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75. マイヤ領にお出かけしよう2

 冒険者ギルドに魔族の情報を伝えるため、私たちはマイヤ領に来た。森のリエラの家にワープで飛んで、歩いてマイヤ領都へ。丁度お昼時だったのでカルロさんとリタちゃんのレストランで、お土産を渡すついでにお昼を食べた所。

 昼にはちょっと多かった食事が終わったから、目的二つ目の用事を済ませよう。私たちは冒険者ギルドに足を向ける。

 ここから冒険者ギルドは、細い道を抜けて、広めの通りに出てまっすぐ進むとある。

 私はマリーさんとリリムちゃんと目配せして、頷き合う。そろそろギルドが見えてくるはずだからね。

 今日も変わらず無骨な装飾の冒険者ギルドが見えてきてすぐ、私は魔力感知を発動してお姉ちゃんの魔力が冒険者ギルドの扉に伸びているのを確認する。よし、テレポートされる前にお姉ちゃんを止めよう。

 しかしお姉ちゃんを物理的に抑えようとした瞬間、お姉ちゃんは消えてしまった。


「なんじゃ?!」


 すぐ後ろを歩いていたリエラから、突然の事に驚く声がした。と同時にお姉ちゃんがギルドの扉の前に現れて、私は今日も失敗した事を悟る。

 そしてお姉ちゃんが大きな扉を両手で勢いよく開いて、声を響き渡らせる。


「たっのっもーーう!!」


 落胆している私を見て、リエラが不思議そうに尋ねてきた。


「なんじゃ、ぬしらのこの寸劇は?」


 寸劇じゃないよ! 私は落胆したまま答える。


「ギルドやお店に入る時、必ずするんだよね。恥ずかしいし、注目を集めるからやめさせたいんだけど……」

「テレポートまで使ってよくやるのう」

「私のためらしいんだけど、やめさせる方法ない?」

「テレポートを妨害する魔術は研究中じゃ。先回りして扉で待ち伏せすればいいんじゃないかの?」

「あ……」


 次! 次こそは!


「じゃが、おぬしのためにやっておるなら止めるのは無理じゃないかの」

「うーん……」

「とりあえず、追いかけた方がよろしいかと」


 マリーさんの声に頷いて、私たちはギルドに急ぐ。

 お姉ちゃんを先行させすぎちゃったね。




 中に入ると、お姉ちゃんはすでにカウンターでソフィアさんと話していた。私たちも歩いてカウンターに向かうが、中にいる冒険者からちらほらと注目を浴びる。しかしこの町では私も知った顔が多い。余所者を見る訝しむ視線というより、久しぶりに見た仲間に驚く視線だ。私も、何人か知っている顔を見つけて会釈だけする。本来なら近付いて挨拶とかされるんだろうけど、先にお姉ちゃんが入ってきたからか、私たちもすぐにカウンターに行くだろうと予想して近寄ってくる事はない。助かる……。

 私たちもカウンターに行くと、ソフィアさんが笑顔で迎えてくれた。


「お久しぶりです。アオイさん」

「こんにちは。お久しぶりです」


 ソフィアさんは相変わらずキリッとした綺麗な姿勢で、ポニーテールを揺らしている。美しい……。


「蒼ちゃん?」


 おっと、見惚れてないで本題を話さないと。


「ソフィアさん、えっと……魔族について話があります。ガイウスさんはいますか?」

「は、はい。少々お待ちください」


 ソフィアさんは一礼して、奥に早歩きで向かっていく。ギルマスのガイウスさんの執務室へ入り、数分も経たずに出てきた。そしてカウンターに戻って私たちに、二階の会議室で話を聞くと告げ、ソフィアさんが案内してくれる。案内されたのは一番奥の会議室で、ダークレッドを基調とした落ち着いた部屋だった。十人くらいに対応しているのか長方形の贅を凝らしたテーブルが中央にあり、壁には調度品が飾ってあって、貴族向けの部屋なのだろうと想像がつく。

 私たちは右側の長辺にリエラから順に座る。マリーさんとリリムちゃんは立ったままだ。そして、ソフィアさんが少々お待ちください、と一礼して出て行ってしまった。

 少し待つかと思ったが、ほぼ入れ替わりにギルマスが入ってきた。

 ギルマスは私たちの反対の長辺の中央、丁度私と向かい合うように座る。

 そして、全員をゆっくりと見て、頭を下げて口を開く。


「ようこそ、お越しくださいました。また、シズク様、アオイ様はお久しぶりでございます。本日は……」

「「ちょっと待って」」


 お姉ちゃんと声が重なった。その声が、ガイウスさんを止める。ナイスだよお姉ちゃん! しかしガイウスさん、その口調何?!

 私たちに止められたガイウスさんは、無言で頭を下げたままになって微動だにしない。するとお姉ちゃんが話を続けてくれた。


「ガイウスさん、なんでそんな言葉遣いなの? もっとラフで普通だったじゃない」

「それはおま……あなた方が貴族になられたからです」


 私たちが貴族になった事を知ってるんだね。ギルドの通信でかな。とりあえず、ずっとこの言葉遣いも申し訳ないというより、なんだかちょっと変というかぶっちゃけ気持ち悪いので早く元に戻したい。今度は私が口を開く。


「まず、頭を上げてください。私たちはそのような対応を望んでいません。最初の頃のままにしてください。リエラもそれでいいよね?」

「勿論、堅苦しいのは苦手じゃ」


 その言葉に、ガイウスさんがおどろおどろしく頭を上げる。


「分かった、遠慮なくそうさせて貰う」


 それから、ガイウスさんは立ったままでいたマリーさんとリリムちゃんにも着席を促す。二人が侍女を優先させるか、冒険者を優先させるのか困惑していたので、私は命令して座らせた。座った途端、ガイウスさんも少し安心した顔をしたから、落ち着かなかったんだろうね。

 そこに扉をノックする音が響き渡り、ガイウスさんが許可を出すと、ソフィアさんがティーポットを持って入ってきた。

 ソフィアさんがお盆に載せて一式一緒に持ってきたカップに紅茶を注いで、リエラから順にリリムちゃんまで、私たちの前に順に置いて行く。目の前に置かれた紅茶からは、マスカットに似た香りが立っている。ティーカップは最後にガイウスさんとその隣に置かれ、ソフィアさんがそこに座る。

 お茶菓子はなし。ちなみに、ガイウスさんの毒見もなし。多分、貴族対応なんてやった事ないんだと思う。ソフィアさんが、ガイウスさんに毒見をするように勧めてから慌てて一口飲んでたからね。ティーカップを置いたのを見て、私は口を開く。


「お茶菓子がないと寂しいですね。私が出しますね」


 私はかばんからカステラを出して『フロート』で浮かべ、極小の『ウィンドカッター』で切り分ける。切り分けた側から、これもかばんから取り出したお皿に乗せて各人の前に置いていく。フォークも忘れない。ガイウスさん、ソフィアさん、私たちと置いたら、私は一口食べて毒見する。

 唖然とするガイウスさんと、まぁ、と嬉しそうに驚くソフィアさん。若干驚きつつも、それを見ていたガイウスさんが口を開く。


「シズク、アオイ、お前らが言ってる魔族の件も勿論なんだが、この場にいるメンバーの紹介とマイヤ領から出た後のお前たちの行動と状況を簡単に説明して貰えるか? 各ギルドが出す報告書にポツポツとお前らの事が書いてあったが、全く分からん。ドラゴンを連れているだの、貴族になっただの、実際に聞かないと理解が出来なくてな……」

「そうですね……じゃあまずメンバー紹介からしましょうか。お二人から見て左端に座っているのがリエラ・リインフォース。私たちが養女となった子爵家の長女です」


 はぁっ?! と驚くガイウスさん。


「生活魔術を開発した?」

「そうじゃよ」

「この国じゃ知らない奴を探す方が難しい有名人じゃないか……」


 私は、いいですか? と、咳払いをして話を続ける。


「それと、お二人から見て私の右隣がマリーさん、右端がリリムちゃんです。どちらも私たちの侍女ですが、貴族以外には冒険者仲間として紹介しています。二人とも冒険者ランクはCです」

 

 紹介されたマリーちゃんとリリムちゃんが、それぞれ席を立って一礼する。ソフィアさんに負けず劣らずの綺麗なおじぎだ。リリムちゃんがちょっとこわばってたからソフィアさんを意識したのかもしれない。

 そして呆然とするガイウスさんとソフィアさん。それが落ち着くのを待って、私とお姉ちゃんはこれまでの事を思い出しながら順繰りに説明を始める。

 まず旅に同行したペーター夫妻がウォーカー商会の会長だった事。一緒にディオン領に向かって、数日お世話になったね。

 ディオン滞在中、私たちは冒険者ギルドから瘴気浄化の依頼を受けて実行した。そこで瘴気に汚染されていたのはホワイトドラゴンの親子で、母ドラゴンは助ける事は出来なかったけど周囲も含めて浄化は出来た。同時に、息のあったそのドラゴンの子供を保護、タルトと名付けて従魔契約を行なった。

 そして、ペーターさんの奥さんのアンナさんにドラゴンの爪を与え、タルトがウォーカー商会に加護を与えた事。

 ウォーカー商会には今も変わらずずっとお世話になっていて、リインフォース領までの残りの旅路はペーターさんの弟のカールさんについてきて貰った事を話す。

 続けて、アルデナ領ではゴブリンを討伐したね。ゴブリンチャンピオンが出てきて大騒ぎになったけど。このゴブリンチャンピオン、どうやら人為的に瘴気に汚染させて、更にゴブリンが暴れている範囲外から移動させてきた様だと話す。

 後は、アルデナ領では杖を作ったね。完成はリインフォース領についてからになったけど。これにリヒャルトの魔石を使った事を付け加えておく。

 そしていよいよリインフォース領について、私たちは恐れ多くも領主邸に、リエラから渡された、旅の目的の手紙を届けに向かった。

 すると領主邸では音信不通だった娘からの手紙だと上へ下への大騒ぎ。私たちは、そこで初めてこのテーブルの端に座っているリエラが、リインフォース子爵の愛娘だった事を知る。


「三年間も一緒にいたのに、家名を教えてくれなかったわねぇ」

「言ったじゃろ、勘当されたと」


 実際はそう言う事にしただけなんだけど、それは話さない。

 手紙の内容を確認したリインフォース子爵は、どういう訳か私たちを養子にする事に決め、以後私たちはリインフォース家の次女と三女として生きていく事になった。

 自由気ままに、冒険者ギルドの頼みで冒険者を鍛えたり、淑女教育を受けたり、お菓子を作ったりしていたんだけど、ある日リエラがなぜマイヤ領にいるのか聞かされる。

 それは、リエラは王国魔術師団にいたけれど、ある事件がきっかけで四年近く前に無実の罪を着せられてこのマイヤ領に蟄居する事になったというものだった。

 私たちは蟄居だけでも取り消す事は出来ないかと考える。リエラの事件で地位が低い民衆派の地位を上げればいいんじゃないかと一念発起し、社交のシーズンになる王都へ乗り込む事にした。

 やり方は、まずは民衆派内で低く、悪化しているリインフォース家の評判をよくする事。そのために、物珍しいお菓子と美容品の力で再興しようと考えた。そうすればリインフォース家が所属している民衆派の中で力が強くなって行くと思ったからだ。

 すると、とんとん拍子に他の派閥にまで影響が及ぶ事になった。と同時に、かなりリインフォース家の地位を改善する事が出来た。

 また一方、冒険者依頼はずっと続けていて、王都にいる段階では、すでにBランクになっていた。

 人型になったタルトも協力してくれて、私とお姉ちゃんが依頼の出来ない日もずっとやってくれていた。

 ある日王都でワイバーンが出現した際、合同依頼へ参加し、最前線を任せて貰ったら、一撃目をやりすぎてしまって、王子に謁見する事になった。

 謁見には王も参加し、圧倒的な力でワイバーンを倒した事を理由に私たちは褒美を聞かれたので、リエラの解放を訴えた。その場は紛糾したが、民衆派の筆頭と王子の機転もあり、リエラが無罪放免となった。

 で、社交の時期も終わったのでリエラも連れてリインフォース領に帰った。


「と、言う感じです」

「おう……。波瀾万丈だったのは分かった。色々聞きたい事が山積みになったが……。大事なのは本題だな……」


 ガイウスさんが私たちに話を促す。ここまで結構話したから満足してしまっていた。

 私は紅茶を一口飲んで、再び口を開く。


「私たちが異世界人と言うのはご存知だと思います。この世界に来る際、神と名乗る存在に出会ったですが、この世界に降り立ってからも、実は一度私たちの前に現れているんです」

「あの時はマイヤ領で魔族を倒した後だったわねぇ。えっと……」

「リヒャルトだよ」

「そうだったわ」


 私は話を続ける。その時に現れて魔族と人間の関係について話していったと。で、その後現れる事はなかったんだけど……。


「昨日、再び現れました」


 ガイウスさんとソフィアさんが驚きの表情でこっちを見る。

 そしてガイウスさんが口を開く。


「それで……神様は、なんて言ってきたんだ……?」

「はい。今日の本題はそれなんです」


 私たちは再び話し始める。

 神様は警告しに来たと言った。内容は名付きの魔族の封印が解かれ、それに新たな名付きの魔族が現れたと。

 そしてその魔族はリヒャルトより強力だと。

 放置したらこの国全土が厄災に包まれると予言していった。

 だから、私たちは魔族の場所を訪ねたんだけど、それを教えるのはルール違反になるからと教えてくれなかった。

 被害が出始めたら触れが出るから、その時から行動する事が最も被害を少なくする方法だろう、と言っていた。


「「……」」


 沈黙が流れる。私は紅茶を再び一口飲んで、カップを置いたところで口を開いたのはガイウスさんだった。


「国には連絡しているのか?」

「はい。お義父様が手紙を書いたはずです。ただしリインフォース領から王都への手紙なので日数がかかります」


 そもそもいつ魔族が暴れるかも分かってないですが、と付け足しておく。


「それで、雫たちが冒険者ギルドに伝えるのを引き受けたの。冒険者ギルドなら、この国全土に連絡網を持っているから、連絡が早いかと思って」

「ここまで、リインフォース領から何日かかった?」

「あー……、二時間です」

「二時間?! 一体何をした?」


 そうなるよね……。仕方ない、本当の事を話すか……。


「実は、新しい空間属性魔術を覚えたんです。それでひょひょいと瞬間移動を……」


 ガイウスさんとソフィアさんが絶句する。そしてなんとか二の句を告げるガイウスさん。


「そんな事が可能なのか……」

「はい。制限はありますが、マイヤ領というか森にあるリエラの家ですね。そことリインフォース領は往復する事が出来ます」

「さっきも言ったけど、いつ魔族が来るか分からないから、雫たちだけでは警戒のしようがないのよ」

「なので、王都の冒険者ギルドに連絡をお願い出来ますか? 王宮にも連絡がすぐに行くように手配をお願いします」

「それは勿論だが、なぜわざわざうちに来たんだ? 瞬間移動が出来るなら直接王都に行けばいいだろう」

「私たちが先頭に立ってやる事じゃないですし、正直そんな事を突然告げられて私たちも困ってるんです。だから普通に過ごす事にしました。なので、今日もここに寄ったのはマイヤ領に遊びに来たついでで……」

「お前らな……」


 ガイウスさんが呆れた顔をする。が、まあいい、と話を続ける。


「ところでお前ら、魔族が出たら呼んでいいのか?」


 おそらくこの案件は、国の騎士団、魔術師団、後Aランクが動く事だろう。危険度も難易度もBランクには荷が重いと判断されるはずだ。しかし私たちは……。


「連絡をください。リインフォース邸にいる事が多いので、リインフォース領の冒険者ギルドがいいと思います」

「分かった」


 緊迫した話が概ね落ち着いたからか、ソフィアさんが口を開く。


「このお菓子おいしいですね。なんというお菓子ですか?」

「カステラです」

「あぁ、今キルシュ商会が売り出して国全体で流行っている菓子か、俺も初めて見るな」


 ガイウスさんがカステラに、うまいっ、と舌鼓を打ちながら、ところで、と話を振ってくる。


「シズクとアオイ、Aランクの推薦が来ているぞ。ギルドとしても、今までの実績から上げる事に問題はないが、どうする?」

「拒否します」

「拒否するわ」

「そうか……」

「Aランクなぞ面倒なだけじゃよ」


 と、リエラがダメ出しする。


「そこを目標にする冒険者もいるんだがなぁ……」


 ガイウスさんが残念そうにするが、私たちは縛られるのは真っ平御免である。


「とりあえず話はおしまいねぇ。おいしい紅茶も飲んだし、帰りましょう」


 お姉ちゃんの発言に私たちは頷く。

 私たちは応接間を出て、見送りに付き添ってくれているソフィアさんと話しながら広間を歩く。あ……。そうだ、忘れてた。


「ソフィアさんすみません、アルデナ領のモニカさんから手紙を預かっているのを忘れていました」

「あら、モニカから?」


 私はかばんから束になった手紙を取り出して、あらまぁ、と言っているソフィアさんに渡す。すると……。


「ソフィアせんぱい、今モニカって名前が聞こえましたけど!」


 ライラさんが小走りでやってきた、相変わらず元気そうだ。


「そうよ、モニカから手紙が来たの」

「読まなくていいです!」


 そして手紙を取り上げようとするライラさん。しかし華麗にかわすソフィアさん。


「なんで避けるんですか!」

「ダメよライラ。これは私への手紙だから」

「むぅ、でもモニカの手紙なんて、どうせ変な手紙に決まってます!」


 あぁ、これはあれだ。お姉ちゃんと頷きあって理解する。犬猿の仲ってやつだ。似た者同士とも言いそうだけど。手紙を取ろうとぴょんぴょんするライラさんと、手紙を高く掲げて軽く避けるソフィアさん。しびれを切らしてライラさんが叫ぶ。


「ソフィアせんぱいはモニカとライラどっちが大事なんですか! あたしですよね!」

「そうねぇ……ライラ、どっちも大事な後輩よ」


 笑顔であしらうソフィアさん惚れますね。

 さて、見送って貰ってギルドを出ようとする。すると……。


「シズク、アオイ!」


 今度は誰だろ。一際元気な女性の声が私たちを呼んでいる。この声は……私は振り向いてその名を呼ぶ。


「レイン!」

「まぁ、レインちゃん。久しぶりねぇ」


 冒険者のレインとバルトさんがこっちに歩いてきた。


「バルトさんも、久しぶり」

「あぁ。お前らも元気そうで何よりだよ。今日マイヤ領に来たのか?」

「うん、ちょっとガイウスさんに用事があって冒険者ギルドに来た所で、もう帰るところ」

「なるほど。各地でも色々やってたみたいだな。ところで、そっちは仲間か?」

「うん、リエラと、マリーさんにリリムちゃん。三人とも冒険者なんだ」


 私が三人を紹介すると、マリーさんとリリムちゃんが一礼する。リエラはでんと構えている。


「リエラって、あの?」

「どの、かは知らんが、リエラ・リインフォースじゃ」

「リ、リエラ様……いつも生活魔術には助けていただいています」


 バルトさんが拝み出した。こんなところでもリエラ人気が。


「な、なんなのバルト……」

「ばか! レイン知らないのか! 生活魔術の祖、リエラ様を」

「それって、生活魔術を作ったって事?」

「そうだよ! ほら頭下げろ!」

「そんな事せんでいい。それより、生活魔術が役立っているならなによりじゃ」


 リエラが顔を上げろとバルトさんに伝え、やっと頭を上げるバルトさん。


「バルトさんとレインは今帰り?」

「さっき帰ってきたんだけど、シズクとアオイがいるって教えて貰って、待ってたんだ」

「そっか、待っててくれてありがとう、会えて嬉しい」

「私も嬉しい! そろそろ夕飯時だし、あそこ行くよね?」

「勿論、私たちも行くつもりだったよ」


 そして私たちは七人の大所帯になって、お昼にも行ったあのお店に突撃するのだった。


    ◇


 私たちはまっすぐ、カルロさんとリタちゃんのレストランに向かう。

 レインとバルトさんは、レンジャーと戦士の二人パーティだ。狩場によっては、冒険者ギルドで足りない職を募集している。

 前に私たちとはダンジョンに行って仲良くなった。

 ちなみに二人は婚約者同士である。今日もレインの左手薬指に付けられた指輪は輝いていた。

 そんなレインが、私たちに話しかけてきた。


「パーティ増えたんだね」

「あ、えっと、うん。お店についてから説明するよ」

「そうだね!」


 と雑談しながら私たちはレストランに向かう。


    ◇


 レストランに入ると、また戻ってくると思われていたらしく、奥の大人数用の席が予約になっていた。

 リタちゃんにお礼を言って、みたらし団子と餡団子を二人分渡す。

 私は一人だけ厨房に行って、カルロさんに挨拶して、追加の魔物肉の燻製を渡しておく。


「また、増えたな……」

「まだありますけど?」

「アオイ嬢ちゃんのかばんは劣化無しだろ? 小分けにしてまた今度来たときにくれると助かる」

「分かりました」


 私は席に戻って、空いてる席に座る。


「あ、蒼ちゃんおかえりなさい。今丁度ねぇ、旅で蒼ちゃんが可愛かった事を話してたのよ」

「即刻やめて!」


 レインとバルトさんが優しい目でこっちを見てくる……一体、一体何を話したの……。

 私はとても恥ずかしくなって、話題を変える。


「まずみんなを紹介しないとね!」

「そうだね。私はレンジャーのレイン。こっちが相方の戦士のバルトよ。アオイとシズクとは友達なの」

 

 マリーさんとリリムちゃんが一礼する。それから私は、リエラ、マリーちゃん、リリムちゃんをレインとバルトさんに紹介する。


「リエラは知っての通りだけど、マリーさんとリリムちゃんはCランク冒険者でもあるんだ」

「よろしくね! そう、私たちもBランクに上がったわよ」

「本当?! すごい、おめでとう二人とも!」

「あぁ、ありがとな。でも俺たちも聞いてるぞ、通るところ暴れまわるBランクの双子の魔術師がいるって」

「双麗の魔術師だっけ」

「あ、うん……」

「蒼ちゃんがすごいのよ! 敵をバッタバッタと倒していくんだから」

「アオイ、シズク、おぬしら二つ名持ちじゃったのか」

「シズクお嬢様とアオイお嬢様はお強いですので」

「「お嬢様?!」」


 しまったという顔をするマリーさん。それからしょんぼりと申し訳なさそうにするマリーさん。時々やらかすよね。可愛いけど。

 そんなマリーさんが発したお嬢様という言葉にレインとバルトさんが反応する。するよねぇ……。

 私は仕方なく、貴族の養女になった事を伝える。


「ちなみに長女がリエラちゃんで次女が雫、三女が蒼ちゃんよ」

「そうなんだ……そうなんですか?」

「レインちゃん、言葉遣いとか、今まで通りでいいわよ」


 バルトさんもね、とお姉ちゃんが付け加える。


「ありがと……二人とも、もう冒険者やめちゃうの?」

「やめないよ、続けていくつもりだけど、Aランクになったらやめるかも」

「Aランク……?」


 私はAランクの推薦が来ている事と、Aランクになったら行動に制限がかかるのが嫌な事を伝える。


「そうか、国との関わりが深くなるからな。でも合同依頼はSランクと違って拒否出来るだろう?」

「雫も蒼ちゃんも、AからSランクに上がってしまうのが怖いのよ。行動を隠す事が難しいし、貴族を相手にしなきゃいけなくなるから面倒で」

「なるほどね」


 お前らも貴族だろ、というバルトさんのツッコミは無視する。

 そこでリタちゃんが料理を持ってやってくる。最初は軽く、燻製肉のブルスケッタだ。

 まだどんどんありますからねー、とリタちゃんが言うなり厨房へ戻っていった。

 レストランは満席で、とても忙しそうだ。


    ◇


 話はレインとバルトさんの事に移る。聞いてみると、最近は危ない依頼は避けてお金を貯めていると。ゆくゆくはマイヤ領で家を買って薬草採りとか小物狩りで生計を立てていこうと、二人で話して決めたらしい。二人の仲が相変わらずでとてもよかった。


「あの……」


 次に口を開いたのはリリムちゃんだ。何だろう。私は言い淀んでいる彼女を促す。


「雫お嬢様たちとレイン様、バルト様はどうやって知り合ったんですか?」

「あぁ、教えてあげるよ」


 バルトさんが再び話し始める。ダンジョン探索に行くのに後衛が足りなくて、私たちに声を掛けてきた事。最初レインがツンツンしてた事。あ、レインの蹴りがバルトさんに入った。うわ、いたそ……。それで、ダンジョンを四人で順調に進んでいたら最奥で魔族にであった事。それをアオイとシズクが倒した事を話す。


「え、お嬢様たちその頃から暴れていたんですか?」

「好きで暴れてたんじゃないよ!」

「実際あれくらいの魔術じゃないと倒せなかっただろうしな」


 リリムちゃんのツッコミにバルトさんのフォローが入る。

 あ、そうだ、魔族と言えば……。


「あのね二人とも」


 私は二人に顔を近づけて小声で話しかける。


「ガイウスさんが公開する情報か分からないから取り扱いには気を付けてほしいんだけど、魔族が今後出るかもしれない。注意してほしい」


 身を固めるバルトさんとレイン。


「ただ、場所も時期も未定よ」


 お姉ちゃんが付け加える。

 バルトさんも私たちと同じく、気をつけようがないな、と日々の警戒をちょっと強めるだけにするつもりらしい。

 私は冒険者ギルドと王城には伝えてあるから、まずは逃げてほしいと付け加えておく。


「お前らは参加するんだろう?」

「手が届くなら、になるわねぇ」


 私もお姉ちゃんもこの国が好きだ。ここで知り合った人たちに危険が及ぶのなら、守りたい。そう考えている。

 そこへリタちゃんがメインディッシュのローストビーフ? グリズリー? を持ってきた。何でも、昼から仕込んでくれてたんだって。これは期待出来るね。

 お姉ちゃんが取り皿を置いていくリタちゃんに向かって話しかける。


「リタちゃんも、危なくなったらきっと雫が守るからねぇ」

「ありがとうございます! 私もみなさんがくつろげるように、一生懸命料理します!」

「あぁっ! リタちゃん可愛いーー!!」


 お姉ちゃんがリタちゃんに抱きついて頬を付けてスリスリしている。照れているけど、リタちゃんもちょっと嬉しそうだ。

 難しく、厄介な話はおしまい、と、みんなでローストビーフに向かう。

 な、何これ、柔らか! え、クルーエルグリズリーって煮込まないでこんなに柔らかくなるの? そして表面だけパリッとしているのが食感のアクセントになっておいしい。噛めば噛むほど肉汁が溢れ出てきて、上質なお肉の味がする。

 おいしい……。

 舌鼓を打ちながら、私たちは食事に雑談に興じるのだった。


お読みくださりありがとうございます。


これくらいのペースでいけたらいいなと思ってます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

感想等頂けたらうれしいです。

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