62. タルト、冒険者!2
『やあ、僕がタルトだ』
「「え?」」
大量発生したスラストピッグを討伐するために、王都から北の平野に来ている私たちと、タルトが自らの舎弟だっていうクーリくんとミーネちゃん。そんな二人に、私たちはタルトがドラゴンだと教える事にしたんだけど、ぽかんとした顔をする二人。だよねぇ……。私たちも、タルトが人型になったときに同じ顔をしていた気がするよ。
「タルト……? トカゲ?」
『失礼だなクーリ、僕はドラゴンだ』
「ドラゴンなんて……伝説の生き物じゃ……」
「ちょっと訳ありでね。親と離れ離れになっちゃったのを保護したんだ」
「その時に、言葉とか、色々便利にするために、雫と蒼ちゃんはタルトちゃんと従魔契約したのよ」
『初めはすぐに別れるつもりだったけど、案外快適なんだよね。ご飯おいしいし』
「えぇ、タルトちゃんそれは悲しいわ」
「本当に、タルトなのか……?」
その言葉を聞いて、タルトが私の肩から飛んで空中で黄色く光り出す。月属性の魔力の色だ。
そして光ったままその体型がドラゴンのものから人型、少女だか少年だか分からない子供体型、に変化する。
やがて光が収束して、裸の人型タルトが現れる。
「……! クーリ、ダメ!!」
「おわっ……」
呆然としていたミーネちゃんが突然再起動して、クーリくんの目を塞ぐ。あ、そっか、女の子だと思ってるのか。
「ミーネちゃん大丈夫。性別無いから」
「僕ほどダンディな紳士はいないと思うけど、まぁ、ドラゴンにとっては瑣末な問題かな」
「でもクーリが見るのはなんか嫌です」
「クーリ、見たいの?」
「見たくない!」
顔を真っ赤にして答えるクーリくん。これは勘違いしてたな。
そしてマリーさんが、裸のタルトに服を着せる。
「ありがとう、マリー」
「とんでもございません」
「と、いうわけで、タルトちゃんはドラゴンなのよぅ」
「「……」」
「信じられない?」
「い、いえ……ただ現実味が薄くて……」
「信じてもらうしかないわねぇ」
「本当に理不尽な契約じゃ無いのか……?」
「クーリ、それはない。もしそうだとしても、君が気に止む事じゃない」
「……」
それから、この件は飲み込むのに時間が必要、という事で私たちは狩りをする事にした。
ただ七人だと戦力過多だから、二グループに分ける。
一つ目が初心者支援組。クーリくん、ミーネちゃん、お姉ちゃん、タルト。
もう一つが攻撃特化組。マリーさん、リリムちゃん。私。お姉ちゃんの強化魔術付きで。
攻撃特化と言われた以上、あっちよりたくさん狩らないとね。
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「ミーネちゃんは聖属性魔術が使えるんだったわよね? 何が出来るの?」
「えっと、聖属性魔術はパワーアップとヒールしか使えません」
「あら? でも初級聖属性魔術ならまだあるわよね。他には使えなかった?」
「ごめんなさい! 教えてもらえた魔術語がこれしかなくて……」
「謝る必要はないわ。教えるから、一緒に唱えましょう。クーリくんに唱えてくれる?」
「分かりました! お願いします!」
雫は魔術陣を展開して、魔術言語を順番に書き込んで説明していく。
「まず防御力アップが『身体 硬化』、シールドね。パワーアップとセットで使う事が多いわ。あとクーリくんには多分意味がないけれど、『魔力 強化』でマジックパワー。これで自身の魔術攻撃力を上げるといいわ。そのうち中級聖属性魔術を覚えれば、使える補助魔術が格段に増えるから、まずはこの辺りから頑張ってねぇ」
「ありがとうございます!」
「あと使える属性はある?」
「水属性が使えます……」
「なら後で蒼ちゃんに教えてもらいましょう」
「そこまでしていただくわけには……」
「ダメよ。教われるなら教わるべきよ。二人の生存率が上がるわ」
「はい」
ミーネちゃんが強化魔術を使う前に雫は『魔力 負荷 軽減』と唱えて、魔力消費を軽減させる『マジックアリヴィエイト』を雫とミーネちゃんに掛ける。
それからミーネちゃんはクーリくんに、雫は残りの面々に強化魔術を掛けていく。
「ミーネには掛けて、俺には掛けてくれないのか?」
「クーリ! いい加減にして! シズクさんが私にしか掛けないのは効果が……」
雫は最後まで説明しようとしたミーネちゃんを手で抑えて、説明を引き継ぐ。
「掛けてもいいけれど、ちゃんと動けるかしら?」
「ば、馬鹿にすんなよ! 俺は強いんだ!」
威勢はいいわねぇ。高威力の強化魔術なんてもらった事ないだろうから、簡単に強くなるって勘違いしちゃうのかしらね。
そして雫に必死に謝り続けるミーネちゃん。ミーネちゃんは、なぜ雫が魔術を掛けなかったか分かったみたいね。この子は少ない情報からでも考える頭があるわぁ。でもこのまま、ミーネちゃんが無視され続けるのも問題ねぇ。どうしようかしら。
するとそこで、マリーちゃんが一人威勢のいいクーリくんの前に仁王立ちして、若干怒ったような顔で話し出す。
「あなた、先程からシズクお嬢様とアオイお嬢様に失礼です! お連れのミーネさんも困っているじゃないですか!」
「うるさい! 強化魔術さえあればこんな魔物なんていくらでも狩れるんだ! お前らなんか役に立たない程にな!」
「むっかー! お嬢様方を役立たず扱いなんて、リリム完全に怒りましたよ!」
「リリムちゃん。落ち着いて……」
「いいえアオイお嬢様。このガキの頭を地面に擦り付けてやりますから!」
「マリーさん、リリムちゃんを止めて!」
「リリム……、言葉遣いはさておき、全力で叩きのめしなさい」
「ダメだ……」
「ダメねぇ……」
そして雫たちがもうどうしようも無いと、リリムちゃんとクーリくんの言い争いを静観しているうちに、どうやら狩り勝負が決まったらしいわぁ。リリムちゃんとクーリくんの個人討伐数争い。負けた方が願いを一つ聞くんだそう。
リリムちゃんの願いは心入れ替えて全員に謝罪すること。
クーリくんの願いは、不明ね。勝ったら教える。それまで怯えてろ! だそうよ。蒼ちゃんがお嫁に行っちゃわないか心配だわ。その時は再度雫が勝負を挑みましょう。
と、ちょっといざこざもあったけど、結局公平を期すために雫が全員に強化魔術を掛ける事になったわぁ。大人数にまとめて掛けるのは初めてかもしれないわね。
蒼ちゃん、タルトちゃん、ミーネちゃん、雫には魔術強化と防御強化の色々を、マリーちゃん、リリムちゃん、クーリくんには物理攻撃強化と防御の強化の色々をそれぞれ掛ける。
多重詠唱と並列詠唱を合わせて、全員に全種類いっぺんに掛ける。現れる無数の乳白色の魔術陣。それらから発生した魔力が、各々目がけて一斉に飛んで行く。
ミーネちゃんがそれを見て意味が分からないって顔をしていたけど、練習すれば誰でも出来るわよ、とフォローしておいたわ。
そして、二組に分かれて狩りを開始する。
クーリくんがふんすふんすと息を荒げて、魔物に向かって進んで行く。雫たちが北西方面、蒼ちゃんたちが北東方面担当。正直結構な数の冒険者がいるけど、スラストピッグはまだ狩りきれてないから、いくらでも狩れそうねぇ。
「俺が全部狩るからお前らは手を出すなよ! タルトもな!」
「えぇ……めんどくさい」
「雫さん、タルトさん……クーリが面倒な事にして申し訳ありません」
「いいのよ。雫は賛成よ。ミーネちゃんが色々考えているのに、それをちゃんと聞かないのはパーティとして問題だわ。だからこの機会に、聞くようにしちゃいましょう」
「ありがとうございます……」
なんて話ながら歩いていると、早速一家族が付近にいるわ。父親らしきスラストピッグが警戒音を出してこっちを睨んでいる。
そこへ片手剣を鞘から抜いて構えるクーリくん。
「やぁ! ……うわっ!」
この声は片手剣を振りかぶった時にあまりの速度に勢い付きすぎて体のバランスを崩したのね。
その隙を狙って、スラストピッグがクーリくんに突進してくる。危ないわぁ。
『プロテクション』
雫は詠唱破棄をしたプロテクションをクーリくんの前に張って、スラストピッグの突進を防ぐ。
それを見ていたクーリくんが、チャンスとばかりに、何とか体のバランスを元に戻して思いっきり足を踏み込む。
「おわ!!」
本人は踏み込んで勢いをつけて上段から斬り掛かるつもりだったんだろうけど、踏み込みの勢いが付きすぎて、前のめりにスラストピッグへ突進する形となってしまった。
それに激怒して、突進し返すスラストピッグ。しかしまだ体勢を立て直せないクーリくんに、雫は見かねて再び『プロテクション』で防御を張る。
「なんだよこれ! 体が思うように動かない! さては何かしたな?!」
「強化魔術をしただけよぅ」
「クーリが制御出来てないだけだよ!」
クーリくんが、プロテクションに抑えられているスラストピッグを見て慌てて剣を構え直しながらさらに話を続ける。
「でも! ミーネの魔術じゃこんな事には……!」
「シズクさんほどのすごい魔術師の強化はそれだけ強いんだよ。ベテラン冒険者がやっと制御出来るほどの魔術を、私たち駆け出しが制御出来る訳ないでしょ! そんな事も分からないの?!」
「ぐっ」
プロテクションで守っているのに、ダメージを受けているわねぇ。精神に、だけど。
「もういいよね? クーリ」
と、ボソリと呟いて前に出たタルトちゃんが魔法を使って、雫のプロテクションで防がれていたスラストピッグを一瞬で焼き殺す。あれは……ファイアボールかしら?
それから、奥へ一人で歩いて行ってしまう。
「タルトちゃん?」
「クーリ役に立たないし、けどギルドの評判に関わるから奥で狩ってくる。雫、二人をよろしくね」
「分かったわぁ」
「役に立たない……」
タルトちゃんが去ったその場には、意気消沈して佇むクーリくんと、それを見守る雫とミーネちゃん、そして消し炭になったスラストピッグが残るだけだったわ。フォローが必要ねぇ。
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「まったく、なんなんですか! あの生意気な態度は!」
「まぁまぁリリムちゃん、多分お姉ちゃんが何とかすると思うよ」
「アオイお嬢様、魔物は全部私が狩りますからね! 絶対に地面舐めさせる!」
「アオイお嬢様、私もリリムに賛同しますので手伝います。追い込めばいいですか?」
「さすがマリー! お願い!」
戦法は単純。マリーさんがリリムちゃんの方にスラストピッグを追い立てる。それをリリムちゃんが狩る。逃げてリリムちゃんが一息で追えないのは私が倒す。ただリリムちゃんが勝負のせいもあってか相当頑張っていて、私の出番はほとんど無い。
「リリムちゃん、無理しないでね。もうだいぶ狩ってるから」
「大丈夫です! あんな初心者には負けません!」
強化を強めにしてるし、明日は体の動かしすぎで筋肉痛だろうなぁ、お姉ちゃんにヒール頼んでおくか。
私はそんな事をぼんやりと考えながら、三十匹目を『ストレージ』に入れたところで、数えるのが面倒になった。
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「何で体が思うように動かないんだ! くそっ」
『リセット』
雫は一度、クーリくんに掛けた強化魔術の効果を消す。
「一旦強化魔術を解除するわね」
「そんな……俺はまだやれる……」
「ちょっと待ってね」
それから雫は込める魔力をうんと弱めて、もう一度強化魔術を詠唱する。『パワーアップ』と『ヘイスト』でいいかしらね。
雫の体が乳白色に光って、そこから魔力がクーリくんに注がれる。
「魔術を弱めたから、これで動けるはずよぅ」
「弱くない……俺は動けるはずなんだ……訓練だってやってるし、強いはずなんだ……」
ブツブツと呟きながら、クーリくんがスラストピッグの一団に突っ込んで行く。しかし先ほどまでの威勢がなくてちょっと心配ね。
すると案の定、スラストピッグが突進してきても、構える事なく立ったままになっている。危ないわ。でも……、いえ、一度痛い目見てもらいましょう。
「クーリ!!」
ミーネちゃんの叫び声も虚しく、スラストピッグの突進がクーリくんに炸裂する。
「ぐあっ!!」
クーリくんの体が後ろに大きく飛ばされ、受け身を取る事も出来ず背中から無造作に落下する。
「クーリ! クーリ!」
ミーネちゃんが慌ててクーリくんに駆け寄る。しかしその光景を見ていたスラストピッグが、さらに突進を繰り出そうと構える。このままじゃまた二人に当たるわね。
雫は『プロテクション』を四枚唱えて、スラストピッグの前後左右を囲む。
それから久々に聖属性魔力を集束させてレーザービームのように指から光線を打ち出す。
眉間を撃ち抜かれたスラストピッグが倒れるまで数秒ほど。
動かなくなったのを確認して、雫もすぐに二人の元に駆け寄る。
「クーリ! 私のヒールじゃ、効かない」
「すぐに治すわ、離れてくれる?」
「はい……お願いします」
クーリくんの怪我の具合は……、あばらが折れてるわね。血は吐かないから内臓は平気かしら。あと打ち身と落下した時に擦り傷。それから、背中から落下したから呼吸困難ね。
雫はすぐにかばんから杖を取り出して魔術を詠唱する。『神聖 治療 回復』。雫の足元を乳白色の魔術陣が広がって光り出し、手に持った杖の杖頭の宝石が輝き出す。これ、超級になるのかしら。
『ハイヒール』
クーリくんの体が輝き出し、みるみると顔色がよくなってくる。光が収まってから、雫は触診してあばらが元に戻っている事を確認する。外傷も無くなったし、呼吸も穏やかになった。よかったわ。治ったからいいけど、ちょっとやりすぎちゃったかしら。
「もう大丈夫よ、ミーネちゃん」
「っ! クーリ!」
「うぅ……」
ミーネちゃんがクーリくんの体を揺さぶる。この子意外と容赦ないのよねぇ。
そして目を覚ますクーリくん。
「ミーネか?」
「そう。どうしてあんな危険な事したの?!」
「危険……? そうか、俺スラストピッグに飛ばされて……」
「クーリくん、いくつか聞いてほしい事があるわ」
「何だ……?」
「まず、痛い目を見てもらおうと思って、わざとあなたを守らなかったわ。ごめんなさい」
「シズクさん、何で……」
「弁解するつもりはないわ。でも、なぜあなたが攻撃を受けたかは伝えておくわ。強いと慢心していたから、それから仲間であるミーネちゃんの話を聞かないからよ」
「あぁ……」
「あなたもミーネちゃんもまだ駆け出しよ。それに、訓練だってほとんどしていないわね。いや、始めたばかりかしら。雫も片手剣なら使えるから、動きを見れば分かるわ。強化魔術をあなたに掛けない理由。強すぎて力が制御出来なくなるからよ。実際まともに剣を振るどころか足捌きすら出来なかったでしょう? ミーネちゃんはその事に気付いたから、あなたもちょっと考えるか、人の話を聞こうとすれば分かったはず。それにね、強さなんてその時々で変わるし、俺は強いなんて事はあまり意味がないのよ。あなたは自分の事を強いと思っているかもしれないけど、魔物には負ける。その程度よ。強さに固執しているうちは、私たちの誰にも勝てないわ。そんな強さより、ミーネちゃんと協力しなさい。今日一度も協力しなかったわね。二人でやれば勝てるのに。二人でやれば無事に帰れるのよ。今みたいな怪我を受けずにね。いつもヒールで救える人がいるわけじゃないから、それは覚えておきなさい」
「……」
ちょっと言いすぎちゃったかしら。でもここで釘を刺しておかないとこの子は死ぬ。タルトちゃんの舎弟だし、何より冒険者の後輩が死ぬのは見たくないわ。これで聞いてくれるといいのだけど。
そこでお腹の音が二つ。一つは大きなクーリくん、もう一つは可愛くミーネちゃん。仲いいわねぇ。
「さて、お昼を食べに蒼ちゃんたちと合流しましょうか」
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朝食べたとはいえ、やはり獲れたてのお肉は食べてみたいというもの。私は血抜きしたスラストピッグを薄切りにして、醤油ベースのタレと生姜で味付けする。そして玉ねぎと一緒に炒める。生姜焼きってやつだね!
お皿に盛ってみんなに渡す。余った分は大皿に乗せて置いて各自で取ってもらう。
いただきます。
この醤油と生姜のハーモニーが何とも、そして最後にくる苦味が意外といいアクセントになっていて病みつきになる。これは、おいしい。
でも、うるち米が、ほしいです……。
みんなにも好評、タルトとクーリくんが大食い勝負を始めるかってくらいの勢いで食べてる。おかわりあるからね。
結構作ったんだけど、結局みんないっぱい食べてくれて、綺麗に無くなりました。ごちそうさまでした。
マリーさんに食後の紅茶を淹れるのを頼んで、話題は狩り勝負になる。
「比べるまでもありませんね! 約束通り、シズクお嬢様とアオイお嬢様に謝罪を……」
「マリーちゃん、待って。雫に決めさせてくれないかしら?」
「もちろんです。何を謝らせるんですか?」
「謝ってほしいわけじゃないのよ、二人と一緒に行動して、二人に守ってほしい事が分かったのよ。それを命令にさせてもらうわ」
「はい……」
「……」
二人が戦々恐々とお姉ちゃんを見ている。一体何をしたんだか。
「二人に命令よ。『死なない努力を絶やさないこと』。二人とも、まだいつ死んでしまうか分からないくらい弱いわ。でもちゃんと勉強して訓練したら、生き残れるようになる。蒼ちゃん。リインフォース領の紹介状、まだ持ってるかしら?」
「あるよ」
私はお姉ちゃんに言われてかばんから封蝋で印を捺した封筒を取り出す。中身は、リインフォース領の冒険者ギルドで教育の便宜を図ってもらうための紹介状になっている。
「これがあればリインフォース領の冒険者ギルドで下位冒険者向けの教育が無条件で受けられるわ。二人がどう言う理由で冒険者になったか知らないから、この土地を離れられるか分からないけど、出来たら行ってほしいわね」
「ありがとうございます……あの、どうしてここまで……」
「簡単よ」
「タルトが舎弟って二人の事を言ってたから」
「でも、舎弟っていう割に、タルトちゃんの教え方は雑ねぇ」
「僕も怒られる流れかい?」
「冗談で言うのはいいけど、タルトちゃんも自分が完璧だなんて思ってほしくないわね」
「そうだね。シズクたちと同じように説明してたかもしれない。気をつけるよ」
「こんな風に間違いに気付いて反省する。これが大事よ、クーリくん?」
「……分かった……分かりました。気をつけます……」
「とりあえずはミーネちゃんとよく話す事ね。ちゃんとクーリくんの事も考えてくれてるわよ」
ご飯も食べたし、狩りもおしまい。私たちは帰る事にした。
冒険者ギルドでは、まだ昼下がりというのもあって、精算カウンターは空いていた。
早速カウンターで精算する。リーダーはクーリくんだ。
「俺、狩ってない……」
「気にしないでいいよ。全員のノルマは足りてるから」
「おかえりなさいませ。スラストピッグの討伐依頼ですよね。一人ノルマが三頭ですので、七人パーティで二十一頭ですが……」
私とタルトがかばんからスラストピッグを取り出していく。基本的に納品物が嵩張る場合、頭だけとか一部だけを狩って持ってくるんだけど、私とタルトは丸ごとなのであっという間にカウンターが埋まる。そして受付の女の子がシルキーさんをヘルプに呼ぶまで、そう時間は掛からなかった。
「八十頭で銀貨四百枚ねぇ。結構狩れたわね。ミーネちゃん、山分けでいいかしら?」
「い、いえ、私たち、足手まといでしたし……」
「そんな事言うと全部押し付けるわよ」
「お姉ちゃん!」
「では……、リインフォース領への移動費だけ……」
「二人はリインフォース領に行ってみるの?」
「はい、ここにいなければいけない理由もないですし、私たちには何もかも足りないので……。いいよね? クーリ」
「あぁ」
「そっか」
「頑張ってね。クーリくん。ミーネちゃん」
二人がタルトの前に来て頭を下げる。
「二人とも、頑張るといいよ。蒼、爪出して」
言われてすぐに、私は何の爪か思い至って、かばんからそれを取り出す。
タルトのお母さんの爪だ。私はそれを二つ取り出して、クーリくんとミーネちゃんに渡す。
「あの……これは」
「ドラゴンの爪だよ。常に身につけているといい。君たちを守ってくれる」
「タルトさん、こんな大切なものは……」
「これは僕が授ける二人への加護だ。大した事を教えられなかったから、せめて持って行っておくれよ」
「ありがとう」
そう言ってクーリくんが頭を下げる。遅れて、納得したミーネちゃんも同じように深々と下げる。
それから私からは魔物肉、お姉ちゃんからはポーションを渡す。『ストレージ』も魔術具のかばんも無いから多くは渡せないけど、なるべく質のいいものを渡したよ。
そんな二人とは、冒険者ギルドで別れる。
善は急げと、明日にはもう出発するらしい。
見送って、私たちは家に帰る事にした。
「タルト、寂しい?」
「寂しくないよ」
「本当かしら、ちょっと泣いてたり……」
「蒼じゃあるまいし。泣かないよ」
「私だって泣かないよ!」
「でもこの中で一番泣きそうなのはアオイお嬢様ですよね」
「私もそう思います!」
「マリーさんとリリムちゃんまで?!」
一番冷静沈着な私のイメージはどこへ行ったのか。
「初めからないわよぅ」
「何で考えてる事が分かって……」
「その発言でもうダメよ、蒼ちゃん……」
「えぇ……」
私の虚しい呟きがこだまする王都の夕方は、今日も夕陽が綺麗だった。
こちらも夕陽を浴びながら、二人宿までの道を歩く。
「クーリごめんね、勝手に決めちゃって」
「いや、俺もそうしようと思ってた」
「いい人たちだったね」
「あぁ。助けてもらった。俺はまだ何も出来ないって事も分かった」
「うん。私も」
「だからしっかり訓練して、いつか、いつかタルトたちと肩を並べられるようになりたい」
「私も、でも、きっとすっごく大変だよ」
「でも生き残るために、頑張らないとな」
「うん。命令されちゃったもんね」
「そうだな、俺が弱いから、ミーネまで付き合わせる事になった」
「あの弱いって言うのは私にもだよ。私だってもっと訓練して、生き残れるようになるんだから」
「二人で頑張ろうな」
「うん!」
評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。




