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70. リインフォース領へ帰ろう1

 朝日が瞼を照らす。私はそれで日光を感じて目が覚める。おはようございます。

 隣のベッドを見ると、お姉ちゃんは、当然寝ている。

 窓の方を見ると、雲一つない青空とそれに劣らない清々しい空気。だけど窓辺にはぽっかりと開いたタルトのスペース。昨日は野宿だったのかな、それとも、ドラゴンの塒に着いたのだろうか。

 私は胸に手を当てて目を瞑る。離れているから小さいけど、タルトの気配を確かに感じる。

 疲れてる、とか怪我してるとかは分からないけど、元気ならそれでいい。あ、お菓子は食べ過ぎちゃダメだよ。


「んん〜〜」


 タルトの気配を感じていると、横でお姉ちゃんが体を動かして猫の伸びのポーズをしている。どうやら起きたみたい。

 私は掛けていたシーツを剥がし、体を起こしてベッドの上に座り込む。


「おはよう、お姉ちゃん。今日は起きれたね」

「おはよう、蒼ちゃん。雫だってちゃんと起きれるわよぅ」


 ポーズを戻してから、お姉ちゃんも窓辺を見て一瞬だけ寂しそうな顔をして私の方に再び向く。


「タルトちゃんは起きられてるかしら」

「ダメそうだよね。魔物に襲われないといいけど」

「大丈夫よぅ、雫たちの家族だもの」

「そうだね」


 なんて話していると、扉からノックした。おや? 今日のノックはマリーさん? いつもとちょっと違って音がやかましい感じがする。

 私たちが入室を許可すると、マリーさんが扉を開けて入ってきた。


「お嬢様方、おはようございます。朝のご準備をお手伝いいたします」

「おはようございます!」


 後から入ってきたのはリリムちゃんだ。二人ともまだ朝だというのに、綺麗にメイド服を着こなして眠さなんて微塵も感じさせない丁寧なお辞儀で私たちに挨拶をしてくれる。


「おはよう、マリーさん、リリムちゃん」

「マリーちゃん、リリムちゃん、おはよう。リエラちゃんはまだ寝ているの?」

「先ほどノックをいたしましたが、全く反応がないのでこちらに来ました」

「なるほどね。また途中で行くといいよ」

「ありがとうございます」


 リエラが無事帰ってきてから、実は一番の問題はこれかもしれない。私、お姉ちゃん、リエラの三人に対して、対応出来る侍女はマリーさんとリリムちゃんしかいない。ジェニファーさんはお義父様とお義母様で一人半くらい既に働いているしね。向こうはジョセフさんもいるから丁度いい感じらしいけどね。とまぁ、おかげでマリーさんが部屋を行き来して一人半、リリムちゃんも一人半の仕事をしてようやく対応出来るという感じになっていて、とても忙しそう。

 私とお姉ちゃんは、メイクは普段気分でしかしないし、二人で手伝ってドレスを着ればいいから、着方を教えてもらえば手間が減るかなと思って提案したんだけど、マリーさんとリリムちゃんから全力で却下されてしまった。何でも。


「侍女の矜持」


 だそうだ。なら仕方がない。

 それで今日は、リエラが起きていなかったから、マリーさんは私たちの準備を先にやってくれる、と言う訳。ドレスを概ね着れたら、またリエラの部屋に行ってもらおう。

 二人はドア前で一瞬、窓辺に目線をやった後、すぐに私たちの着替えを手伝ってくれた。




 大変なところは済んだので、マリーさんをリエラの部屋に送り出して、リリムちゃんに仕上げを手伝ってもらう。

 すると、マリーさんの怒声がここまで響いてきた。


「そうだ、リエラちゃんも蒼ちゃんに起こして貰えばいいのよ」


 お姉ちゃんがリリムちゃんに『ブラシ』で髪を梳かしてもらいながら、蒼ちゃんの声には睡眠にも覚醒にも効く不思議な魔力が篭っているのよ、なんて適当な事を言っている。けど、私はリエラを起こすのなんて、とても、とてもめんどくさいので反論する。


「え、忘れたの? お姉ちゃん。森の家で目覚ましの魔術具三つに私の叫び声、これでも起きなかったでしょ。声だけで起こすマリーさんはすごいよ」

「そうだったわねぇ……」

「マリーは前に、リエラお嬢様を起こすために目覚ましの生活魔術を習得したと言っていました……」

「それで起きるんだ……どんな魔術なんだろう」

「私は、二度とゴメンなので毎朝必死で起きています」


 あ、起こされたんだ……、聞かない方がよさそう。私とお姉ちゃんは目配せして黙る事に決めた。

 リエラも大きな実験や模擬戦をやろうって日には勝手に起きるんだねどねぇ。この家では模擬戦をやろうっていう日にもそんなそぶりは見せないから、きっとマリーさんに甘えてるんだろうと結論付けて、この結論は誰にも話さない事にした。




 準備が終わったので、食堂に朝食を食べに向かう。

 部屋を出ると、丁度まだ寝ぼけ眼のリエラと、リエラの世話をして満足そうなマリーさんに出くわしたので一緒に向かう。


「おはようリエラ」

「おはよう、リエラちゃん」

「うむ、二人ともおはようじゃ」

「まだ眠そうだね。昨夜は遅かったの?」

「知っての通り朝はダメなだけじゃ」


 低血圧、なのかな?

 



 食堂に入ると、もうお義父様とお義母様は席に座っていた。

 この二人はいつも早いよねぇ。なんでも朝に執務をする方が調子がいいから、らしいんだけど、その朝型力をリエラに少し分けてあげてほしい。


「おはようございます。お義父様、お義母様」

「おはよう、パパ、ママ」

「おはようなのじゃ」

「三人とも、おはよう」

「おはようございます。リエラちゃん、ママって呼んでくれてもいいのよ」

「おはよう、母上」


 残念そうにするお義母様を見ながら、私たちはそれぞれ席に着く。すぐに、ジョセフさんたちが食事を運んできてくれる。

 今日の朝食は、ベーコンエッグにサラダとスープ、パンだ。いただきます。

 ベーコンは……この味の濃さはクラッシュピッグかな。いっそパンと合わせてバーガーに……流石にはしたないのでやらないけど。そう言えばこの世界にハンバーガーってまだ見てないなぁ。作ったら大儲け出来るんじゃ……。バンズ手作り、魔物肉のミンチで作ったパテ……。

 私は本気でビルさんにどう教えようかな、なんて考えながら食事を始めた。




 食事が終わって紅茶を飲んでいると、お義父様が話がある。と切り出した。


「何でしょうか?」

「パパ、何かしら?」

「なんじゃ父上、第二夫人か?」

「私はクラウディア一筋だ! いやそうじゃない。クラウディアには既に話したんだが、私の城での仕事も、社交シーズンも終わった事だし、リインフォース領に帰ろうと思う」


 リインフォース領に帰る、か。ウォーカー商会にお菓子と美容品の製法を伝えたし、冒険者ギルドに顔繋ぎもした。何より、リエラを救い出したから、他に王都でやる事が思い浮かばない。また来年、社交をしにくる事になるんだろうけど。あれ、そもそもそんなに私たちお茶会も、食事会や舞踏会にも出ていないような気がする。

 まぁいいか、とその思考を頭から追いやって、私とお姉ちゃんは了解を告げる。リエラは……。


「分かったのじゃ。ジョセフ、メアリーとキミアに面会の手紙を頼む、時間は何時でもいいので被らないように早急にな」

「承知しました」

「お義父様、何日後に出発ですか?」

「三日後を考えている」

「急ねぇ」

「これでもいつもより滞在は長いんだ。今回、初めてハインリヒに領地を任せたからな。大事が終わって急に領地の状態が心配になった」


 特に不満はないので、三日後の出発も了解する。けど、私たちもウォーカー商会や冒険者ギルドに挨拶に行かないと。忙しくなるね!




 翌日、私たちはまず冒険者ギルドへ向かう。ウォーカー商会は、昨日フランツさんに先触れを出したら午後なら時間が取れるという事だったのでこの後に行く。

 開店時刻間もないが、早速呼び込みをしているお店を通り過ぎながら、中央広場から南の大通りを歩く。途中で左に曲がり、そのまままっすぐ進むと冒険者ギルドだ。

 お供はリリムちゃん一人、マリーさんはリインフォース領への帰還準備をしつつ、リエラが出かけるタイミングにはそれに付いて行く。ちなみにリエラはキミアさんと、私たちは会った事がないけど妹のアミアさんに会いに行くそうだ。

 さて、本題はここからだ。私とリリムちゃんだけでお姉ちゃんを……止める!


「たーのもーう!!」


 えっ?!

 いつのまに動いたのか、お姉ちゃんは私とリリムちゃんが警戒態勢をとる前に、既に冒険者ギルドの扉を開けていた。


「アオイお嬢様〜。動くどころか気付けませんでした……」

「私も……あ、お姉ちゃんまさかテレポートしたんじゃ……」

「そんなの絶対無理ですよぅ」


 私も魔力感知してなかったし……油断したかな。それにこの場合どうやって止めればいいんだろう。あとでリエラに確認しないとね。

 仕方ないと諦めて、私たちもお姉ちゃんを追って中に入る。

 中に入ってお姉ちゃんを探すと、お姉ちゃんはロビーの中央にいて、どうやら人垣に立ち塞がれているようだった。

 何かあったのかな、そう思って目を合わせた私とリリムちゃんはお姉ちゃんの元へ駆けて行く。そしてお姉ちゃんの後ろに着き、お姉ちゃんに尋ねる。


「どうしたの? お姉ちゃん」

「あ、蒼ちゃん。実は……」


 人垣が騒がしい、しかし罵声を浴びているという訳でもなく、盛り上がって話をしているようだった。そして、その人垣が私の姿を認めた途端、半数の目がこちらを向いた。


「あんたが双麗の魔術師の片割れ、アオイか!」

「お! じゃあこの娘がワイバーンをぶっ飛ばしたっていう」

「聞いたよ! 何でも爆発する魔術を使ってワイバーンを魔術師団ごとぶっ飛ばしたんだって?」


 それじゃ人が死んじゃいます……。


「ねぇ、どうやったのか教えて!?」


 それは複合魔術でちょちょいと……。

 だけれど、いきなり何人にも迫られて私がまともに答えられる訳もなく、迫り来る人がちょっと怖くてお姉ちゃんの影に慌てて隠れる。

 入れ替わるように、リリムちゃんが前に出て人垣を抑えてくれた。


「お姉ちゃん……」

「蒼ちゃん、どうやらこないだの合同依頼で倒したワイバーンの話を聞きたいみたいなのよ」

「なるほど……」


 本当にあの時の戦術や魔術、私たちの立ち回りを勉強したくて、教えを請いて二対一とかで話をするならいいんだけど、興味本位の集団に話す気はないかな……。

 私を庇って質問に答え続けているお姉ちゃんも、当たり障りのない回答をしているし。

 そこで、リリムちゃんが私を見てきて言う。


「アオイお嬢様、シズクお嬢様……。目的はギルドマスターのイアン様とシルキー様への挨拶ですよね。退けますか?」

「そうねぇ……このまま時間を浪費する訳にもいかないし」

「リリムちゃん、大変かもしれないけど、お願いしていい?」

「勿論です!」


 リリムちゃんが私たちより一歩前に出て、声を張り上げる。


「退きなさい! こちらのお二人はリインフォース子爵家のご令嬢ですよ! 退かない方は不敬罪として騎士団へ連れて行きます。さぁ、どうしますか?」


 う、貴族……、といったガヤが聞こえ、私たちが願った通り一人、また一人と去って行き……。そして。


「待て……、リインフォースって、あのリインフォース?!」

「もしかして、カステラの?!」

「あぁ! キルシュ商会で聞いたぞ!」

「それよりウォーカー商会のどら焼きだろ! あれもリインフォース家秘伝って言ってたはずだ!」

「そんな事より美容品よ! まさか、あの美容品をお作りになられたリインフォース家の方に出会えるなんて……」


 再び人垣が出来始める。初めの騒ぎでは周りで傍観していたはずの冒険者も集まって、さっきよりも大きな人垣になってしまった。しかもいう事は似たり寄ったりで……。


「同じ冒険者だろ、優先して売ってくれよ」


 要約するとこんな感じ。分かりやすいね。

 私たちは人垣の圧に押されて、一歩、また一歩と少しずつ下がって行く。そして迫ってくる冒険者との距離も詰まってくる。


「なぁ、いいだろ!」


 いよいよ、不埒な冒険者の一人が私に触れようと手を伸ばしてきた。

 私の腕まで数センチ、というところでしかし、バチリという音がしてその冒険者が吹き飛ばされる。それは勢いが収まらずに人垣の一部ごと吹き飛ばす。

 これ、お姉ちゃんの『アイギス』だ。

 バチリ、バチリといつもは見る事のない紫電を纏いながら、私たちを守る防御の壁が現れる。一体どれだけ魔力を込めたらこうなるのか……。

 お姉ちゃんが守ってくれて私はとても嬉しいけど、当のお姉ちゃんは綺麗な笑顔で、人垣の前に立って静かな、非常によく通る声で口を開く。


「立ち去らなければ捕縛してお仕置きよ。不敬罪なんてぬるいわ」


 突然声のトーンが変わって底冷えするような静かな声になったからか、ポカンとする冒険者の人たち。だから、立ち去る人はいない。でも私は知ってる。これは、お姉ちゃんが最も怒っている時。発動条件は「私が危険になったら」というお姉ちゃんの過保護っぷりが煌めく私以外危険な状態だ。流石にリリムちゃんは守られてると思うけど。

 お姉ちゃんが右手を上げる。すると、冒険者一人一人の足元に、乳白色の魔術陣が現れる。『聖 光線 収束 射出』……。その魔術語……それは、まずいまずいまずい! 止めないと……! 建物も人も無事でしのげるか分からない!


「お姉ちゃ……!」

「何の騒ぎだ!」


 するとそこへ、人垣の奥の方から、人垣をかき分けてギルマスのイアンさんが受付嬢のシルキーさんを連れてやってきた。それを見たお姉ちゃんも、魔術の発動を止めたみたい。よかった……。

 ギルマスは私たちの姿を確認して、ため息をついて一言。


「お前ら、冒険者ギルドでも騒ぎを起こすのか?」

「ギルマスは雫たちが先にやったと思う?」

「とにかく来い! シルキー、事後処理は任せるぞ」

「分かりました!」


 私たちはまるでモーセが海を割ったかのように分かれた人垣の間を、ギルマスの後ろを付いて歩いて行く。

 背後から、シルキーさんの元気のいい声がする。


「みなさん! 冒険者ギルドでの騒ぎ、それからハラスメント行為で貢献値を大きくマイナスします。ハラスメント行為はランク降格もあり得ます! あ、そこ! 全員メモしてますからね、逃げても無駄ですよ!」


 た、頼もしい……。




 ギルマスに先導されて、執務室に入る。私たちは、執務机手前に置かれたソファに二人並んで座る。リリムちゃんはその後ろで立っている。

 すぐに、たまに受付で見かけていた女性が紅茶とお菓子を持って入ってきて、私たちの前に並べる。

 私たちとギルマスがお礼を言って、女性が出て行くとギルマスもソファの対面に座った。置かれた紅茶を一口飲むギルマス。

 ギルマスがカップを置いた瞬間、リリムちゃんが私たちの横に来て。


「申し訳ありませんでした」


 そう言ってリリムちゃんが頭を下げる。


「お嬢様方を守れないばかりか、騒ぎを大きくしてしまいました」

「リリムちゃんはちゃんと私たちを守ってくれたよ。ね? お姉ちゃん」

「そうよぅ、ちゃんと前に立ってくれたじゃない。だから気にしないで」

「でも、まさかここまで私たちも、リインフォース家も話題になってると思わなかった」

「本当ねぇ」

「ですが、お嬢様方の冒険者としての経歴にキズが……」

「ん? 貢献値の事か? お前らには適用しないから安心しろ。まぁ、詳しくはシルキーが来てから……」


 丁度ノックがして、ギルマスが入室を許可するとシルキーさんが入ってきた。

 そしてギルマスの隣に座り、ギルマスの前に置かれたお菓子をお皿ごと取って自分の前に置く。

 ギルマスがそれを見て呆れながら、口を開く。


「まず、この騒ぎだが、知っての通り、今王都では貴族、庶民、冒険者、つまりほぼ町全体でリインフォース家が大変な話題になっている。更に冒険者の中では、双麗の魔術師、お前たちの事も同時にな」

「嫌というほど分かりました……」

「そうねぇ」

「これは一つ、俺、ギルドからの謝罪だが、さっきの騒ぎをすぐに抑えなくて申し訳なかった」


 ギルマスとシルキーさんが立ち上がって頭を下げる。


「あ、頭を上げてください! ちゃんと助けてくれましたよね。でも、どうしてですか?」

「蒼ちゃん、泳がせたのよ」

「泳がせた……何かあの騒ぎに乗じて悪い事をしている人がいる?」

「そうだ」


 二人が頭を上げて再びソファに座り、ギルマスが私の問いに答える。そして話を続ける。


「さっきの人垣な、お前たちの知り合いやパーティメンバー、中には親族がわんさかいるぞ」

「え?」


 知り合った覚えどころか、顔も知らない人ばかりなんだけど。

 あぁ、欲しいのはお菓子か、美容品か、それとも名声か。


「そうだ。冒険者同士のホラ吹き合戦だったら、周りに迷惑がかからない限り見逃すつもりだったんだが、新米冒険者に被害が出始めてな。一網打尽にしたかったという訳だ」

「で、その人たちを集めるために、ぎりぎりまで傍観してたって訳ね」

「その通り。流石にシズク嬢が魔術を詠唱し始めた時は焦ったぞ」

「蒼ちゃんに汚い手で触れようとするからよ」

「とにかく助かった。詳細な報告はいるか?」

「いりません」

「いらないわ」


 二人でキッパリと断る。特に聞いても意味がないしね。


「さて、今日は何か依頼の受注にでも来たのか? いつもより人数が少ないみたいだが」

「えぇ、タルトちゃんは一人旅よ」

「マリーさんは家で帰還準備をしています。今日はその話に来ました」

「帰還……。そうか、社交の時期が終わったからな」

「えぇ?! みなさん、どこかへ行ってしまうのですか?!」

「社交の時期が終わったから、リインフォース領へ帰るんだよ」

「あ、そうですね……。リインフォース家の方ですもんね」

「また来年来るわよぅ」

「しばらく寂しくなりますが、お待ちしています」


 それから、道の魔物の出現具合や雑談をして、私たちはお暇する。

 今度は誰からも詰め寄られる事はなかった。シルキーさんがしっかりと注意してくれたみたい。勿論遠巻きに見つめられてる感じはしたけど、それはしょうがないかな、と諦めた。

 扉を開けてギルドの外に出ると、太陽がだいぶ中天に登っていた。それに、視線も感じなくなったからとても清々しい気分になる。


「視線がないとピリピリしないから楽ねぇ」

「そうだね。さて次は、ウォーカー商会かな」

「えぇ。けれどまだ時間があるし、広場でお昼を食べない?」

「そうしよう! リリムちゃんもいいよね」

「かしこまりました」

「リリムちゃん、まだ落ち込んでるの?」

「じゃぁ……えぃ!」


 お姉ちゃんがリリムちゃんに背中から抱きついて脇腹をツンツンとする。


「ひゃ! シズ、クお嬢様! や、やめ! やめてくだしゃい!」

「あら、ここが弱いのねぇ」


 ウィークポイントを見つけた悪魔が、更にリリムちゃんを責める。


「やめ……! ダメですぅ……」


 私は流石にやり過ぎだと思ったので、お姉ちゃんの頭を引っ叩いてリリムちゃんから剥がす。


「お姉ちゃん! やり過ぎ!」

「助かりましたぁ……。アオイお嬢様、ありがとうございます」

「こういう時、引っ叩いていいよ」


 解放されて安堵したリリムちゃんが、はい、と答えながら涙目のまま笑顔になる。


「ああん、もうちょっとだったのに……」

「な、何がですかぁ……」

「ないしょ」


 そのまま顔を引き攣らせるリリムちゃん。


「でもやっと笑ったわね」

「無理やりだけどね」

「え?」

「思い詰めてる顔してたよ」

「リリムちゃん、そんな思い詰めないでいいのよ。雫も、蒼ちゃんも怪我してないし、何も被害を受けてないんだから。リリムちゃんが守ってくれたおかげでね」

「でも騒ぎを大きく……」

「あれはギルマスのせい」

「あれはギルマスのせいよ」


 それを聞いてツボにはまったのか、リリムちゃんが笑う。


「お二人は本当に息ぴったりですね」


 リリムちゃんの気分も晴れたところで、私たちは昼食を食べに広場へ向かうのだった。


評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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