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64. 王宮に行かなきゃいけないの?

「えーーーーーーーーーーーーーー!」

「あらまぁ……」


 私たちはリインフォース邸の食堂で、素っ頓狂な声をあげて驚いていた。

 



「今日もビルさんのご飯はおいしいなぁ」


 なんて呑気な声を私があげているのは、お悩み相談、製作物販売会、ワイバーン討伐合同依頼を全てこなした反動かもしれない。気が抜けているとも言う。

 お姉ちゃんについてもふにゃふにゃが五割増しくらいになっていて、部屋だと構って欲しい猫みたいにくっついてくる。そして今も、マリーさんに猫撫で声にも似たゆるっとした声をあげてお茶をおねだりしていた。

 しかしそんな折にも、そんなだからこそかもしれないけど、厄介ごとはやってくる。

 そう、丁度慌てたように、お義父様の元へジョセフさんがやってきて耳打ちをする。


「何? 本当か?」

「はい。……。……」

「はぁ……。しかし王命なら聞かねばなるまい。だがその前に……」


 お義父様がカトラリーを置いてお姉ちゃんに向き直る。


「雫……、一昨日のワイバーンの討伐で何をした?」

「雫は強化魔術を団員全員に掛けただけよ!」

「マジックアップか?」

「マジックアリヴィエイトよぅ」

「全員同時に多重詠唱込みでね」

「ええっと……だって冒険者の事を馬鹿にしたんですもの」

「それだな……第一師団の消費魔力が平均すると普段の五分の一だったらしい。普段より魔術を使うワイバーン討伐においてもだ」

「それは蒼ちゃんが……」


 それからお義父様は私に向き直って言葉を告げる。


「蒼……、雫と同じ質問だが、ワイバーン討伐で何をした?」

「えっと……ちょっと砂嵐を……ワイバーンの視界を塞いだ……、なんて」

「嘘よ。大爆発だったじゃない! 地球の知識まで使って!」

「思いついて試したかったんだけど大規模すぎて場所がなかったの! しょうがないでしょ!」

「それで、落としたんだな? ワイバーンを」

「……はい。エルダー含めてほとんど私が墜としました……」

「それだな……お前たちに褒賞が与えられるそうだぞ」

「褒賞? 冒険者ギルドから依頼料は貰いましたけど」

「褒賞は褒賞だ。国を守った英雄として、二人に、……王子からだ」


「えーーーーーーーーーーーーーー!」

「あらまぁ……」


 どう言う事なの……。とりあえず、断らないと……。


「とりあえず食事の時だが使者を待たせている。応接間に行くぞ。クラウディアも頼む。王命だ」

「かしこまりました」

「僕は?」

「マリー、リリム、絶対に隠し通せ」

「「かしこまりました」」

「なぜマリーとリリムに言うのか釈然としないけど……分かったよ」


 私たちは食事を切り上げて、応接間へと行く。ごめんねビルさん……。ごちそうさまでした。




 ジョセフさんがノックをして応接間に入ると、中には先日見た長身長髪の優男が座っていて、丁度私たちが入るのに合わせて立ち上がるところだった。


「ティクルス殿。どうぞ楽になさってください」

「いえ、本日は使者として参りましたので、歓待ありがとうございます。いつものようにルークで構いません。そして先日ぶりです。シズク様、アオイ様」

「おはようございます」

「おはよう。パパ、ルークさんと知り合いなの?」

「彼の親父とは学院時代からの知り合いでな。派閥違いだが意外と馬が合って、たまに手紙のやり取りをする」

「こないだの販売会、リインフォース家が主催していると聞いて、仕事で参加できないのを悔しがっていましたよ」

「なら後で土産を持って行け、アオイ、まだ在庫はあるな?」

「はい」

「ありがとうございます」




 挨拶を済ませて、私たちは席に座る。応接間は長テーブルで、長辺にルークさん。向かいにお姉ちゃん、私、お義母様。短辺の上座にお義父様が座った。


「早速ですが……、王子からの書簡を読ませていただきます」


 私とお姉ちゃんは生唾をごくりと飲み込んで身構える。


『シズク・リインフォース

 アオイ・リインフォース


 ――――。此度の働き、大義である。

早速だがこの働きに適う褒賞を用意したので一度王宮へ遊びにくるといい。

時間は――――』


 手紙を読み終わったのか、丁寧に畳むルークさんを見ながらぼーっとしている。


「お姉ちゃん……」

「何、蒼ちゃん」

「どう言う事?」

「つまり、王宮で殿下と陛下に拝謁して頂きます」


 え?


「えーーーーーーーーーーーーーー!」

「あらまぁ……」


 先ほど食堂に響いたのと全く同じ声が、今度は応接間にこだました。


「ルーク。まだ二人はデビュタントしたばかりだ。殿下にも、陛下にも失礼があってはまずい」

「それを気にする方ではないのはご存知でしょう?」

「しかしな……。リインフォース家の人間と会うなんて反対する人間はいなかったのか?」

「いましたよ、大勢。殿下が押し通しましたが」

「まったく……」


 そうだ、とルークさんが小袋をお姉ちゃんの前に置く。


「こちらデビュタントしたばかりのご令嬢に、と言う事でドレス代を殿下から預かりましたのでお渡しします」


 お姉ちゃんが紐を解いて中を見る。そしてすぐ私に渡してきた。私も中を見る。

 あぁ、銀貨ならどれほどいいかなって思ったけど、大きい方かぁ……。

 しかし断る訳にも行かないので、お姉ちゃんと二人でお礼を言っておく。


「当日は三の鐘と四の鐘の中間に、王宮より馬車をこちらに向かわせますので、ご準備ください」

「分かりました」

「分かったわぁ」


 必要事項の伝達は済んだと言う事で、ルークさんが帰る。

 帰り際、そうだ、と振り返って私たちに告げる。


「魔術師団に興味はありませんか?」

「絶対認めん!!」


 お義父様が間に割り込んでノーを突きつける。

 残念ですが、仕方ありませんね、とすぐに引き下がってルークさんはお土産を持って帰って行った。


「はぁ……」

「大変ねぇ……」

「とりあえず」

「どうしようかしらね」

「お前たち、仕立屋に行ってこい……」

「旦那様、私はこれから……」

「あぁ、クラウディアはお茶会か……。なら仕方ない、二人で行ってこい」

「「はい」」


 気が抜けていたところに驚きの連続だったので、まるで頭が回転していない。お義父様に言われてそうだと思い至った。

 王様に拝謁するためのドレスかぁ。確かに必要かもしれない。けどお義母様に見てもらえないのはちょっと不安かな。しかしいつまでも見てもらう訳には行かないから、自分たちで選ばないとね。

 私とお姉ちゃんは早速出かける事にした。

 向かうのはエドワードさんの息子さん、リチャードさんのいる仕立屋さん。

 場所は王都の貴族街の中、平民街から貴族街に出入りする門の近くにある。

 貴族街なので私たちはドレスを着て、馬車で移動する事にした。

 マークさんが御者するネーロの馬車に揺られる事十分、それこそあっという間についた。

 仕立屋はリインフォース領にも似たお洒落な雰囲気で、白塗りの壁にワインレッドの装飾。エドワードさんのお店より少し大きいかな?

 マリーさんが扉を開けて私たちが中に入るのを促してくれる。中に入ると、癖のある金髪を撫でつけた細身の男性が頭を下げてくれた。


「いらっしゃいませ……もしかして、リインフォース子爵家のご息女様でお間違いありませんか?」


 私とお姉ちゃんが軽く膝を曲げて挨拶をする。


「そうよぅ。雫・リインフォースよ。こっちが妹の蒼ちゃん」

「初めまして。よく分かりましたね」

「父より手紙を頂きまして、リインフォース家より双子の麗しいご令嬢が来るから準備しておけと書いてありました。おっと、失礼しました。紹介が遅れました、リインフォース領の仕立職人、エドワードの息子でリチャードと申します」

「雫たちも聞いているわよ。腕のいい息子がいるって」

「恐縮です」

「早速ですけど、急ぎでドレスを仕立てて頂きたくて来ました」

「はい、用途はどのようなものでしょうか?」

「殿下と陛下との拝謁用よぅ」

「拝謁ですか……? 大変名誉な事ですね。ちなみに日付は……?」

「来週よ。難しいかしら?」

「いえ、可能です。ただ急ぎの作業となりますので、今日一日デザインを相談させていただきたいのですが、ご都合はよろしいですか?」

「勿論です」

「それから、間に合わせるために針子を多く動員したいともいますので、お値段が……」


 私はかばんから小袋を取り出してカウンターに置く。王子から貰ったドレス代だ。


「前金はこちらを。勿論、特急料金で構いませんし、足が出たら追加で払います」


 リチャードさんが、失礼します、と中身を確認して驚いた顔をする。


「これだけいただければ十分です」


 やっぱり多すぎたらしいよ。王子様。

 早速、と私たちは採寸から始める。採寸は女性の店員さんだ。リリムちゃんにもドレスを脱がすのを手伝ってもらって、一部位ずつ測っていく。そして隣から聞こえるお姉ちゃんの寸法。


 ……。


 えっ。

 この姉、まだ成長期。


 えっ。

 私、なんで、サイズ変わってないの……。


「蒼ちゃん。太ってないからね」

「分かってる! 分かってるよ! 分かりたいよ!」




「ありがとうございました」


 私たちより私たちに詳しい店員さんが王都でも誕生して、私たちはお店の奥の仕立室で、様々なデザインのドレスを見せてもらう。


「開始時間が四の鐘と伺いましたのでアフタヌーンドレスがよいかと思います。しかしその後に食事会や舞踏会に出るのでしたら、イブニングドレスも必要になります。今回は拝謁ですので、万全を期して両方仕立てます」


「蒼ちゃん、アフタヌーンドレスはお揃いにしない?」

「うん、いいよ」


 いつもはごねてくるのに、ちゃんと相談してくるの珍しいな。私は提案に応じて了承する。

 二人でわいわいと、リチャードさんに相談しながら決めていく。

 アフタヌーンドレスはワンピースタイプで上半身はややテイラードで作られており、胸元からお腹の辺りまでボタンでしっかりと生地を留める感じ。肩口からお腹の辺りまで真っ直ぐ小さなフリルで装飾している。露出はよくないからと、今回は長袖。胸元もボタンでしっかり留めている。

 胸元に加工されたのと同じフリル作られたオーバースカートで、スカートとの繋ぎ目を隠している。

 スカートは脚全体を隠す長さで、全周をフレア加工している。生地は厚めだけど、おかげでしっかりと足を隠せている。

 色は私が山鳩色、お姉ちゃんが鶯色だ。どっちも深くて渋めの緑色。


 次にイブニングドレスを選ぶ。こっちはデザインを変える事にした。

 こっちもワンピースドレスだけど、大きく違うのは露出かな。胸元を大きく開いている。胸、見えちゃわないかな……。丁度谷間のポイントで花をあしらった装飾を付け、そこから下にフリルリボンを付けている。

 袖は肩口から手首までレースで透け感を出して、袖口にフリルを付けている感じ。

 オーバースカートはこっちにもついていて、こっちはドレープを寄せてエプロン状にしている。

 スカートはお尻から足元にかけて大きなバッスルをとっている。

 私はちょっと冒険して深紅色にした紅花を深く染めた色だ。

 お姉ちゃんは……丁度試着しているみたい。

 えっ?!

 

「お姉ちゃん、それ、大丈夫なの……?」

「上に羽織るから平気よぅ」

「そう言う問題かなぁ」


 お姉ちゃんは胸元を隠すだけの薄い生地の下地用ワンピースドレス、この薄すぎて心もとない状態を隠すために、厚手で胸元まで生地のあるオーバースカートでもう一枚重ね着して隠す感じのドレスだ。オーバースカートの前空き部分からリボンやレースの装飾が見え隠れするのが可愛い。

 ドレスが緩まず、ずれないように留めているのが、ベルトというより兵児帯に見える。

 スカートの長さは足首が見えるくらいで、なんか前衛的なんだよねぇ。

 こっちも青磁色と珍しい。


 これで必要なものは選べたかな。

 お姉ちゃんが試着した後も随分と店員さんとしっかり相談していた。いつもはすんなり決めるのに、珍しいな。

 私たちは、二人で不足がないか確認して、もう一度リチャードさんにお願いして仕立屋を辞する。

 馬車に乗って、家に戻る。


「選べてよかったね」

「そうねぇ」

「今日はずいぶん時間がかかってたみたいだけど、悩んでたの? 珍しい」

「そうよぅ。可愛くしたくてね。とにかく出来上がりが楽しみねぇ」

「着ていく場所を考えると楽しくないけどね……」

「でもやっとよ、蒼ちゃん」

「そうだね、やっとここまで来た。しかも最高の形で」


 私たちはずっとリエラを救うのを目的に色々動いてきた。

 来週、私たちはリエラに謹慎を言い渡した王様本人に拝謁する。しかも褒賞を貰うという状況だ。

 もしかしたらこっちから……いや、やめておこう。

 でもこれでリインフォース家は王家にとって危うい存在じゃないって言うのがアピールできたらいいな。



評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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