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EX. タルトの絵日記01 ~舎弟を作るよ~

 僕はタルト。今は人型だけどドラゴンだ。

 クラウディアが用意したこの服は、布がヒラヒラしていてちょっと動きにくいけど、クラウディアが持ってくる服も、雫が持ってくる服も全部こんな服。だけれど似合う、可愛いなんて言うから、きっと僕にピッタリなんだろう。

 雫と蒼は忙しい。

 なんでも、リエラって魔術の師匠を救うために色々やっている。特に貴族の評判を上げるのに最近ご執心だ。全員と戦って強さを示せばいいって訳じゃ無いから、人間って面倒くさいよね。

 僕が今日これから冒険者ギルドに行くのもその手伝い。二人は貴族の事ばっかりで町の冒険者に対してのアプローチが不足していると分析した僕は、冒険者の評判を上げる事にした。やっぱり僕ってば、頭脳明晰だね。

 冒険者ギルドの扉の前にたどり着いて、僕は雫に教えてもらった言葉を思い出す。なんでも、僕みたいな思慮深い武人だけが使う事を許される挨拶だそうだ。だから蒼は言わないし、雫は実はこっそり使っているんだと思う。

 僕は冒険者ギルドの扉に手をかけて、その言葉を発する。


「たのもーう!」


 ギルドに入って右手の相談スペースにいた三人組と四人組の冒険者がこちらに注目する。

 何だ、迷子か、チビだな、なんて言葉が聞こえたけど、無視する。僕みたいな聡明なドラゴンはそんなチャチな喧嘩は買わない。

 僕は正面にある受付カウンターに向かって歩き出す。目的は受付嬢のシルキーだ。

 シルキーを発見して、魔力でもそれが本人だと確認して僕は近づく。しかし別の人間が二人、既に近くにいた。

 僕が近づくと、どうやら二人組を前にして悩んでいたシルキーが、僕に気づいて笑顔を向ける。


「あ、タルトさん、丁度いいところに!」

「断る」

「そんな殺生な! ちょっと頼みがあるんですよぅ」

「何?」

「なんだこいつ。俺よりチビじゃないか」

「ちょっと、クーリ。失礼だよ」

「シルキーさん、こいつが冒険者出来るのに俺が出来ない訳がないよな! 頼むよ!」


 僕は魔力感知で感じ取れる魔力量や流れから、この二人の強さを測る。そしてシルキーに聞く。


「シルキー、この弱いの何?」

「よわっ……」

「え……どうして……」


 一瞬ショックを受けていた、クーリと呼ばれていた緑の短髪の少年が、僕を睨みつける。


「お前みたいなチビに弱いなんて言われたくないな! これでも村じゃ剣で一番強いんだ!」

「クーリさん、落ち着いてください。タルトさん、こちらはクーリさんとミーネさん、成り立てですが、一応Eランク冒険者です」

「ふんっ」

「よ、よろしくお願いします」


 ミーネと呼ばれた赤い長髪の少女が僕に頭を下げる。そっちのクーリって子より、身体を流れる魔力が綺麗だな。杖を持ってるし、魔術師かな。


「クーリさん、ミーネさん。こちらはタルトさん。Bランク冒険者です」

「Bランク?! こんなチビが?!」

「す、すごいです」


 僕は丸い、ヒラヒラがたくさんついたポシェットの中で『ストレージ』の魔法を発動させ、Bランクのギルドカードを取り出して二人に見せる。


「嘘だろ……」

「本物だ……すごい……」


 それをもう一度ポシェットにしまって、シルキーに尋ねる。


「で、何? 僕は依頼を受けてさっさと出たいんだけど」

「はい、この二人の依頼に同行してくれませんか? まだ、依頼をこなしていない新米なのでサポートしたいのです」

「イアンに頼めばいいじゃん」

「ギルマスは別件で忙しくて……」

「他の冒険者は? そこで暇してるのとか」


 僕はクエストボード前でたむろしている冒険者集団を見てシルキーに尋ねる。それを聞いたシルキーが困った顔をして僕に顔を近づけてくる。


「女性にちょっかいを出したり、素行に問題の多い冒険者なんです。その点、タルトさんならそんな心配がないので……」

「なるほどね……」


 僕は少し考える。雫と蒼の評判を上げたいという目的、この二人について行く事でそれは達成出来るのかな。まぁ、一人で狩りをするよりはいいかもしれない。


「まぁいいよ。何をすればいい?」

「ありがとうございます!」

「よ、よろしくお願いします!」


 しかし一名、そっぽを向いて何も言わない。

 そこでいよいよ、怒ったらしいミーネが杖で思いっきりクーリの頭を殴って頭を下げさせる。


「痛えな! 何すんだよミーネ!」

「私たちまだ新米なんだよ! それなのにわざわざBランクの人が手伝ってくれるんだよ! クーリ失礼すぎるよ!」

「こんなチビに出来る訳ないだろ?!」

「私もう手伝わないよ?!」

「くそっ……分かったよ! よろしく……」

「クーリ!」

「よろしくお願いします! これでいいな!」

「タルトさん、申し訳ありません……」

「別にいいよ。痛い目を見るのは僕じゃないから」

「はい……」

「けっ」


 そこでシルキーが紙を一枚取り出して、僕たちに見える向きでカウンターに置く。

 薬草採集か。


「こちら、E、Dランク向けの薬草採集です。お二人は初めてなので、これがよいと思います」

「俺は剣だって使えるぜ! Bランクもいるんだし、もっと魔物討伐とか無いのかよ!」

「申し訳ありません。魔物討伐の受注はDランクから可能となっております。タルトさんはパーティではなくメンター扱いとなりますので、受注条件に含まれません」

「ミーネ、これでいいね? シルキー、受注処理よろしく」

「おい、勝手に……」

「僕が手伝わないと、二人は薬草採集の依頼にすら行けないと感じたけど?」

「その通りです。タルトさん、お願いします」

「……後で絶対泣かす」


 二人からギルドカードを預かったシルキーが、魔術具にカードを通して受注処理を行う。

 そして受注処理が終わったカードを二人に返す。


「これで受注処理は完了です。お帰りになりましたら、あちらの精算カウンターで薬草の精算をお願いします」

「分かりました」


 シルキーの説明に頭を下げるミーネと、まだ納得のいっていないクーリ。人間は頭を下げたり、怒ったり大変だね。


「それじゃ行くよ。ミーネ、クーリを連れてきて」

「は、はい!」


 僕は二人に足並みを揃える事なく、どんどんと門へ向かって進んでいく。

 門では、まず馴染みになった門番に挨拶する。門番さんとは仲良くねって蒼も言ってたしね。

 僕のすぐ後ろをミーネが、少し後ろをクーリがついてくる。


「おうタルト嬢ちゃん。今日はパーティか?」

「うん。新米らしいからシルキーに頼まれた。これから顔を見せると思うから、よろしくね」

「あぁ、タルト嬢ちゃんと一緒なら安心だな、頑張れよ!」

「よ、よろしく願いします」

「よろしく……」

「そっちの少年は不機嫌だな、喧嘩でもしたのか?」

「いえ……」

「魔物討伐の依頼じゃないのが不満らしいよ」

「はっはっは。魔物なんて出ない方がいいんだよ。だが依頼がなくても偶然出会う事がある。気をつけろよ」

「ふん、俺の剣でぶった斬るんだ」

「おー、威勢がいいな。頑張れよ」


 と、見送ってくれた門番を背に僕たちは森に向かって歩く。

 せっかくだからミーネに話しかける事にする。


「二人は、薬草採集をした事はあるの?」

「いえ、薬草を見た事はありますが、採集はありません」

「ふうん。ところでミーネは魔術師だよね。魔力感知は出来る?」

「学校で教わりました。基礎は、出来ると思います。冒険者登録をするときには初級と書いてありました」

「じゃあ今日は存分に役立ててね」

「は、はい!」

「クーリは剣士。気配察知は出来るかい?」

「当たり前だ! 村じゃ獣を見つけるのも一番うまかったんだ!」

「じゃ、ミーネが採集している間に警戒を頑張ってね」

「お前こそ、武器も持ってないけど何が出来るんだ」

「僕? 一応、魔術師だよ」


 って誤魔化しておけって雫と蒼に言われた。


「杖を持ってないじゃ……」

「クーリ……」


 ミーネがクーリの服の袖を引っ張って発言を止めさせる。


「何だよミーネ」

「タルトさんは、杖が無くても強い人だよ」

「あ、僕の魔力を視たね? それが分かったミーネは才能があるよ」

「勝手にすみません!」

「いや、気にしないでいいよ。強さを測るのは大事な事だから」


 その後は雑談らしい雑談もなく、最低限の会話だけして森に到着した。

 少し中に入って採集を開始する。


「薬草を直接探してもいいけど、楽な探し方を教えておくね。ミーネ、できるだけ広く、魔力感知をして」

「え? え? はい……」


 ミーネの魔力が広がっていく。随分と分厚くて、かなりゆらゆらしながらリインフォース邸の東屋くらいの広さに広がる。あまり広くない。


「もしかして、慣れてない?」

「はい……すみません」

「普通はやらないのかな。僕の周りじゃ出来て当たり前だったんだけど。何がやりたかったかって言うと、薬草の魔力を感知して欲しかったんだ」

「薬草の魔力ですか……?」

「うん、薬草や魔力草なんかは他の植物よりも大きい魔力を持ってる。だから、広範囲に魔力感知すれば、それを探せるって訳」

「なるほど……」

「随分と講釈を垂れてるけど、お前は出来るのかよ」

「クーリ、また!」

「出来るよ。せっかくだ、ミーネ、視ててね」


 僕は魔力をいつものように広げていく。リインフォースの東屋、そこからもっと広く……もっと薄く。


「魔力をこんなに滑らかに広げられるなんて……」


 ミーネが息を飲んで感想を告げる。


「おい、ミーネ! こいつ、出来てるのか?!」

「出来てるなんてものじゃないよ。学校でだって、先生だってこんな事出来る人がいるなんていなかった! 私には分からないけど、きっと森の端まで魔力が広がってる……。私には、一生かかっても無理」

「練習次第だね。きついくらい、薄く広く。まずはこれを意識して毎日頑張る事だね」

「は、はい!」

「さて、一番近いのはあっちに少し進んだところに薬草の群生地があったよ。他の素材はいる?」


 僕たちはとりあえず見つけた近場の群生地に向かって進む。


「本当に薬草が一杯生えてる」

「これ全部取ってけば依頼達成な上追加報酬だな」

「取り方に注意がある。取るのは全体の八割まで。後間引くように取る事」

「絶滅を防止するためですか?」

「そうだね。取ってもいいけど、未来の自分の首を絞める事になる」

「早い者勝ちなんだから取った方がいいんじゃないのか?」

「長期的に取り続けるなら絶対残した方がいい。それに、薬草から作るポーションがなくなったら冒険者として困るだろう?」

「む……」

「そうですね」


 採集を始める。採集は二人に任せて僕は見てるだけ。


「本当だ……他の草より魔力が多い」


 魔力感知をしたらしいミーネが感想を漏らす。


「魔力草なんかも多いし、魔力の多い素材は有用って覚えておくといいかもね」

「はい」


 それから僕はクーリに向き直る。


「ところでクーリ、警戒はしている?」

「当たり前だろ!」

「そう」

「何だよ」

「いや、確認しただけだよ」


 クーリの警戒範囲はかなり狭いみたいだね。だけど僕の範囲網には魔物が一匹……遠くにもう一匹。どうしようかな……。


「やっぱり伝えておく。クーリ、右手に魔物が一匹。追い払う?」

「っ! いつの間に……! 俺がやる!」

「ちょっとクーリ! 一人じゃ危ないよ!」


 クーリが立ち上がって剣を抜いて、僕が指し示した方へ歩み出す。

 しかしクーリが発見するより、茂みから魔物が出てくる方が早かった。ビーターディアか。蹄を地面に激しく打ち付けて、大きな音を出して威嚇する鹿の魔物だ。出てきて早速、甲高い鳴き声をあげた後、警戒して僕たちを見ている。クーリ一人では荷が重そうだけど……。


「こんな魔物見た事……」

「手伝う?」

「お前は引っ込んでろ! ミーネ! 強化魔術くれ!」

「う、うんっ」


 ミーネも薬草取りを止めて立ち上がって、背負っていた杖を構える。そしてその体が乳白色に光出す。聖属性魔術を使えるんだね。僕の属性だ。優秀だね。


『パワーアップ』


 杖の先から、クーリに向けて魔力の光が飛んでいき、クーリの体を光らせる。

 警戒してじっとこっちを見ていたビーターディアが、右前足を大きく振り始めて地面にぶつけて音を立てる。やかましいなぁ。


「ビーターディアは……」

「うるさい! 俺に指図するな!」

「クーリ!」

「じゃ、お手並み拝見だね」

「タルトさんまで……」

「危なかったから助けるから二人でやるといいよ」

「お前の助けなんていらない! やぁっ!」


 クーリが剣を真上にあげて、ビーターディアの頭を目掛けて振り下ろす。

 しかしビーターディアはそれに反応して頭を動かし、硬い角でその剣戟を受ける。

 もう一度振りかぶるクーリ。今度は斜めに斬り下ろすが、ビーターディアはそれにも反応して、角で器用に剣を受ける。

 そこで僕のそばから魔力の発生を感じる。青色の魔力。水属性魔術だね。ミーネは複数属性が使えるんだ。『水 弾』。この魔術語は見た事ある。蒼が使ってたやつだ。


『ウォーターボール』


 杖の先端で水がボール状になって、クーリがビーターディアから離れた瞬間に、ビーターディアに向かって飛んでいく。

 しかし当然、水の量、大きさ、勢い、どれを取っても蒼には及ばない。

 ウォーターボールはビーターディアの体を激しく濡らしただけで消滅してしまった。


「そんな……効いてない……」


 そして、今度は逆にビーターディアが甲高い鳴き声を再びあげて、クーリに突進していく。

 初撃、二撃目は何とか剣で防いだクーリだったけど、三撃、四撃と続く怒涛のラッシュに、じわじわと下がるしかない。

 更にそこへ、奥の方からガサガサと音がして、より大きなもう一匹が現れた。


「もう一匹……!」

「くそっ」


 今度の個体は、僕たち全体を見回すと、狙いをミーネに定めたのか、ミーネに向かって突進してきた。


「え? え?」

「ミーネ!」


 慌てたクーリが、剣と力比べをしていた角を全力で弾いて、ミーネの方へ走り出す。

 しかし、背中を向けて隙だらけになった敵を放っておくビーターディアではないね。クーリの背中に向けて、突進を繰り出す。


「ぐあっ」


 クーリがうつ伏せに倒れて、ビーターディアに組み敷かれる。

 もう一体のビーターディアは障害もなくミーネに向かって突進を続けている。ミーネも、恐怖で体がすくんで動けないみたいだね。ここまでかな。


「あっ……あ……」

「ミーネ!」


 僕は魔力をこの周囲に広げて威圧する。

 広げた瞬間、二頭のビーターディアの動きが止まる。掠れた声が聞こえるけど、抵抗しても無駄だよ。魔力を乗せたからね。

 そしてクーリの上に乗っていたビーターディアと、同時にミーネに迫っていたビーターディアが、それぞれパタリと倒れる。


「何だ……」

「え? え?」

「ここまでだね。二人とも。初めても魔物との戦いはどうだった? まぁでも、反省の前に倒しちゃうね」


 僕は魔法を詠唱する。

 風の精霊に力を借りて、蒼が使っていたエアギロチンのように風の刃を作り出し、倒れているビーターディアの首元目掛けて真上から一気に風の刃を下ろす。

 瞬く間に首と胴体が離れるビーターディア、首の切れ目からどくんどくんと血が流れ続けているのが、生命力の強さを感じさせる。めんどくさいけど血抜きしないとね。

 僕は空間の精霊にも力を借りて、殺したばかりのビーターディアの胴体を持ち上げる。

 そして次に水の精霊から力を借りて、切断された首から、中の血を吐き出させていく。

 その様を呆然と見ているクーリとミーネ。


「な、何してるんだ……」

「分かんない……」

「これ? 血抜きしてるんだよ。素材だけじゃなく、食糧として売れるからね」

「食えるのか?」

「食べた事ないの? 僕焼くくらいしか出来ないけどいい?」


 僕は血抜きを終え、大きい方の頭と胴体をポシェットにしまう。そして小さい方の一頭を再び浮かせて……。


「消えた?! 今何したんだ?!」

「何って、ポシェットにしまっただけだよ」

「どうやって入れたんだよ!」

「まさか……魔術具のかばん……」

「そんなとこかな」


 説明はしないようにって雫たちにも言われているし、僕はそれ以上の説明はしないで、再び風の精霊に力を借りて肉を焼きやすい大きさに切っていく。

 

「ミーネ、あれ、魔術だよな? 何してるんだ……」

「浮かせて、風属性魔術で切って……浮かせるなんて魔術、聞いた事ないよ……」


 的外れに僕の魔法を紐解こうとしている二人を無視して、浮かせたブロック肉を火の精霊に頼んで焼いていく。火だけじゃなく、熱を内部に通してるから、早く焼けると思うな。

 思った通り早く焼けた。蒼から分けてもらったお皿をポシェットから三枚取り出して、焼いたお肉を乗せていく。乗せきれなかった分は大皿を出してそこに乗せた。

 フォークとナイフと一緒に二人に渡す。


「蒼と違って焼いただけだから、味の保証はしないよ」


 それを受け取って、まだ呆然とした顔のままクーリは地面、ミーネは近くの手頃な岩に座る。僕もその近くの岩に座った。


「あぁ、忘れてた。塩と胡椒。好きに使って」


 僕はポシェットから塩と胡椒を取り出してトレーに置いておく。


「いただきます」

「ミーネ……、これ食えるのか……?」

「わかんないよ……。でもタルトさんは食べてるし」

「他の人も食べた事あるから毒じゃないよ。味付けは違うけどね」

「……いただきます」

「い……いただきます」


 二人がいなかったらドラゴンに戻って生肉を食べたいなって思ったけど、怒られるからやらない。

 クーリは豪快に大きめに切って、ミーネは一口大に切ってそれぞれ口に運んだみたい。


「うまい!」

「おいしい……」

「そう? よかった」


 二人とも黙々と食べている。お気に召したみたいでよかった。

 ……あれ、クーリの腕から血が出てるね。

 僕は聖の精霊に力を借りて、魔法を使う。イメージは雫の使うエリアヒール。

 発動すると、二人の体が乳白色に光って、傷と疲れを癒す。


「な、何だ……え? あ? 腕の傷がなくなった……」

「それに疲れも……これ、まさかヒール……」

「そうだよ」


 そして、ミーネが僕を見て意を決したように話しかけてくる。


「タルトさん、一体何属性使えるんですか?」

「使った事があるのは八属性。もっと使えるかは分からない」

「八属性ですか?! え? 属性ってそんなにあるんですか?」

「ミーネは何の属性を知ってる?」

「えっと……、風火水土の基本属性、聖と闇の上級属性で六属性だけだと学びました」

「それと特殊属性ってのがあるんだ。僕が使えるのは空間属性と月属性。もっとあるけど、全容は知らない。雫たちの受け売りだけどね」

「その雫さん? が師匠なんですか?」

「いや、僕のご主人様」

「貴族の方なんですね」

「んー……まぁそうだね」

「……」


 クーリがチラチラとこっちを見てくるけど、僕は無視する。


「おい、タルト……」

「何?」

「生意気言ってすまなかった。さっきは助かった。助けてもらえなかったらこんな風にミーネと肉が食えなかった」

「そうだね。反省するのはいい事だよ」

「どうすれば強くなれるんだ?」

「僕は剣士の戦い方なんて分からない」

「でもさっきの! 魔物を止めたやつ! あれは強くないと出来ないだろ!」

「あれはね、魔力を乗せて威圧しただけだよ」

「威圧……」


 僕は、自分とクーリの空いたお皿にお肉を置きながらもう一言続ける。


「ただの人間には無理かもね」

「お前、人間じゃないのか?」

「それより強くなりたいなら、クーリは剣の基礎と気配察知。ミーネは魔力制御と魔力感知だね。かっこよさなんて求めなくていいよ、そんなものは生き残るためには無駄だ」

「……」

「……はい」


 無言のクーリと厳かに返事をするミーネ。


「タルトさん、一つ教えてください」

「何?」

「どうして、タルトさんの魔術は魔術語がないんですか?」

「魔術じゃないからだよ」


 どうやら僕はこの二人が気に入ってしまったらしい。つい余計な事を言っちゃったかな。




 お肉を食べて、王都へ戻る。

 道中は僕が倒した魔物の事や魔術の事で話をする側だった。

 そんな話をしていれば、あっという間に門に着く。来た時に挨拶した門番さんがまたいたので挨拶する。


「はい、門番さん。これ」

「お、いいのか? いつもありがとな。しかし、魔物に出会ったか。無事でよかったな」

「僕がいるからね」

「違いない。坊主、嬢ちゃん、初めての依頼はどうだった?」

「何も出来なかった」

「手も足も出ませんでした」

「そんな事ないぞ、ちゃんと帰ってきたじゃないか。俺は門番としてそれが嬉しい」

「「はい……」」




 冒険者ギルドについて、まず精算カウンターへと行く。


「お疲れ様です」

「戻ったよ。クーリとミーネの薬草採集依頼の精算と、出会したビーターディアの精算をお願い」

「……ビーターディアの状態は?」

「一頭は丸々、血抜きしてある。もう一頭は捌いて食べちゃった残りだけど、君たちこの肉持って帰る?」

「いや……」

「いえ……」

「そう。じゃあ余りも精算。僕はポイントいらないから全部二人に振っておいて」

「タルトさん!」

「僕、ランクポイントもお金も欲しい訳じゃないから。でも君たちは装備を整えたり生きてくのにお金は必要なんだろう? 持っておいて」

「ありがとうございます……」




 薬草とビーターディア、合わせて銀貨三十枚ほど。僕はその額がどれくらいかよく分からないけど、喜んでたからよしとしよう。


「じゃあお疲れ様。またね。気をつけるんだよ」

「はい! ありがとうございました!」

「ありがとな」


 僕は二人と別れてリインフォース邸に向かう。




「クーリ、無事に依頼がこなせてよかったね」

「何者なんだ……あいつ」

「すごい魔術がたくさん使える、強い、人じゃない……?」

「人じゃないならなんなんだ……モンスターか?」

「分かんないよ……」

「でも助けられた……」

「うん」

「俺、もっと強くならなきゃ……」

「うん。でもねクーリ。それより……」

「何だ?」

「……話を聞いてほしい。ビーターディアが出た時だって、タルトさんがいたからよかったけど、向かっていくなんて危険だったんだよ! 今日だって色々教えてくれたのに、全部無視して……強くなりたいのは分かったから、危険な事しないで」

「……分かった」

「強くなるために、タルトさんにもらったアドバイスをやらないとね」

「俺は剣の基礎」

「気配察知もだよ」

「あぁ……」

「私も魔力制御と魔力感知、頑張るんだ」

評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。


久々の魔術戦? じゃー!

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