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79. ディオンに遊びに行こう2

 馬車は再び素早く進む。

 私、お姉ちゃん、リリムちゃんの三人は、ペーターさんとアンナさん、そして生まれているだろう子供に会いにディオンに向かっているところ。

 道中では大型の魔物も出てきたりしたけど、流石にディオンすぐそばのこの辺りでは、もういないと思いたい。

 ちょっとだけドキドキと警戒しながらしばらく進んで、ディオンの外壁が見えてきた。高く広がる石造りの壁だ。それに、相変わらず町としては立派な門。

 私はエアイクストルードを解除して、お姉ちゃんとリリムちゃんに町が見えてきた事を伝える。勿論、ブルーノにもね。

 門にたどり着いて、貴族の馬車だと気づいた門番さんが慇懃に礼を取りながら迎えてくれる。が、同時にびっくりもしている。御者で降りてきたのが女性だと驚くよねぇ。いるにはいるらしいんだけど、絶対数は少ないし驚くのも無理ないかな。……ドレスでなくてよかったかも。


 私は迎えてくれた門番さんのうち、一人に近づいてそのまま挨拶する。


「こんにちは」

「やぁ、嬢ちゃん。この馬車は……?」


 私は質問に答えず、代わりに紋章の入ったペンダントを取り出して、門番さんに渡す。

 このペンダントはリインフォース家の紋章が入っていて、他の貴族や門番、そして商人など貴族と関わる者には一目でリインフォース家あるいは貴族だと分かる物らしい。各地の領主一族しか所持出来ない上、王宮を通さないと製造出来ない。偽造や複製は勿論重罪。前々からお義父様が準備してくれていた。それを、出がけに私とお姉ちゃんにそれぞれ渡されたという訳。

 そんなペンダントと私を、交互に見る門番さん。


 ……。


 ……少し、見過ぎじゃないかな?

 そしてやっと門番さんが口を開く。


「嬢ちゃんはリインフォース家の使用人? 馬車の中を確認させて……」


 なんかちょっと無礼だな。まだ見習い使用人と思ったのか、それに私と言うより私の胸見てくるし……いや、ちっちゃく……ないよ!

 そんな無礼な門番に、私はちょっとイラついて、突っかかる。


「……馬車に乗っているのがリインフォース家の次女、シズク・リインフォースと、使用人のリリムです。その紋章の裏を見てください」

「裏……」


 門番さんがペンダントの裏を見る。そこには滑らかな筆記体で私の名前が彫ってある。この国の識字率は決して低くないものの読めない人間もまだ多い。しかし商人の名前や手紙を見なければいけない門番という仕事をしている以上、読めるはずだ。そしてダメ押し。


「私がそのペンダントの持ち主のアオイ・リインフォースです」


 自己紹介。身分を偽ったら重罪だからやる人間はまずいない。

 それを勿論知っている門番の顔面が蒼白になって、後ろで聞いていたもう一人の門番も同じような顔色になっていく。

 そして……。


「ししししし失礼しました!!!!」

「その謝罪、ディオン領主様に会う事があったら伝えておきますね」


 それを聞いてどこかホッとする門番さん。こいつ、反省してないな。だから私は最後の一言を告げる。


「勿論、私たちの出会いを最初から全て」


    ◇


 ペンダントを受け取った事をしっかり確認して、再び馬車に乗り込む。


「蒼ちゃん、ちょっと趣味が悪いわよぅ」

「使用人って聞く前に、貴族もいるって分かってるんだから手紙か身分証を問えばいいんだよ」


 あの門番、絶対身長と胸で判断した。許せん。

 馬車を走らせる前に、珍しく御者台に乗って待っていたお姉ちゃんにしこたま慰めてもらい、私は馬車を走らせる。

 そして、お見送りする事すら忘れて呆然としている門番を放っておいて門をくぐる。


 ディオンの町は、東西南北四方に門がある。ほぼ南から町の中心近くを通って北西に抜ける川。

 町の中心には領主邸。北西に工業区、南東に商業区。北東と南西に住民区となっている。

 初めてペーターさんたちとディオンに来た時は、西門から入ったけどさっきのは東門。丁度左手に商業区、右手に住民区があるって事だね。

 ウォーカー商会は商業区にある。前に来たからすぐに向かえるけど……。

 時刻はお昼時、食べてから行くか、一緒に食べるか……。突然にお昼も一緒にだったら大変じゃ……先触れを……って、あ!


「お姉ちゃん、私たち行くって手紙出してない!」

「思い立った日に出てきたから、出しようがなかったわね……」

「……後で一緒に謝ろうね」


 それから続けて、お昼の事を相談する。


「お姉ちゃん、このまま向かってお昼一緒に食べるでいいかな? ペーターさんたちに迷惑じゃないかな?」

「そうねぇ……。確かに迷惑かもしれないけれど、雫も一緒に食べたいわ。突撃!」

「確かに、じゃあそれも一緒に謝ろうね」


 このまま向かうね、と二人に伝えると。元気のいい返事が返ってきた。


「よろしくねぇ」

「よろしくお願いします」


 私は商業区と住民区を分ける大通りをしばらく進み、左に曲がる。そしてまた少し進むと、左手に大きな木造の商店が見えた。ここがウォーカー商会の本店だ。馬車を停める場所を聞くくらいの軽い気持ちで、馬車を商会の前に停める。すぐに出てきた男性にその事を聞こうとすると……。男性が礼をして喋り出す。


「シズク様、アオイ様ようこそいらっしゃいました。会長は奥にいます。すぐに別の者が案内しますので、どうぞ馬車を降りてお待ちください。よろしければ会長とご一緒にお昼でもいかがでしょうか? 勿論馬車は丁重に奥に停めさせていただきます」


 なんで私たちって分かったんだろう。案内してくれるのは願ったり叶ったりなので、とりあえず言われるがままに馬車を降りる私たち。

 私はブルーノに説明して御者台を飛び降りた。中からはリリムちゃんに続いてお姉ちゃんが降りると、すぐに別の女性が現れて私たちを中へ案内してくれる。

 そしてそのまま応接間へ。その女性が応接間の扉をノックすると、中から声がする。ペーターさんの声だ。

 扉が開いて、アンナさんが現れ、私と目が合う。それからお姉ちゃんを見てぱちくり。この人仕草が可愛いんだよね。そして嬉しそうに両手を合わせて話し出す。


「まぁ、従業員たちが騒がしいと思ったら、お久しぶりです。アオイさん、シズクさん」

「お久しぶりです」

「久しぶりねぇ」

「何?!」


 アンナさんの声とともに、中から叫び声も聞こえて、ゴンという木か何かにぶつかる音と、かちゃりと食器が乱暴に置かれる音がした。

 部屋の方を向いてアンナさんがたしなめる。


「あなた、はしたないですよ。失礼しました。散らかっていますが、とりあえず中へどうぞ。そちらは……」


 アンナさんがリリムちゃんを見て、尋ねてくる。


「こちらはリリムちゃん、私たちのメイドです。冒険者もやっていて、Cランクです」

「リリムと申します。えっと、故郷では小さい子供の面倒を見ていた経験もあるので、何でも聞いてください」

「ありがとうございます」


 リリムちゃんの意外な過去が唐突に語られる。


「リリムちゃんにそんな大変な過去があったなんて……雫知らなかったわ」

「私も言ってませんでした。ですが、私の故郷だと普通ですよ」

「そうなのねぇ」


 なんて会話に私とお姉ちゃんはリリムちゃんに関心する。

 そして改めて、アンナさんに勧められて私たちは中に入る。

 中に入ると、前はグレー系の落ち着いた内装だったけど、今はガラリと変わり、白い壁紙にポップな印象の絵画が数点飾られている。窓にはパステルカラーのカーテン、調度品は全くない。おそらくあえてだね。執務机も丸みのある明るい木を使っていて、その上には書類が山積していた。

 そして何より……。

 

「寝てますね」

「えぇ、さっきやっと寝ついたんですよ」


 そう答えるのは窓際に立つペーターさんだ。その隣には、寝ている赤ん坊を乗せた揺籠があった。

 ペーターさんが私たちに向かって礼をする。


「お久しぶりです。シズクさん、アオイさん。後……」

「メイドのリリムです」

「リリムさん。ようこそ、ウォーカー商会へ」


 先程と同じ自己紹介をして、同じように互いに礼をしながらペーターさんが話を続ける。


「立ち話もなんですし、お掛けください。丁度お昼です。よかったら一緒にどうですか?」

「忙しいかと思ったのですが」

「それ目当てでこの時間に来ちゃったのよぅ。勿論ご一緒させて貰うわぁ」


 アンナさんがベルを鳴らして、やってきた従業員に昼食を五人分と告げてから部屋の中をぐるりと回って、揺籠で揺られている赤ちゃんのそばへ行く。

 抱き上げるのを見ながら、紫苑色の髪をしたその赤ちゃんについて可愛いなと思いながら、私たちはペーターさんとアンナさんに尋ねる。


「名前は何ていうんですか?」

「シオン、と名付けました」

「綺麗な名前ねぇ」

「素敵です!」


 お姉ちゃんとリリムちゃんが、可愛い名前だと褒める。私もそうだと肯定する。とても華やかだよね。


「ありがとうございます」

「ペーターがすごく悩みましたからね」

「髪の色にそっくりですね」

「どういう事ですか?」


 私の一言に疑問符が浮かぶアンナさんとペーターさん。お姉ちゃんが代わりに説明してくれた。


「雫と蒼ちゃんの故郷だと、その髪の色は紫苑色っていうのよぅ」

「へぇ、それはまた偶然ですね」


 そしてアンナさんから、ペーターさんが悩み過ぎて知恵熱を出したエピソードを聞く。それを聞きながら、壁側でお茶を淹れていたアンナさんが、お茶が入りましたよ、と勧めてくれるのに従って席に座ると同時、従業員さんが昼食を運んで来てくれた。

 

 ペーターさんが窓側の席に座っていたので、私たちは壁側の席にお姉ちゃん、私、リリムちゃんの順で座る。

 アンナさんがペーターさんの隣に座って、一口飲む。それを見て私たちもいただきますと口を付けると、あの時と同じスモーキーな香り。すっかり毒見の手順に慣れてしまったけど、この味は四人で旅をしたあの時と変わらない。

 ティーカップを置くと、ペーターさんが私たちに尋ねてくる。

 

「そういえば、方々から報告は聞いてるんですが、お二人の事も伺いたいですね。お昼でも食べながら、どうでしょう?」


     ◇


 昼食が運ばれてきて、早速ペーターさんと話を始める。

 一通り話し終わって、タルトが旅をする事になった経緯を話そうとした時に突然、お姉ちゃんが。


「そうよ! 忘れてたわ!」


 と、ストレージから首飾りを取り出す。

 それを見て私もお義父様から預かっていたお祝いを思い出す。


「あ、私も預かってたの忘れてたよ」


 同じようにストレージから小包を取り出してテーブルに置く。

 不思議そうに見るペーターさんとアンナさん。全く分からないのか、私とお姉ちゃんの顔を見て説明を求めてくる。

 

「説明しますね。お姉ちゃんが取り出したのは私とお姉ちゃん、タルトからシオンちゃんへの誕生祝いです。ホワイトドラゴンのペンダントで、加護付きです」


 ぎょっとするペーターさん。アンナさんも驚いた顔をする。この二人は、これがどういうものか知っているからね。


「……加護の内容を聞いていいですか?」


 ペーターさんが心配して尋ねてくる。そりゃ愛娘に訳分かんないものつけらんないよね。

「基本的には前に渡した爪と一緒ね。鱗だから少し防御寄りよ。鱗はお母さんドラゴンと、タルトちゃんの生え替わりを使っているわ。それに雫と蒼ちゃんの魔術が編んであるわ」

「危機が迫った時に一度ずつ、お姉ちゃんか私の防御魔術が発動します」


『アイギス』か『ウィンドシールド』だけど、どちらも攻撃を防ぐ点では同じだ。


「「ありがとうございます」」


 ペーターさんとアンナさんがお礼を言ってくれる。そして、アンナさんが早速、シオンちゃんの首に付ける。

 実は私たちが話をしているさっき起きて、少しグズってアンナさんがおっぱいをあげたりしていたけど、それからは大人しく、ペンダントも全然嫌がる様子がない。


「ふふ、これがどういうものか分かってるのかしら」


 そう言う嬉しそうなアンナさんと、ホッとするペーターさん。でも、二人とも嬉しそうだ。喜んでくれたならよかった。


「そういえば、今日はタルトさんは?」


 ペーターさんが聞いてくる。


「タルトは強くなると言って旅に出ました」


 先程話そうとした事を簡単に二人に説明する。

 寂しい気持ちになってしまうので、私は少し強引に、さっさと次の話題へと移る。


「それからこっちが、お義父様からです。中身は知りません」


 タオルとかじゃない? って簡単に思ってたんだけど、何やら慌てて開けたペーターさんの様子がおかしい。

 包装の中を覗き見ると、中に入っていたのは赤ちゃん用の衣服だ。勿論最高級の。しかし驚くところはそこではないらしい。


「あら、うちの紋章が入ってるわねぇ」


 そう、リインフォース家の紋章入り。

 よく企業のロゴ入りタオルとかボールペンとかあるからそう言うもんなのかなって思ったんだけど、ペーターさんが私たちに聞いてきた。


「お二人は、他人にこれを渡すのがどういう意味かご存知ですか?」

 

 ペーターさんが聞いてくる。お義父様から聞いた事はないから違うかもしれないけど、考えてみると察しはつく。


「つまり、うちの御用達って事ですよね」

「雫と蒼ちゃんの事で、すでにそうなってるんだと思ってたけど……」

「御用達と言っても、紋章を付けていいのかどうかに違いがあるんです」


 ペーターさんの説明によると、どうやら御用達とは元々、王族や貴族が商人や職人などをお抱えにしておく事を言っていたらしい。

 ところが長い年月が経ち、ある時貴族と取引がある商会が自分たちの宣伝のために、一方的に御用達と説明するようになって定義が曖昧になったとか。

 しかしそれでは、物流や国の発展にも差し支えるとの事で、お抱えとするために御用達契約を結ぶ事も可能、としたんだって。つまり、契約のある御用達は王族や貴族でも認められているお抱えで、契約のない御用達は正式には認められていないって事だね。


「契約した場合は、お抱えにした貴族の紋章を付ける事が許されます」


 お抱えにされた商人は貴族御用達として、その貴族の紋章を付けてアピールする事で大々的に販売する事が出来る。うちの場合はどら焼きとかかな。それに、何かあった時には契約に基づいてリインフォース家が庇うし場合によっては責任も取る。協力会社とグループ会社の違いみたいな感じなのかな。違うかもしれないけど。

 長くなったけど、ようはうちの紋章入りの物を渡す事で、お義父様はうちのお抱えにするって意思を示した事になるらしい。


「はえー、全然違うんですね」


 説明を受けたリリムちゃんが関心する。


「それから、こちらです。どうぞ」


 ペーターさんが、衣服に同封された手紙を渡してくれる。ペーターさんとアンナさん宛だけど、下の方です、とペーターさんに言われて、お姉ちゃんと二人で手紙の下を読み始める。そこには、こう書いてあった。


「……よって、ウォーカー商会の承認により、ウォーカー商会はリインフォース家御用達とする。なお、リインフォース家の全責任者はシズク・リインフォース、共同責任者はアオイ・リインフォースとする」


 私たちの、名前……?


「アンナ、いいな?」

「ええ、勿論よ」

「シズクさん、アオイさん、ウォーカー商会はこの話を受けようと思います」


 私たちが理解する前に話が進んでいる気がする。


「えーっと、つまり?」

「雫がブイブイ言っていいのね」

「お姉ちゃんそんな雑な……」


 そんなお姉ちゃんの発言に笑顔になりながら、ペーターさんが要約を説明してくれる。


「つまり、今までと同じように、うちから商品を買って、好きに物を作ってください」


 なんだ、今までと一緒か、と私が安心していると、アンナさんがペーターさんの会話を引き継いで続ける。


「ただ……ウォーカー商会が儲けを出す責任を持つ事になります。例えば、お二人に行っていただきたいのはレシピの提供などになりますね」

「レシピに限らず、儲けのタネですね。付け加えると、問題があった時の面倒をみると言う事も含まれます」

「なるほど」

「つまり、ウォーカー商会に何かあったら雫が殴り込めばいいのね」

「そうです」

「あなた……。シズクさん、違いますからね」

「でも私たち、商売の経験なんてありませんよ?」

「そこは当然、ウォーカー商会が頑張るところですから、お気になさらず」


 え、じゃあどうしよう……。

 私がまだ、うーん、と唸っていると、お姉ちゃんが、どうしたの? と聞いてくる。


「お祝いにレシピ持ってきたんだけど、別に考えなきゃダメかなぁ?」


 シオンちゃんの笑い声がこだました。


    ◇


 食事が終わっても話は尽きない。

 アンナさんがレシピについて尋ねてくる。


「アオイさん、レシピについてなのですが、どんな物ですか?」

「はい、まず美容品。ティナさんには伝えていますが貴族に売った高級グレードと、男性向けの髭剃り後に付けるクリーム。それから乾燥に効くクリームのレシピです。後お菓子は、お餅を使ったお菓子と、あんこを使ったお菓子を三種ずつです」

「そんなにたくさん……」

「え? お祝いには少ないかなって思ったんですけど、道具も用意するからいいかなって妥協してしまいました」


 それから私は思い出して、聞いてみる。お義祖父様の手紙の事だ。


「そういえば義祖父、ウォルター・リインフォースから餅米の栽培に関して手紙は来ていますか?」

「えぇ、リインフォース領の支店に届いています。緊急だと支店からギルドの通信を使って私たちの方にも。対応するように指示しました。実際の栽培はリインフォース家とうちの支店と相談しながらになります。すぐ作れる物でもないですし、輸入も並行して行いますよ」

「そうですか」


 ペーターさんが続けて話す。


「フランツから報告を受けていますが、先程おっしゃっていた高級グレードの作成はまだ難しいようですね。ただ、男性用のクリームは試作品が出来たと言っていました」

「上級はしばらくかかるかもねぇ、スキルだけじゃなくて魔力量もある程度必要だから……」

「通常グレードが庶民、貴族問わず売れているので当分は問題ないそうです」

「そのうち貴族から依頼が来るかもしれないわね」


 販売会で何人か上級グレードを買った人がいるから、その人は欲しがるかもね。


「シズクさん、貴族から上級グレードの注文が来た場合、納期未定で引き受けてもよろしいですか?」

「いいわよぅ」


 お姉ちゃんが軽く引き受ける。まだストックもあったはずだし、お姉ちゃんなら作るの難しくないしね。

 

「とりあえず、ティナに任せます」

「私たちはお菓子ですね」


 美容品の責任者はティナさんだ。一方でお菓子の責任者はアンナさん。こっちは魔力がなくても出来るし、これからどれだけ作れるのか、どれだけ広がるのか期待だね。

 私は一旦話は済んだかなと思って次の話題を出す。


「今日は一点お願いがあってきました」

「なんでしょうか?」


 私はストレージから、ワープに使う標を取り出してテーブルに置く。

 ペーターさんとアンナさんが興味津々にそれを見る。


「これは標です。私とお姉ちゃんは空間属性魔術でワープというものが使えます。ワープは、標のあるところに瞬間移動出来るというものです。この標を、一つここに置いていただけないでしょうか」

「分かりました」


 はやっ。


「何かあったら、連絡をくれればすぐに移動は出来るわぁ。でもこれに魔力を補充する必要があるわね」

「はい、店員には魔力量の多い者もいるので、定期的に補充して貰います。何かあったら、連絡させてください」

「これ、リインフォース家に置いた標と連絡出来るようになっているので活用してください」

「助かります」


 こんなところかな。

 一通り話も終わって、アンナさんのお茶を飲みながら、私の持参した和菓子を食べながら雑談していたけど、そろそろ陽も落ち始めるいい時間だ。私はお姉ちゃんに声を掛ける。


「お姉ちゃん、そろそろ……」

「そうねぇ」

「時刻も夕方になったのでお暇しようと思います」

「まだまだ話し足りないけどねぇ」

「そうですね……」

「またぜひ、いらしてください」


 本日はディオンにお泊まりですか、と聞かれたので、せっかくなので泊まって帰ろうという事になった。

 なんと、マイヤで冒険者をやってた頃だったら絶対に泊まれないであろう高級宿に、ペーターさんの奢りで泊めて貰える事になった。

 

「では、先に予約させてきます。二人部屋と一人部屋でよろしいですか?」

「お二人と一緒がいいです!」


 私たちが答えるより先に、リリムちゃんが声をあげる。


「リリムちゃん?」


 お姉ちゃんがリリムちゃんに問いかける。


「あ……えっと……護衛も必要ですし……」

「リリムちゃん、本音は?」

「マリーがいなくて一人は寂しいです……」

「きたわ! リリムちゃんのデレ期よ! ペーターさん! 三人部屋でお願いね!」

「承知しました」

「いいのそれで?!」


 それからペーターさんとアンナさんにお礼を言って、三人で宿に移動する。

 おいしい夕食を食べ、豪華な部屋で三人でおしゃべりしながらあっというまに夜が更けていくのだった。

大変お待たせしました。

せめて月一にはしたい、です。。。


楽しんでいただければ幸いです。

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