃんも、武器を構えないまでも緊張した面持ちで周囲を警戒している。
数分して、お姉ちゃんが魔力感知を弱めた気配がした。すぐにリエラも同じように弱めたようだね。私は成果を確認する。
「お姉ちゃん、リエラ、どう?」
「魔族は五体。そのうちの一体が親玉かしら」
「恐らくの。親玉は目安じゃが騎士級と言ったところじゃの。それから……」
「えぇ、汚染された魔物が大量にいるわね」
「うむ。それで作戦じゃが、特に思いつかなかったので四人で全部倒して欲しいの。騎士級はわしが倒す」
「え、私とお姉ちゃんは名付きを倒した事があるし、その騎士級は私とお姉ちゃんで戦うのがいいんじゃ……」
「それもいいんじゃがな、マリーとリリムの戦闘経験が欲しい。わし一人だと、万が一の時の防御がぬしら二人が揃った時より弱い。その点、シズクなら問題ないからの」
「なるほどねぇ」
「確かに、これで終わりじゃないかもだしね」
「うむ。マリー、リリム」
「はい」
「はいいっ!」
「実践訓練じゃ、死ぬ気で頑張るんじゃよ」
「「はい!」」
私たちはロッソに防御魔術を大量に張り、逃げられるように馬車やロープはかけずに餌だけ置いて茂みに隠す。
『ロッソ、危なくなる前に逃げていいからね』
『大丈夫よ、またあなたたちを乗せるのを楽しみにしているわ』
装備の最終確認。まず杖。次に空間魔術で取り出せるけど、何があるか分からない。ポケットにも体力と魔力の回復薬をそれぞれしまっておく。そして強化魔術。お姉ちゃんが過剰じゃないかという量を私たちにかけていく。攻撃系も、コントロール出来るギリギリまで。
効果が現れたのを見計らって、リエラが別行動を開始する。
「気をつけるんじゃよ」
「リエラもね!」
「リエラお嬢様……」
「今回、一番大変なのはマリーとリリムじゃ。しっかり着いてくるんじゃよ」
よし、戦闘開始だ。
私たちは村のメインストリートだったであろう道を進む。
死体とか凄惨な光景が広がっているけれど、なるべく気にしないようにしながら先に進む。
前衛はマリーさんとリリムちゃんだ。
お姉ちゃんが広範囲に広げたピュリフィケーションフィールド内に、構わず飛び込んでくる知能の低い弱体化した魔物を的確に二人は狩っていく。狩り漏らしたのを私が火属性魔術の『ファイアボール』で撃ち抜いて跡形もなく消し去っていく。
とにかく数が多いから持久戦だ。まだ魔族も出てきていない。お姉ちゃんの魔力は温存出来るように、ピュリフィケーションフィールドと体力回復用のヒールだけにして貰っている。
飛び込んでくる大小様々な魔物を三十体くらい狩った頃だろうか、明らかに魔物の動きが変わってきた。
「お姉ちゃん……」
「えぇ、ピュリフィーケーションフィールドの効果に気づいたようね」
ピュリフィケーションフィールドの効果範囲外から様子を伺う魔物が明らかに増えてきた。そしてそれがどんどん増えていく。
「マリーちゃん、リリムちゃん、このまま数が増えるのは得策じゃないから、ピュリフィケーションフィールドは解除するわ。魔物が最初より一……いえ、二段階は強くなると思って頂戴。二人はこのまま前方をお願い」
「分かりました!」
「かしこまりました」
「蒼ちゃんは……」
「うん、後方を担当するよ」
「蒼ちゃん、雫からの守りが……」
「分かってる。二人を守って」
「えぇ……」
私がお姉ちゃんを見て頷くと、お姉ちゃんも一拍遅れて、納得したように頷く。
「じゃあ作戦会議はおしまい、解除するわよ」
「「はい!」」
「うん」
お姉ちゃんがピュリフィケーションフィールドを解除した途端、円周の先頭に陣取っていた魔物たちが私に向かって一斉に襲いかかってくる。
私は杖を構えて火属性の魔力を流すと、杖頭のルビーが煌めき始める。
「村をこんなにして、容赦しないよ!」
私は十重二十重と魔術陣に魔術語を紡いでいく。『火 灼熱 噴出』。語数は少ないけど、より魔力を込められる上位語句を混ぜたこの魔術。私は中央の魔物に目掛けて魔術を放つ。
『ブレイズ!』
私の身の丈程ある炎が、一直線に放たれて草木もろとも魔物を飲み込んでいく。
慌てて逃げる魔物と、呆然と立ち尽くす魔物。その明暗は炎の範囲外だったかどうかで決まったようだ。
炎が消えると、残されたのは中央にいなかった、つまり炎の範囲外だった魔物と、消し炭だけだった。
私は杖を別の方向へ向けて構え直して、自分を鼓舞するように叫ぶ。
「さて、次!」
魔物は言語を解さないはずだけど、私の言葉を聞いて一瞬怯んだような気がした。
◇
マリーちゃんがまた一体切り倒したわ。
どうやらリリムちゃんが魔物を翻弄して、隙を作り出す。そしてその隙でマリーちゃんがとどめを刺す。というのが二人のパターンで、討伐が早いみたいねぇ。一番安全みたいだけど、数を減らすに至ってないわね。雫も手を出すべきかしら。
「マリーちゃん!」
更に一体倒した直後、背後からの反応に遅れて、狼型の魔物の切り裂きを側面から受けてしまうマリーちゃん。
いけない、雫ももっと周りに気を配らないと。すぐにヒールとピューリファイをマリーちゃんに飛ばす。
「ありがとうございます。シズク様」
「ごめんねぇ」
「いえ、しかし……」
「数が多いですぅー!」
そうなのよねぇ。
「マリーちゃん、リリムちゃん、防御を優先して。少し雫が倒すわ」
「すみません……」
「雫が倒すのは左右だけよ。本来雫は後衛だから、二人は雫を守りつつ敵を倒さなきゃいけないわ」
「はい……」
「とは言っても数が多いしねぇ。二人の戦い方じゃ多数に向かないのも事実だから、ちょっとずつ頑張りましょうね」
「「はい」」
雫は左側の魔物の塊に向けて杖を構えて、魔力を杖の先に収束する。杖を纏うように、砲身を伸ばすように魔術陣をいくつか出してそれぞれに魔術語を描いていく。『聖 光線 収束 射出』。杖頭のダイヤモンドが煌めき、魔力が十分に充填された事を教えてくれる。
「それじゃ、マリーちゃんに怪我をさせる訳には行かないし、ささっと倒しちゃうわよぅ」
広範囲を巻き込むように、魔術陣をなるべく大きくして、詠唱する。
『ホーリー!』
相変わらず収束させるのが指だと苦手だけど、杖だと簡単に出来るわねぇ。雫たちが請け負った半周の左側面をほとんど巻き込むように、雫のホーリーが炸裂する。
魂を汚染された魔物たちが瞬く間に消え去り、更にあり余った魔力が、魔物たちの後ろにあった木々や建物を薙ぎ倒していく。
ホーリーによる魔力の放出が終わる頃には、左側面だけは、静寂に包まれていた。
あら……。
「やりすぎちゃったかしら?」
マリーちゃんとリリムちゃんを含め、魔物たちが呆然として動けないでいる間に雫は第二射を用意する。
「さて、次は右側ねぇ」
お久しぶりです。
お待たせしました。最新話を更新します。月一と言いつつ、全然できてないですが、目標はそれくらい・・・。
楽しんでいただければ幸いです。




