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76. おじいちゃんとおばあちゃん1

 おはようございます。今朝も晴れ晴れとして、穏やかな風が吹くいい天気。この辺り、結構気候いいよね。

 今は朝食が終わってから、食堂に残ってマリーさんの紅茶をお姉ちゃんとリエラと三人で飲んでいるところ。今日はアンナさんから貰ったスモーキーな紅茶でとってもおいしい。半分くらい飲んだところで、リエラがのうのう、と話を切り出してきた。


「キミアから標を貰ったんじゃが、どこか行きたい、標を置きたい場所はあるかの?」


 標、標かぁ……。うーん、ワープしたいところだよね。

 あるにはある。二箇所くらい。それを言おうとしたところで、はい! はい! はい! とお姉ちゃんが勢いよく手を挙げた。とりあえずお姉ちゃんの希望を聞いてみようか。


「雫はディオン領のウォーカー商会に置きたいわ」

「確かに。私もそこには置きたいかな。あそこだとペーターさんとアンナさんにすぐ会えるしね」

「それに子供ちゃんも産まれてるわよ」

「! そうだね!」

「ウォーカー商会というと、このオダンゴの材料を仕入れているウォーカー商会かの?」

「そう、東方の交易船と一括契約して食材の一部を私たちに回してくれているんだ」


 そのおかげで私たちはおいしい和菓子を食べる事が出来るって訳だね。

 産まれた赤ちゃんも見たいし、行ってみるかな……。


「それでアオイは、どこか他にあるかの?」

「私? 私もディオン領なんだけど、後は、そうだね……バイゼルかな」

「バイゼルに何かあったかの?」

「魚があるよ!!!!!!!!!!!!」

「魚料理ね! 蒼ちゃん!」

「そう、あそこなら新鮮な魚も手に入るからお刺身も食べられるんじゃないかな」

「え?! お魚って生で食べられるんですか?」

「こら、リリム!」


 リリムちゃんが乗ってきた。主人の会話に混ざった事をマリーさんに怒られているけど、目がキラキラしている。というかかなり前のめりだ。私は少しのけぞりながら、リリムちゃんの話に乗る。


「お、興味ある? リリムちゃん。故郷では酢を混ぜたご飯に生の魚を乗せた寿司って料理がおいしくてね。また食べたいなぁ」

「お寿司はおいしいわよねぇ」


 お姉ちゃんと二人、遠い目をする。するとリエラが口を開く。


「そんなにか」

「そんなになんてもんじゃないんだから」

「そうよぅ」


 そして、わいわいとリリムちゃんとマリーさんも混ざって、お寿司の解説をしながらバイゼルへの移動計画を真剣に考え始めた私たち。しかしそこへ、お義父様がやってきた。


「お前たち、ここにいたか」

「はい」

「えぇ」

「うむ」


 一緒にはしゃいで計画を立てていたリリムちゃんがキリッと背後に立つ。いやそれ、もうはしゃいでる所は見られているんじゃ……。

 私たちもお義父様の方を向くと、代表してリエラが口を開く。


「それで何の用じゃ、父上」

「あぁ、今日と明日、父上の家に行くぞ」


 お義父様が父上と呼ぶ人物……つまり……。


「おじいちゃんの家ね! 雫行くわ! 蒼ちゃんもいいでしょう?!」

「問題はないけど、私たち失礼にならない?」


 そう、とってつけたような養女だし、礼儀作法も完璧とは程遠い。私たちが叱責されるだけならまだいいけど、お義父様やリエラまで責められてしまうのでは……。

 と、不安に思っていたらそれに返してくれたのはお義父様だ。


「いや、問題ないぞ。養女にしたのは伝えてあるし、二人も楽しみにしているようだった」

「二人って事は、お義祖母様もいるって事ですか?」

「あぁ、お前たちから見たら、ウォルターおじいちゃんとリザおばあちゃんだな」


 お義祖父様とお義祖母様……。

 日本では、会った事がない。ちょっと色々あって、私たちには生きているのか死んでいるのかも分からない。

 でも、家族っていいよね。リエラと生活してた時も、養子に迎えて貰った時も、家族が増えるのは本当に嬉しい。

 義理と言ってもね。迎え入れてくれるのはありがたい事だ。

 さて……。


「それじゃあ、私も会ってみたいです」

「あぁ、なら早速準備してくれ、昼前には着きたい」

「分かったわ」

「分かりました」

「分かったのじゃ」


 私とお姉ちゃんは、マリーさんとリリムちゃんに手伝って貰ってドレスを着替える。

 家族だし、そんなにかっちりしたのじゃなくても……でも初めて会うんだし……。

 うーんと悩んでいると、マリーさんが助け舟を出してくれた。


「ウォルター様もリザ様も格式を気にするような方ではございません。それに、旦那様がおっしゃるには家族と認めらているようですので、極端ですがこのままでもよいくらいかと」

「なるほど」


 私とお姉ちゃんは頷いて、でもせっかくだからとそれぞれ梅紫と菖蒲の色のドレスを出す。ちなみに私が梅紫。

 デザインは、気に入っている最初に自分で選んだドレスを若干アレンジして貰った。そういえばこの国の人たちってドレスの着回しを気にしないんだよね。齧った故郷の知識では、着回しはしないって聞いた事があったけど、国どころか世界も違うし、そんなもんなのかな。

 さてドレス。ツーピースで、スカートはパニエも着けてふわふわと浮かばせる。ボディスの裾は長め、梅紫はここの部分。

 肩口から胸にかけてはフリルレースをあしらって透け感とボリュームを出す。でもボリュームのメインはスカートだから、こっちは控えめにしている。ウェストを……頑張って締めて太ってる感じは絶対に出さない。

 お姉ちゃんはボディスの部分が菖蒲色。スカートは後ろにバッスルをふんだんにとってふんわり感を出している。

 胸の辺りはゆったりとさせているものの、ウェストは締めてだらしなさは出していない。

 お姉ちゃんに合う綺麗な感じだ。

 最後に二人で確認していると、リエラがやってきて開口一番こう言った。


「ぬしら、随分めかしこんだのう」

「いやでも、初めて会うんだし、これくらいは最低限かなって」

「雫もそう思ったのよぅ」


 何も悪くないぞ。似合っておるの。と嬉しい言葉をくれて、先に行ってしまった。

 私たちもカバンをかけて部屋を出る。

 玄関に行くと、お義父様、お義母様、お義兄様、リエラが、使用人の何人かと話していた。

 私とお姉ちゃんは慌てて謝る。


「「すみません、おまたせしました」」

「大丈夫ですよ。私たちも丁度降りてきたところです」


 そう言ってくれるのはクラウディアお義母様。本当は多分少し待ってただろうな、と思ったけど、気遣いを無碍にする事も憚られたのでお礼を伝える。

 次に口を開いたのはゲルハルトお義父様。馬車割りについてだ。


「前の馬車に私たち一族と御者ついでにジョセフが乗る。後ろにはジェニファー、ドロシー、マリー、リリムだ」

「後ろの馬車は誰が御者をするの? パパ」

「あぁ、それは……」

「私が出来ますので」


 と手を挙げたのはドロシーさんだ。なんでも、ハインリヒお義兄様に付き添って乗馬に馬車にと乗っていたら、御者のスキルを獲得していたらしい。え、すごくない?

 という訳で今日はお義兄様のエスコートで馬車に乗り込む。

 あれ、この馬車いつもより大きい。一頭立てだけど、横に広い。聞くところによると領地巡回用との事。前に乗ったのは長旅用で、用途で分けているらしい。

 動かすのはネーロだね、よろしく、と私とお姉ちゃんは伝える。

 変わらず元気みたい。話が通じる人間が珍しいのか、喜んで答えてくれたよ。そりゃ珍しいよね。


    ◇


 早速出発。

 領地内だから、領主の馬車を襲おうなんて輩はいる訳もなく、領都周辺で畑仕事をしている人が時折頭を下げてくれる事以外は何もなく、馬車はのんびり進む。

 今日はエアイクストルードは使わない。あちらの家の準備もあるだろうから、早く着き過ぎてもよくないって思って、お姉ちゃんと話してたらその通りだとお義父様に言われた。

 馬車でいろんな雑談をしたんだけれど、一番耳が痛かったのはこれ。


「そういえばハインリヒちゃん、お相手は見つかりましたか?」

「……今、手紙を確認しているところです……」

「お前、この前もそう言ってなかったか?」

「お義兄ちゃん、早くパパとママを安心させてあげないと!」

「あら、シズクちゃん、あなたも適齢期ですから、いつでも私がお相手を探しますからね」

「ママ……。藪蛇だったかしら」

「勿論アオイちゃんも、リエラちゃんもよ」


 絶対藪蛇になると思って黙ってたけど、しっかり確認されていたね。


「母上、何度も言っているがわしは不老じゃから結婚はいい」

「私もそうです。お姉ちゃんがいれば今はいいかなって……」

「そうですか。まぁでも、気が変わったら教えてください」


 私とお姉ちゃん、リエラは了解、と返事をする。多分誰も気が変わらないんだろうな……。

 そこで私はちょっと疑問になった事をリエラに聞いてみる。


「ところでリエラって、なんで不老になったの?」

「乙女の秘密じゃ」

「気になるわねぇ」

「あぁ、それは……」

「兄上」

「っ……すまん」


 お義兄様が口を開きかけた途端にリエラが止める。

 それって、みんな知ってて私とお姉ちゃんだけ知らないって事かな。


「今のはお前が悪いな」

「ハインリヒちゃん。そういうところよ。ドロシーに嫌われるのは」

「なっ」


 と、話題がお義兄様とドロシーさんの話に移り変わって車内が騒がしくなる。そんな中で、リエラがぼそっと言ってきた。


「いつか話す。だから時間が欲しい」

「分かった」

「分かったわ」


 それなら私たちは待つだけだ。

 ところで後ろの馬車ではどんな事を話してるんだろう。


    ◇


 蒼、雫たちが乗る馬車の後方、ブルーノを操るドロシーと馬車の中では、主人のいない従僕にはありがちなゴシップな会話が繰り広げられていた。


「絶対にぞっこんですー!」

「こら、リリム。不敬ですよ」


 大袈裟に叫ぶリリムをたしなめるマリー。しかしそんな叱責には意も介さずに、リリムは話を続ける。


「でも、あれだけあった手紙にいまだに一つも返信してないんですよ! 意中の相手がいるとしか思えないじゃないですか。そこんとこどう思ってるんですか。ドロシー先輩!」

「私は……ハインリヒ様が幸せになってくださればいいと思ってます!」


 やや声を張り上げて、ドロシーが正直な気持ちを伝える。だがリリムは納得がいかないのか、すぐに追求する。


「でも、ドロシー先輩だって好きですよね? マリー先輩だって気になりますよね?」

「確かに……、そこは私も気になりますね」


 その追求に珍しく乗るマリー。


「ほら、マリー先輩だってそう言ってますし、どうなんです?!」

「私は、ハインリヒ様にはずっと姉のように慕っていただきましたので、情はありますよ。ところで……」


 もう自分の話題はごめんだと、一人御者台で顔を赤らめている事に気づかれなくてよかったな、と思いながらドロシーは話を転換する。


「ところで、シズク様とアオイ様は女性ですが、お二人はどうなんですか?」

「アオイ様もシズク様も友達って感じですかねぇ。二人とも社交では随分遠巻きに注目されていましたが特定の相手はなし。私たちにもあまり命令もしないですし、厳しくもないですし……」

「お二人はもっと私たちに厳しくしていいと思うんです」

「そう、それです! ありがたいんですけど、友達感覚で付き合ってしまってよくマリー先輩に怒られます」

「それは、あなたが悪いですよリリム」


 するとそこで……。


「厳し過ぎても、よくないですよ。その点ゲルハルト様とクラウディア様はさすがと言いますか、私たち従者への飴と鞭をとてもよくご存知です」


 これまで我関せずと編み物をしていたジェニファーが口を開く。


「ジェニファー先輩、私が雇って貰う前は、ここはそんなに厳しかったんですか?」

「いえ、私が仕えていた前の家ですね。他領ですが。クビになって放浪しているところを拾っていただいたのです。前の家ではひどかったですよ。少し間違えれば食器が飛んできますし、懲罰部屋もありましたね。幸い私はありませんでしたが、夜に呼ばれる侍女も多かったですね」

「うわぁ……」

「凄惨ですね」


 それからは誰が一番主人に尽くしているか自慢大会が始まり、先程の話題の陰湿さは馬車のはるか後方へと消えていくのだった。

 馬車は今日ものんびり進む。


    ◇


 馬車に揺られて鐘一つ分に満たないくらい。王都にあるリインフォース別邸くらいの大きさの屋敷が見えてきた。

 清々しい、空と見紛うような青色の屋根に白い壁、窓枠は薄茶で可愛くまとまった感じの屋敷だ。

 私は手綱を握りながら隣に座るジョセフさんに、見えてきたその家が目的地だと教えて貰い、馬車の中へと声を張って伝える。


「邸宅が見えてきましたよ!」

「ほんとねぇ!」


 窓から顔を出したお姉ちゃんが叫ぶ。馬車の中から、シズク危ない! といった声も一緒に聞こえる。馬車を揺らさないようにしないとね。

 私はいよいよそばに来たところで、元々別荘だったところを定住出来るように改装したんだとお義父様に教えて貰い、その屋敷に到着する。

 ゆっくりと馬車を玄関前に停める。

 馬車の中から降りてきたお義父様に、エスコートというか支えになって貰って御者台を降りる。一人でも降りられるんだけど、一応ね。ネーロにもお礼を言う。そして、お義父様のエスコートでクラウディアお義母様。それからハインリヒお義兄様と続いて、リエラとお姉ちゃんがお義兄様のエスコートで降りてくる。

 後から、でもすぐに到着したメイド組が荷物を降ろしているのをお姉ちゃんと手伝おうか、でもきっと断られるだろうな、と話していたら。扉が開く音がして、すぐに柔和な声がした。


「もう着いていたんですね。出迎えなくてごめんなさい」


 声の主は、背筋がピシッとした。お義母様より小柄で白髪のミドルボブの老年の女性だった。そしてそのすぐ後ろに……。


「なんじゃ、来ておったら入ってくればいいのに」


 こっちも背筋の伸びた、お義父様程の身長と体格を持つ、白髪をオールバックにした老年の男性。この二人がきっと、お義祖父様とお義祖母様。


「一応礼をとったつもりです。お久しぶりです。父上、母上」


 案の定で私は少し緊張してきた。ちゃんと挨拶しなくては。

 

 つん、つん……。


 なんかほっぺたがむずむずする。


 つんつんつん……。


 むずむずする箇所に触れようとすると、何かに触れた。

 って……。お姉ちゃんの手じゃない!


「お姉ちゃん! 何するの!」

「蒼ちゃんが緊張しているから、ほぐしてあげようと思って」

「今それどころじゃないでしょ、ちゃんと挨拶しなきゃなんだから」

「ちゃんと挨拶はするけど、蒼ちゃん緊張し過ぎよぅ」

「とにかく今はやめて!!」


 と叫んだところで、お義父様と目が合った。あ……。そして笑顔を絶やさないこの家の主二人と目が合った。

 

「あー……アオイ、緊張しなくていいから、こっちにきなさい。シズクも」

「……はい」

「はーい」


 私は顔を真っ赤にしながらお義父様、お義祖父様、お義祖母様のそばへと歩く。お姉ちゃんへの怒りはあるものの、緊張がほぐれたのも事実だ。

 私とお姉ちゃんは二人の前に立って、同時にカーテシーをする。


「初めまして、お会い出来て光栄です。シズクと申します」

「初めまして、恥ずかしい姿をお見せしました……。妹のアオイです」

「「ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。リインフォース家の名に恥じぬよう精進して参ります。よろしくお願いいたします」」

「まぁ……」


 とお祖母様から一言漏れ出て、しばらくの沈黙が流れる。やっぱり何かやらかした?! 養女になったのよくなかったのかなぁ……。

 

「二人とも、頭を上げてちょうだい」


 その声に私とお姉ちゃんは同時に下げていた頭を上げる。


「ゲルハルトから聞いていたけど、可愛い娘たちね。ゲルハルト、本当にこの二人が私たちの孫?」

「はい母上。手続き上は問題ありません」


 そのお義父様の声の語尾が聞こえた途端、目の前に視界を遮る影が出来た。何?! と思ったら、突然体が引き寄せられた。あ、これ抱きつかれたんだ。え、お姉ちゃん?


「うおおおおお、嬉しいぞ。わしの事はおじいちゃんでもじいじとでも呼んでくれ!!」


 違う。お義祖父様だ。

 突然の男性からのかなり力強い抱き寄せに困惑していると。バコンとすごい音がした。

 すると、おそらくその音の発生源であろう扇を開いてお祖母様が口を開く。


「あなた。孫とはいえレディにそんな事をするものではありません。私だってしたいのに」


 あ、したいんだ。

 物凄い音がしたのはどうやら頭を叩かれたらしく。私たちは頭を抑えるお祖父様からすぐに解放された。

 すると、解放されたお姉ちゃんが、お祖母様の前に出て言う。


「おばあちゃんってお呼びしてもいいかしら?」

「ちょ、お姉ちゃん?!」

「勿論ですよ、シズクちゃん」


 いうや否や、聞くや否や、お姉ちゃんとお祖母様が示し合わせたようにハグをする。


「おばあちゃん、ずっと欲しかったの、嬉しいわぁ」

「それはよかった。私がおばあちゃんですよ」


 そしてお姉ちゃんがこっちを向いて、お義祖母様が目線を上げて言う。


「蒼ちゃんも早く」

「アオイちゃんもこちらへ来てちょうだいな」


 二人からの視線……。あ、これ同類だ。私はこの目に弱い。お姉ちゃんに弱いとも言うけど。仕方ないな、と思いつつ私も満更でもなく二人に近づいてハグの仲間入りをする。


「……お祖母様、よろしくお願いします」

「はい、承りました」


 数瞬の後、大分満足した私たちは誰がとも言わずに離れ、一斉にある人物の方を向く。

 おばあちゃんが息をこぼす。


「リエラちゃん……」


 リエラが前に出て、私たちでも初めて見るくらい丁寧に、ゆっくりとカーテシーをする。


「お久しゅうございますお祖母様、息災でしたか」


 お祖母様はその声に返さず、ただリエラに抱きついて、涙声になりながら言う。


「よかった……。本当によかった……。また会えて嬉しいわ。リエラちゃん」

「わしも嬉しいぞ!」


 ダメージから復活したお祖父様もそれに加わる。

 ただ二人は嬉しそうに泣いていて、リエラも珍しく微笑んでいたのは見間違いじゃないよね。

 すると私たちのそばにお義兄様が来て、リエラに聞こえない小声で教えてくれた。


「リエラはお祖父様、お祖母様っ子だからな。嬉しいんだろう。あの喋りもお祖父様の真似から始まったはずだぞ」

「そうなのねぇ」


 なるほど。

 抱擁が終わって、お義兄様とお義父様、お義母様がそれぞれ簡単に挨拶する。

 そして最後に。


「順番が逆になったが、シズク、アオイ、わしが前領主のウォルター、隣にいるのが妻の……」

「リザです」


 名前は聞いていたけれど、本人から自己紹介されるのは初めてだ。私とお姉ちゃんは改めてよろしくお願いします、とカーテシーする。


「立ち話もなんじゃ、中に入ろうかの」


 と、お義祖父様の一声で従者含め一同が屋敷に入る。

 屋敷の中、まず目に入る玄関広間は左右対称で中央に階段があり、それは更に踊り場からは左右に広がっているまさに西洋の屋敷といった作りになっていた。

 ジョセフさんたちが慣れた様子で二階へと荷物を運んでいく。

 それを尻目に、一方でお義祖父様が私たちを屋敷一階の右側へと案内してくれる。食堂があるらしい。

 食堂は、家族全員が座っても空席があるくらい大きな長方形テーブルで、ピシッと決まったテーブルクロスに花瓶が置かれていた。そしてみんなが食堂に入ると、決まった位置に座っていく。私たちは分からなかったので最後に座る。当然末席。

 荷物のなかった私たち付きのマリーさんとリリムちゃんが後ろから入ってきて、食堂に入るや否やお茶の準備をしてくれる。

 それから、誰よりも早く自分の席に座ったリエラが、お茶の準備をするマリーさんとリリムちゃんを見ながら口を開く。


「お茶という事はお菓子じゃな。アオイ!」

「何?」

「オダンゴじゃ!」

「まぁ待てリエラ、先に昼食と行こうじゃないか。オダンゴ? とは聞いた事がないが食後の楽しみにとっておくとしよう」

「分かったのじゃ」


 お義祖父様の一声で、私たちは昼食をとる事となった。


いいねや感想頂けると嬉しいです。


今回も楽しんでいただければ幸いです。



24-3-17:誤記修正

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