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58. リインフォース狂想曲1

「シズクちゃん、アオイちゃん。相談があります」


 お悩み相談を終えて翌日、いつもの様に朝食をみんなで食べていると、お義母様がそう切り出してきた。


「何ですか?」

「なぁに? ママ」


 私とお姉ちゃんはカトラリーを置いて、お義母様の方を向いて話を聞く姿勢になる。


「お菓子とお肉、それと美容品を融通してもらう事は可能ですか?」

「ずるいぞクラウディア! 私だって……!」


 お義父様も参戦してくるみたい。


「パパ、食べたいの?」

「違う! 社交で配る分だ」


 どうやら話を聞くと、お義父様もお義母様も日々、様々なお茶会に参加して情報収集やリインフォース家の地位向上に向けて動いているらしいんだけど、最近はちょっと周りの態度がおかしいらしい。と、言うのも。


「菓子と美容品はお茶会で大々的に出しているし、魔物肉は仲のいい貴族や上級貴族に振る舞うだろう? いたる所で話題になっていて、持ってこいという圧がすごいんだ……」

「パパが切実なのは分かったわ……。雫も蒼ちゃんも作ればいいから、時間さえあれば融通は出来るけれど、パパもママもお菓子とお肉、それに美容品が必要なのね?」

「私は茶会で菓子、魔物肉、美容品だな。後キルシュ子爵に魔物肉を強くねだられているな」

「あれ? パパ、男性でも美容品がいるの?」

「美容品は、夫人の機嫌をとりたい方々が、私にねだってくるのだ」

「キルシュ子爵の求める魔物肉っていうのは? 商会がらみでしょうか?」

「あわよくばキルシュ商会で売りたいと思っているが、あれは自分が食べたいだけだな」

「ママの方は?」

「私もお菓子、美容品、魔物の燻製肉ですね」

「女性のお茶会ならお肉はいらないんじゃ?」

「男性の社交では今、リインフォースが持ってくる肉はおいしいと話題でしょう? 夫人の立場が悪かったり、夫婦仲が悪い夫人に渡すと、夫の機嫌がよくなると、女性陣には人気なのですよ。先程の旦那様と、全く同じ状況ですね」

「なるほど……」

「だけどお茶会に行くたびにそれらを抱えていくのも変よねぇ。うちで開催する場合だけ、お土産として持って帰ってもらう訳にはいかないのかしら?」

「シズク、うちが断れるのは男爵と子爵だけだ」


 どうやら話題になりすぎている様である。伯爵、侯爵。……まさか公爵もなんてないよね……。聞かないでおこう。


「しかも最近は……」


 お義母様が貴族名を次々に挙げ始める。あれ? 聞いた事がないぞ。


「クラウディアもか……」

「旦那様もでしたの。ため息が出ますね」

「パパ、ママどういう事? 雫、その名前知らないわ」

「私も聞いた事がないです」

「あぁ、これはな、民衆派以外の貴族たちだ。リーメ伯爵夫人が早速広げた様だな」


 どうやら、国全体の貴族が熱狂している様である。


「なるほどねぇ。ところで、そんな数を無償で配るの? パパ、このままじゃお金がいくらあっても足りないわよ」

「全く持ってその通りだ。ウォーカー商会で売れればいいんだが、まだ掛かるだろう?」

「お菓子と美容品の製作と試作は間もなくですけど、魔物肉は話すらしてませんよ」

「何?! そうか……そうだったな……」

「そうですね……。とりあえず、販売しましょう」

「クラウディア、今その話をしたがまだ準備が……」

「いいえ、旦那様。一日限りの販売会を開催するのです。シズクちゃんとアオイちゃんに製作してもらい、ウォーカー商会に先行販売という名目で販売させればいいかと。場所はノーヒハウゼン侯爵家にお願いしましょう。シズクちゃん、アオイちゃん。あなたたちに仕事が三つあります」

「「は、はい!」」


 有無を言わさぬお義母様の一言で、私とお姉ちゃんは座ったまま背筋をピンと伸ばしてしまう。


「一つ目、ウォーカー商会に行って、材料と販売する人員を確保してくる事。二つ目、お菓子、魔物肉、美容品を数、種類ともに多く作る事。三つ目、ノーヒハウゼン家に販売する場所を借りてくる事」

「お義母様、三つ目はどうやって……」

「あら、私はリエラちゃんとお友達だったメアリー様が、あなたたちに『メアリーちゃん』と親しげに呼ばせている事を知っていますよ」


 つまりメアリーちゃんにお願いしてこいって事か。

 後の危惧は材料かな。あんこは大丈夫そう。どら焼きもあんこさえ作ればパンケーキみたいなものだし、大丈夫そうだね。

 美容品はどうかな。ウォーカー商会の材料入手日を確認しないと。

 後は、魔物肉かぁ……。とりあえず在庫を確認しよう。


「タルト、お肉は後どれくらい残ってる?」

「こないだ出したのの倍くらい」

「こないだって、リインフォース家でお義母様とお茶会した後の事?」

「そう」

「お肉の心配は加工だけねぇ」


 後はどう進めるのがいいかな……。

 まずメアリーちゃんに簡単な説明と会いたいって手紙を出して、その後ウォーカー商会に説明しに行くのがいいか。

 食事を終えて、まず、厨房へ行ってストレージに入っていた加工前の枝肉を全て置いていく。販売会のことを説明したら、ビルさんが呆気に取られていた。一番負担あるのビルさんだからね、お姉ちゃんがヒールする事を条件に説得。頑張ってほしい。

 それから、私とお姉ちゃんは手紙を書きに居間へ行く。

 手紙には簡単に、お菓子、美容品、燻製肉の人気が派閥の垣根を越えてすごいので、ウォーカー商会を巻き込んで販売会をすること。貴族が多数集まれる場所がないので、ノーヒハウゼン家のホールを貸してほしいこと。詳細を話すために一度会いたい事、と書いて、私とお姉ちゃんのサインを書いてマークさんに託した。




 手紙を渡してすぐ、私たちはウォーカー商会に来た。タルトはお肉を追加してくるって森に行ってしまったから、私、お姉ちゃん、マリーさん、リリムちゃんの四人だね。

 お店に顔を出すと、早速挨拶してくれた店員さんに応接間に案内される。応接間では、私とお姉ちゃんが座って待つ。すぐにフランツさんと、ティナさんが紅茶をトレーに乗せてやってきた。


「ようこそ、シズク様、アオイ様」

「突然悪いわねぇ」

「とんでもございません。今日は、材料の確認ですか?」

「いえ、ちょっと大変な事態になってしまったので、お願いに来ました」

「はい?」


 私は、今朝家族で話したことを説明する。


「……なので、今ある材料の融通と当日の販売員の派遣をお願いしたいです。後、美容品とお菓子についてのウォーカー商会の進捗も確認したいです。あ、販売会は勿論、利益を取ってもらって構いません」

「ありがたいお話ですが、侯爵家も含めてですか……」

「何か問題があるのかしら?」

「えぇ、貴族相手に、それも侯爵家となると、私と、店員のうち二名しか対応出来る程の作法を身につけていないのです。販売会という形式ですと、その……人数が……」

「問題ないわ。足りなかったら雫と蒼ちゃんがするから。ただ、雫たちがお金のやり取りをするのはあまりよくないから、会計をメインで頼んでいいかしら?」

「販売員について、メアリーちゃんにも相談しようか」

「そうしましょう」

「ありがとうございます。材料については本日持って行かれますか?」

「豆と、美容品関連かな? 持って行きます」

「かしこまりました。それから、キミアさんから大鍋も届いてますが」

「っ! 持っていくわ!」


 大鍋、出来たんだ。これで美容品の調合が捗る。


「他の材料と共に渡しますので、後で倉庫までご足労願えますか?」

「はい」

「そうそう、普通の調合器具の方はどう?」

「はい。私でも無事使用出来ましたので、今試作をしているところです」


 ティナさんが答えてくれる。


「分かったわ。販売会には間に合いそうかしら?」

「量がどのくらい出来るか分かりませんが、試作品自体は数日で出来ると思うので、一度確認していただけますか?」

「いいわよぅ」


 美容品は順調だね、体につけるものだし、慌てて品質を下げてもよくないから、見守ろう。


「お菓子の方はどうですか?」

「美容品と違って誰でも作れるので、口の硬い料理人を見つけるのに苦労しています」

「なるほどね。守秘契約をリインフォース家、というか私とお姉ちゃんと契約する形をとってもいいですよ」

「ありがとうございます」


 契約の魔術具が出来てから、守秘義務に関してはかなり改善されたらしい。というのも、もし契約を破った場合は体の不調と共に、首や手に刻印が出て来るそうだ。不名誉な事この上ないからね。

 後は、売る量は私とお姉ちゃんがどれだけ作れるかだし。販売日はメアリーちゃんと話をしないと決まらないから、今日のところは話すことはないかな? お姉ちゃんと確認すると、大事なことを忘れていた。


「価格はどうするのかしら?」

「こちらに材料の単価をまとめてあります。参考になさってください」


 フランツさんに紙の束を渡される。結構量があるね……それに複数から仕入れているから、それぞれの単価と平均単価を乗せてくれている。なんだ、表、あるじゃない。やっぱり纏まっていると分かりやすいね。

 それから、フランツさんに倉庫に連れて行ってもらって、材料を『ストレージ』にしまっていく。私が豆を、お姉ちゃんが美容品の材料をしまう。大鍋調合器具もお姉ちゃん。あ、そうだ、一番大事な事を忘れていた。


「フランツさん、材料の支払いどうします? 前金渡しておきます?」

「うちもこれだけの規模になると報酬をいただきたいですね。ただ、一旦帳簿につけておきますので、金額については販売会が終わった後にまとめてという事で、相談させていただいてもよろしいでしょうか?」

「分かりました」


 材料ももらったし、大鍋もしまった。今話せる事は全部話した! 私たちはウォーカー商会を後にして、リインフォース邸へ戻る。




 リインフォース邸へ戻ると、玄関ホールに入ってすぐ、ジョセフさんが近づいてきた。


「おかえりなさいませ。お疲れのところ申し訳ありませんが、こちら、メアリー・ノーヒハウゼン様からでございます」


 貴族街で完結しているから、手紙のやり取りが早く済むのはいいよね。

 ジョセフさんに手紙を開けてもらって、お姉ちゃんと二人で読む。内容はこんな感じだった。


『面白そうね。販売会。リーメ家がうまくやってくれたみたいで、今民衆派以外の方々から、私の方にも問い合わせがあるくらいだから、成功は間違い無いでしょう。

 場所については問題ないわ。私が絶対に用意する。だから安心してちょうだい。

 詳細はすぐに決めたいわ。四の鐘に来てくれるかしら? 待ってるわね』


 読み終わって、顔を上げたら三の鐘が鳴るのが聞こえた。


「もうすぐじゃん!」

「お昼ご飯を食べてまた出動ねぇ」


 私たちはそのままジョセフさんに案内されて食堂に行く。お義父様たちはまだ来てないけど、時間の余裕がないので食べてしまう。

 私たちが忙しいのを知ってか知らないでか、フルコースではなくオードブル、スープ、メインだけの簡易なものだった。いただきます。

 オードブルは嬉しい、魚と野菜のマリネだ。この魚、青魚? マリネにしたのにまだ感じる脂の味、まさか……!


「これ、サンマ?」

「この形と味はそうよねぇ……」

「こんど丸ごと焼き魚で食べさせてもらおう」


 次にスープ。スープはコンソメ。相変わらず色々な具材の味がする。今日は特に野菜の味が濃い様に感じた。

 最後にメイン、これは一角ウサギのガランティーヌだ。一角ウサギを開いて広げ、その中に海苔巻きの具材のようにひき肉とピスタチオやスパイスを混ぜたものを包んで気をつけて煮る。

 ソースはバルサミコかな。下ごしらえがいいのか、野生の癖を感じず、しっかりとした食感と肉汁がおいしい。ごちそうさまでした。

 ジョセフさんに、書斎にいるであろうお義父様にメアリーちゃんに会ってくると言付けを頼み、すぐにマークさんに頼んで馬車を出してもらう。

 ありがたい事に、私たちがお昼を食べている間にジョセフさんが、マークさんに頼んでいてくれたみたいで、すぐに出発する。


「マリーちゃん、リリムちゃん。休めた?」

「はい」

「休憩いただきましたよ」

「忙しくて大変だったら、交代でもいいんだからね」

「「ありがとうございます」」


 十分ほど馬車に揺られれば、ノーヒハウゼン邸に到着。マークさんが護衛さんに話して取り次いでもらう。

 急ではあったけど、もう話は通っているようで、私たちはすぐに通された。

 玄関に着くと、扉の前でメアリーちゃんと……ノーヒハウゼン侯爵が待っていた。

 前回と同じくメアリーちゃんのご令弟にエスコートしてもらえると思ったのに、どうして……。

 お姉ちゃんはいつも通りのほほんと、私はひどく緊張しながら、そのエスコートを受ける。


「ようこそ、急で悪かったわね」

「こちらこそ、急なお話を受け入れてくれて感謝するわ」

「ありがとうございます」

「メアリー。私はもう行くぞ」

「はい、ありがとう存じます。お父様」

「リインフォースの双子よ、販売会、楽しみにしているぞ」


 え? え?

 動揺していると、メアリーちゃんが教えてくれる。

 

「こないだ、お茶会の最後でクルーエルグリズリーの燻製をもらったでしょう? あれ、お気に召したみたいよ」

「なら後で追加を渡すわねぇ」

「えぇ、ありがとう。さぁ、こちらよ」


 私たちは先日お茶会をした東屋へ案内される。私は椅子に座ってまず謝る。


「ごめんなさい。今日はお菓子はありません!」

「いいわよ。気にしないで」


 あれ、てっきり求められると思ったけど、大丈夫だった。


「それじゃ、早速詳細を話しましょう。まず、販売会とはどういうものなのか教えてくれる?」


 私とお姉ちゃんは互いに話を継ぎながら説明していく。

 今回私とお姉ちゃんが考えている販売会は、三つのお店を開くことだ。

 イメージはこの町にもある市場とか、フリーマーケットとかそういうの。

 三つのお店とは、当然、お菓子、美容品、魔物肉だね。

 お菓子はどら焼き、あんこ単体。あと何か新しいのを作ろうと思ってる。材料と相談だね。

 美容品は今まで配っているのと同じもの、それからアロマオイル、ヘアオイルに栄養剤とポーションにしようかってお姉ちゃんと話をしている。

 魔物肉は、燻製、欲しい人には生の枝肉。種類は完全ランダムだけど、一角ウサギ、タイラントバッファロー、余ってるクルーエルグリズリー。他って感じかな。

 販売に関しては、お金に糸目を付けない貴族向けなので、買い占める人を防止する意味で購入制限を決める。

 例えばどら焼きは一家族につき一種五個までとか。あんこは一バットまでとかだね。

 メアリーちゃんにお願いしたいのは場所の提供と、使用人の貸し出し。列の整理とか、来た方への対応とかを任せたい事も伝えておく。

 後日付。準備も考えると早くても来週が望ましい。

 最後にノーヒハウゼン家に支払う報酬。ホールの使用料と使用人への手当てとかかな。


「分かったわ。じゃあ一つずつ決めていきましょう。と言っても売るものに関してはシズクさんとアオイさんが頑張ってもらうしかないわね。だからうちに頼みたい事柄について。まず日程だけど来週の精霊の日でどうかしら?」

「え、そんないい日で大丈夫なんですか?」

「問題ないわ。お父様から、この件は私が責任者で、我が家で最重要案件だと言質を取ってる」

「最重要……」

「ノーヒハウゼン侯爵は、私たちは買ってくれているのかしら?」

「さぁ、まだよく分からないのだけど、民衆派の影響力を増す好機と考えているのは事実ね」

「はぁ……」

「使用人も問題ないわ。こないだのデビュタントボールと同等の人数を動員するわね。それと護衛騎士もつける」

「そんな大袈裟な……」

「アオイさん、今回は派閥を跨いでの集まりだから、警戒をしておくに越した事はないわ。何か起きたら民衆派の責任になるもの」

「そういうものなんですね。失礼しました」

「いいのよ。最後にうちへの報酬だけど、販売品の価格は決めているの?」

「まだなのよぅ。さっき原価を手に入れたばかりで、まだそこまで計算出来てないわ」

「なら悪いけど先に決めさせてもらうわ。ホールの使用料が売上全体の一割。使用人への報酬は、当人が希望する販売品の提供よ。お金はうちが払うわ」

「はい」

「分かったわ」

「こんなところかしら?」


 私たちは少し考えて、メアリーちゃんを見て頷く。


「何かあったら手紙で伝えるわ。後はそうね、前日くらいにレイアウトしたいから来てくれる?」

「分かりました」

「分かったわぁ」




 少し雑談をして、私たちはノーヒハウゼン邸を辞する。

 決める事、意外とすんなり決まったかな。よかったけど、これからどんどん売るものを作っていかないといけないんだよね。たくさん、たくさん……。

 するとお姉ちゃんが御者をしているマークさんに話し掛ける。


「マークさん、ここで降りるわ。先に帰って頂戴」

「かしこまりました」

「お姉ちゃん、帰らないの?」

「蒼ちゃんも行くわよ」

「行くってどこに……」


 その質問の答えが返ってこないまま、私はお姉ちゃんに手を引かれて馬車を降りる。後ろからマリーさんとリリムちゃんもついて来るけど、困惑は隠せない。

 そのまま手を引っ張られて、私は広場へとやってきた。

 ウォーカー商会とか行った帰りや、町を歩いていたら大体露店でおやつなんてお姉ちゃんと寄り道をよくしていたけど、今はそれをする暇は、無い。


「お姉ちゃん、すぐお菓子とか作らないと、広場で遊ぶ余裕なんて……お姉ちゃん?」


 いつの間にか考えているうちに手を離されていたのか、お姉ちゃんが見当たらない。私がキョロキョロしていると、後ろから声が掛かる。


「はい。蒼ちゃん」


 後ろに現れたのはお姉ちゃん。手には四本のチュロスを持っている。


「はい。チュロス」

「え、いつの間に……」


 私は困惑しながらチュロスを受け取る……シナモンシュガーだ。


「休憩は大事よ。マリーちゃんとリリムちゃんもね」

「「ありがとうございます」」


 でも……。


「お姉ちゃん、これを食べてる暇なんてないんだよ? すぐにお菓子とか美容品とか作らないと。魔物肉の仕込みもしないといけないし……」

「蒼ちゃんちょっと思い詰めすぎよう」

「でも、急いで数を作らないと……」

「買えなかった人はウォーカー商会の正式販売まで待たせておけばいいのよ、どうせ、同じものを作れる家はないわ」

「そうだろうけど……」

「希少品って言っておけば、きっとみんな大好きよ。雫も限定品好き」


 お姉ちゃんは限定品という響きに弱い。地球にいた頃は一人じゃ暇だからとよく一緒に列に並ばされていた。


「はぁ……そういえば並んだね。限定のお菓子とか、コスメとか」

「最初付き添いだからって言ってても、結局、蒼ちゃんも買うのよね」

「う……いいでしょ、見てたらよさそうだったんだし」

「食べないの……?」

「む……食べます……。ありがと、いただきます」


 私たちは噴水の前のベンチに座って、チュロスを食べる。

 サクサクした食感、口に入れるとすぐにくる砂糖の甘さとシナモンのいい香り。そして油で揚げたお菓子特有の生地の感じ。甘さが染み渡ってくる。おいしい。


「おいしい」

「よかったわぁ。ティナちゃんに教えてもらったのよぅ。王都はダメな串焼きより断然お菓子ね」


 串焼きに辛い思い出でもあるのか、お姉ちゃんが随分とはっきり言う。

 食べ終わって、リインフォース邸へと歩く。

 私は、さっきより随分と気が楽になっていた。


評価、ブクマ、いいね、誤字報告いつもありがとうございます。

今回も楽しんでいただけたら幸いです。

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